お別れの命②
お別れの命②
僕はブラックと入れ替わるようにコペルトさんの前に立った。
さすがのあのブラックでも疲労しているのだろうか?博士の隣で待機している。
いや、僕が本当にコペルトさんを殺すかどうかを2人して監視しているのかもしれない。
「……お、お前はジズクラスの人間だな」
声をかけられて安心した。
この人は話し合えば分かってくれる人かもしれない。
それにジズクラスということを分かったということは、距離を取っていても僕のことをよく見てくれていた証拠。
「はい。エイド・レリ──」
刀を下げたその一瞬をコペルトは見逃さない。
短い間隔で2回地面を蹴ると彼はエイドのすぐそばまで移動していた。
近距離で勢いを乗せた蹴りを少年の細い首へ炸裂させようとした。
「貴様の名など興味ない」
しかしその一言が刀を構える時間を少年に与えた。
青年としてはそんなつもりはなかった。
「せめて殺す前に返事をしてやろう」という情けのようなものだった。
「……エイド・レリフです」
コペルトの靴はエイドの首の手前で刀にぶつかった。
不快な金属音が両者の耳に響く。
コペルトは右足を、エイドは両手を衝撃で痺れさせていた。
2人はよろめきながら互いに後ろへと下がって再び距離をとる。
「……俺の蹴りを耐えるとはお前、見込みがある。だがその刀はもう使えないぞ」
言われた通りだった。
刀を見てみると靴の跡がめり込んでいる。
でも、刀が使えないのはむしろエイドが望んでいたこと。
そう言ったコペルトもその足は暫くは使えない。
エイドはこのタイミングを逃さなかった。
「話! 話をしても良いですか」
「話だと? なんだ!」
「あなたはどうしてジシスくんを人殺しの道具にしたんですか!」
「そんなことかっ!」
やばい! くる!
でも蹴りはできない。
そしてあの疲れ様じゃ能力も使えない。なら僕でもなんとかなる。
「ジシスくんは本当なら普通に生きていけたんじゃ──」
「黙れ少年!!」
エイドはコペルトにその場で顔を殴られた。
蹴りではなかったが彼の意識、戦意をなくすには十分な感情が宿った拳。
その場に倒れたエイドを見て、ステダリーは自分の胸ポケットに手を突っ込んだ。
「エイドくんは嘘つきですね。なので私も約束を破りましょう」
「おいお前ら! ジシスに触れるな!」
コペルトは彼らに指をさして命令する。
命令された男は白衣のポケットから取り出したものを彼に向ける。
「手がダメなら私の小刀で触りましょう」
「そういうことを言ってるんじゃねえ! アースオブ……ヒクイドリ!」
コペルトの右手が羽に埋もれた胸あたりで動いた。
その直後彼は再び黒い炎に包まれた。
そしてより大きな翼、多い羽を身につけて炎の中から現れる。
歩くその足には鉤爪が生えていた。
鱗に覆われた足に大きな爪。もはや人の足ではなく竜である。
青年に能力を授けているヒクイドリ。
この鳥はかつて、『最も危険な鳥』として名を馳せた。
ヒクイドリがたかが鳥なのに危険である理由それは、人間を1度蹴っただけで殺すことが可能だからである。
「だからてめえは! 俺の前に立つんじゃねえ!」
コペルトは自分を待っていた黒装束の者へ回し蹴りを命中させた。
「命中させた」というのは彼から見てであり実際には違った。
黒装束の者はわざとその蹴りを受けたのだ。
足を押さえてしまえば身動きが取れない。それを狙った。
また、先ほどエイドの刀に当てた蹴りを見ていたこともあり、どの程度の威力かを知っていたのであえて受けたのだ。
だが、先ほどとは違うことが1つあった。
なぜヒクイドリの蹴りが鳥の中で最も危険なのか。
それはその鉤爪があるからである。
黒装束の者はたった今生えた鉤爪を知らなかった。
ただの靴が自分に当たるのだと思っていた。
しかし実際に当たったのは例えるなら、刀が3本ついたボクサーのストレート。
黒装束の者はその黒い足に切り裂かれた後、更に連続で回し蹴りを食らった。
体を抱えてふらつく黒装束の者に、青年はかかとを脳天に落とした。
黒装束の者は顔面を地面に叩きつけられて下半身が空中に反り上がる。
「ブラック!!」
目の前で舞った黒い布と赤い血にマダー・ステダリーは叫ばずにはいられなかった。
叫んだ後、男に襲いかかったのは「焦り」である。
自分の最強の武器がいなくなって何をすべきかを考えた。
なさけないことに男は自分が助かる可能性はゼロだとも判断した。
ならせめてコペルトの大事なものを壊そうとした。
その時につい、片手でジシスの胸に触れてしまった。
しかしその手には少年の手が触れてストップをかけた。
「手で触れているじゃないですか、博士」
「え、エイドくん!?いつの間に・・・」
エイドはへこんだ刀で男の小刀をはじいた。
へこんでいるとはいえ殺傷能力のある刀を間近で見たステダリーは腰を落としてしまった。