封印された幻獣④
封印された幻獣④
「・・・これをどうすれば」
「そいつの剣先で、手の平を刺してみろ」
そうすることは分かっていたさ。分かっていたけど、僕の本音は抑えられない。
「嫌ですよ! 僕はいつ、ここで戦う人になったんですか!」
ドドさんの顔は引きつり何も言えそうにない。だいたいこの人だって僕にこう言われることくらい分かっていたはず──
「それが君の運命なのです」
それは奥から聞こえた声。あぁ、この声の人を僕は知っているじゃないか。この人は、マダー・ステダリーだ。偉い大人を怒鳴らずに静めてしまうとても偉い人だ。
「君は世界を救う存在です。私たちは少しでも戦力を必要としています」
暖かそうで温度のないステダリーさんの声。
「エイド。適合しなけりゃ戦わなくて済む。早くやって終わらせるんだ。万が一怪我をしてもすぐにハントを呼んでやる」
ドドさんは一歩下がって、背後から耳元で僕に伝える。きっとステダリーさんに聞こえては不都合なんだろう。けれど、どうしてこの人はあの人のように適合しろって言わないんだろう?
でもどうしたって、これはやるしかない。ならば、やるしかない。
「──分かりました。やります」
アースに適合するかしないかは運。僕が適合しない可能性だってあるんだ。だって幻獣は気まぐれなのだから。最悪の場合でもあのハントさんがいるんだし大丈夫。死にはしないって。
「成功を祈っています」
そう願ったステダリーさんには悪いけど僕は適合しない。まず戦うかどうかさえ決めていないんだぞ。そもそも僕は兵士じゃなくて、生存者だ。行く場所がないからここに来たんだ。
それにまだ子供だ! ポルムやドミーと戦うなんて嫌だ!
──少年は短剣を右手で強く握りしめて一瞬で自身の頭上へそれを振り上げた。そして──
「わ”ぁぁぁ!!」
叫びながら、広げていた左手の平に剣先を叩き落とす。その刹那──少年は紅い炎へと姿を変えた。
頭から指先まで炎となった少年が部屋全体を照らす。部屋の奥には階段があった。そこを上った祭壇らしき場所には少女の石像が置いてある。その石像の前にマダー・ステダリーがいた。
彼は天井まで昇る炎を見て口や両手で掴もうとした。体全体でそれを欲しいと興奮していたのだ。一方で、エイドの後ろにいたドドは地に膝をつき、石の地面に丸めた両拳をついていた。
「儀式は成功です! エイド・レリフはやはり適合しました! ドド、彼のアースの最終加工をよろしくお願いします」
それに返事をしない男と、燃え続ける炎。彼らを残したマダー・ステダリーは隣に現れた黒装束の者と一緒に、闇の中へと姿を消した。
マダー・ステダリー:長い髭を生やす男。対ポルム組織ジズの設立者であり指導者でもある。