33話 炸裂する想い①
33話 炸裂する想い①
────ジズの洞窟から数十キロ先
荒野を覆っていた氷が溶けてその上で踊っていた炎が消えても、2人の青年たちは向かいあっていた。
コペルトはバモンに対し自身の能力をぶつけ続けた。
だがそれら全てを熟知している彼を倒すことはできなかった。
自らの手を振るっていればコペルトはバモンに勝てていたのかもしれない。
けれどそれは出来ないという事をお互いに分かっていた。
汗で深さを増した黒い羽毛を散らし、コペルトは地上に降り立った。
バモンからすればやっと巡って来た攻撃のチャンス。
しかし彼は腕を組んだ。
「もう終わりか?」
「いや、予定通りだ」
「そんな顔には見えないがな」
今のコペルトを見れば自分の苦しさを紛らわせているとしか思えない。
けれど次の彼の言葉で、涼し気を保っているバモンの顔が崩れる。
「もう玄関が片付いた。ジシスがとうとうアースを発動したんだよ」
「・・・あの子供が!? アースの適合者だったのか!」
コペルトの胸元を掴むはずだったバモンの右手は自らが発する冷気を握りしめた。
彼を見てコペルトの笑いはますます大きくなる。
その笑い声で先ほどの彼の発言が虚勢ではなかったのだとバモンは思い知った。
「だから言ったろ?あいつは俺の最高傑作だと」
「だが! あの子は何も持っていなかったはずだ!」
(そうだ。あの子は何も持っていなかった。だからどうやってドドを倒したのかが不思議でならなかった……いや、まさか!)
「そりゃそうだ。だってジシスはあいつ自身がアースなんだからな」
「まさかあの子に、アースの原石を丸ごと飲ませたのか!」
自分の予想が的中したバモンは頭の中の整理ができなくなった。
「ああそうだ。お前らジズがやっていないことを俺は先にやったのさ」
「お前はどうして・・・どうしてそんな人の道を外れるようなことに興味を持った!」
「勝つためのことを考えて浮かんだものを実行してみただけだ。俺を科学者か何かだと勘違いするなよ。俺はいつだって人道的だ」
バモンがやりきれない想いを地面にぶつけて話すのに対し、コペルトはただ立ったまま笑いもしない。
しかし彼を傷つけまいと言葉を点検しながら話していたバモンが、点検ミスをして逆鱗に触れる言葉を口から出してしまう。
「俺はてっきりお前があの子を助け、教育したのだと思っていた。だが違った。お前はあの子供で遊んだんだ!」
「──そうだな。でもどうだ?体を傷つけなくても力の恩恵を受けられるあいつは!ジズの精鋭部隊──偵察クラスの長であり! あのマダー・ステダリーの側近であるドドを瞬殺したろ? アースも飴も使っていない普通の状態でだぞ!」
「だが、あの子は永遠に幻獣となり人間に戻れなくなる! お前はそれでも良いのか!」
「幻獣になろうが化け物になろうが、そんなこたとは知らねえよ!」
コペルトは背を向けながらそう言い捨てて、再び黒い翼で空を飛ぶ。
その去り方は教師に叱られて授業中に帰る生徒のようだった。
「どこへ行く。お前はまだ私を倒していないぞ」
「あんたを倒す気はない。ジシスの掃除が終わるまで、足止めをさせることが俺の予定だからな」
「待て! もう行くな! また俺から離れるのか!」
バモンは物理的に届くわけない手を彼の背中に伸ばした。
コペルトは忘れ物をしたように立ち止まり後ろを振り返る。
「どうした。追いかけてこいよ」
彼は手で煽った。
けれどバモンは追いかけようとはしない。
コペルトも追いかけてこないのを知っていた。
バモンは目を閉じたままのドドをこの場で1人にはできない。
そのドドを背負いながらの追跡もできない。
また万が一、最前線にいるウインとアマウがやられた場合、自分が攻めてくる敵を止めなけばいけないからである。
それらを知った上で挑発をしたコペルトは暫くバモンを見つめた後、口に出したのか分からないほどの声で「じゃあな」と呟いた。
彼は黒い翼を大きく羽ばたかせてジズの方へ飛んでいく。
バモンは追いかけそうになった足を両手で押さえていた。