恥ずかしがりの幽霊王女の冥界再生
うー。暑い。いや、これはどっちかというと…熱い?そんなことはどうでもいい。熱い!寝れるか!私の安眠を邪魔するな!
布団を押しのけ…あれ、布団の感触がない。それどころか布団がない。というか、ここ何処?見覚えが一切ない。あたり一面燃えてる。…そりゃ熱いね。
目を動かしてあちこち見てみても、目に入るのは炎だけ。私が寝てる間に核戦争があって滅びたって言われても信用できる。…マジで何があったのさ。
うーん、困った。下の炎は収まる気配もないし…。ん?下?
私は重力で下に落ちる。落下先は燃えてる。そして高度もある。つまりもう少ししたら私は死ぬと。
えぇぇぇ!?嘘!?まだ私死にたくないよ!?まだ積みゲーがあるのに!あ、でもそれが許されないならせめてパソコンのHDを粉みじんに粉砕して、PC本体を塵にして、机の天板外して作った収納のUSBメモリの存在を抹消させて!
ん?いつの間にか私の手が誰かに掴まれてる。思考が止まって固まってしまう。
その隙を突かれたのかグイっと引っぱられて、一瞬だけ視界が暗転。夜の森。中天に輝く満月からの月光が美しい。今日の月齢は新月のはずだけど!お月見まで10何日とかネトゲのイベで言ってたし…。訳が分かんない。
あ。そうか。これは夢だ。夢なんだ。さっきの地獄みたいなとこにいた時、熱かった気がするけど、気のせい。よし、ほっぺ引っ張ってみよう。
…あれ?私の手って、ここまで白かったっけ?引きこもっていたから色白ではあったけどここまで白かった?…しかも胸が大きいような。
ま、引っ張ってみよう。
頬をつまむ。
痛い。
上下左右にぐいぐい引っ張る。
痛い。
まーるくぐいぐい引っ張って勢いよく離す。
ものすごく痛い。
なるほど。明晰夢か。自分の胸はペタンコだったし、ネトゲで分身つくるときも顔は弄っても胸弄らないぐらいには胸に興味ないと思ってたけど…、深層心理ではおっきくなってて欲しかったのか。私。足元見えないけど。
「いい加減現実見てください。女王陛下。」
軽く頭をはたかれた。そんなに痛くないけど、誰!?
「先ほど夜の森とかおっしゃっていらした際に視界の端に収めてられていたわたしです。」
「貴方誰!?」
私ですって言われても、名前すら知らないよ!?面を合わせたオレオレ詐欺!?
「違います。確かにおっしゃる通り名乗ってませんけど。」
「何で心読めるの!?」
キモイ!?
「キモイって…、せめて「気持ち悪い」にいたしましょう?あと、心を読んでいるのではありません。先ほどから全て口に出ています。」
「ふぁっ!?」
嘘!?
「本当です。ところで…、何故見ず知らずのわたしの後ろに隠れるのです?」
「え?だって、恥ずかしいから。」
人とまともに顔を合わせて会話するなんて久しぶり過ぎる。ネットだと顔が見えないから、最低限の良識を押さえておけばいいから話しやすい。だけど、現実だと無理。相手の反応が声色、表情、態度に即反映される。変な事を言っちゃえば「変な子」って思われてしまいそうで恥ずかしい。
「それでも、わたしの後ろに隠れる理由には…。」
「黙れ。イケメン。」
口調失敗したぁ。この人、話しかけるのに躊躇してしまうぐらいイケメンだ。肌の色は私みたいに色白。目はルビーみたいな綺麗な赤で、髪は黒曜石のように黒くて艶がある。爽やかなオーラを全身から放っていて、誰が見てもこの人を放っておかない。そのレベル。
ちょっと、鋭い牙が2本ぐらい生えていて、足がなくて代わりによくイメージする幽霊のようなぐにょぐにょしたものになってるけど。そんなことは些事として切り捨てられる。
だから、手で目を覆っても顔を直視したらダメな気がした。だから後ろ。ここなら見えない。
「そうですか?」
ぎゃっ!後ろ向かないで!…あ。一応手で隠してもこの人の威光は遮れる。
「そりゃそうでしょう。わたしがかなり整った容姿をしていますが…。」
イケメンを肯定しやがった。
「謙遜も過ぎると嫌味になりますので。」
確かに。貴方なら不要だろうね。
「そうおっしゃっている貴方も同様にお美しいですよ?」
ガッチリ私の腕を掴んで彼はくるりと回転、私の後ろに回る。
え。ちょっと。何を…。
「「何を。」とおっしゃる割にはこちらを向かれないのですね…。」
普通無理でも顔を見ようとするって?決まってる。顔見たら恥ずかしくて話せる気がしないから!
「前だけ見ててください。」
は?
ゴソゴソと彼がちょっと動くと、私の前に鏡が現れた。
「どうです?」
どうって…、綺麗。でも、それより。
「足は!?」
私の足はどこにいったの!?何で幽霊みたいにニョロニョロしたやつになってるの!?
「あ。説明忘れてました。」
「教えろ!」
テヘペロ。みたいに舌出さなくていいから!妙に絵になってる!
