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先輩との夏の恋物語

作者: きゅ〜ぶ

私の先輩。

先輩は無口で無表情な人で最初の印象はあまり良くなかったと思う...

だけど先輩と一緒にいるのは、不思議とそんなに嫌じゃなかった。

後にそんな私にとってかけがえのない存在となる先輩との出会いはある夏の夜のことだった。


いつもの通りに陸上部の活動で一汗流してから帰宅の毎日。

その日は夏なのに無性に涼しい日だった。

学校帰りの私に一人の男が急に話しかけてきた。

「こんな暗いのに女の子1人だと危ないよ。 家まで送っていくよ」

私の返答を聞かずに同じ方向に一緒についてくる男。

「あの......大丈夫ですから」

私は遠回しに送ってもらうのをお断りしたつもりだったが・・・

「気にしなくて大丈夫だよ。 僕がやりたくてやってるだけだし」

どうやら彼には通じなかったらしい。

見た感じ悪い人じゃなさそうだし、まあいっかと早々に諦めてそのまま家へと帰ることにする。

今思うとあの時は異性に対する意識が欠如していて警戒心が足りないと反省だがおかげで先輩と親しくなれたのであの時の私には感謝してる。


その後、先輩は私を家まで送ってくれた。

家までの道の中、先輩とは少し会話をした。

先輩は3つ上の21歳で大学生であること。

先輩は読書が趣味で夏目漱石好きで私と趣味が合うということ。

私に話しかけるまでに5分くらいずっとシミュレーションをしていたこと。


話せば話すほど私は先輩に興味が出て、話が盛り上がってきたところでもうお別れの時間になってしまった。

「着いたから俺の役割はこれで終わり。 またね。」

名前も知らない先輩はそう言って駅までの道を引いていた自転車に乗って走っていく。


今思えば私はこの時既に先輩に恋をしていたのだ。


そして次の日もそのまた次の日も先輩は学校から家まで私を送ってくれた。

私自身、そんなに明るい人物でもないし、彼もどちらかと言うと物静かなタイプだったので家までの帰路の中、あまり多くは語らなかった。

それでも私はこの雰囲気が自分にとってはとても居心地よく感じられた。


初めて先輩と出会ってから3カ月が過ぎ、季節は冬に…

12月になっていつものように先輩との帰りを楽しみにしてた私だがその日を境に先輩は私の前から姿を消した。


突然の出来事に私は戸惑いを感じ、気が気でなくなってしまった…

家に帰っても心ここに在らずだった。

こんな気持ちは初めてだった。

先輩の顔を見たい。

先輩と歩きたい。

先輩と話したい。

何より先輩に会いたい。


そんな悶々とした日々を1カ月過ごしたある日…

私はいつものように学校から帰宅しようとしたら先輩がいたのだ。

先輩を見た私は驚いていたのか泣いていたのかホッとしていたのか色々な感情がないまぜになっていてあの時の感情は説明できないがひとつだけわかることがある。

先輩に会えて嬉しかった。


そして先輩はこれまでのことを1カ月私に会えなかった理由をゆっくり説明してくれた。

先輩は生まれつきカラダが弱く、小さい頃にかかった病気にが再発し、緊急入院していたこと。

そして今も先輩は入院中であること。

今日が私の誕生日だから病院から抜け出して私に会いにきてくれたこと。

そして3カ月送り迎えできなかったことの歯がゆさと私に心配をかけてしまったこと。


先輩は、私を送る道中で色々話してくれたが私はまた先輩に会えて嬉しいという気持ちと先輩がこんなに苦しんでいるのに何もしてあげられない不甲斐ない自分に悔しい気持ちがないまぜになった気分だった…


私の家の前に着いた。

「それじゃあ」

先輩はそう言って私の前から去ろうとする。

「待って」

ここでもし私が何も行動しなければ一生、先輩とは会えない気がする。

「なんだい?」

勇気を振り絞ってかけた言葉に先輩は優しく問いかける。

「わたし、先輩のことが好きです」

先輩はびっくりした表情で私の顔を見た後に涙を滝のように流した。

「・・・ありがとう。こんな僕のことを好きになってくれて・・・」

先輩はその後、星空を見上げて何かを呪文のように唱えた。

「先輩???」

「今日は流れ星なんだって。今朝ニュースでやってたんだ。だから少し願掛けさ」

「本当だ。じゃあ私も先輩が元気になるように一緒にします」

「ありがとう。俺が手術ちゃんと受けて生きて戻って来れたらちゃんと返事をさせてくれ」

そう言って先輩は私に手を振ってそのまま病院へと戻って行った。


そして数ヶ月が経った。

先輩は手術も無事成功し、今はリハビリをしていると手紙で連絡があった。

今日、先輩は退院する予定でこの後、先輩と今いる公園で会う予定だ。

「先輩に早く会いたいな」

この公園は学校と私の家の間くらいにあって、半年前、先輩に送ってもらってたときもたまにこの公園を通ったけど一回も入ったことなかった。

蝉の鳴き声やジリジリした太陽の日差しの中、小一時間ほど待っていると・・・

「待った?」

先輩だ。

「少しね。 先輩、少し痩せた? ちゃんとご飯食べてる?」

「病院食美味しくないんだもん。 だから今日は帰ったら退院祝いにすき焼きをたくさん食べるんだ」

「すき焼きって食べても大丈夫なんですか?? ちょっと遅くなっちゃったけど退院おめでとうございます、先輩」

「ありがとう、()()

その後沈黙が少し続いた。

「名前も知らない()()、こんな僕を好きになってくれてありがとう。

僕も君のことが好きだ。君との距離感は、僕にとってすごく心地よかったんだ。あの時、勇気を振り絞って君に声をかけてよかった」

「私も学校帰りに先輩と一緒に帰る毎日がとても楽しかったです。あまり会話はなかったけど私もあの距離感が楽でこの人ともっと一緒にいたいと思うようになりました。」

「「こんな俺(私)でよければよろしくお願いします」」

この日をきっかけに私たちは恋人同士になりました。


5年後・・・

私は先輩と一緒にいる時間が増えて、幸せ真っ最中でございます。

先輩もたまに検査入院をすることはありますが、特に問題もなく、生活を送ることができています。

先輩と私は今は結婚していて、子供もつい最近できました。

子供はどちらかというと先輩に似ていてどこか大人な雰囲気が感じられます。

子育てと仕事の並行は大変だけど今、ものすごく充実してます。

先輩、ありがとう。

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― 新着の感想 ―
[一言]  彼女の愛は本物なのだと感じました。  誰が生活を支えているのかといったことが、もうちょっとあればいいかなと思います。そうすると彼女の愛情がより引き立ちそうです。
2018/05/20 14:44 退会済み
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