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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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決断する命②

決断する命②



 ────マダー・ステダリーの部屋



 まだ昼前だというのにその部屋は就寝前のようだった。


 白衣を着たステダリーは長方形の机を挟んで、前に座っている青年と少女を脅かすように顔を近づけた。


 「で、昨日の調査の結果はどうでしたか?2人の班長さん」


 「結果から報告しますと奴の詳細(正体)は分かりませんでしたしかし!」


 青年は相手に「なぜ?」と思わせる時間も与えぬほど強く早口で言った。


 まず圧をかけて男がちゃんと椅子に体を置いていることを確認してから、今度はゆっくりと口を開く。


 「例の人型の生物は、とても高度な生物だと考えられます」


 「高度な生物?」


 「はい。例の生物は囮とみられるドミーを使い、我々を旧市街に招き建物の死角から──」


 「つまり君たちは」


 男は青年の声を上書きし始めた。


 「ドミーとその例の生物にハメられて重傷の兵士をまた1人増やし──」


 「それは違います」


 ハッキリ言ったのはこの中で一番若いニアースだった。


「私たちは例の生物やドミーの生態を知るためにも罠だということを想定した上であえて、ハマってやったのです」

 

 ちっとも遠慮を知らないその10代の女性の真っ直ぐとこちらを見る顔。


 40を越えたその男にとっては正直、不快だった。

 

 堂々とした話し方に対しても、男は指をいじるなどして感情をコントロールしていた。


 「なるほど~。君はなかなか危ないことをするんだねニアース・レミくん」


 「今後はどう調査を──」


 「今後は領土外への任務は禁止だよ」


 「何故です!?」


 バモンは声と共に立ち上がった。

 座っているステダリーを上から睨むように見続けたが、白衣の男はその目を見ずに足元を見てため息をついた。


 「それどころではなくなったんですよ」


 「・・・どういうことですか?」


 興奮気味だったバモンは声を震わせながら椅子に座った。


 「ポルムとドミーが()()()しているみたいでね」


 「それは(どこ)からの情報です!」


 「偵察クラス、そして黒装束の者(ブラック)さ」


 男の見つめた部屋の隅には壁と同化している。


 いや、部屋の空気の一部になっている黒装束の者が立っていた。


 「ですがその原因はもしかしたら」


 「そうだねバモンくん。私もそう思うよ。きっと例のその生物は新しいポルム──ニューポルムなんじゃないかな」


 「・・・ニューポルム」


 「君たちに教えてもらったその生物の見た目、再生能力。これらの特徴はポルムにとても近い」


 「ですが奴は我々同様に目や鼻や口! さらには髪の毛のようなものまでありました! 言うのであれば、あれは人間に寄生したポルムではないでしょうか?」


 「その可能性は限りなくゼロに近いんだよ。我々人間は普通の場合は寄生されて体が耐えれるほど丈夫ではない。だから今までも人間のドミーは現れていない」


 「なら人為的に!?」


 「それもありえないよ」


 ずっと大人しく座っていたステダリーは机を叩いた。


 「なぜならそれに成功する人間は私が最初だからね」


 少女も青年もそれには何も言えなかった。ただただ固まっていた。


 人形のように固まってしまった2人を元に戻したのは「ただの夢だよ。科学者としてのね」という男の笑い声だった。



 ────その日の夜 プリップ・チャップの食堂

 


 3人の少年たちは1つの机を囲みご飯を食べていた。


 机の上にはサラダや肉を巻いた野菜が置いてある。


 「──ってわけだから当分は休みよ」


 「ポルムやドミーが活発化しているのに僕らは休むんですか? 駆除しないんですか?」


 ニアースはエイドがそう反応するのを分かっていた。


 だから感情的にならないように、予め用意しておいた言葉をサラダを食べながら言った。


 「今やジズ(ここ)のまともなの兵力は100もいない。領土外に出す余裕もないの」


 「偵察クラスがいるじゃないですか」


 「その偵察クラスは前のとは違って素人の寄せ集め。数は前よりも結構いるみたいだけどね」


 「エイド。これはいい機会なんだよ」


 カインは野菜に手をつけず肉だけを食べ終えてフォークを置いた。


 「訓練ですか?」


 「そうだ!俺たちが三幻鳥くらい強くなれば、俺たちだけでもっと自由に動けるようになる!」


 「でも僕はそんなことをしていて良いのかと思います。だって今も外には生きている人がいるんですよ」


 (ドミーやポルムが活発化しているってことは外の人がまず危ないじゃないか。そんな人たちを守るための僕らじゃないのか?どうして外に行っちゃいけないんだ)


 「お前は1人でその人たちを守れるのかよ」


 カインさんのくせにニアースさんのようなことを言う。でも、確かにその通りだ。


 僕1人では守れない。

 ドミーを倒すことも出来ないかもしれない。


 けれど可能性を感じた()()があるじゃないか。


 「出来ますよ──飴を使えば」


 2人はきっと「飴を使って倒す」という意味で僕が言ったと思っているんだろうな。


 まあ、それが普通(当たり前)なんだけれど、僕が感じた可能性はそれじゃない。


 僕が感じた可能性は「飴を使ってポルムやドミーと会話をすること」だ。


 会話が出来れば彼らの目的が分かる。 

 それにもしかしたら本当に仲間になれるかもしれない。


 「飴のことは今回は誰にも言わなかったけど、次はないからね?」


 ニアースはお皿を持って立ち上がると、エイドを敵に向けるような鋭い眼光で睨んだ。


 「それと、次からエイドには2つしか飴を渡さない。作戦が終わったら残ってる飴も全部返してもらうからね」


 そう言い残してニアースは机から離れていった。


 彼女を追うようにカインも席を立つ。


 (ニアースさんは怒ってる。カインさんまで。


 なんだよ!無事で済んだから良いじゃないか。

 

 もし僕がああしていなかったら、本当に全滅していたかもしれないんだぞ)


 エイドは1人で黙々と野菜と肉をフォークで突いて口に運んだ。


 すぐに食べ終わると食器を持ち、チャップがいる厨房へと入って行った。


 食器を置くだけなら厨房前の返却口に置けば良いのだがそうしなかった。


 「チャップさん。話があるんです」


 チャップはその声に恐怖を感じた。銃や刀などで後ろから突かれているようなそんな気がしたのだ。

 

 だから彼は洗っていた食器をゆっくりと置いて、身構えながら振り返った。


 「(オレ)に? なんだイ?」

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