「説明しますから揺すらないで。」
「うるさい!キビキビ吐いて!」
「何で、照れっ、ないん。ですっかぁ!?」
足がないのに恥ずかしがってる暇なんてない!…嘘です。顔見ずに揺すってます。
「鏡を、みてっ、下さい。」
「それでわかるの!?」
「説明っ、しやすくなりますっ!」
ならよし。改めて見よう。
…私の前に目を見開くほどの美人さんがいる。
「あの、何で顔背けるんです?」
「だって、目の前に美人さんが…。」
目を合わせたら失礼だよ。こんなの。それに恥ずかしい…。
「それ、貴方です。」
嘘だぁ。
「とりあえず、もう一度見てください。」
あい。…ああ、ため息が出るほどに綺麗だ。
「だから目を逸らしちゃダメです。」
「出会った瞬間「生きててごめんなさい」って謝るレベルの人なんですけど!?」
「自己評価終わってますね!?鏡の姿が今の貴方だって言ってるでしょうが!」
やめて!顔を固定しないで。くっ。でも、目を閉じてれば…!
「目ぇ、開けて!」
見たら死にたくなるっ、ギャー!無理やりダメ!無理やりは!目に指が直撃する!?痛いってレベルじゃないよ!?
「今の貴方なら問題ないので!」
「ちょっ!?」
顔を固定されて、無理やり指で目を開けさせられた。うぅ…。
「紫系統の色の強いノーブルオパールをはめ込んだような目。」
誉め言葉並べないで!?
「ピュアダイヤモンドのように透明でキラキラ輝く腰まで届く長くたおやかな髪。」
聞いてよ!?
「そして、雪の雫のように白い肌。」
ん?白?
「私の肌って、ちょっと朱に色づいてるけど…?」
「ああ。それは貴方が恥ずかしがっているからですね。」
なるほど。じゃあ、離して。
「逃げますよね?」
我儘な子供に言い聞かせるように言う彼。よくわかってるね!
「そして極めつけに、」
まだ続けるんだ。
「冥界の花を中央に据えた輝くばかりのティアラ。」
ん?
「冥界の花?ティアラ?」
「はい。」
うわ。頭の上に何か高そうな飾りが…。これがティアラかな。
「となると、これについてる大きい宝石が冥界の花?」
「はい。」
初めて見る宝石だ…。一時期、宝石やそれにまつわる逸話を見るのが好きで色んなサイトを何カ月もサーフィンしたこともあるのに。
こんな、落ち着いた紫の海に全てを優しく包み込む闇を混ぜ、ラピスラズリを散らしたような…、こんな宝石は知らない。
「そりゃそうです。ここは女王陛下。貴方のいた世界ではないのですから。」
得意げに言う彼の言葉がはっきり私の耳に残った。
「せ つ め い。してくれる?」
「言葉だけ迫力ありますけど…、顔見ないと効果薄いですよ?」
うるさい。直視できてないのは分かってるから!
「ざっくり説明しますよ。ここは貴方のいた世界とは違います。」
「違うの?言葉通じるのに?」
「ええ。思いっきり日本語で通じますが違います。」
「そうなの?」
「ええ。」
でも、私、冥界の花とか知らないよ?
「まぁ、それは固有名詞ですから。同じように『日本』とか『ユーラシア』とかはこちらでは通じないでしょうね。」
「じゃあ、固有名詞以外は通じると思っていいの?」
「はい。」
「何で通じるの?」
「気にしたら負けです。」
やめて。顔を近づけて来ないで。わかったから。顔逸らせないし、隠せなくなるから!やめてくれた。
「今更ですが名乗りましょう。わたしは『ラインハルト』と申します。」
ハイドr…、
「ヤバい人じゃないですかー。」
「固有名詞だよ?何で通じるの?」
「その説明するって言ってんでしょうが!」
ごめんなさい。
「わたしはここでひたすら女王陛下が産まれるのを待っていました。女王陛下はこの世界の人かもしれないし、別世界から来るかもしれない。この世界ならいいけど、別世界だと誰もネタを理解してくれなくて可愛そう。だから理解できる人を作っとこう。そんなわけでわたしは陛下の世界の知識があります。」
「ご都合主義。」
「都合がいいほうがあなたにとっていいじゃないですか。」
ド正論。
「で、女王陛下って?」
「冥界の女王陛下ということです。貴方は冥界の女王。そのティアラが証明です。」
「じゃ、こんなの要らない。」
女王なんて出来ないよ!バーカ!取ってやれ!…あれ、取れない。何故。力が足りないんだ。よし、思いっきり…痛い!痛い!
「取れない。」
「そりゃそうです。正真正銘、陛下。貴方の体の一部なのですから。」
「何で!?」
「王族ですからね。」
わけわかんない!
「そうですか?貴方の世界も王はいるでしょう。それを想起していただきたい。政治が王族独裁であれば勿論のこと、民主主義であれ、一党独裁であれ何であれ、一度その王朝が成立した後は、王の直系の子供は産まれた瞬間から、王族の血統から逃れられませんよね?」
うん。確かにそうだね。つまりこのティアラはその王族の血統を目に見える形で示していると!?
「ええ。」
「私は王じゃない!」
「そうですね。女王です。女王陛下。」
「性別の問題じゃないよ!?」
勝手に納得しないで!
「顔見てないのによくわかりますね。」
「声の調子と内容からだいたい何考えてるかは判断できるよ!」
恥ずかしくて顔を見れなくても、これでほぼ大丈夫!生かす気かいなんてなかったけど。
「王の…、王族の宿命ですね。諦めてください。」
「嫌だ。逃げる。」
「構いません…とは言えませんが。ご自由に。わたしに強制する資格はないので…。」
よし!じゃあ、逃げよう。
「ですが死にますよ?」
は?
「Why ?」
「何でって…。」
何故か英語でしゃべっちゃったけど、通じるのね…。
「責務を果たさぬ王は、冥界に不要。こういう事らしいです。冥界の王は争いを産まないため一人しかいないそうです。」
争いを産まないように王は一人。だから何もしない王は要らない。…なるほど。事実上の脅しじゃない!
