炸裂する想い③
炸裂する想い③
(・・・殴られて吹っ飛ばされたことを自覚したのは、岩に触れてからだった。
あぁ、だめだ。立てない。
それに立ったところであんな化け物に敵うわけない。
ニアースさん、カインさん、みなさんすいません。倒せそうにないです……)
狼男はなぜか彼らに止めを刺さなかった。
それは慈悲ではない。
単純に洞窟に近づけなかった。
洞窟の中から狼男ですら警戒する何者かがやって来たからである。
「──あの日、彼と共に1つのアースが消えました。私はその時から彼がいつかジズに帰ってくるのだと確信していました。そしてやはりイーサン・コペルトはアースを持って帰ってきましたね」
洞窟の中からは髭を生やした男とその男を守るように、全身黒装束の者が歩いて出てきた。
その足取りは散歩をするようにゆっくり。
狼男はその男の声に耳をピクリと反応させ洞窟から距離をとる。
「エイド・レリフくん。よく耐えていました」
「……マダー・ステダリー博士!? どうしてここに」
「洞窟に戻って来たジズクラスから緊急連絡があったからですよ。これは予想以上に酷い状況だ」
男は洞窟の中にある肉片や血だまりで、自身の白衣が汚れないか気にしていた。
その隙に狼男は彼に爪をたてようと接近を試みる。
しかしそれよりも速く黒装束の者が狼男の前に立っていた。
黒装束の者を見て狼男は声を出した。
その声はエイドが知っているジシスの声だった。
「お前がブラックか。コペルトさんが言ってたやつだ」
「おお~。まだ人間の意識があるんですね。でも君はもう人狼であることには変わらない。ブッラクお願いします」
それからの戦闘は見ていられないほど、とても一方的だった。
さっきまであんなに速くて力のあった獣が、ブラックという人には全く相手になっていない。
僕はこんな弱い相手に負けたのかと錯覚してしまいそうになった。
けど実際は違う。
ブラックがおかしいんだ。
ブラックはあの獣。
ジシスくんがどう動くのかを知っているみたいに、攻撃を避けては殴るを繰り返した。
その作業のような動作を途中からは見ていられなくなった。
だから何が起きたのかは知らない。
けれど僕が起きあがれるようになった時には、狼男が死んだみたいに地面に倒れていた。
爪も牙も砕けて耳は片方無くなっていた。
その変わりようは怖かった。
でもそれよりも怖かったのはブラックという人の見た目が最初見た時と、何にも変わっていないということだ。
あるとすれば手のところの布が赤く濡れていたこと。それくらい。
「それではアースを回収しましょうか」
博士はそう言ってブラックと一緒にジシスくんに近づき始めた。
その言葉と行動を見て僕は何を思ったのか、気がついたら2人を止めるように正面に立っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 回収ってどういうことですか!?」
「アースを回収するんですよ」
「でもアースオブライコスを唱えた時にこの子は、アースを持っていませんでしたよ!」
博士は何を言ってるんだ?
アースを回収って言うのも理解できない。
そもそもアースはジシスくんの物じゃないのか?
「それはこの狼男の心臓がアースだからですよ」
「えっ……」
心臓がアース。じゃあアースを回収って、それって、つまり……
「それって心臓を取るってことですか!? でもそんなことしたら死んじゃうじゃないですか!」
「それの何が問題なのですか?この狼男は多くの人を殺した我々ジズの敵ですよ。それにこのアースは元々我々のものです」
アースオブライコスは元々ジズの物。だから回収する。
けど、けどさ、それをしちゃったらこの子が。
「……でも、殺すのは」
エイドのつぶやきは地に落ちた。
マダー・ステダリーはわざわざそれを拾い上げる。
「君はジズの兵士でしょう? 何を言っているのですか?」
「すいません。でも殺すのは何か違うと思うんです」
「何が違うんです?」
「この子は自分でアースを手に入れたわけでも、自分で人を殺そうとしたわけではないと思うんです。この子は利用されただけで、戦いとは関係ない子供だと思うんです」
エイドは足を震わせながらも2人の前に立ち続けていた。
声も最後まで弱めることなく出し切った。
少年の想いに対して目の前の大人は横の黒装束の者を見た。
「利用されたかどうか、それは確かめることが出来ませんよね?お願いしますブラッ──」
赤い刀身が空を斬る──エイドは彼らに刀を向けた。
「エイドくん。刀を向ける方が間違っていませんか?」
「刀はいつだって、正しい方に向けてきたとは思っていません」
こんなことをして僕は良いんだろうか。
自分の味方に刀を向けた。
別にジシスくんを守りたいと思ったわけではないんだ。
僕はただ、この人たちが許せない。それだけなんだ。
「私たちはアースを回収したい。君はその敵を守りたい。場合によっては君は死ぬかもしれませんよ?」
「分かっています」
「そうですかそれでは──」
僕に黒い布がかかろうとした時に空から声が降って来た。
「よく外に出てきたな! マダー・ステダリー!!」
その声に反応したブラックという人は僕から離れて、博士を自分の黒い布で隠していた。
「会いたかったぞブラック!!」
「あなたがコペルトさんですか!?」
空を見上げると黒い翼の人が飛んでいた。
僕はその人がコペルトさんなんだと感じた。
けれど返ってきた言葉は......
「黒き世界」
漆!!!!!!!!!!!!!!!!黒
!黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒!
!黒消黒潰黒黒黒死黒黒怨黒黒黒殺黒黒!
!黒消黒潰黒黒黒死黒黒怨黒黒黒殺黒黒!
!黒消黒黒潰黒黒死黒黒怨黒黒黒殺黒黒!
!黒消黒黒潰黒黒死黒黒怨黒黒黒殺黒黒!
!黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒!
ノ!!!!!!!!!!!!!!!!!炎
空から黒くて巨大な何かが落ちてくる。
それは炎だと肌で分かった。
炎からは「全てを消す」という冷たい想いを感じる。
これに触れたら灰にすらならずに消されてしまう。