6年前③
6年前③
────洞窟最深部 扉前────
エイドとドドが2人きりになっていたその頃。車でも通れる大きな扉の前で少年と少女は立ち止まっていた。浮かない顔をしたカインと少し不機嫌なニアースである。
「なあ、ドドさん怒ってるのかな?」
「そんなの分かんないわよ。でも今日のドドさんの頭が悪いのは確かね」
目の前の大きな扉を見ながら腕を組む2人、それぞれに不満がある様子だ。
「お前ってよくそんなこと言えるよな。あの人偉いんだぞ?確かジズの──」
「相手が偉かろうがなんだろうが! おかしいと思ったら私はそのおかしいを言いたい性格なの!」
ニアースは怒鳴った。肩が跳ねたカインは引き続き少女を怯えた目で見る。口を開く際には言葉を選んだ。
「お、おう。でもお前さっき言えなかったじゃん。ほんとはあの場に残って一緒に過去をエイドに教えるべきだとお前も思ってたんだろ?」
おどおどした口調は途中から自然に直っていた。ニアースが怒鳴らずに聞いてくれていたからだ。
「そう、だけど・・・言って良い時と悪い時の判断くらいするわよ。あ、あんたも黙ってるだけじゃなくてちゃんと考えているのね」
「別に考えてないぞ。ただ、ドドさんて何でも自分1人でやろうとするだろ?なんか周りの人に無駄に気を使ってる感じがするんだよな~」
「そう……カインでも分かるんだ」
口から出た少女の言葉はすぐに彼女の視線と共に真下へ落ちる。カインはそれを見落とさなかった。
「な、なんとなくだけどな! それより、お前なんでこの扉開けないの?」
「えっ? あんたが開けるんじゃないの?」
「?」を浮かべた顔を見合わせるニアースとカイン。
「扉のパスワード俺知らないぜ」
「は? 私だって知らないわよ!」
「あ? お前行く時開けてたじゃねえか!」
「あの時はハントさんが開けたのよ?」
「じゃあ、このまま?」
「ドドさんとエイドが来るまで待機ね」
落胆した2人はその場に座るしかなかった。
「ねえ、もうちょっとあっち行ってくれる?」
「はいはい。かしこまりました王女様」
────洞窟内道中────
「あの~」
「どうしたエイド?」
「過去のことを教えてくれてありがとうございました」
「おう。これからも過去について何か知りたくなったら俺に聞いてくれ。でだ、あいつらには出来れば聞かないでやってくれ」
「はい。気をつけます」
「ジズにいるやつらはみんな悲劇を背負って暮らしてる。普段は背負ってないフリして明るくしているやつが、実は重いものを背負ってるかもしれねえ。
だからよ、そいつらに荷物を確認させることはしないでほしい。ま、これは俺のワガママだけどな」
ドドさんはガハハと笑った。だけど僕は真っ先にそんなドドさんが一番の悲劇を背負っている人なんじゃないか?と感じた。この人だって辛い過去があったはずなのに、自分にだけ過去を聞いてくれだなんてこの人はおかしい。
「話してくれてありがとうございました」
謝ったらドドさんは「謝るな」って言いそうだから「すいませんでした」とは口にしない。ドドさんは1回だけ頷いて僕の謝罪のありがとうを受け取った。
その後も先の景色が変わらない洞窟をドドさんの横について歩く。歩いている間ドドさんは僕に色んなことを教えてくれた。ニアースさんが負けず嫌いということ。カインさんが身長のことを気にしていること。ジズにはヤブ医者しかいないということ。それから、どうして組織の名前がジズなのか──。
ジズというのは空の神さまの名前らしい。そして空というのは陸と海がポルムに侵略された中、唯一侵略されていない神聖な空間になった。だから最後の砦という意味を込めてジズと名付けたのが由来。
まるで自分が名付け親のようにドドさんは話していたが、名付けた人はドドさんではなくて友人だと言っていた。あ、そうそう。どうしてジズが洞窟の中にあるのかは、着けば分かるらしい。
ジズ──空の神様。鳥の姿をした幻獣で体の大きさは空そのもの。絶対に死ぬことのない永遠の命持つ。