「そうなりますね。ごめんなさい。どうしようもないです。」
ラインハルトもどうにもできないのね…。
「すみません。わたしも貴方のサポート役として作られたようなものなので…。」
ああ。待ってたって言ってたね…。それに、死ぬって言われても仮に逃げれても生きて蹴るかわかんないし…。
「仕方ない。死にたくないし。頑張るよ。」
何をするかもわかんないけど。
「なら、最初のお仕事です。貴方の名前を決めてください。」
「名前?前の使っちゃダメなの?」
「構いませんが…、覚えてます?」
「そりゃ、当然…、」
あれ?出てこない?何で?私の名前だよ?訳が分からない。どうして!?
「覚えていないのは「心機一転頑張れ」ということらしいです。」
「え!?自分の名前だけ思い出せないとか恐怖しかないんだけど!?」
「たぶん陛下の周辺の人間関係もダメです。例えば家族はどうですか?」
嘘でしょ!?家族…、あ。ちょっとしか漁ってないけど感覚でわかる。絶対出ない。何でHDの内容とか覚えてるのに、お父さん、お母さんっていう名詞は覚えてるのに、名前も、顔も出てこないの!?
ここに来る前のことは一切覚えてないけど、戻れないって事実だけは明確に突きつけられてる。心機一転とか言うなら、このあたりも完全に消しといてくれればよかったのに。
途轍もなく胸が痛む。ごめんなさい。顔も思い出せないお父さん。お母さん。どう考えても私は親不孝者でした。どうか私のことは忘れて元気に楽しく生きて欲しい…って、無理だよね。
引きこもりだったのに、一軒家の二階の個室で過ごせていて、ご飯も部屋で食べてた。少なくとも誰かが私の世話をしてくれてたってことだから。
…なのに私は、私は…、そんな人たちに「迷惑だけかけて何も言わずにこっちに来た」と。来てしまったと…。何をやってるんだろう、私は。一体私はどうしたかったんだろう。何をするべきだったんだろう?
「私は何で生きてるんだろ?」
「泣きながら突然哲学らないでください。心臓に響きます。ありませんけど」
気を逸らそうとしてくれてるラインハルトのジョークが腹立たしい。
「あの、こんなこと言っちゃあ何ですけど、生きている全員が、生きる意味を持っているわけではないですからね?それに、生きる意味を持っている人のソレは大抵、他人に寄りかかったモノ。悪いとは言いませんが…、その相手を失った場合、今の貴方と同じ、悩みを持つことになりますよ?」
私に配慮しているのか、恥ずかしいからかこちらを見ずに言葉を探すようにしながら言うラインハルト。一体彼は何が言いたいのだろう?
「生きる意味を探さずに生きろ、そういうのはどうで…、無理ですね。」
よくわかってるね。うん。もはやその問いでは立ち直れない。私はそれを心から求めてしまった。遅いけど、それなくしては進めない。そのくせして生きていたい。…笑っちゃうね。
「なら、わたしと同じ意味はどうです?」
「同じ?」
「ええ。『冥界再生』って言うんですけどね。こちらも達成されるとなくなってしまいますが。文字通り私の生きる意味で存在理由でもあります。」
『冥界再生』ね…。さっきからちょくちょく出て来てる冥界って言葉が入ってる。
「私は女王なんだったっけ?」
「ええ。冥界の女王です。」
そっか。なら私は幸せだ。強制的に一歩踏み出さされたけど変われる。
さっきの話から、冥界の王は一人だけで、私が死んだら次が出るまで時間がかかる。なら、これを私の生きる意味にしてもいいはず。だって、今、私にしかできないんだから。
それに、冥界の女王なら…、私の思い出せない大切な人達が来た時に過ごしやすい環境を作れるかもしれない。
「うん。やるよ。自信はないけど。やる。」
「そうですか。お気づきでしょうがわたしの使命にこの役目に頑張って引きずり込むことも入っているのですが…。勝手に入ってくださいましたね。」
記憶がないことからずるずる深みに入っていったね。勝手に。
「ぶっちゃけ、罪悪感がすさまじいです。」
「気にしないで。名前、決めればいいんだよね?」
「ええ。」
名前…。私にネーミングセンスなんてない。そしてこれからずっと使うもの。なら、偉人からパクらせてもらおう。
「貴方はラインハルトだったよね?」
「はい。」
ラインハルトはドイツ系の名前。ならドイツの偉人で女性を…、女性を…、あ。駄目だ。ドイツ人で一人も知らないわ。なら、オーストリアで。ここもドイツ語圏だし。いいよね。
…オーストリアにしてもここ産まれの有名女性『マリア・テレジア』さんか、『マリー・アントワネット』さんしか知らない。多くても困るからいいか。
マリーさんは処刑されちゃったし…、マリアさんを使わせてもらおう。
「マリアにするよ。」
「独り言が多かったですね…。」
うるさいよ。
「悩んでおられましたが、そのとり方ですと、先にあげられたお二方どちらから名前をいただいても実は同じですが、気づいておられましたか?」
え?
「気づいておられませんでしたね…。『マリー・アントワネット』はフランス語読みです。これはドイツ語で『マリア・アント―ニア』。つまり、その位置から取る以上『マリア』になります。」
わぁ。恥ずかしい。
「ですが『マリア・テレジア』から取られるとは…、彼女はやり手の女帝として有名ですから、それにあやかるおつもりですね!もう御一方もフランス皇后として有名ですし!」
そんなつもりはさらさらないんだけど。というか、独り言聞いてたよね!?
