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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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今だけの時間②

今だけの時間②



 「何を焦っているファイン・ドド」


 青年は冷気を発したまま部屋に入った。


 「……誰かと思えばこれはこれは」


 「ワイアット・バモン!?」


 バモンは2人を無視して未だにゲージの前に立ち続けるエイドの目の前、大人たちの真正面に立った。


 「失礼。組織内で火の気がしたので、消させてもらいました」


 青年が指を鳴らすと浮いていた氷の粒は全て砕けた。


 「バモンくん何のつもりです? あなたは今銃弾を止めました。それがどういう意味か分かりますか?」


 自分に近づいてくる白衣の男をバモンは声で突き放す。


 「あなたは第二のイーサン・コペルトを生み出したいのですか?」


 その名前にステダリーは額にシワを寄せ、嫌悪の目で青年を睨んだ。


 それが何かの合図だと分かったのは白衣の男と、その目に見覚えのあるバモンだけ。


 「そこを動くな黒装束(ブラック)!」


 バモンの声はどこかに潜んでいる何者かを脅していた。

 

 人質をとるように白衣の男に手を向ける。

 彼の手の先には空中に浮く氷柱(つらら)があった。


 氷柱の先は白衣の男の首を捉えている。

 この光景に皆が氷漬けにされたように固まった。


 青年は「今だ」と言わんばかりにステダリーや廊下に向けて口を開いた。


 「中途半端な形で終わらせれば、()()()()()()()()()復讐の黒い炎に心を焼かれる! そうはさせたくないでしょう!」


 「……なるほど、ではそのドミーが誰かを殺すまでは黙っていますよ」


 未だに震えている手で銃を握ったままのドドとステダリーは部屋を出た。


 部屋にはエイドとバモンとドミーになった。


 「エイド・レリフ。自分の刀で斬るんだ」


 バモンはエイドの肩に手袋をして触れた。


 だから氷漬けにされたわけではない。

 が、ひどく恐怖を感じていた少年の震えが静まった。


 「バモンさんも助けてくれないんですか?」


 「もうそのウサギは助からない。やがて(おり)を噛み破り、カインやニアースそしてお前も殺すぞ」


 「どうして僕が斬らなきゃいけないんですか」


 「俺にはそのウサギ、たしかピキだったか?そいつがお前に助けを求めているように思えるんだ」


 「なら余計殺すわけにはいかないじゃないですか」


 「違うんだエイド。もしかしたらそのウサギは元々寄生されていたのかもしれない。だから化け物になる前に君に見つけてもらって、綺麗な状態で死にたかったんじゃないのか?」


 「殺してもらうために僕の前に現れるなんて、バカじゃないですか」


 「ウサギは賢い生き物だ。人間を見抜ける。お前のような人の心を持った人間を」


 「──バモンさん。お願いがあるんです」


 エイドは刀を抜いた。

 赤い刃が部屋の外にいる者にも見えるように(きっさき)を天井に向けた。


 外にいる者がそれに注目した時だった。


 「氷鳥の巣(ひょうちょうのす)


 「へへへ、部屋が凍った!?」


 「これはバモンのアースだ!」


 「全く。これでは中の様子が分かりませんね」


 外にいた者たちは自分たちが凍らされないようにまず部屋から離れた。


 部屋は入り口のドアだけでなく、その周辺の壁ごと厚い氷で覆われた。


 「これで誰にも邪魔はされない。氷はそのうち溶ける。それまでに楽にしてやれ」


 バモンはそう言うとエイドたちを見るのを止め腰を下ろした。


 「バモン教官。ありがとうございます」


 深く下げていた頭を上げたエイドは刀を納めずにいつでも手に届く距離に置いた。


 「ピキ。君をもっと抱きたかった。君ともっと過ごしたかった。これからは時間が取れるからもっとね、遊びたかった」


 エイドは檻から出したドミーを膝の上に乗せた。


 すでに怪物の姿をしていたそれは、その見た目に反し落ち着いている。


 まるでもう、その(いのち)を全うしたかのように。


 「でも、僕にはそんなことを言う資格はない。ごめんよ。本当にごめんよピキ。君をドミーにしてしまったのはきっと僕だ」


 エイドはピキを抱きしめると、檻の中へ戻した。空いた手で彼は刀を拾う。


 「アースオブ・・・ジズ」


 太陽のような色の炎に全身を包まれるエイド。


 その炎の卵から出てきた少年は刀を紅い羽の生えた手で握りしめた。


 息を吸って刀を振り上げる。

 長い間息を止めたエイドは────息を吐くと同時に、檻ごと中にいたドミーを炎で斬った。


 「ジズ。優しい炎でピキを包んで。どうかまた生まれ変わって、僕に会いに来てくれるように」


 赤く濡れ真っ二つになった檻はエイドから出る炎に包まれた。


 包まれるとすぐにそれらは燃えだした。


 しかし煙は出ることなく、全てが炎に吸収されるように燃えていた。


 エイドは刀を握りしめて立ったまま昇る炎を見送る。


 流れ落ちるいくつもの雫は、その炎の中に消えていく。

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