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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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決心②

決心②



 ────ジズクラスの訓練場



 制服を整えたバモンは立ったまま、椅子に座っているニアースに頭を下げていた。


 少女は制服の背を男に見せている。


 「今回の合同調査任務への参加感謝する。また、巻き込んでしまって申し訳ない」


 「私たちで良いんですか?正直、他のジズクラスの班とそう大差ないですよ」


 「確かにその通りだ。単純な強さで選ぶなら私は君らを選ばなかっただろう」


 男が腰を伸ばした時、少女は短い髪を揺らして振り返る。


 「信頼ですか?」


 「そうだ」


 「ここの大人ってみんな人間不信なんですね」


 「……そうなってしまったんだ」


 「どうして班以外の人間と深く関わっちゃいけないか私知ってますよ」


 男は自分を見続ける少女の顔から逃げるように、教壇の上にある椅子に座った。


 「・・・教えてもらおう」


 「敵対組織を作らないため──ですよね?」


 「ニアース・レミ。君は考えて答えを出すのか? それともなんとなくという勘か?」


 「もしも、組織内でとあるグループができてそれが巨大な武力を持ってしまったら、目に見えない権力は無意味になる。ここの組織の場合そうなって損をするのは、ステダリー博士とバモン教官のどちらかですよね」


 少女はそれを練習してきたかのように言った。


 話し方、声の大きさ、目線のどれもが見ている人からの注目を集めるには十分。


 「よく考えたな。大体そうだ。あの博士も俺も、目に見える形で組織から敵対勢力──裏切り者が出るのを恐れている」


 「みんなが仲良く交流したら自分の味方が増える可能性もある。でも敵が増える可能性もありますもんね~」


 「だが、ここの権力は見えないものではないぞ」


 「黒装束の者(ブラック)は見える権力ってことですね」


 「私だって仮に君たちが敵なっても戦って負ける気はしない」


 「良いんですかそんなこと言って? 誰かに聞かれているかもしれませんよ?」


 「この部屋は平気だ。訓練中の事故という理由で()()()()()()は全て壊してある」


 男は立ち上がり部屋の中の焦げた部分を次々に指差した。


 少女にはそのしぐさが面白く口に手を当てて笑っていた。


 「バモン教官も意外と幼いんですね」


 男は首の襟を整えて咳払いをした。


 「君はもう少し年相応の態度を出した方が良い。まるで教授(せんせい)と話をしている気分だ」


 「先生で構わないですよ。それより今回は何か作戦でもあるんですか?」


 「その質問から始めて私から聞きだそうとしているのは、私が見た()()()()()についてじゃないのか?」


 男は少女と目を合わせた。

 今度は彼の方がその目に力があった。


 少女は顔をそらすと負けを認めたかのように息を吐いた。


 「……そうですよ。何なんですか人型の生物って。人間がポルムに寄生されてドミーになったんじゃないんですか?」


 「分からない」


 「見ているのに分からないんですか?」


 「違うんだ!」


 男は目の前にあった机に手の平をついた。

 その音は少女が姿勢を整えるほどの迫力。

 

 男はその時の手の痺れで落ち着きを取り戻す。


 少女は恐れながらも聞く事をやめなかった。


 「・・・全く新しい何か。ですか?」


 「私の考えではあれは新たな生命体だと思っている」

 

 「その新たな生物が人型だなんて都合が良すぎません?」


 「それはどういうことだ?」


 「だってまるで私たち〝人間の代わり〟みたいな気がしますよ」


 「……なるほど。だがもしそうだとしたら、意思の疎通ができるかもしれんぞ」


 男は真面目にそう言ったつもりだったが少女には冗談に聞こえた。


 また、自分が言った真面目な事がバカにされていると感じていた。


 「もう帰っても良いですか?」


 「悪い。最後に今回の任務で1つ約束をしてくれないか」


 「聞くだけなら良いですよ」


 少女は出口のドアへ向かっていた足を止める。


 「私は味方が重傷になるときっとパニックになる。そんな時は君がその場で最も適当な判断(命令)をしてくれないか」


 それは、10代半ばの少女には重すぎる約束だった。


 また、それをお願いしてきたのが彼女自身が尊敬している班長(リーダー)である。


 普通この場での返事はできないだろう。

 なのに彼女には返事をするのに数秒も必要なかった。


 「冷たい私にはピッタリですから良いですよ。約束します。それでは──」


 「ニアース・レミ。君はライコス掃討作戦でエイド・レリフを守ったそうだな」


 ドアに触れていた少女の手が腰へと下がる。


 何か納得いかないのか手を握りしめて後ろを振り返る。


 「何のことですか? 私はただステダリー博士の命令通りにあの子供を銃で撃った。それだけです」


 「もしもあの時に君がそうしていなかったら今頃エイド・レリフは、ステダリー博士に反逆した罪として罰を与えられていただろう」


 男が話している時少女は再びドアの方を向いていた。


 「部下の命を守れる君は私よりも優れた班長だ。冷たい人間だとしても君は──」


 「失礼します!」


 「心のある人間だぞ」


 少女は男の声を消すような大声を出すと部屋を出てドアを勢いよく閉めた。


 廊下に出た少女は壁に背中をつけて立っていた。


 握りしめた両手で壁を叩いて何か言いたそうにしながらも、その口を強く噛み締める。


 (私が心のある人間?

 ……違うわ! 銃で人を撃った私に心なんてない! 


 あの時だってそう。本当に撃つことなかった。


 せめて急所を外して撃つべきだった。


 けれど私は「撃ったらあの子供(ターゲット)の心臓に当たる」と分かって撃った。


 だって、もしも心臓を外したらその責任は私じゃなくて、子供を逃がしたエイド(あいつ)になると思ったから。


 あの子供を殺さなければ、エイドがどうなるか分からないと思った私に迷いはなかった。

 

 結局私も自分の中の天秤で命を比べるようなそんな人間。


 だからもしもの時はバモン教官の期待通りにあなたを見捨てますよ。


 今の私にとって一番大切なのはあなたでもジズでも世界でもなく、私でもなく──ニアース班ですから)

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