顔寄せて来ないで。恥ずかしいから。うわ、目がキラキラしてる。もしかして、私の「恥ずかしがりでろくに目も合わせられない」ってのが、マイナスに働いてない?
普通「目を合わせない=嘘ついてる、やましいことがある」だけど、私の場合、目を合わせないのがデフォで、合わせると恥ずかしくて赤面しちゃう。だから目を合わせようとしないって解釈されちゃう。
…頑張って様子を見てみよう。チラッ。
そうっぽい。一連の心の声は漏れてるはずなのにな。何でその目をやめないのかな。意図的に無視してるのかな。天然かな?
「お仕事説明しますね!」
微妙だぁ!でも、天然より!
ラインハルトはてくてく近くの岩山へ歩いて行く。ついていけばいいのかな?って、消えた!?岩山にめり込んでいったぞ?どうしたらいいの?
「早く来てください。」
「え。ちょっ。」
引っ張らないで!岩が!あ。すり抜けた。岩山の中は空洞で、私の目の前に穴が開いている。
「この穴が冥界に繋がってます。」
なるほど。
「じゃあ、あの岩山はこれを隠すための幻?」
「いえ?実体ありますよ。そこらの岩より硬いです。」
何で貫通した?
「我々ですから。実体あるモノの干渉は受けませんよ。穴が隠されているのは冥界が先も見たような状態ですので…。」
誰か入ると困ると。…私思いっきりぶち込まれたけど?
「女王陛下にさっさと状況理解してもらおうって魂胆でしょうね。」
なるほど。
「ん?ということは冥界燃えてるの?」
「ええ。燃えてますよ。もう一回見に行きましょう。」
穴を通り抜けて冥界へ。さっきと変わらずメラメラ燃えてる。うん。熱い。って、落ちるって!
「落ちませんよ。我々に重力は仕事しません。魔法とかであれば別ですが。」
なら、さっきは心配する必要のない心配してたのね。
「ま、この火だと我々も多少燃えますけどね?」
え゛。知らずに突撃してたら危なかった?
「燃えましたね。普通の火ではないので。ここは真っ当に生を送った人々の安寧の地『ヴァルヘデン』だったのですがね…。」
見る影もない。あたり一面ファイヤー!頑張ったら発電できそう。
「無理ですね。冥界では魂以外存在できませんから。」
わぁひどい。じゃあ、何で燃えてるのさ。
「理由は簡単です。真っ当な魂はここ『ヴァルエデン』に、真っ当じゃない魂はもう一つ下の『ヘルニプム』に落ちます。『ヘルニプム』は陛下のイメージする地獄に近いかと。」
ということは『ヴァルエデン』は天国?
「そうなります。『ヘルニプム』は焼くだけですけど。針山とか舌抜くとかないです。」
ふむ。じゃあ、ここは実は『ヘルニプム』?
「違います。『ヴァルエデン』です。少し黙っててください。」
ごめんなさい。
「『ヘルニプム』誕生からずっと悪い魂を焼いて反省させていましたが…「反省しない奴らが多すぎる。『ヘルニプム』がどんどん狭くなってる!」そう冥界の女神は思いました。」
女神様いたんだ。
「思ってしまった女神さまは短絡的にエイッと思いっきり火力上げてしまいました。」
あっ。
「魂は悔い改めるどころか燃え尽き、女神さまもその炎を管理しきれずに消えました。」
何やってんの!?
「簡潔に説明すると、改心遅すぎるからちょっときつくしよう。あ゛っ。失敗した!ですね。」
何でまとめたの。
「燃えたのは『ヴァルエデン』と『ヘルニプム』だけでまだよかったね。」
「陛下の管理区域である冥界はこの二つですけどね。」
!?
「何時から管理世界が一つだと思っていました?」
不敵に笑うラインハルト。こっち見ないで。恥ずかしいから。
それにしても…、何か思ってたのと違う。なんか管理世界二つもあるし!てか、管理ってなに!?やるって決めちゃったからやるけど…。
ええと、情報から推測すると…、
「つまり、私は『ヴァルヘデン』の火災を止めて、もとの天国かそれ以上にする。それと同時に『ヘルニプム』もうまく回るようにすればいいの?」
「exactly!」
まさかの英語。無駄に発音が綺麗で腹が立つ。
「どうやって再生するの?」
「お化けポイントを使います。」
はぁ?この人、……ラインハルト、人かどうか怪しいな。私も怪しいけど。コレ一体何言ってるんだ?
「確かに人ではないですね…。『ヴァルエル』という種族ですし。」
やっぱり人じゃなかった。
「今、それはいいです。ふざけてるようですが真面目なんですよ!?」
顔近い。近い!恥ずかしいとか関係なしにやめて!
「失礼しました。ですが、ほら、わたしの目を見て!こんなに信用できる目をしてるでしょう!?」
目ね、目…。チラッ。
…ダメだ。恥ずかしい。
「一瞬でわかりますか!?」
「わからないよ!」
わかるわけないよ!恥ずかしいのに!
「茶々を入れたのは謝る!進めて!お化けポイントが何!?」
直視されたら私が蒸発しちゃう!
「わかりました。冥界を再生するには、お化けポイント通称OPを一定量回収して、それを使えばいいです。」
「私に特別な力があってそれで何かするわけではなく?」
「ええ。OP集めると何とかなります。というか冥界の整備は全部これでやります。」
OPがお金と考えると、ゲームのハウジングシステムか何かとしか思えないんだけど。
「概ねそれで合っているかと。冥界に自力で干渉するのはちょっときついです。」
「何でOPなら何とかなるの?」
「もっと上の人が何とかしてくれます。」
もっと上…。神様?
