43話 始まる終わり①
43話 始まる終わり①
────エイドがピキを斬った次の日
対ポルム組織ジズ マダー・ステダリーの部屋
「バモンくん。いや、ワイアット・バモン教官」
白衣を着た男の目の前には叱られるのを覚悟して座って待つ青年がいた。
彼の顔は悪夢を見て寝ている様。
その寝顔にステダリーはすっぽんのように首を伸ばして近づく
目を瞑るバモンの顔に向かって息の届く距離でつぶやいた。
「自分が何をしたのか分かっていますか?」
問われた青年は黙っていた。
もちろん本当に寝ていたわけではない。
白衣の男の息が自分に触れている間は目を開けたくなかったのだ。
ステダリーが椅子に尻を着け、息がかからないのを確認するとバモンはまず口を開いた。
「私は自分が間違ったことをしたとは思っていません」
「いいえ。あなたはしたのですよ?」
ステダリーは青年の真剣な顔を笑った。
けれどその笑っていた顔に、すぐに怒りの感情が表れる。
「人類の未来を変えたかもしれない貴重なサンプルを、あなたはなぜ燃やしてしまったのですか!」
「あのウサギを燃やしたのは私ではありません。しっかりと見ていなかったのは私の責任ですね」
怒鳴った男に対して青年は姿勢を一切崩さない。
謝罪のつもりだろうか。座ったまま頭を軽く下げた。
「なぜあなたは物が燃えている部屋にいたのに、それに気がつかないのです?」
博士は再び青年の顔に寄った。
彼は目を閉じかけたが今度は近づいてくる顔から逃げなかった。
受け入れると言っていいほど耐えていた。
「君は耳や目まで凍っていたとでも言うのですか?」
「ええ、その通りです」
ステダリーは冗談のつもりでそう言ったのだがバモンは何ともない顔で即答した。
男は彼のその態度に口の中で舌をうった。
何を言っても無駄だと思ったのか呆れて椅子にもたれた。
「……バモンくん、冗談に対して真面目に答えないでもらえますか」
「それで博士。ペナルティは何でしょうか? 今度は私1人で旅にでも出ましょうか?」
「イーサン・コペルトの時はそうする理由がありましたが、今回はそうする理由がありません」
ステダリーがこの場に来るように手で合図をすると黒装束の者が現れて、1枚の紙を渡した。
受け取った男はそれをバモンに見えるように机の上に置く。
「あなたはこの通りにしてください」
「・・・これは、布陣ですか?」
青年の顔色が急変し机の上のその紙をすぐに手に取った。
凝視するその紙には色分けされた◯が何かの決まりがあるかのように並んでいる。
「備えてください。戦いに」
「この規模の布陣を構えるとはそんなに──」
「〝そんなに〟どころではありませんよ。外のポルムとドミーの現状は」
「では、なんと?」
「例えるのなら6年前ですかね」
「国1つを滅ぼすほどの大量のドミーがですか……」
青年は紙を落とさないようにそっと机に戻した。
「今からでも例の人型──ニューポルムを三幻鳥で駆除すべきでは?」
「いいえ、ここで討ち取ります。今回はアレを使用しますからね」
青年はアレを知っていた。知っていたから膝に拳を乗せ、歯を噛み締めていた。
彼が知っていたアレとは──
「緊急事態なので神獣クラスを用意しました。彼らの指導の方をお願いします。それがあなたへの罰です」
「馬鹿な! アレに人が集まるわけがない!」
「それが集まる時代なんですよ。死んでもジズに入りたい外の人間は多いですからね」
「か、彼らに真実は伝えたのですか?」
「既に了承済みですよ」
白衣の男はすっかり上機嫌になっていた。
反対に青年の方は目の前の笑顔を見るなり無言で部屋を出た。
(神獣クラスなんか馬鹿げている!あんな、人を道具として扱うやり方は)