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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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マボロシの終わり②

マボロシの終わり②


  

 ────草原 第1地点



 カラフルな羽を生やした3人の青年達。


 彼らは半透明の生物に対して、身を守れるほどの距離を保っていた。


 先に先制攻撃を仕掛ければ良かったのかもしれない。


 だが彼らは敵を見て混乱していた。


 「待ってよバモン! なんで来たのがこいつたった1体なの? 他の大群のドミーはどこ!?」


 「1体? 違うぞアマウ!こいつらは全部で3──」


 その時、バモンはアマウの腕を自分の方へ引っ張ろうと掴んだ。


 ウインはアマウの目の前に来た人型を見ていた。アマウもそれに気がついていた。


 しかしその時には──彼女の頭は空へ舞って地に落ちた。


 何が起きたのか分かったのは、引っ張った腕の体から血が吹き出ているのを見たバモンだった。


 アマウの首を()ねた人型は一度距離を取ると、そのまま残りの2人にも透明の()を向けた。


 「氷鳥(ひょうちょう)の巣」


 バモンは掴んでいた頭無きアマウの腕を離し即座に地面に両手をつく。


 瞬間的に大地を凍結し周囲を地面から生えた氷の膜が覆う。


 それを見てニューポルムたちは退避。

 

 出来上がった氷の空間。

 その中にいたのはバモンとウインとアマウの頭と胴体である。


 「うわあああああああ!! アマウが! アマウが!」


 ウインは凍った地面を殴り続けていた。

 赤くなるその拳は痛みなど感じない。


 この反応はおそらく自然だろう。 

 不思議なのは心まで凍っているのかと思えてしまうほど冷静なバモンである。


 「……アベル。判断はお前に任せるが、俺は()()


 「あ、当たり前だろ! まだ逃げねえよ! アマウの仇をとってやる!」


 「──違うぞ。俺は幻獣(アース)にさらなる生贄を捧げると言ったんだ」


 「待てよ。それをやったら人に戻れるか分からないんだぞ!」


 「このままでは俺たち、そしてジズも負ける」


 この閉ざされた氷の空間を警戒しているのだろうか。


 外にいるニューポルム3体はその場から動かなかった。


 「お前は暫くここにいろ。なんならどこかへ逃げても良い」


 「てめえ! 班長だからって気を使ってんじゃねえよ!」


 ウインは数秒目を腕でこすると、赤くなった目で彼を正面から睨む。


 「俺は、ワイアットと最後まで戦うさ」


 「──そうか。なら、やろうか」


 「アースオブエトピリカ」


 バモンは自分の頭を自ら作った氷柱(つらら)で刺した。


 「アースオブ! ケツアル!!」


 ウインは自分で発生させた竜巻を自分の頭に放った。


 2人は再び氷と竜巻に包まれた。

 しかしその規模は先ほどのものとは比にならない。


 徐々に拡大していく氷の塊。

 鉄板のような鉛の雲に穴を開ける竜巻。


 彼らを守っていた氷の空間はあっという間に砕けた。


 その異常気象のような現象は遥か遠く離れた場所からでも目に入っただろう。


 それらが消えた後、そこから出てきたのは口元が鋭く尖った──いや、(くちばし)を生やした青年2人だった。


 羽の量が先ほどよりも増えて着ていた制服は消えていた。


 靴も消えて竜の爪を生やした足があった。

 背中からはそれぞれ翼を生やしている。


 その異形な生物にニューポルムも簡単には近づけない。


 余裕があると判断した幻獣たちはお互いを見合った。


 「時間がないのは分かるな?」


 「ああ、体を食われている気がするぜ。いつ俺が俺じゃなくなるか分からねえ」


 「そうなる前、人でなくなる前に最大の能力をぶつけるぞ」


 「何か作戦があるのか?」


 「お前の武器(アース)である鉄球は、お前なら好きなように動かせるんだよな」


 「うん。風で操れるよ」


 ウインは羽に埋もれている体の中から人の頭より少し大きいくらいの鉄球を取り出して、空中に浮かせた。


 「俺がその鉄球を凍らせて巨大な球体にする。加えてその周りに氷柱(つらら)を生やす」


 バモンは話しながら鉄球に手をかざしていた。


 すると鉄球は氷の膜をどんどん重ねていき肥大化していた。


 「お前はこれを操ってあの3体に命中させてくれ」


 「もう、やるしかねえんだろ。さっさとやれよ」


 バモンは一定のところまで鉄球を大きくするとウインに空高くまで上げるように指示をした。


 空高くまで上がった氷の球は太陽の代わりのように空で光っている。


 バモンはオレンジ色の腕をそれに向けた。


 「氷鳥(ひょうちょう)の卵」


 バモンの体からは目に見える太い冷気が空の鉄球まで伸びていた。


 その冷気はもはや光線。

 自分の生命エネルギー全てをバモンは空へと送っていた。


 冷気を受け続ける球は氷の隕石と言ってもいいほど巨大化していく。


 それだけでなく氷の槍が幾つも生え始めた。


 「アベル、後は、頼んだ、ぞ……」


 倒れながらにそう言ったバモンのかすれ声はウインには届かな──


 「あぁ、任せとけよワイアット。翠鳥の飛行(ケツアル・ルート)ぉぉお!」


 ウインが翼を前へと羽ばたかせると空にあった氷の隕石はニューポルム達を目掛けて急降下。


 もしこれが地面に当たれば大地がうねり、ここにいる全ての生物にとって危険だろう。


 それほど巨大なものに3体のニューポルムたちは狙われている。しかし──


 「クッソがあ! 避けんじゃねえぞ!」


 たった1歩で50メートルほどの距離を詰める彼らにとってそれを避けるのは、水たまりをかわすのと同じくらい容易。


 ましてや広大な草原。邪魔なものなど何1つない。


 このまま逃げ続けても彼らにとっては良かった。


 だがよくよく考えたら気が付いたのである。


 ウインが完全に無防備であることに。


 ウインはバモンが倒れる寸前で新たに作り出した氷の部屋の中で、両手を使い氷の隕石を操っている。


 ニューポルムたちは氷の膜が溶け出していたのを知っていたのか、3体で一斉に体当たりして氷の膜に穴を開けた。


 青年を守るものは何もない。バモンは倒れている。


 きっとこのままでは隕石を落とすよりも早く、ウインの頭が地面に転がることであろう。


 「……頼むからさ。じっとしててくれよ」


 声に出ていたウインの想いは、刃物を向けるニューポルムには当然届かない。


 とうとう1体のニューポルムがウインへの一歩を踏み出した。

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