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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第1章 アース編
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封印された幻獣③

封印された幻獣③


  

 ────とある寮部屋────



 「ここは……」


 僕はいつの間にか知らない部屋で横になっていた。ベッドから起き上がってこの部屋を見渡す。どこか見覚えのある灰色の壁と天井。さっきまで僕はハントさんと話をしていた。確か急に眠くなってそこから先は知らない。


 よく見たらここは医務室じゃない。生活感がある。それにこれはベッドじゃなくて布団だ。部屋の中央にある丸い机を挟むようにすぐ横にも布団がひいてある。さっきから何か音がすると思っていたら、誰か寝ている?


 布団から出てゆっくり立ちあがり、横のいびきが聞こえる布団を覗き込んだ。そこで寝ていたのはカインさん。大きな口を開くカインさんの頬は、どこからか差し込む光に当てられている。それを見てふと、時間が気になった。


 今は朝? 夜? 


 振り返ってその光の元を見る。そこには窓のような四角いガラス。光はこの窓から入って来ていた。無意識に外の景色を見ようと窓に触れた。だが僕の手は窓のガラスを通り抜けて壁に触れた。


 寝ぼけてはいない。けれど何度窓に触れても僕の手は窓ガラスを通り抜けて壁に触れる。それを繰り返していてやっと分かった。これは映像なんだ。窓も光もこれは映像。


 うん、僕は寝ぼけていた。


 そもそも考えれば分かったことだ。だって()()()()()()()。地下にあるんだ。窓から光が差し込むわけがない。窓だって必要ない。じゃあこれらは何のための──。


 〝コンコン〟


 控えめに部屋のドアを叩く音。


 驚かせないでくれと思いながらドアを開けると、ドアの隙間から長くて黒い髪の毛が入ってきた。呼吸が止まってから悲鳴を上げた。けれどその口はすぐに大人の手に塞がれて、悲鳴が外に響くことはなかった。

 

 「エイド! 俺だよ俺!」


 「ドドさん?」


 「大声出して脅かせんじゃねえよ」


 「・・・すいません」


 僕が悪いのか?そ、そもそも何でこの人は髪を伸ばしてるんだ。全く紛らわしいな。幽霊かと思った。


 「エイド、いくぞ!」


 「どこにですか?」


 「お前にアースが適合するのか、しないのかの試験会場にだよ」


 「いや、僕そんなの聞いてないですよ? それにアースは戦う人が使うものですよね? 僕は戦えませんよ?」


 「だからそれをハッキリさせるんだ! お前が適合しなけりゃ戦わないで済む!」


 適合した方がジズ側にとっては戦力が増えるから良いはずなのに、まるで僕に適合して欲しくないように言う。


 この場では何も言えず結局僕はカインさんを残して部屋から連れ出されてしまう。歩くドドさんは途中から僕の手を引っ張った。まるで何かから逃げるように早歩きで暗い廊下を進む。



 ────ジズ最深部 神殿────



 「入れエイド」


 その部屋の明かりは入り口から奥まで壁に並ぶ無数の蝋燭の、今にも消えそうな火だけ。ほぼ真っ暗で何も見えない。足に感じる床の感覚が廊下とは違う。ここはザラザラとしている。砂ではないけど、廊下などのツルツルとした物ではない。


 この部屋は他の部屋とは違う。この部屋には長くいたくない。そう思った時、前の方から蝋燭の火の揺れのように穏やかな声がした。でも声の主の姿ははっきりと見えない。


 「おはようエイドくん」


 「お、おはようございます」


 「今から君にあることをしてもらいます。ドド、彼にこのアースを渡してください」


 「試験用のアースじゃないんですか!?」


 「彼は()()に適合しますよ」


 暗闇の中でドドさんは誰かと話して部屋のどこかへと消えてしまった。試験用のアースとか訳がわからない。でも見えない人が言っていた〝彼〟というのは僕のことだろう。僕が適合する。どうしてそう決まっているように言うんだ。


 アースに適合するかどうかはハントさんが言っていた、運のはずなのに。


 「エイド」


 隣に戻って来ていた僕を呼ぶドドさんの声は、蝋燭の火よりもすぐに消えてしまいそう。見ると彼は短い刃物を差し出している。いわゆる短剣みたいな物。それを落とさないように両手で受け取った。


 剣を持ったのはこれが初めて。剣は人の手のように熱があった。暖かい。だが持ち手の部分を見て僕は背筋が凍った。目はそこに釘付けになり手が震える。


 だってそこには赤い赤い、綺麗な綺麗な丸い石がハマっていたのだから。


 蝋燭の火を集めてより紅くなる宝石のような石。言われなくても見たことがなくても分かった。これが、アースだ。だから僕が今からすべきことは予想できた。


 「・・・これをどうすれば」


 わざとドドさんにそう聞いてみた。幻獣を体に宿すには封印されている幻獣に生贄を捧げなければいけない。僕はそれをもう知っている。


 「そいつの剣先で、手の平を刺してみろ」


 ドドさんは何の躊躇もなくそう言った。子供の僕に手を刺せと大人が言った。

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