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悪役令嬢にはどでかいスパナがよく似合う  作者: 藤原ゴンザレス


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お兄ちゃんがんばる! 1

 レイラの荒野。

 私のモノポール重力子砲はどこまでも突き進み、なにもかもを飲みこんだ。

 そのまま直進し、空の彼方に消えていった。占星術の研究所によると宇宙まで到達すると消滅したらしい。

 射程は不明。たぶん大陸間弾道ミサイルくらいまで行けちゃう。

 この惑星が丸かったおかげで直線上にあるもの全て消滅という事態は避けられたのだ。

 天動説終了のお知らせ。

 あとに残ったのはなにもない荒野のみ。いくつかの村も消滅した。

 人的被害はなく、国が生活再建を約束したので恨みを買うことは避けられた……。

 ……危なかった。最後の最後にやらかすとは。列車がコケる展開かと思ってたのに。


 さて、話を戻そう。

 モノポール重力子砲を本気で運用すれば国境から直接敵国を消滅させることも可能だ。

 いや、我が国の首脳部は惑星が丸いのでそれは無理だとわかっている。

 でも他国からすれば可能だとしか思えないのである。

 どこの世界でも人類絶滅兵器が開発されると平和を叫び出すらしい。

 ドラゴンを文字通り消滅させた我が国に、国際社会は深い懸念を表した。

 そりゃ、穏健派の経済ヤクザだと思われていた国が、ゴリゴリの武闘派だったわけだ。

 そりゃなめていた国からしたらビビる。次は自分の国だとでも思ったらしい。

 だけど我々も戦争をする余裕はない。人的被害は皆無。だけど周辺地域が消滅。砲が宇宙に飛んだおかげで他の地域まで被害が及ばなかったのが幸いであった。

 地動説大好き。

 だからどの国も『平和』という言葉に酔うことを選んだ。

 それが束の間の幻想なのはわかっているけど、それでも私たちは疲れていた。

 数十年後はわからない。とりあえずは平和を選んだ。


 被害は少ないと言えども、我が国にもドラゴンは爪痕を残した。

 ドラゴンの毒……という名目で立ち入りを禁止しているが、実は重力子的なものがおっかないので渓谷だった場所の周囲は封鎖。

 ガスマスクを開発するまでは立ち入り禁止かなあと思う。

 驚異がないことが確認され次第、レイラの荒野は産業学校の開発した先端農業の実験地帯として使われることになった。

 令嬢らしくお花畑にしますわ!

 苺でしょ。ブルーベリーでしょ。ブラックベリーでしょ。ラズベリーでしょ。林檎に梨に桃に……。

 ……食欲に勝てない自分がいる。 


 貴族への報酬は逃げた貴族の土地と財産だ。

 それくらいの大人数が他国に逃げやがったのだ。

 なおアーサー兄ちゃんはこういうのが得意で、逃げた連中はすでに捕獲済み。財産も確保している。

 味方でよかった。あいつやべえよ。

 陛下から「ドラゴン討伐の報酬は何が欲しい?」と聞かれたけど、「いらない」と答えておいた。

 私は好きに開発させてもらって、ちょろっとお小遣いが稼げればそれでいい。それは日常だ。銀行もない世界で欲張ってもしかたがない。

 だから次に言ってやった。


「私の報酬は復興のためにお使いください」


 別にいい格好をしようと思ったわけではない。

 もらってもろくな事に使わないからだ。

 すると騎士たちが一斉に報酬を辞退し始めた。

 そりゃそうだ。

 貴族には三種類がいる。

 ひとつは国が滅びるかもしれないときに、善意で国に残ることを選んだ連中だ。正義とか名誉っていう看板で生きているプロ意識の固まりなのだ。恩賞をあきらめたけど、それが回り回って自分の利益になるだろう。将来国を動かす人々だ。

 もうひとつは、単純に私たちが勝つ方に賭けた連中。有能すぎる。単に動けなかっただけの連中もいるけど。彼らは少なくとも空気は読めている。損して得取れとばかりに恩賞を辞退した。今辞退した恩賞は将来への投資だとわかっている。自分で投下分を回収するだろう。彼らは放って置いても適当に働くのだ。

