目覚め④
目覚め④
洞窟の中を進み始めて数分、いよいよ地上の光が見えなくなった。まだ少し肌寒いけれど慣れてしまうと灼熱の地上よりは気持ちが良い。
外のゴツゴツとした岩山のような見た目から、中にも岩や石があって歩きにくいのかと思っていたけど通路が作られていて道は平。洞窟の天井にはどうやってつけたのか気になるオレンジ色の電球が光っている。
「今日のドドさん頭が悪いですね。車で搬入口まで行けば良かったのに」
「・・・お前はまだ怒ってるのか?」
「当たり前じゃないですか! へったくそな運転のせいで車から振り落とされたんですよ!」
どうやらニアースさんは僕が知らないうちに酷いことを体験していたらしい。でも僕が起きた時の車の速度はゆっくりだった。僕が起きる前の話かな?
「でも怪我はないんだろ?」
「そうですけど無駄にアースを使いました。カインも何とか言いなさいよ!」
「ん? 俺は別に楽しかったぜ?」
「ごめん。筋肉に聞いても無駄だったわね」
「おい、今のって悪口か?」
「ほめてんのよ」
「そうだぞカイン。今のは褒められてるぞ~」
「そうなんすか? ドドさんが言うなら信じる!」
仲が良さそうな彼らの会話を心の中で笑いながら、ドドさんの横で聞いていた。ついそのまま笑って聞き流すところだったけど、僕は1つおかしいと感じた。
まずニアースさんが怪我をしていないということ。改めて彼女のことを見ても本当に無傷。髪の毛も、服も、腕も足もどこも車から振り落とされたような跡がない。
でも動いている車の、それも屋根から地面に振り落とされて無傷なんてありえない。高いところから落ちたらそれだけでも跡が残るはず。それと「アースを使った」ってどういう意味だろう。アースって何だ?今更だけど、洞窟の中に家があるってどうして? 地上じゃダメなのかな?
それにヤーニスさんが向かった警戒任務って? 一体何を警戒しているんだ?
僕はこの人たちのことを名前しか知らない。この世界のことは何も知らない。それらを知らないままこの先を、この道を、この人たちと一緒に進むべきではない。だって自分が生きている世界について知らないなんておかしいじゃないか。
だから笑われるのを覚悟で聞いた。
「ドドさん。今、僕が生きているこの世界について教えてください!」
3人の笑い声を上塗りした僕の声だけが洞窟内に響く。立ち止まったドドさんは背中を見せながら「いいぜ」と小声で一言。その声は僕に、話を聞く覚悟を要求していた。