4つ目の飴②
4つ目の飴②
────あっ、そうか。僕も化け物になれば良いんだ。
エイドは閃いた。
彼はズボンのポケットに手を雑に突っ込むと、握った物を引きちぎるようにポケットから手を抜いた。
力を入れたままの拳を口の前に持っていき手を開く。
彼の口の中には赤く丸い玉が3つ転がって入った。
「……待ってエイド。何を食べたの!?」
「おいエイドお前! 今、口に何を入れた!」
「飴です」
「短時間で3つ以上を舐めたら危険なのは知っているでしょ!」
ニアースは涙を流しながら怒鳴り声を投げた。
もしも今自分がウインから離れることが許されるのなら彼女は彼の頬を殴り、彼の胸の中でその涙を流しただろう。
それほどニアースはエイドを想っていた。
「大丈夫ですよニアースさん。僕はこれを短時間で3つ以上舐めるのは、初めてじゃないですから」
さてどうなるのかな。
汚いドミーにはなりたくないな。
「な、何言ってんの!? あんたは私の命令をずっと守ってきたじゃないの! エイド?……そうだよね?」
そう言ったニアースはある時のことを思い出していた。
(──もしかして。って、思ったことは今までにもあった。
初めてそう思ったのはドーサとの3対3の対人戦闘訓練の時。
どうしてエイドはアース無しでもドーサよりも速い動きが出来るんだろうって、目の前で見て思った。
でもそれは彼の身体能力と体質の問題だと考えて、意識しないようにした。
エイドはたまたま飴との相性が良いんだって自分に言い聞かせた。
だってエイドはそんなことする人間じゃ、私に隠し事をするような人間じゃ──)
「ごめんなさいニアースさん。僕、見た目ほど真面目な人間じゃないんです」
エイドはカインたちがいる完成直前の岩の果実に背を見せた。
「バカエイドが! どうなっても知らねえからな!!」
エイドに聞こえたのはそれだけだった。
そのあとは岩の穴が閉じる音。
中から音が漏れてくることもなかった。
「ロックを閉じてくれてありがとうカインさん。僕もこれ以上ニアースさんの泣き顔を見たくはありません」
ロックの中では泣きながらウインの手当をするニアースがいた。
カインはどうすることも出来ず岩の壁に頭を当てていた。
まるでエイドの無事を祈るように。
「それにもう、これ以上僕も我慢できな──」
エイドは血を吐き出した。
まるで何かの臓器を吐いたかのようなその量は、腹を刺されたウインが流した量よりも多かった。
けれど腹を刺されたわけでもない。
ただ、幸いなことに人型の生物は血を吐くエイドを警戒している。
(・・・あれ? これ、やばいよね……僕死んじゃうんじゃないの?)
「涙?」
エイドは自分の目の下を指で拭いた。
涙じゃないと分かったのはその液体に触れた時。
涙とは違い重みがあり、異様に肌に馴染む液体。色は赤だった。
(これ、おかしいよ。
血の涙なんておかしいよ。
頭も痛い。体は熱いし。
肉体強化の飴っていうのは嘘なの?
それともたった4つ舐めただけでこんな風になるの?
だめ。もう、動けないよ。いっそのこと殺してくれ)
「どうして……僕を殺さないんだ」
返事があるとは思って言ってない。
ただ声に出てしまった。
どうせあの人型の生物は僕を見て笑っているんだろう?
「キミ・ワカル・ハナセル」
「────え?」
透明の体の化け物が僕にそう言った。
少年は口についた血をその生物へ飛ばしながら聞き返す。
「な、 なんなんだ! 僕に今話しかけた?」
「キミ・ワカル・ナカマ・ナカマ・タベナイ」
「ナカマって何!?」
「バイバイ・マタネ」
人型はもうすでに、草原の遠くへと行ってしまいシルエットになっている。
その気持ち悪い言葉を残して去ってしまった。
助かったと思ったけどくそう。
飴のせいで体……体が動かない。
動けよ! これは僕の体だぞ!
・・・そうか分かったぞ。
この飴、P液抽出丸は確かポルムの体液を使っている。
弱体化させたポルムでも最悪の場合は体の内側から寄生される。でも摂取量を守れば平気。
だけど僕は決まっている摂取量を超えた。
僕は今、寄生され始めているんじゃないか?
だからだよ。
だから僕はあいつに〝ナカマ〟って呼ばれたんだ。