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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第1章 アース編
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適合者②

アースの適合者②



 「そういえば僕、ナイフを刺してからどうなったのか分からないんです」


 「お前が自分の手を刺した後、体は炎に包まれていたが、覚えていないのか?」


 「嘘・・・ですよね? だって火傷していませんよ!」


 僕が炎に包まれたなんて全然知らなかった。服だって髪の毛だって何1つ燃えていない。


 そういえばハントさんがアースを発動した時は確か光に包まれていた。でも僕は炎。どうしてハントさんと違うんだろう。


 「エイドが炎に包まれていたのは確かだ。俺は適合者じゃねえから詳しくは分からんが、変身する時は()()()()()()()()()()()()()()()()()って聞いてる」


 「じゃあ、僕は炎を操れるってことですか?」


 「多分な。お前さんが火傷しなかったのは、炎を操れる力を持っているからだろう」


 「でも炎を操った記憶ないです」


 手を刺した後、というか短剣の刃が手に当たる前までしか記憶にない。


 「きっと幻獣が炎を操ったんだろう」


 幻獣という言葉が出てきて興奮した。僕は何の幻獣だろう。炎を操る幻獣ってひょっとしてドラゴンかな?

 

 「僕は、僕はどんな姿になっていましたか?」


 大きな期待を込めて尋ねた。きっと今の僕はおもちゃを欲しがる幼い子みたいな顔をしている。


 「炎の中から出てきたのは、炎に包まれる前のお前さんだった。つまり、何も変わっていなかった。服も着たままだったぞ」


 「そんな、どうして!」


 想像と違った返事につい本音がもれて、ドドさんの服を掴みかけた。


 「お、俺だって驚いたさ。どんな幻獣が出てくるかと思ったら、エイドだったからな」


 「やっぱり適合者じゃないんでしょうか」


 「いや、炎に包まれたってことは何らかの幻獣に好かれたのは間違いねえ。だからアースを使う前に、お前が幻獣を身に宿すのを拒んだんじゃやないのか?」


 「確かに僕、適合したくないって思いながら手を刺しました」


 もう戦いから逃げられなくなったからだろうか。そう拒否した自分が遠い昔の自分、全くの他人のような気がする。


 「でも今は違います。せっかくアースに適合して、戦える人間になれたなら、この力を使うべきだと思っています」


 「なら、()()が必要だな」


 「これは違うんですか?」


 握っていた短剣をドドさんに見せた。これだって立派な武器だと思う。武器として強いかは別だけど。


 「それはまだ完璧な武器(アース)じゃねえ。ただのナイフに加工前の(アース)をつけただけだ。お前さんにばっちしのアースをこれから作りに行く」


 「分かりました」


 その返事と共に僕のお腹は空腹だと音を鳴らした。


 「朝飯食ってなかったな。10時くらいに迎えに行くから部屋で待っててくれ。1人で戻れるか?」


 「多分、大丈夫です。でもご飯はどこで──」


 「そのことなら安心して部屋に戻っていいぞ」


 安心して戻れと言われてもご飯のことを何も聞いていないから安心できない。もしかしてもう用意されてるってことかな?


 「エイド。また後でな」


 「はい!」

 

 薄暗い部屋から、明かりが点灯している廊下へ走って出て行く少年の背中を、男はその場から見つめていた。


 (──エイド。お前は本当にエイドなのか?別にお前のことを昔から知ってるわけじゃねえけどよ。炎に包まれて、お前は何か大切な、失ってはいけないものが、燃えちまったんじゃねえか。


 お前の心は俺と会った時、昨日の夕方のまんまか?)

 


 ────対ポルム組織ジズ マダー・ステダリーの部屋────



 小さな部屋を囲むように置かれた4つの棚。棚の中には赤・青・黄・緑のカラフルな石たちが並ぶ。その手の平サイズの石たちは星のように輝いている。


 部屋には白衣を着たマダー・ステダリーと全身黒装束の者がいた。男は椅子に座りながら文字で塗られた書類を眺め、 黒装束の者は部屋の石を見ながら歩いている。

 「アノ男 放ッテオイテ 良イノカ? キサマノ 友人 ダロウ?」


 「だからこそですよブラック。ドドは私の友人。私に牙を向けるようなことはしません」


 「ズイブン 信頼 ガ 厚イナ」


 「むしろ私は何も悪くないんですよ?貴重な戦力を増やしたのですから」


 両者とも顔はおろか体の向きすら合わせていないまま、会話をしていた。


 「そもそもドドの考えは甘すぎるのですよ。ここまで来たら心を悪魔にでも鬼にでもします。これは私たちの、命をかけた勝負なのですからね。能力があるのなら子供でも、女でも使います。彼は6年前にあの戦いを経験したにも関わらず、感覚がボケている」


 「アトドレダケ 生贄ガ 増エルカナ」


 「あなたはそうやって、祈りを捧げくれれば有り難いです」


 「ナニニ 祈レバイイ? カミカ?」


 白衣の男はそう言われて初めて黒装束の者を見た。男は彼を見たまま口を押さえて鼻で笑う。


 「あなた自身に祈ってみるのはどうでしょうか?」


 「笑エナイナ」


 彼は黒い布の腕で男の冗談を振り払った。


 「怒りましたか?」


 「マサカ」


 2人の会話はそこで終わった。再び黒装束の者は石を、白衣の男は書類を見続ける。


 黒装束の者(ブラック) :全身に黒い布を被っている者。ジズに所属しているが素性は不明。

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