表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻獣チルドレン  作者: 葵尉
最終章 世界の真実編
155/171

51話 誕生① 

51話 誕生① 



 「──私はこの地球(ほし)から人間を1人残さず消したいんですよ!!」


 「待ってください! なら何であなたはジズという対ポルム組織を作り、可能な限りの人々を保護していたんですか!?」


 「あ~。あそこにいた人間はね生贄ですよ。手っ取り早く集めるにはそうするのが楽でしょう?」


 「いけにえ?いけにえって何の」

 

 自分で聞いておいてすぐに分かってしまった。


 「君たちも知っているでしょう? アースを発動する時には幻獣に生贄を捧げる」


 この人はさっきから最低な発言を連発している。


 でもまだ疑問があるから生かしていた。


 けれどその生贄の話はだめだ。

 そんなことをする奴は人間になっちゃだめだ!


 「まさかテメエはアースを」


  違う。この人にアースはいらない。


 「私はアースなんかいりませんよ。生贄はパンとの取引に使うんです」


 そうだ。その隣にいる幻獣──パンに、こいつは人々を渡していたんだ。


 「取引って何のだ」


 「()()ですよ。私の護衛とかね。でも最初の取引は、神の創造力です」


 「お、おい! お前はさっきから何を言っている!」


 「これだけ言ってもコペルト、あなたはまだ分かりませんか? ニアース・レミは?」

 

 「・・・あなたは、何らかの形でパンと出会って神の創造力が手に入ると知った。そこであなたは多分、後払いということで先に能力を得た。生贄はジズを創設してから、払った?」

 

 ニアースさんの考えは僕のずっと先をいっていた。


 この人はいつパンに出会って、どうやって力を得たんだ?


 「まあ大体合っています。答え合わせの前に疲れているでしょう?召し上がってください」

 

 マダー・ステダリーは僕らに手の平を向けた。


 反射的に刀を構えたが視界を遮る霧のようなものが出ただけ。


 更に用心して刀を構え続ける。

 だが、霧が消えかけて目の前が見えるようになると、僕は刀を下ろした。


 目の前にはたくさんの食べ物が並んでいた。


 「ふざけているのかマダー・ステダリー!!俺はお前を許さ──」


 「パン・スツホルト」


 短剣を握ってアースを発動しようとしたコペルトさんはパンに指を向けられていた。


 たったそれだけ。

 他に何かをされているようには見えない。


 だけど本当は違うんだろう。

 コペルトさんだけ時が止まったかのように固まってしまった。


 振り上げた右腕は今もナイフを握りしめ、やる気を出した口は開いたまま。


 この光景だけで僕らの戦意を消滅させるのは十分だった。


 ましてや目の前には白いお皿に乗るこんがりとした肉、1日あっても食べ切れなさそうな大きな焼き魚などの食べたい料理がたくさんあるのだ。


 「最後の晩餐をしましょう。安心してください出来立てホヤホヤ新鮮です。もちろん毒は入っていません」


 「い、いただきます」


 「ちょっとカイン!」


 カインさんは早速それに近づき手で食べようとした。


 でも、予めマークされていたニアースさんの手に服を引っ張られている。


 「だ、だってこんな、こんな料理見たことないだろ?我慢できないぜ」

 

 我慢できないのは僕もニアースさんもだ。


 いますぐこれに飛び込みたい。 

 だけどこれを食べて良いのかと言う理性が辛うじて働いた。


 毒とかそういう物の心配じゃない。 

 これを食べたらジズの人間として恥だと思うんだ。


 だって僕らが口にするのはチャップさんの料理だけだろう?


 「どうです。私の昔話を聞いてはくれませんか?君たちも色々言いたいことはあるはずです。しかし私の話を聞けば納得するはずです」


 「博士、最後の晩餐とはどういう意味でしょうか」


 「それも話を聞けば分かります」

 

 料理に手をつけなければ話してはくれないのかと思ったが、水の入っているグラスに口をつけるとマダー・ステダリーは話を始めた。


 「昔────10年以上前。いや、もっと前に情熱を持ったとある科学者がいました。彼の名前はヘルマン・アイゲン──」



 ******



 ────数十年前 ドイツ某所



 大学院を出た私は国の研究施設に入った。


 そこへ入る前は人々の暮らしのために自分の能力を尽くすと、環境を変えると、汚染された自然を再生してみせると希望を掲げていた。


 だが気が付けば私はその旗を降ろしていた。


 いや周りの奴らに降ろさせられたんだ。


 ここにいるエリートは馬鹿ばかり。

 ただただ楽をするために勉強しかしてこなかった馬鹿だ。


 金のこと自分の地位のことしか考えない下衆ばかり。


 私はそんな場所にいるのが嫌になった。


 ある日、好奇心から人生で初めて無断で欠席をした。


 私は職場からいつ連絡がくるのかと、ドキドキして端末と睨めっこをしていた。


 だが昼を過ぎても部屋が薄暗くなってきても端末が鳴ることはなかった。

 

 ショックは少しだけあった。

 だが元々あそこの人間と構造が違う私はあそこでは目立ってもいたし、地味でもあった。


 だからこの結果は予想通りだったとも言える。


 その次の日も結局家で過ごしその次の日私は、1人で研究をするようになった。


 どうすれば地球の異常気象を遅らせられるのか。


 どうすれば汚染地域を減らし住める場所を増やせるのか。


 どうすれば生態系を維持できるのか。


 どうすれば食料や水を再利用できるのか。


 どうすれば安全なエネルギーを確保できるのか。


 私は1人で寝ずに、食わずに、自分の全てを捧げた。


 家族も友人も全てを捨ててそれに熱中した。


 ──だが、体を壊して入院し空を眺めていたある日に分かってしまった。


 『こんなことはやっても時間の無駄』


 これは私1人で変えられる問題じゃない。


 例え変えられる方法を見つけても実現できる力など、協力してくれるやつなどいない。


 そう思ってからの私の行動に迷いはなかった。


 まず、私は国を出たのだ。趣味である遺跡を巡るために残りの時間を使うことにした。


 そこからだ。

 そこから私の世界は大きく動き出したのだ。


 マダー・ステダリーとなった私が彼──ファイン・ドドと、あの幻獣に出会ってから私の夢が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