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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第2章 VSライコス編
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スラフ・ジシス③

スラフ・ジシス③



 「ふぅ。これで動けないでしょ」


 水を操る二アースは満足気に次の弾を用意していた。


 洞窟の入り口に立つ彼女をカインとエイドが守るように囲む。


 それは万が一の場合である。

 けれどジシスもさすがに動けなかった。


 彼はその場にうつ伏せで倒れ、手足をもがれた虫のように胴体で前に進もうとした。


 「いたい。いたい。いたいよう。コペルトさん。いたいよう」


 「あいつ立とうとしてるぞ!」


 「30発もの弾丸を手足に受けてるのよ! なんなのよあの子!」


 2人が驚く中ジシスは血を流しながら立ち上がる。


 そんな子供を見て武器を構えたのはエイドだけだった。


 「やっぱり、斬りますか?」


 刀を握り続ける少年の言葉に2人は言葉を探した。


 エイドの言う通りかもしれない。

 けれど相手の見た目は子供。


 手足を蜂の巣にすることでさえ自分たちには抵抗があったのだ。


 そしてエイド1人に自らの罪悪感を押し付けていいものかと考えた。


 「お前か! お前が僕を撃ったのか!」


 ジジスは血だらけだった。

 自分の血なのか人の血なのか分からない。


 美しい金色の髪も白い肌も赤で汚れていた。


 「下がれニアース!」


 「逃げても無駄ですよ。どうせ、僕が全部を片付けるんだから」


 「待って!」


 こちらへ突っ込んでくるジシスをエイドが声だけで止めた。


 ジシスもなんで自分が止まったのか分からなかった。


 反射的に止まってしまった。


 「君はまだ子供だよね? どうしてこんなことをするのさ!」


 僕は、あの子と話をしてみたかった。

 だって僕の名前を聞いてくれたから。


 だからってわけではないけどきっと話せば彼は止まると思うんだ。


 せめて戦う理由だけでも、斬る前に知りたい。


 「はい、子供です。どうして?どうしては、コペルトさんに言われたからです」


 「そのコペルトって人に言われたから、君は人を殺すの!? 言われたから人を殺すなんておかしいよ!」


 「なんなんですか君は。そんなこと言っても、そこの君の仲間は僕のことを撃ったじゃないか!」


 「それは君を動けなくさせるため。君とこうやって話をするためなんだ!」


 「どうして話すんですか。僕は今から君たちを殺すんですよ?」


 まただ。また、「殺す」って言った。


 どうしてこんな子がその言葉を簡単に使えるんだろう。

 

 しかもこの子の場合本気なんだ。

 本当に殺すつもりなんだ。


 「だから、なんで君みたいな子供が人を殺すの? 僕から見ても君はまだ子供なんだよ!」


 「子供だから人を殺しちゃいけない? じゃあ大人なら人を殺しても良いんですか?」


 「違うよ! 誰だって人を殺してはいけない!」


 「でもどうして殺しちゃいけないんですか? 僕は今までそんなことは言われませんでしたよ?」


 なんの嫌味もない屁理屈でもない子供の純粋な顔。


 エイドはこの子が「人を殺してはいけない」ということを知らないんだと思った。


 (──確かにどうしてだろう。

 どうして人を殺してはいけないんだろう。

 

 僕も知らなかった。

 なんとなくダメだと思っているだけで、どうしてダメなのかを答えることはできない。


 ダメなのは分かってる。

 けれど、子供(この子)が納得してくれるような説明はできない)


 「答えられないんですね。別に良いですよ。じゃあせっかくなので僕も君たちとお話ししますね」


 「君が? 僕たちと?」


 「僕が初めてコペルトさんから教わった言葉。何だと思いますか?」


 クイズ!?

 「人を殺せ」と言われた人から初めて教わった言葉か。


 なんだろう。

 やっぱり「殺せ」になるのかな。


 「親の名前よ!」


 「自分の名前だ!」


 ニアースさんがそう答えるとカインさんもその答えに反応したように続いた。


 「ぶっぶー。どちらも違います。君は答えないんですか?」


 親の名前でも自分の名前でもないなら僕はこれだと思う。


 「武器の名前?」


 「そうです!」


 待っていたその言葉が出てくると飛び跳ねて洞窟から出た。


 地に足をつけたジシスは満足したのかとても落ち着いている。


 胸を触り呼吸を整えると彼は3人を見た。


 「僕がコペルトさんから初めて教わった言葉は、イーサン・コペルトでもスラフ・ジジスでもない。僕がコペルトさんから初めて教わった言葉それは──」


 話していた彼の顔がいつの間にか僕の目の前にあった。


 もう今更逃げれない。

 僕は(ツバキ)をとっさに構える。


 けれどやっぱり、今のうちに逃げておくべきだったかもしれない。


 「──アースオブ! ライコス!」


 その子は僕の翼を握って、初めて教わった言葉を僕の耳にぶつけた。

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