炸裂する想い②
炸裂する想い②
────ジズの入り口 洞窟前
ジシスはエイドの翼を握ったまま「アースオブ! ライコス!」と叫んだ。
翼を握られた鳥はその言葉よりも、ライコスから逃れることに必死だった。
相手は子供。
けれど体は水の中にいるようにうまく動かない。
エイドはただ「離せ!」と叫ぶことしかできない。
助けを求めた声は自身を包む黒い霧に吸収され、外に漏れることはなかった。
ジシスは怯える子供を安心させるように彼に声をかける。
「他の人のアースに巻き込まれるのは初めてですか? でも大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なんだ!」
「アースオブライコスは無属性。属性がないんですよ」
「そんなこと言っておいて周りは真っ黒じゃないか!」
「それは狼男は夜に変身するからですよ」
ジシスは目と口を閉じた。変身が始まったのだ。
腕、足、頭などの全身に太く黒い毛が生えていく。
指先や口からはサーベル状の爪と牙が生えた。
瞳は彼が今まで見てきた血が反映されたように濃厚な赤色の玉になる。
この体にはもう、スラフ・ジシスの面影はない。
身長もエイドより遥かに大きくなり元が誰なのかさえ分からない。
何か別の生き物が誕生したと思ってしまうだろう。
彼らを覆っていた黒い霧が消えかかった時、霧の中から爪で翼を切り裂かれたエイドがニアースたちに投げられた。
霧の中からは爪に引っかかる紅い羽を払う狼男が現れた。
「エイド・・・翼が」
「平気です。それよりも──」
「何だあの獣。さっきの子供はどこ行ったんだよ!」
「アースオブライコスって言ってました」
少女は狼男に指を向けているカインに指示を出そうとした。が──
「カイン!すぐに──」
2人は狼男によって洞窟の壁へ吹っ飛ばされた。
あっという間だった。3秒も経っていない。
この場で立っている武器を持った人間は僕1人だけ。
敵うわけない──とは、思わない。
今の僕はジズの力を借りている。
もっとジズの力を借りれば──
「オォ。ハヤイナ」
盾にした刀を殴ったその獣が何か言った。
とても低い声で聞いたことのない声。
言葉を覚えたばかりのような言い方だった。
「ハヤイガ、ヒリキダ」
背後から声が聞こえた。おかしいよね?
だって今!
刀を正面から殴っていたじゃないか!何で後ろ──
〝pannti〟
破裂音の後、紅い羽と赤い液体がエイドの頭から舞った。
殴られたエイドはニアースやカインと同様に洞窟の岩の壁に衝突していた。
ライコス──その昔、鋭い爪と牙。破滅的なパワーを持った1匹の大きな狼がいた。多くの幻獣を食い殺したその狼は、いつしか幻獣になっていた。