「そうです。」
「何で冥界燃えてるのに放置してるの?」
仲間の冥界の女神様も燃えてるのに。
「はは。あの騒動で無事なのは地上だけなんですよね。」
溜息を吐きながら言った。…もしかして神界も燃えた?
「ええ。そうです。」
うわぁ。
「神界は『ヴァルエデン』と『ヘルニプム』、それと地上。この三層と重なり合う次元の高次元側にあるのですが…、『ヘルニプム』から火がドバっとそちらへ流れてファイヤーしたそうです。神界は燃え、神様全員大やけど。今だに再生途中。」
うわぁ。
「さらに悪いことに、冥界の女神がやらかしたように、神様だけの力でやるとやり過ぎるので…、火を消そうとすると煉獄が極寒になりますね。さらに、火傷中なので精度がガバガバで、冥界全部粉砕するかもしれません。」
うわぁ。
「さっきから同じことしか言ってませんね。」
うわぁ。以外に言う事なんてないしね…。
「神様だとやりすぎるってことは…、もしかして、OPは神様以外の関与があることを明確にすることで、神様だけでやってるんじゃないよー。っていうアリバイ作り?」
「その側面もあります。恥ずかしがり屋なのによくわかりましたね。」
言外に「コミュ障」って言ってるよねこの人。…面をあわせると駄目だけど、ネットなら出来るもん。ついでに謎解きゲームは良くしてたし…。
「というか不敬なのでは?」
「冥界のお仕事をしてから言いましょう?」
名前は付けたよ!
「言ってて虚しくなりません?」
「なる。」
「ゲームで言えば下手したらオープニングすら始まってませんよ?」
…かもしれない。仕事したなんて言えないね。
「一応、OPの補足をすると、OPは神様の傷を癒します、その癒した対価が冥界整備って感じです。」
OPとかいうふざけた名前のくせに神様を癒せるのね。
「で、そんなOPはどうやって貯めるの?」
「生物に我々の存在を示せばいいです。生物は知的であればあるほどいいです。」
知的である方が良い…。ってことは、
「人間はいいカモ?」
「ええ。龍もいますが…、アレに存在示すのは無理です。」
龍相手は嫌だなー。というか人相手にするの?
「今更だけどさ、私。死者が生者の領域に介入しちゃダメだと思うの。」
「我々『ヴァルエル』は死んでないので大丈夫です。冥界再生の使命を持つ生者です!」
言葉の必死さが胡散臭い。
「本当です。(事実そういう設定で作られてるんだけど、こんなこと陛下には言えない。)」
副音声入った気がする…。
「ええと、ほら、死者に関する儀式は基本生者のためだったりしますし大丈夫です。」
無理やり納得させようというオーラが…。
「例えば「お葬式」は生者が心の折り合いをつけるためにやってる面ありますよね?それに火葬や土葬に代表される「埋葬」も「死んだ」という確たる証拠を作ることで「対象の死」を受け入れやすくするという面もあると思うんですよ。」
確かに。そうなると、冥界再生&整備も生者である私達から死者への贈り物…?
「こじつけすごくない?」
目を逸らした!?こっち見てよ。直視されると恥ずかしいから目を逸らすけどね。
「別世界ですし。いいでしょう。それより、早速OP稼ぎに行きましょう!」
あ。逃げた。って、え。待って。何でティアラ掴むの!?
「痛い!痛いよ!王に対する扱いじゃないでしょ!?」
「確かに。すみません。不敬でした。ですがあそこを見てください。」
…ん?ちっちゃい女の子がいるね。
「都合のいいことに幼女ですよ!」
おまわr
「ちょおおお!?」
「ゆれっ、る!」
酔う!酔うから!揺すらないで。待って、私悪くない。幼女に手を出す=犯罪。だから警察呼ぶのは普通でしょ!?
てか、言い方的に悪いことする気でしょ!?その場合、性別年齢関係ないよ!?
「ちょうどいいカモじゃないですか!?」
ちっちゃい子をカモ扱いしてる時点で…。好感度急降下だよ!?いや、でも違うかもしれない。一応聞こう。
「あの子助けるの?」
「いえ。脅かします。」
キリッ、そんな声で断言しやがった。…やっぱり警察呼ぼ?
「やめてください。お願いします。こうしないと稼げないんです。」
えー。
「あの子脅かしてどれだけOP入るの?」
物凄く入るなら心を鬼にするけど。…根本的に間違ってる気がしないでもないけどさ。
「1です。」
「多いの?」
「少ないです。例えば『ヴァルエデン』の火を全部消すのに、昨日確認したら1億いるみたいですし。」
馬鹿なの?
「わたしもそう思います。ええと…、今の相場だと1万8千ですね。」
相場…、株式か何かかな?というか一気に値下がりしたね。
「冥界女王が誕生したのでOPが安定しそうという事でOP人気が高まったようですね。」
やっぱ、株じゃん。ツッコミどころしかないけど…、ほっとこう。
「ところで、あの子脅かして1なら1万8千回あの子脅かせばいいわけだけど、他の人脅したらもっと多かったりする?」
「いえ?1ですよ。」
もうあの子脅かす意味ないじゃん。せめて大人にしよう?
「一人しかいないカモを逃すのですか!?」
評価急降下だよ!?一人しかいないなら余計ダメでしょ!?