 そして逃げた連中。大御所や普段聞こえのいいことばかり言ってた連中だ。たいして有能でもなく、言葉とは裏腹に人の足を引っ張るのが仕事だと思っている。正直言っていらない。現在アーサーに全財産と領地を差し押さえられ中。

 結果的にドラゴン騒ぎは王国にとって無能で忠誠心の低い味方を排除できたのである。

 この国これからしばらくはのびるよー。急成長しちゃうよー。足引っ張るやつの金を取り上げたもん。

 アーサーお兄ちゃんのチート性能はようやく活用されたのである。

 完全にやっつけるか、脅迫して仲間に引き込むか迷ったけど、仲間に引き込んでよかった。


 ドラゴンの被害に遭った村へは安全が確認でき次第、蒸気式トラクターが配備されて一から開墾する予定だ。

 この辺も私のやりたい放題である。もちろん一年中収穫が見込めるカブの種は確保してある。あと冬でも大丈夫な豆。……そしてフルーツ。じゅるり。

 この辺は農学系の錬金術師が育ってきているので、きっとやり遂げてくれると思う。


 そして……。


 次は約束通り、アーサーを救わねばならないのだ。

 アーサーは未亡人(あこがれのお姉ちゃん)との結婚を望んでいる。

 私はウィルと王城に入る。ドラゴン討伐から一週間後のことだった。

 戻ってきて、後始末して、報告書を送ってと大忙しで、気が付いたら一週間が経っていたのだ。

 この間もアーサーやミアさんとは連絡を取っていた。

 だからもう完全に実家気分で王都に乗り込んだのである。


 勝手知ったる王城、入った時点で玉座の間に通される。

 今回の訪問はとりあえずドラゴン戦の細々とした報告となっている。

 戦勝記念パーティは全土の被害がわかってからになるかなあ。

 今のタイミングじゃ、被害が大きすぎて貴族のほとんどが参加できないしね。

 玉座の間に入ると陛下がニヤニヤとしていた。


「よくぞやりとげた! 闇の巫女よ!」


 よく見ると目の下のクマができている。なるほど、徹夜によるハイテンションか。


「陛下……お疲れのご様子で」


 ウィルも心配そうだ。陛下は40歳前後か。あんまり無理すると死んじゃうよ。

 まあ無理の原因は私なんだけどね!


「報告書は読んだ。渓谷を破壊したのは致し方なかろう。過去の例ではドラゴンの被害は最低で数万人に及ぶと言われている。それに比べたら微々たる被害だ。もう一度言う、でかした!」


「ありがとうございます! これからも国のため、陛下のために働く所存でございます」


 私は膝をついたまま言った。


「それで……だ。ひとつ問題がある。レイラよ。なぜ恩賞を断った?」


「私では管理できないからでございます」


 領地運営とか無理!

 私は職人なので、そういうのには向いてない。

 そもそも先に文書で断ったのに蒸し返すのはどうよ。


「あのな、レイラ……それでは私のメンツというものがあってだな」


 陛下が泣きを入れる。徹夜のせいか少し弱気らしい。

 じゃあそろそろ頼み事をするか。


「陛下からの恩賞はいりませんが、アーサー殿下のお父様にはお願いがありますわ」


「なんだか嫌な予感がするが……いい許す。話せ」


 ウィルもなんとも言えない顔をしている。

 でも私は約束を守る女なのだ。


「アーサー殿下とビアンカ・フラナガン侯爵夫人の婚姻にお許しをください」


 陛下はぐったりとする。


「言うと思った……」


「なにか問題でも?」


 くくく、と私は口角を上げる。


「反対してた派閥のものたちが次々と消息を絶っているが、なにか申し開きはないか?」


「存じません。私は(、、)ですが」


 これ絶対お兄ちゃんが犯人である。


「ウィリアム、お前はどうだ?」


「存じません。誰かはわかっておりますが証拠はありませんし、証拠を残すようなヘマをする人間ではありません」


 こりゃドラゴン騒ぎのどさくさに消されたな。

 ホント味方でよかったわ。アーサーお兄ちゃん。


「わかった。アーサーを呼べ。腹を割って話そう! 母親たちも呼ぶからな!」


「えーっと陛下、うちは?」


 うちは母親いないしなあ。


「レイラ! お前は父親!」


 こうして怒濤の親同伴の会議が幕を上げるのだった。

あと二話くらいで完結予定です。

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