叶う夢②
叶う夢②
ドドさんが僕らを裏切ったのかもしれないという疑問や不安はもういらない。
だって彼はパンを撃ったんだから。
「お前たち何をボケっとしている!」
身動きが取れるようになったコペルトさんは既にアースを発動して黒い翼で空を飛んでいた。
ドドさんと話すのは後だ。
今は攻撃のチャンス。
パンが倒れている今が! あの男を倒す時!
「アースオブ──」
僕らは今までで最も躊躇なくアースを発動した。
「三百の眼」
ニアースさんの操る水が無数の弾丸となりマダー・ステダリーへ放たれる。
その弾丸を追い抜くようにしてカインさんの「岩の龍!」が発動された。
波のようにうねる大地が土石流となりやがて大蛇と化す。
大蛇は瓦礫の山ごと飲み込むほどの口を開けたまま獲物へ直進。
「ジズ! 全てを焼き消す炎をツバキと僕に貸して!」
イメージしたのはあの岩の大蛇を包み込む炎。
炎を刀に宿し振り上げて、地面を割るように振り落とす!
イメージ通りツバキから放たれた炎は川となって大蛇を包み込んだ。
逃げ場をなくす弾丸と、迫る炎の大蛇。
これだけでも僕らの勝ちは確定したようなもの。
だけどまだ、コペルトさんがいる。
「黒き世界!」
黒い翼で空高く上昇した黒鳥は両手を前に突き出した。
その両手から黒い炎の竜巻がマダー・ステダリーをめがけて、周囲を焦がしながら隕石のように落下していく。
奴は焦ったのか槍を適当にそれらへ放った。だがそんな槍は無意味。
お前に逃げ場はない。
この攻撃を防げる盾は創れない。
あなたはとうとう終わりだ!
「パン・スリポト」
マダー・ステダリーの髭が熱風で燃え出した瞬間。
空から真っ白い光がスポットライトのように彼に降り注がれた。
見ていると心が浄化されそうなその光は炎に包まれた岩の大蛇を砂へと変え、弾丸の速度を抹殺し、空からの黒い竜巻を溶かした。
「そんな……。僕らの全力の能力が無効化されるなんて」
最大のチャンスを生かせなかったことよりも、最大の攻撃をパン1人に止められたことに僕らは絶望を感じるしかなかった。
はっきりと思い知らされた力の差。僕は刀を下ろした。
「流石にやられたかと思いましたよ。ダメではないですかパン。あの程度の弾丸に当たっては」
弾丸に当たってもせいぜい倒れる程度。
それに正面からならライフルの弾でもどうせ指で止めるんだろう。
「パン。もしかしてお前が防げるのは幻獣の能力だけなんじゃないか?」
ドドさんは銃を構えたままそう言った。
勝ち方を失い、下げていた顔を僕らは上げた。
でもそんなことあるわけないと誰もが思っていた。
しかしパンはドドさんに対して何も言わなかった。
「図星のようだな。やっちまえニアース!」
ニアースさんは後ろにいるパンへ銃を向けようとした。
狙われているはずのパンは、突き出た口の歯を見せて笑った。
彼女が狙われている!
「ニアースさん逃げて!」
「オソイゾ スナイパー」
ニアースさんの背中を守るために追いかけた。
能力を使ったばかりでみんな疲れている。
カインさんのロックは使えない。
だから僕じゃなきゃ間に合わない。
パンはもう彼女の目の前に来て、開いた蹄で小さな頭を掴もうとしている。
だからって僕は止まらない。
僕には足だけじゃなくて、翼もあるのだから。
「パン! 僕は速いか!?」
横からだが開いたパンの手にツバキを差し込んでそのまま斬る!
「ハヤイ ダガ ヒリキ」
こいつ! 見た目に似合わず武闘派!?
ツバキを握って砕こうとしてる!
ツバキが砕かれたら次は僕で、その次は後ろのニアースさんがやられる。絶対に負けられない。
けど無理だ。押し負ける。
どうして僕のアースは腕力をくれないんだ。
──でも、後2秒耐えれば僕は役目を果たせる。
そう思えたのはもうすぐそこまで、黒い羽が近づいていたから!
パンの口が僕を噛もうとした時、その頭は黒い足にかかと落としを受け、大地に足からめり込んだ。
何かが砕けるような音がしたがそれはツバキからではなく、パンの体からだった。
「やっぱりお前の相手は俺がするべきだよなあブラック! 援護しろニアース・レミ!」
コペルトさんの命令にニアースさんは黙って距離をとり銃を構える。
パンの相手はコペルトさんとニアースさん。
僕とカインさんとドドさんであの男を倒す。
「そちらは任せました!」
「てめえらも任せたぞ!」
「エイド、カイン。ドドさんの言うことを聞くのよ!」
「了解!」