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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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揺れる鳥の巣②

揺れる鳥の巣②



 ────対ポルム組織ジズ 玄関 ホールL



 アースの効果が切れて人の姿に戻っても、僕はずっとドーサさんのことを考えていた。


 洞窟の方からは唸り声が聞こえてくる。

 獣と獣が威嚇し合って叫ぶ声。


 洞窟の天井が崩れる音。炎が空気を焦がす音。


 ドーサさんは今も生きているだろうか。

 そう思っていた僕だがジズへの扉を開けて玄関の広間に着くと、一気に頭の中が切り替わった。


  「……な、なんだよこれ。何があったんだよ」


 それらを見て最初に声を発することが出来たのはカインさんだった。

 

 目の前に広がる真っ赤な水たまり。

 赤いインクを雑に散らかした壁。人なのかドミーなのか分からない肉片。


 「おい誰か」


 叫ぼうとしたカインさんの口をニアースさんは叩く勢いで塞いだ。


 「にゃ、にゃにしゅんだ」


 「声に反応してドミーか何かが寄ってきたらどうするの!」


 口を塞いでいるニアースさんの声の方が、先ほどの彼の声よりも大きかった。


 冷静な彼女でもこの状況を見て混乱していることが分かった僕は、余計に怖くなった。


 でも知っている声が壁の方から聞こえてすぐに恐怖は和らいだ。

 

 「良かった! あなたたち無事だったのね!」

  

 「ハントさん! レンさん! みなさんも無事だったんですね」


 「おいおいエイド。オレを忘れてっゾ?」

  

 チャップさんのことを忘れたつもりはなかった。


 もちろんわざと呼ばなかったわけじゃない。

 

 ただ、姿が見えていたのに本当に言い忘れてしまった。


 3人ともいつもと同じ服装で安心した。

 見たところ大した怪我はなさそうだ。


 「もしかして、これで全員?」

 

 カインさんの疑問に最悪のことを想像した。


 床にあるのは血。壁に飛び散っているのも血。


 今僕らの前にいるのはたった3人。


 ジズには兵士以外にもっと多くの人がいるのに、あれ?ダクさんがいない。

 

 「他のみんなはここよ」

 

 ハントさんは羽織っている白衣の中から出した人指し指で床を指した。


 「生活区ですね?」


 「そうよ。あなたたちも避難しなさい」

  

 思い出した。ジズにはさらに地下に生活区(せいかつく)と言って、保護した人たちが暮らしている場所がある。


 そこにみんながいるってことか。

 あそこは無駄に広かったのを覚えてる。


 もしかしてこの時のための使い道もあったのかな。


 「ハントさんたちはどうして生活区にいなかったんですか?」

 

 ニアースさんは他人に言うようなトーンで尋ねた。


 何かを疑ってる。そう感じた。


 「逃げ遅れた職員がいないか探してたのよ。あと使えそうな武器とかね」


 「多分ですけれど今もジズの中にドミーがいるんですよね? 奴らは一体どこから来たんですか?それにどうして3人はドミーと遭遇する危険があるにも関わらず──」


 「説明は下に行ってからしてあげるわ」


 「出来れば今ここで、してください」

 

 ちょっと強い口調になったニアースさんがハントさんの口を止めた。


 その疑い深さは止めようとしたがもしものことを考えたら、僕も彼女のようにすべきなんだと思う。


 この戦いでは僕らの知らないことが起きている。


 ドーサさんが気がついたドドさんの行方も気になる。


 いるって決まったわけじゃないけど、裏切り者(嘘を言っている人)がいるのかもしれない。


 それにニアースさんは自分1人のことじゃなくて、僕とカインさんのことも意識してこうして班長としての義務を全うしているんだ。僕らを守るために。

 

 暫く黙っていたハントさんは決心したように息を吐くと、それまで羽織っていた白衣を右手で脱ぎ捨てた。


 僕らは上半身シャツ1枚になったハントさんの体を見て言葉を失った。


 それは僕が今日見た最悪の光景の中でも、どう処理をしていいのか分からなかった。


 これはきっと、トラウマになる。


 ──ハントさんは左腕を失っていた。

 腕を失くした理由は、ドミーと戦ったということ。


 これを見せることで彼女はニアースさんを納得させた。

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