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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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落ちた鳥の巣②

落ちた鳥の巣②


 

  ────生活区 エイドたちが去った後 

 


 「ダク・ターリン。あなた意外と勇気のある子なのね」


 「ハントさんこそ意外と演技派だったんですね。死にたいって嘘ですよね?」

 

 残った2人は丘の上で同じ方を向きながら立っていた。


 彼らが見つめる先では1体のニューポルムが辺りを眺めている。

 

 住宅街では大勢の人間が混乱に包まれていた。


 だが彼らを導く者は1人としておらず恐怖で叫び、動き、固まっていた。


 保護されたはずの彼らを保護する人も、場所も、もはや存在しない。


 強いて言えば2人だけ、丘の上にケア・ハントとダク・ターリンがいる。


 「死にたい気持ちは半分半分ね。もう()()()()もいないみたいだからね」


 「やっぱりハントさんは()()()()()()()()()()()()


 「ドドには言ったの?」


 「言っていませんよ。ドドさんはあなたに対して好意的でしたから」


 「あなた今日はすらすら話すのね」


 「あぁ。吃音(きつおん)ですか?あれはもう、前から出なくなっていますよ。ハントさんと同じ、演技です」

 

 少年の満面の笑みに、ハントはイモ虫を見るような顔をした。


 「ならその声で早くあそこにいる人々に知らせに行きなさい。さっき約束していたじゃないの」


 「あれはエイド・レリフたちの頭の中にある僕、ダク・ターリンのイメージを崩さないためですよ」


 「それもクズだけど、吃音が演技っていうのはずいぶん──クズね」

 

 ハントはご機嫌なまま話を続ける少年に、唾をかけるように言い放った。


 「だってそうしないと皆さんの僕を見る目が変わるじゃないですか」


 「結局、()()()()()の目的は何なのよ。ジズを使って何がしたいの?」


 「さあ。それは僕には知らされてません。けれど()()()もあなたと同じ科学者ですから同じようなことを考えているんじゃないですか?」


 「私はあんな、ニューポルムなんか作りたいと思わないわ」


 「──黒い飴は作ったのに~?」


 少年はハントの顔にはとても届かない身長だったが、蛇が胴体を伸ばすように下から覗き込んだ。


 が、この程度では大人の女性は全く動じない。


 「ところで生活区の扉が開いたのは予想外だったかしら?」


 「さては開くことを知っていましたね?」


 「みんなを閉じ込める計画が狂って残念ね坊ちゃん。私ね、可愛い男の子は好きなのよ。だからエイドくんには及ばないけれど、あなたも抱きしめてあげたい。だけど、ニューポルムに消される前に私が殺してあげるわ、()()()()()()


 「裏切り者?裏切り者・・・裏切り者っ」


 少年は呪文のようにそう唱えた。

 そして最後、舌打ちをするとそれまでの優等生のような顔から一変、口調に似合う餓鬼になった。


  「よく言えたな! お前だってライコスに! あのイーサン・コペルトにその黒い飴を流したろ!」


 「もう話は十分ね。アースオブ──セーンムルウ! クソガキ(ゴブリン)に裁きの光を授けなさい!」


 ハントは胸の中に忍ばせていた注射器を取り出すと、それを心臓に刺した。


 瞬間、目を潰すほどの光が彼女を包み込む。


 天まで昇るそれは遠くから見れば希望の光のようだった。


 だが近くでは見る者全てを闇へ誘う光。


 ダクは注射器を見た時に目をつむり、とっさに顔を隠すように丸まっていたため失明は間逃れた。


 光が消えるとケア・ハントは背中に自身の体ほどある光の翼を生やして顔は鷲になっていた。


 胴体には金色の毛が生え、手足は熊のように太くなり、指には虎の爪を宿した。


 先端に(たてがみ)が生えた尻尾まで生えている。

 

 「化け物め! 化け物女め!」

 

 距離を取り、ダクはそう叫んだ。


 ダクのその言葉は貶すためではなく客観的事実である。


 だがそれを一応は人間──しかも女性に言ってはならないことを少年は知らなかった。 


 「光速の羽(こうそくの矢)!」


 髪の毛ほどの細い光の針がハントの翼からダクに雨のように降り注ぐ。


 ほぼ全身を針に刺されたダクはハリネズミのようになっていた。


 だがトゲが刺さった程度の痛みでは苦しまなかった。


 また、大した出血もしていないので派手な見た目ほどはダメージはないのだろう。


 「かっ、がっ、があっ、医者の……くせに!」

 

 「悪いけど、私本業は科学者だから。科学者の前は・・・やめとくわ。お子様には刺激が──」


 〝パン〟〝パン〟 


 ダクは素早く出した拳銃(ピストル)の引き金を連続で引いた。


 その銃口の先にあるハントの頭からは2回、血が飛び散った。


 「かっははは! 幻獣も頭を撃てば死ぬんだろ?」

 

 だがその言葉通りとはいかずハントは倒れない。


 その場に立っていた。

 立ったまま死んでいたわけでもなかった。


 「銃の使い方はドドにならったのかしら?でも残念ね。今の私はほぼ幻獣。そして、セーンムルウは再生する鳥。それも光の速さでね」


 「ば、ばけもの」


 「もっと化け物があそこにいるじゃないの」


 凍え死にそうなくらい震えるダクの手は拳銃を持てなくなった。


 「さてと。私1人で勝てるとは思わないけれどあの子たちの分も戦うわ」


 ハントはダクを放置すると、こちらに来ているニューポルムに光の翼を広げて立ち塞がった。

 

 「ニューポルム。可愛くないわね。おかげで容赦無く殺せるわ」

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