「てか、騒ぎまくったのに気づいてないし、」
「あ。それは伝えようとして話さない限り同業以外に伝わらないという特性のおかげですね。」
幽霊?やっぱり死んでない?
「死んでないです。」
そっか。
「ちなみに、わたしが警察呼ぼうとする陛下を静止したのは、誰かに聞かせようとして陛下が言葉を発していたからです。」
なるほど。あれだったら条件満たしちゃってたからあの子に聞こえる可能性があったのね。
「…ねぇ、遮られたから言うけどさ。あの子本当に幼女?こんな時間に外うろついてるってヤバくない?」
「現時刻は深夜2時。我々の時間ですからね…。」
草木も眠る丑三つ時が私達の時間。…やっぱり私死んでない?
「つべこべ言わずに、脅かしてきてください。」
「えっ!?」
ドンって背中押された!?しかもラインハルト消えた!やるしかなさそう。…冥界女王の初仕事 (自分の名前決定除く)が幼女に対するドッキリって…。
はぁ。とりあえず、後ろについておこう。運よく振り向いたときに驚かそう。顔は…、どうしよう。怖い顔なんて知らない!?
牙を目立たせて、舌を出して食べちゃうぞ!みたいな感じかでいいかな?よし、待機。
………………全然こっち見ない。超暇。
「陛下!後ろから声かければいいじゃないですか!それじゃただの変な人です!」
その手があったか。…忘れてた。よし、気合を入れよう。声をかけられるのはともかく、声かをけるなんて久しぶりだからね。
顔を元に戻して、掌でパンパンと叩いて、よし。
「誰?」
あ。くるっと女の子が振り向いて目が合った。私、今普通の顔。
「きゃあ!?」
「?」
顔を伏せてしまった。うぅ。脅かそうとしたのに…。「「きゃあ!?」じゃないでしょう…。」
ってラインハルトに呆れられてるし…。
「大丈夫?お姫様?」
思ったより大人びてる。…そんなこと考えてる場合じゃないね。幼女に心配される大人の図爆誕!しちゃってるし。
あ。やめて。顔を見ようとしないで。今必死に隠してるから。哀れな私の顔を見ようとしないで。顔真っ赤だから。
「痛いの?」
うん。心が痛い。
「痛いの痛いの飛んでけー!近くの悪い人に飛んでけー!」
遠くじゃないのね。
「くっ…!心が痛い!?」
何故かラインハルトが痛がってる。貴方悪い人だったのね…。
「違いますよ!?確かに幼女脅かそうとしてるのでアレですけど!」
弁解の余地なし。
「そんなことよりOP増えてませんよ!何やってんの!」
「そんなこと」ではないと思うけど…、OPが増えてない?だろうね!
このザマからわかってたさ!ああもう、消えたい。ラインハルトが消えたから私もお化けみたいに消えれるんだろうけど…、今消えちゃうと罪悪感が半端じゃない。
「まだ、痛い?」
「え、ううん。大丈夫。ありがとう。」
「お礼は顔見て言うの。」
親御さんの教育行き届いてますね!私はそんな親の優しさ全無視したけど!
こんなちっちゃい子に言い負かされるなんて…、ますます恥ずい。消えたい。…でも、言わないで消えるともっと恥ずかしい。
「ありがとう。お嬢ちゃん。」
「どーいたしまして!」
満面の笑み。私には眩しすぎる。
「顔真っ赤。熱あるの?」
「え。ちょっ…。」
たぶん私には触れない…!あれ?触れるのね。
「熱ないね!」
「恥ずかしいだけだから。」
「どーして?」
「顔を合わせるのがちょっとね。」
「どーして?」
グイグイ覗き込んでくるね…。この遠慮のなさが、子供らしい。
指の隙間から見る限り、この子もいい顔してる。イエロートパーズをはめ込んだような黄色の目、ペリドットのような緑色の髪に、赤サンゴのような優しい色をした柔らかそうな唇。
将来絶対美人になる要素がギュッと詰まってる。
話を逸らそう。
「お嬢ちゃん。どうしてこんなところに?」
「嬢ちゃんじゃなくて、『ヘル』って呼んで!」
北欧神話の冥界神の名前。偶然なんだろうけどさ。
「姫様は?ヘルも教えたから教えて欲しいな!」
「私?私はマリアだよ。」
「姫様は何処の御姫様なの?」
「絶賛炎上中の冥界だよ?」
「へぇー。」
あ。わかってないな。
…今更だけどこの子、私に足がないこと気にしてないね。鈍いのか、私を心配しすぎてて眼中に入ってないのか、それとも私を信用してくれてるのか、どーれだ。
「あ。そうだ。お姫様。お母さん知らない?何かわかんないけどお母さんとはぐれちゃったの!」
!?
「もうちょっと具体的に。」
「えっとねー、馬車でお父さんの街に行っててー、川沿いでお泊りしてー、目が覚めたから水を飲みに行ってたら皆いなくなってたの!」
ちっちゃいからその重大さに気づいてないみたいだけど…、これ、ひょっとしたら最悪もありうる。
「ヘル。泊まってたとこ連れてって。」
「いーよ!」
ぐいぐい私の手を引っ張ってヘルは迷わず進んでいく。解せぬ。こんな子のどこに力が…、あぁ。たぶん私に重さがないんだ。やった!もう体重気にしなくていい!
「冥界女王が弛んでるのはどうかと思いますけどね。」
やっぱりだめだよね。
「今、体重気にします?」
「女性だから…。は言い訳にしかならないね。」
「ついたー!」
近いね!
