秘密の食堂③
秘密の食堂③
「い、言いましょうよ。せめてあの女の人だけにでも!言いましょ──」
「ダメだ!!」
その一声は、まるで獣が吠えたかのような怒鳴り声だった。
「たった1人でも特別に助けてみろ! 他の奴らをどうして助けないのかと、ジズは一生責められ続ける!」
「でもあの人の体には命が2つあるじゃないですか!」
「命が多かったら特別なのか?」
「違いますよ! 子供が産まれ──」
「女だから? 子供がいるから? そいつらの命は他の助けを待つ奴らと何が違う?」
エイドは何も言い返せなかった。
ドドの言っていることを〝ズルい〟と思ったがそれが間違っているとは思わない。
でも自分が言ってることも間違いではなかったと思っている。
だから大人の言っていることと、自分が言っていることを比べた。
けれどそこから先は今の彼に考えられるものではなかった。
(あの人は子供が産まれる。だから僕は助けたい。
でもそれはあの人がそうだから思ったことかもしれない。
もしあの女の人が他の人と変わらなかったら、僕はそう思っていない──かもしれない。
だけど助けたいよ。
全員を助けられないのは知っている。
せめてあの人だけは助けたい。
そう思う僕は何様なんだ?
どうして他の人は簡単に見捨てるのに、同じ命じゃないのか?
やっぱり命が1つ多いからなのか?
分からないよ! 命は! 人は!同じだ。
みんな平等で公平であるべきなんだ。
どうして特別だと考えてしまう命がこの世界にはあるんだ?)
「誰1人でも特別扱いして助けようとするなよ」
「じゃあ、なんでドドさんは僕を助けたんですか?」
「あの時はな、たまたまだ」
嘘だ。それにそんな理由で助けても良いのなら──
「じゃあ僕もあの人をたまたま助けます」
「ジズに着いたあの女の人が無事に生活区に住めると思うか?」
「っ、思いません」
「俺だって本当は全員を助けたい。でもジズの枠には限界があるんだ」
「分かっています。無理なのは」
(この世界はおかしい。おかしいよ。
どうしてみんなを助けられない。
人々を守るために戦う兵士なら、ただドミーを倒すだけじゃなくて人々を救わなきゃいけないだろう。
そうでないならジズの代わりにロボットが戦えば良い。僕はそう思う。
だって僕らは人間じゃないか。
人間だから、人間のために戦っているんじゃないのかよ!)
ドドは人々の元へ戻って行くエイドの足元を見ていた。
自分が言ったことの正しさの確認をしていたのだ。
そんな時、車の中から受信音が鳴った。
ドドは相手が分かっていたからか、急がずにゆっくりと車に近づく。
「おう、ダクか。どうし──」
2秒間、無線機を耳に当てただけで男はそれを持ったままスープを食べる人々の元へ戻った。
そこで紅髪の彼を見つけると息を整えずに声を出した。
「大変だエイド! いったんすぐに戻るぞ!」
ドドさんの顔はまるで誰かがやられた時のような顔をしていて大袈裟だと思った。
「な、何ですか?」
「良いか。落ち着けよ」
落ち着くのはドドさんの方だ。
前髪をちゃんと後ろとか横に寄せた方が良い。
夜なんだし怪物か何かと勘違いされる。
「だから、何ですか?脅さないでくださいよ」
「ピキが、お前のウサギが」
──なんでピキ? この時間に?
ドドさんがあんな顔をするほどの何かをしたのか?
「言ってください」
「・・・ドミー化した」
「もも、もう1回言ってください。よく聞こえなくて」
「ピキがドミー化したんだ!」
エイドはドドのその言葉を受け止められず、後ろ向きに頭から倒れた。