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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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39話 4つ目の飴①

39話 4つ目の飴①



  ────対ポルム組織ジズ 領土外 草原


 

 旧市街地を出たエイドたちは草原までなんとか逃げのびていた。 


 ウインと少年たちは追いかけてくる人型の様子を常に伺っている。


 双方の距離間は致命傷になる一撃を、避けられるくらいの距離。


 だが、下手をすれば相手からの一撃をくらうギリギリの距離でもある。


 しかしこの距離でなければ相手の様子を伺えない。


 「もう……逃げるのは無理みたいだぜニアースちゃん」


 「ウインさんはまだ余裕そうですね。もう少しあの人型を足止め出来ませんか?」


 「もう草原には着いたし……大丈夫っしょ?」


 人型は手足を竜巻に巻き込まれながらも真顔で前進してくる。


 ここに来るまでウインは何度も自身の能力で人型の拘束をし続けていた。


 彼の活躍(疲労)は誰が見ても、汗の量や息遣いから分かる。


 ウイン自身も自分の体力はもちろん分かっている。


 それでも彼が能力を発動し続けているのは、追いかけてくるその生物が徐々に歩くペースを上げていたからである。


 弱くなった竜巻の鎖はもはや、装飾品(アクセサリー)になりかけている。


 「どうするんですかニアースさん」


 「どうするも何も!倒すまでだろ……」


 擦り傷の顔でカインは鼓舞しようとしたが、彼の(あたま)には2人がかりでかかって何も出来ずに吹っ飛ばされた先ほどの映像が流れた。


 「倒すっていうよりも時間稼ぎで良いわ」


 (ウインさんは能力の限界が近い。

 私たちの体力はあるけれど、あいつを倒せるほど力はない。


 そもそも私たちだけで倒せる相手じゃない。

 

 やっぱりバモンさんを待つしかないわね)


 「でも……俺と君たちでかかれば、バモン抜きでも案外いけちゃうかもしれないよ?」


 「本気で言ってますか?」


 ウインは肩を回しながら嘘をついた。

 無理をして「まだやれる気持ち」を見せたのは士気を下げないため。


 本人も自分がこれ以上戦えないのを分かっている。


 でもそんな様子を自分よりも3つほど若い彼らに感じとられたくはなかったのだ。


 「指示は二アースちゃんに任せていいかな?」

 

 「私の他に誰がやれるんですか?」


 「さすが、ニアース・レミだ」


 武器を構える4人と1体の人型。

 両者の距離間は先ほどまでよりも縮まった。


 「カインとウインは──」


 全員自分たちの前にいる敵の賢さは分かっていたはずである。


 ならどうして、誰も気がつかなかったのだろう。


 どうして、誰も想像しなかったのだろう。


 その敵も自分たちと同じように考えて戦おうとしているのだとしたら、真っ先に狙われるのは敵の視線上にいる指揮官(彼女)だと言うこ──


 「俺の前ではもう二度と、女の子に血を流せはしないっ……」


 その生物の槍上の手が見えた時にウインはある記憶を思い出した。


 それは思い出したくない映像。

 初めてこの人型と対峙した時、自分の目の前でイラ・アマウが血を流した映像である。


 だからこそ彼だけが躊躇なくニアース・レミの前に立つことが出来た。


 両手と両足を広げ、腰を落とした彼は少女の盾になった。


 その盾は音速に迫る透明の槍に腹を貫かれた。


 彼を覆おっていた緑色の羽は血に流されて次第に消えていく。


  「うわぁぁぁ!!」

 

 甲高い悲鳴はエイド()の声。

 エイドは背中の翼を羽ばたかせた。


 刀を握った彼はウインの腹を刺し続ける透き通る腕を斬り落とす。

 

 翼を動かした時から彼の動きと感情に一切の無駄はない。


 腕を斬られた人型はエイドから離れて元の距離をとった。


 人型は地に転がる自分の腕ではなく、紅い翼を見ていた。


 その一点を見つめる瞳は赤ん坊が初めての物を見るときの目と似ていた。


 「ウインさん! ウインさん!」


 カインはウインの背中をゆっくりと寝かせ、その顔に唾がかかるほど彼の名を呼ぶ。


 「大丈夫……ジズに戻れば治るから」


 「とっ、とりあえず応急処置をしないと!」


 カインはそう言って後ろで震えているニアースの顔を見た。


 しかし助けを求めて見た彼女の顔が震えいていた。


 彼は自分がどうすれば良いか分からなかった。


 「ニアースニアース! おいニアースってば!」


 「まっておちついてわかってるから」


 息を吐きながらそう言う少女の目は固まっている。


 それでもすることが分かっているように、ゆっくりとウインの出血部分に触れた。

 

 少女の白い手があっという間に赤く染まる。


 「それで治るのか?」


 「私のアースオブリヴァイアは液体を操れる。だから多分、血液も操れる」


 それは彼女が今までにやったことないこと。


 だが今の彼女の策の中で、自分に出来そうなことはこれしかなかったのだ。


  「よくも、よくもウインさんを!」


 走り出した少年の羽と翼が赤い炎に包まれる。


 その刀も炎が包もうとした時、急にその炎が消えた。


 (あれ?おかしいな。翼の感覚が、空気を蹴る感覚が、無くなって……)


 羽と翼までその体から消えた。

 獲物へ迫っていた彼はバランスを崩して途中で転ぶ。


 転んだエイドの姿は赤い制服を着て、擦り傷を手に負っているただの少年に戻っていた。


 このことに彼が転んだ音で気が付いたニアースは、自分が恐れていた最悪の事態が起きてしまったことを知った。


 「下がってエイド! アースの発動が切れたのよ!」

 

 「俺のロックで時間を稼ぐ! それで良いよなニアース!」


 「お願い!」


 ニアースは考えもせず許可を出した。


 「岩の果実(ロック)!」


 (ダメじゃないかニアースさん。

 どうしてそんなすぐに破られる時間稼ぎにもならない作戦を認めたんだ。


 くそう!  僕がアースをまだ発動できていたら! 

 

 まだ戦えたら! もっと時間を稼げるのに。


 あれじゃあバモンさんが来るまで耐えられるわけがない)


 「エイド何してんだ!早くこっちに」


 「ダメですよ。だってこいつはすぐにロックを壊します」


 とっくに立ち上がっていたエイドはその場で刀を構えていた。


 先ほど斬られた腕を再生した生物は再び腕の形状を槍の形に変形させる。


 (もう腕を生やしたのか。

 ああいうのを「さいせい」って言うんだっけ?


 そういうのを、ただでさえ強い生き物がやったら、化け物になるからダメじゃないか)


 ────あっ、そうか。

 僕も化け物になれば良いんだ。

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