どう見ても荒らされた痕跡がある。幸いなことに血は飛び散ってないけど…、この食べ物が散乱してるのに物だけが忽然となくなってる感じ…、たぶん人間の仕業。餌目当てなら食事が無くなってないとおかしいから。
「ラインハルト、こいつらの場所分かる?」
「ええ。人の場所なら魔法でわかりますよ。この辺人も少ないですしすぐわかります。そーれ。」
掛け声が雑。
「あぁ。人の集団が一つだけ近くにありますね。たぶんこれですね。」
「様子を見に行こう。この子の母さんは女性だから生きてる可能性がある。」
フィクションであれ、ノンフィクであれ、賊は女性は大抵生け捕りにする。ヘルは可愛いから、母も美人。なら、そんなとき賊をやるようなやつらがやることは決まってる。血もなかったし。…もはや手遅れかもしれないけど急ごう。
「ヘル。行くよ!」
「うん!」
何で私の頭の上に乗るかな?別にいいけどさ。ティアラ痛くない?
「ティアラに座ってますね。楽しそうです。」
そっか。ならよし。顔も合わないから照れなくて済むし。岩山到着。まずはラインハルトをこき使う。
「グロがあり得るのでそれで正解ですよ。陛下。」
ごめんね。ラインハルト。顔をまともに見れなくて。ヘルが私の上でティアラを弄りまわして遊んでいるのを感じながら待つ。
「戻りました。ビンゴでした。ついでに全員無事です。」
「一応、とかそんな単語は付く?」
「付きませんよ。どうやら近場移動で護衛なしだったらしく無抵抗で捕まったのが良かったのかもしれませんね。奴隷にするにも乱暴された後だと価値が下がってしまうので。」
抵抗してたらさらに下げられてたかもしれないと。…よかった。無事で。
「どうやったら助けられそう?」
「陛下が脅かして追い出してください。あいつらならそれで十分です。」
え?
「私が?」
「はい。大丈夫です陛下!あいつら相手なら我々は無敵です。」
無敵ならラインハルトが行って欲しいな。
「不肖ラインハルト。賊を無力化するすべを持たないのです。陛下。逃げる賊からヘル嬢守れますか?」
無理だね。というか何ができるかもわかんないし。
「なのでわたしがヘル嬢をお守りいたします。」
貴方もロリコン疑惑あって大概なんだけど…。私が近くにいるよりましか。
「後で私が何できるか調べるのに付き合って?」
「「付き合いなさい。」で、けっこうですよ。陛下なのですから。」
「そう…。なら、頼む。」
で、意識を切り替えて…。気合入れて。
「ヘル。私の仲間に貴方を任せるけどいい?」
「いーよー!でも姫様はどーするの?」
「ちょっと悪い人脅かしてくるね。」
「そっか。がんばー。」
ティアラの上から私の顔を見ようとしてたみたいだけど、ごめんね。恥ずかしいからやらせないよ。でも、ヘルはティアラから手を離して、自分の足で地面に立って、そんな私を手を振って送り出してくれた。
いい子だな…。あの子のために頑張ろう。今の私の外見は壊滅的に脅かすのに向いてない。髪で顔を隠そうにもダイヤみたいに透き通っちゃってるし、髪で顔を隠すとかは無理。
地面や壁は私にとってないも同然だから、その辺りと声を使えばなんとかいけるかな?
あ。外に出ないくせして恥ずかしがりを直そうと「現実でもお化け屋敷のお化け役ならいけるかも!?」なんて発想で練習したアレが役に立つかも。
さて、内部に潜入しよう。姿の消し方は知らないけど。目だけ出して体を地面とか壁に隠していればバレない。
まず、状況確認。…ラインハルトに聞いときゃよかった。私が出ても大丈夫ってのは見てもらったけど、二度手間だね。あ、でも、聞いて完全に把握できるとは思えないから…こっちの方が良かったのかな。
…えっと、一番奥に簡易的な檻があって、そこに掴まった人は全員いるね。賊は…ガラの悪そうなのが5人固まってる。「全員で山分け」って言ってるし…「誰々はいませんけど良いんですかい?」「へっへへ。あいつは殺す!」的な会話もないからこれで全員のはず。
よし、気合入れて脅かそう。
というわけで早く灯消して、真っ暗闇にするがいい!……よく考えなくても真っ暗になんてするわけないね。危ないもん。
それに野営なら見張り立てるだろうし…。むぅ。困った。薄暗いけど…。いけるかな?
あ。丁度光源の燃料無くなりそうだ。ランタンに近づいてきたタイミングで脅かそうかな。壁沿いの石の上と、私の体を隠せるところがいっぱいあるし。
ランタンの火で私燃えないよね?…うん。燃えない。大丈夫だ。
ランタンの中に頭突っ込んで、燃料投入孔のところに目を…、
「ヒッ!?」
賊と目が合った。頭が真っ白になる。
「おい、どうした!?」
「目が!目が!」
どうして…。
「「ひっ!」」
「ドウシテ…、」
頭が働かない。自分の馬鹿さ加減に嫌気がさして膝をついてしまう。
「おい、何ランタン倒してやがる!?せっかく奪ったのに、灯消えたぞ!?」
「お頭!何かが!」
「ドうしテ…。」
賊たちがわめいてる。きっと愚かな私を嘲笑ってるんだろう。
「何かって何だ!?」
「ランタンの中見てくださいよ!?」
「どうしてドウシテどウシテどうシテドうシテどウシてどうしてドウシテどウシてどうじでドウジデドウシてドウしテドウじデドう゛シテドヴしてドウジデどうしてドウシテドウシてドウ゛ジデどうシテドウしデとウジデドうしでドうじデトヴジデどうしてどうシデどうして…、死「「「ギャー!」」」にたい。何で肝心なところで躓くの…。」
うぅ…。もうヤダ。端っこで拗ねよう。体育座りって落ち着くなー。
「だいじょぶ?」
「陛下。お疲れ様です。」
ん?
