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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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To antio②

To antio②


 

 「ここもシャッターが降りるわ」


 「今シャッターを壊せばチャップを!」


 「バカ言わないで! そんな体力と時間がどこにあるの!」 


 僕もカインさんと同じことを思った。

 今ならまだチャップさんを助けられる。


 「2人はどうして私たちが生きているか分からないの!?」


 ニアースさんは黙り込んだ僕らの頭を押さえた。


 分かってるよ。そんなこと分かってる。


 でも僕らは生きているんじゃない。

 みんなを捨てて生きているようなもんだ。


 生き残ってしまったんだ。

 

 「ドーサにハントさん。レンさんにそしてチャップさん・・・彼らだけじゃないのよ! 三幻鳥や神獣クラスだって! 私たちがここに来るまでどれだけの人が、私たちの道を作ってくれたのよ!」


 「おいニアース! そいつらはまだ死んだわけじゃ!」


 「そうよ! だからその人たちに会いたければまず、私たちが死なないこと!」


 「……分かりましたよ。早く行きましょう」


 僕は先頭を走った。

 通り過ぎたシャッターのことは考えない。

 

 前へ行くんだ。前へ。走って走って。走れ。


 無我夢中でいくつものシャッターの下を通った。


 気がついた時にはドミーたちの肉を欲する荒い息が完全に聞こえなくなっていた。

 

 「今ので最後のシャッターみたいね。ほらあそこ、外の光が見えるわ」


 「・・・実はみんな無事で、これがなんかの驚かす祭りだったとかさ」


 「もしかしたらドーサさんが笑って待っていたり、ドドさんもそこにいて」


 そんな可能性がないのは僕もカインさんも分かっている。


 でも、白い光で輝く出口が僕らにそんなことを期待させた。

 

 「────誰も、まだ誰もいないみたいね」


 外へ出ると見慣れた荒野が広がっていた。


 乾いた砂の大地。

 いつの間にか晴れた空には暑い光が輝いている。


 世界に僕ら3人だけになってしまったようなそんな気がした。

 

 「みんな洞窟前にいるんだよ」


 「行ってみますか?洞窟前」

 

 僕の一言で現実に戻ってしまった2人は黙って下を向いてしまった。


 洞窟前は今はどうなっているだろう。


 地面の血は乾いただろうか。誰か生きている人はいるだろうか。


 そんな時に何かが羽ばたく音がした。

 

 「生き残ったのはお前たちだけか」


 その声は空から聞こえた。

 上を見上げると黒い翼を生やしたその人が地上に舞い降りた。

 

 「あ、あなたは?」


 「もしかして、イーサン・コペルトさん?」


 「エイド・レリフ。と、そこの女スナイパーは覚えているよ」


 黒い羽は僕をチラッと見た後ニアースさんに近づき見下ろしていた。


 赤い前髪の隙間から見える目は刃物のように鋭かった。


 僕は反射的に鞘に収めたままの刀をコペルトさんに向けていた。


 「そう活火(かっか)するな。俺は戦いに来たわけじゃない」


 「じゃあ何のために!」


 「しかし哀れだな。対ポルム組織ジズがこうも簡単に終わるなんて。他のやつらは死んだか?」


 「よくもそんなことが! それでも元ジズの、元三幻鳥の人間ですか!!」


 イーサン・コペルトは笑って喋った。

 そんな態度の彼をニアースさんが怒鳴る。


 彼女のその声にはカインさんも僕も後ずさりしてしまう。

 

 「・・・ケア・ハントから俺へ渡し物はないか?」 


 「どうしてお前がハントさんの名前を!」


 「バモンとハントが()()()()()()()を保管していてくれたはずなんだがな。ま、ハントが死んだなら意味ないか」


 「あなたに聞くのはおかしいと思いますが、三幻鳥は本当に死んだんですか?」


 「さっき見てきた。アマウは即死。バモンはアースの力に食われた。ウインは自滅といったところか」

 

 あまりにも冷静に残酷なことを言っていて言葉が入ってこなかった。


 「あなたが、まさかあなたがドミーをここへ誘ったんじゃ!」


 「それが出来たらあんな負け戦ふっかけねえよ。ところでお前らこれからどうすんだ」


 「僕らは・・・・・・」


 ニアースさんを見たが彼女もまだどうするか決めていないようだった。


 「なら俺と来い」


 黒い羽を生やした右腕は僕に手を伸ばしていた。


 「ニアースさん。どうしますか?」


 また、彼女を頼った。

 ニアースさんはどうやら答えは決めていたらしい。


 「行きましょう。どうせそれが目的であなたは待っていた。私たちがここに来ると信じて」


 「なぜそう思うスナイパー?」


 「だって外で私たちを待っている人間がいると分かっているなら、私たちのために犠牲になった人の行動に納得がいく」


 「────先ずは祈ろうか。この戦に殺された勇敢な兵士たちの死に」


 コペルトさんは組んだ手を顔の前で止めて地に膝をついた。僕らはそれを真似した。


 それから数分歩いた時、ジズの中で何度も聞いた天井や壁が崩れる爆発音が後方の岩山で鳴っていた。


 覚悟をして振り返るとジズがあった岩山は空まで届く砂煙に包まれていた。

 

 もうみんな、いないんだろうな。

 ドミーやニューポルムも一緒に、天に昇っただろう。

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