見えてきた敗北③
見えてきた敗北③
「ど、ドーサさん!?」
「ようエイド・レリフ」
ドーサさんの体が緑の鱗で覆われている。
ニアースさんと同じ鱗がある幻獣?
「みなさん無事だったんですね」
「3人だけね」
急に彼女の声のトーンが変わった。
そうなってから僕は自分が言った言葉の馬鹿らしさを感じた。
僕はなんて無神経なんだ。
全然無事なんかじゃない。
ここにはもっと大勢の人がいたんだ。
それなのに今は僕を入れてたった4人しかいない。
「……僕がいなかったから」
「いいえ、エイド1人で変わる戦局じゃなかったわ」
「俺たちだって死んでいたかもしれねえ」
2人は気遣ってそう言ってくれたんだろうか。
それとも本当のことを言ったのだろうか。
どちらにせよ怒りを感じた。
力になれなかった自分に対してと、僕がいない時に来たドミーに対してだ。
「どうしてドミーがここに!」
「分からない。ただ、私たちが知っている情報は正しくないのかもしれない」
「情報。そういえばニアースさんはどうしてここに?」
「どうしてって、あんたを探していたんでしょうが!」
ニアースさんは僕のお腹を殴った。
アースを発動していなければ即死だったかもしれない。
「そういやエイドはどうしてここに戻って来たんだよ」
「ドドさんに戻るように言われたんです。ここが危ないって」
「ちょっと待って。そのドドさんは?」
「……あ、僕の方が速いので置いて、来ちゃいました」
「で、エイド・レリフ。お前は一体どこに行ってたんだ?」
ドーサさんは僕に対して唯一距離を取っていた。
明らかに僕を疑っている目をして睨んでいる。
「お前は俺たちに比べて随分と無傷だから気になったんだ」
「やめてよドーサ。何が言いたいの?」
「別に、何にも?」
後1歩で2人が言葉だけでなく拳でも喧嘩をしそうな空気。
熱くなっている2人を冷ますためにも適当な嘘ではなく、本当のことを言うことにした。
「僕はシンジュウクラスのところへ行ってました」
予想した通りみんな口を開けた。
3人のこの反応、やっぱりアレはそういうものなんだろう。
「し、神獣クラスを見たのか?」
「はい。前にニアースさんが僕に言わなかった理由が分かりました」
僕はニアースさんに怒られると思った。
でも彼女は口元に手を当てていて、僕の言葉を聞いていないようだった。
「ねえエイド。どうしてドドさんはそこにいたのかしら」
「それって何か関係あるのか?」
「ほんとアホだなカイン・ビレント。関係あるだろ。どうしてファイン・ドドはそんな都合よくこいつに会えた」
僕もニアースさんに聞かれた時はカインさんと同じくそう思った。
でもドーサさんがそう言ってからは、気がついてはいけない、考えてはいけないことが見えてきそうな気がした。
けれどそれを深く考える時間は今の僕らには与えられなかった。
「ニアースさんドーサさん。まず戦いましょう。洞窟の入り口が真っ暗です」
血でぬかるんだ地面をこねながらドミーたちが進んできていた。
幸い奴らも暗闇では目は良くないのだろうか。
すぐにこちらに飛びかかっては来ない。
でも匂いで僕らがいるのは知られている。
見たところ数はわからない。4人で敵うだろうか……。
「外には何百体いるんだろうな」
「千だろうが万だろうが、やるしかないのよ」
「──ニアース・レミ。俺に策がある」
そう言ってドーサさんは洞窟の入り口の方へ1人で向かった。
「あんたの策?聞いてやらないでもないわよ」
「どうも。じゃあカイン、時間を作ってくれ」
「……はぁ、良いぜ。俺ってばほんと大活躍だよな~」
カインさん、どれだけ幻獣の力を発動し続けているんだ?
声はまだまだ元気だけど、無理しているんじゃ。
「岩の果実」
カインさんは僕らの誰よりも入り口側に立つとその場でしゃがみ床に手をつけた。
見慣れた光景だがその場の土を盛り上げて道を完全に塞ぐ岩の壁を作った。
さっき聞こえたロックの声はこれをやっていたのか。
だからドミーたちは先に進まず塊となって途中で止まっていたんだ。
「で、その策って?」
岩の壁を維持しているカインさんを除いて話し合いが始まる。
時間がないのは分かっていた。だから早口に。
「お前たちニアース班はジズに戻ってジズへの入り口を封鎖するように言ってきてくれ」
「入り口を封鎖って、洞窟を?」
「このままじゃジズ、組織そのものが終わる」
「あなた意外と臆病なのね。確かに今の私たちはピンチだけど、次期に前線から応援が来るわ」
ニアースさんはドーサさんよりもゆっくり話していた。
余裕を持っているような口調。
別にそれに対しては何も思わない。
むしろドーサさんがなぜこんなに必死になっていたのか不思議だった。
「ニアース・レミ。お前でもこの状況を分かっていないな?」
彼のその言葉でさっきドドさんに言われた「お前はまだニューポルムがこの第2地点にいる理由を分かってねえな?」を思い出した。
頭の中でその後に言われた「ま、今は分からないままが良い」という声も繰り返される。
きっとドーサさんはドドさんがあの時言おうとしていたことを知っている。
「何がですか! 何に気がついてないんですか!」
「──三幻鳥クラスが負けたんだよ」