「ラインハルトにヘル?何で…?」
「あいつらがものすごい勢いで逃げたのでヘルがあなたを心配してとっとこ移動してしまったんですよ。」
ヘルが…。そっか。ありがとう。
「涙ぐんでるとか悪いですが、今、ヘルはお母さんと檻越しに抱き合ってるので陛下に興味ないですけどね。」
「それ言う必要あった!?」
ヘルに似た女の人と檻の中と外で嬉しそうに跳ねてる。そっとしておいてあげよう。
「ところで見事な手腕でした。あいつら見事に狂乱していましたよ?」
「ん?私、出だしで盛大に失敗したよ?」
だから何もしていない…。
「本当ですか?」
「うん。頭真っ白になって嘆いてただけだし…。」
「声に出してました?」
「ん?出してたはず。でも、自分を責める形だったけど?」
それで聞こえるの?
「十分聞こえますね。自分を責めるということは、自分に聞かせるということですから。やつらが狂乱したのは、陛下の嘆きが狂気的だったのが良かったのでしょう。この灯もいい仕事をしたみたいですね。」
ん?
「ランタンお化けとか言っていましたし。運よくランタンが倒れた時も貴方の顔がランタンの中にありつづけ、それのおかげでランタンに捕まってしまったことを嘆き続ける何かみたいに見えて「呪われそう」と恐怖したのではないでしょうか!」
完全に偶然に偶然が重なった形だ…。
「ま、運も実力の内といいますし!」
よくある慰めの一つじゃん…。
「ねぇ。姫様。ハルトー。鍵知らない?」
ハルト?こいつ、愛称で呼ばせてやがる。ろり
「コンではないです。ヘル、すみませんが知りません。」
「ごめん。私も知らない。」
ラインハルトロリコン疑惑より、ヘルに返事するほうが大事だし、さっさと答える。
「鍵どこに行ったんだろう?」
「たぶんあいつらが持って行きました。ですが、心配ありません。ヘル。」
何故か言葉を切って、
「わたしにかかればこんなもの…。」
そう言ってラインハルトが指パッチン。鍵がひとりでに開いた。
「簡単に開きます。」
「すごい!ありがとー!」
うわ。こいつ、気を引くために過剰演出しやがった。
「だから違「おかーさん!この人たちが一緒にいてくれたよー!」
「ひ、人?…人なのかなぁ?」
ヘルの声でラインハルトの声がかき消された。
ヘルのお母さん。戸惑ってるね。そりゃそうだ。こちとら壁貫通したり、足が無かったりする生き物。たぶん人じゃない。
こっちを見られてる…。恥ずかしいけど我慢して手を振り返す。これで少なくとも敵じゃないってのは伝わるはず!
安心してくれたみたい。一礼してヘルを抱きしめてる。
「OP見ましょ、OP。」
ヘル達見てたいけど…、私には眩しい。だからいいや。でも…、
「どうやって見るの?」
「え?」
こっち見ないで。「こいつ何言ってんだ」という目であろうとなかろうと恥ずかしいから。
「教えませんでしたっけ?」
「聞いてないよ?」
「………あ。OP残高確認と念じてください。」
間。忘れてたね…。で、残高と。ますます株のトレードでもやってるのかって感じ。
『OP残高確認』
《OP残高 32》
なんか頭の中に出てきた。これか。32か。なるほど。32かー。
…ん?32?何故?一人脅かして1って言ってたのに…。捕まってた人含めても10人いるかいないか。なのに32。簡単に計算すれば3倍以上もある。何故。
「ねぇ。ラインハルト。変なところからOP借りたりしてない?」
「借りるとか無理です。闇OPとかないですし、OP融資とかもないです。OPは体で稼ぐものです。」
なぜか増えてるけどね!謎。
「姫様!行くよー!」
「え。」
ちょっと待って何で引っ張るの!?大人たちも止める気は…ないっぽい!ヘルのお母さんも困ったように微笑むだけ。
私に抵抗手段無し。引っ張られるしかないかー。暇だし『OP残高確認』してよう。
『OP残高確認』
《OP残高 33》
増えるわけもないし、狙って稼げたわけでもないけど、自分で稼いだもの。見てて楽し…、ええ!?増えてる!?
「ラインハルト!OP増えてるよ!」
「そんなわけ…、本当ですね。」
コントか!って反応してるんじゃないよ。
「何で?」
「さぁ?」
ラインハルトも知らない…。だけど、増えた。しかもあの時から今までの間で。「脅かす」ことしてないのに。なら、私の苦手な『脅かす』以外にもOP増やす方法はある!
そっちなら今回みたいな失敗もないだろうし…。なんだかやれる気がしてきた!
「決意を新たするのはいいですけど、ヘルに引っ張られてるんですよね。陛下。」
「うるさい。」
「出荷よー。」
「そんなー。なんて言わないからね!?」
「チッ。」
舌打ちした。これは不敬罪で捌いてもいいよね!
…ま、やらないけどさ。一緒に頑張らなきゃならないんだし。
「これからよろしくね。」
「ええ。こちらこそよろしくお願いしますよ。陛下。」
恥ずかしくて顔を逸らしているから、締まらないけど…、ラインハルトの声は優しくて、温かった。