97 交渉?いえ脅迫です!(アルバート王国編)
会見を上手く(?)纏めた翌日、流一とセラフィムはアルバート王国への使節の元へ行く前にイリアと会っていた。
「イリアさん、昨日は騒がせて悪かったね」
「そんな、謝らないで下さい。あれはこちらの不始末です、他国の使節に対してあんな事をするなんて。こちらこそごめんなさい」
イリアは申し訳無さそうに頭を下げた、そこにセラフィムが声をかける。
「お主達にこれを渡しておこう」
セラフィムがそう言って取り出したのはバハムートの鱗だった、持っている中でも1番大きく状態の良いものを6枚だ。
「これはもしかしてドラゴンの鱗ですか?」
「そうじゃ、これは我が倒したバハムートの鱗じゃ」
「そんな、こんな高価な物いただけません」
恐縮して断るイリア。
「これは我の事を口外せぬ為の口止め料じゃ。じゃから昨日いた5人にもお主から一枚づつ渡してくれ」
「口止め料にしては高価過ぎます」
「良いのじゃ」
セラフィムは威圧感は無いが含みのある目でイリアを見つめた、イリアもまたセラフィムの目を見つめ返して気が付いた、これはただの贈り物では無いと。
「そう言う事ですか。わかりました、有り難くいただきます。他の者達にも確実に渡しておきますので安心して下さい」
イリアが大切そうに鱗を受け取るとセラフィムは満足そうに頷いた、しかし感の悪い流一だけは今ひとつ理解出来ていなかった。
「2人とも、何が「そう言う事」なの?」
「あら、流一さんは気が付いていないんですか?これはセラフィムさんからリシュリュー王国への警告ですよ」
「うむ、そう言う事じゃ」
セラフィムはイリアの回答に「我が意を得たり」と満足そうに微笑んだ、しかし流一は今一つわかっていなかった。
それを察したのか、イリアがさらに続けた。
「これは流一さん達『デザートイーグル』がフランドル王国を離れてもセラフィムさんが見ているから余計な事は考えるなよと言う意味ですよ」
「ああ、そう言う事か。確かに俺たちがフランドル王国を離れた後の事を考えてなかった。セラフィムさんありがとうございます」
やっとバハムートの鱗の意味を理解した流一はセラフィムに礼を言った。
「それで、これからどうするんですか?良ければ私の領地に来ませんか?」
イリアは流一とセラフィムを領地に誘った、役目が終わったのでこの後はフランドル王国に帰ると思ったからだ。
「いや、有り難いけどこれからアルバート王国の使節と合流する事になってるんだ」
「これからですか?でも使節が向かうなら王都のテレイオースですよね?馬でも8日はかかりますけど間に合うんですか?」
「そこはほら、昨日言ったセラフィムさんの転移で行くから直ぐだよ」
「ああ、そう言えば。わかりました、ではこれでお別れですね」
その後流一とセラフィムはベイルーンで少し買い物をしてから街を出て昼過ぎに女性陣の元に転移した、昼過ぎにしたのは馬車の休憩に合わせたからだ。
イリアはその足で王宮に向かった、もちろんセラフィムから受け取ったバハムートの鱗を国王他の5人に渡す為だ。
レンセン公爵一行はアルバート王国王都テレイオースまで後2日の位置まで来ていた。
陣容は6人乗りの高速馬車一台に護衛の騎士4人、公式な使節としてはあまりにもお粗末だがスピードを重視しているため仕方ないとも言える。
馬車にはレンセン公爵と『デザートイーグル』女性陣の計5人しか乗っていない、そのためレンセン公爵は貴族でありながら道中食事の準備以外は全て自分でやっていた。
ただ必要な荷物、食糧等は全てエレンの収納に入っているので通常の馬車移動よりかなり快適ではある。
騎士は普通の使節なら20〜30人は付くのだが、今現在フランドル王国にはライナ平原から生還したこの4人しかいないのだ。
ライナ平原から生還した騎士は全部で9人だったが、その内訳は近衛騎士「0」国軍騎士「4」領軍騎士「5」だったのだ。
しかしアルバート王国に対しては高速移動のためとの言い訳も立つので名目だけの臨時騎士を付けるような事はしなかった。
「ただいま」
「待たせたな」
流一とセラフィムが女性陣の元に現れた。
「お帰り、お昼ご飯はどうする?」
「もらうよ」
「我もいただこうかの」
「わかった、ちょっと待ってて」
何事も無いように普通に2人と接するユリアナ、メンバーの中で最も気遣いが出来る。
エレンとセリーヌは元貴族なので仕方ないところもあるが、アメリアは単に気が効かないだけだ。
それとは対照的に食事の手を止めて固まっているレンセン公爵と4人の騎士、目の前に大きな霧の塊が出来たと思ったらその中からリシュリュー王国に向かったはずの流一とセラフィムが馬に乗って現れたからだ。
「転移」の魔法など小さい頃に読んだ物語の中でしか見た事が無いので何が起きたか理解出来ていない。
レンセン公爵は、流一達が早く終われば合流するとは聞いていたが本当に合流出来るとは思っていなかった。
馬車と馬の違いがあるとは言え同じくらいの距離の街に同じ日に向かっのだ、しかも街と街の間は馬でも8日の距離がある。
よほど協議が難航して長引かない限りは合流する事は無いし、今回は協議が難航する前にこちらから宣戦布告するので間に合うはずが無いと思っていた。
それがまだテレイオースに到着する前に、しかも突然霧の中から現れたのだ、瞬時に理解する事など不可能であった。
「ど、何処から現れたのかな?」
しばらくして正気に戻ったレンセン公爵が聞いた、それに対して流一が答える。
「もちろんベイルーンからですよ。あっ、安心して下さい、リシュリュー王国の派兵はちゃんと阻止して来ましたんで」
「そっ、そうか」
レンセン公爵はそう言うのが精一杯だった、そしてこれからは『デザートイーグル』について深く考えるのはやめようと固く決意するのだった。
翌日、テレイオースに到着した一行はやはり先触れが予約していた高級宿屋に泊まった、流一とセラフィムの分は予約していなかったが部屋は空いていたので問題無かった。
翌日、馬車一台と騎馬2人、護衛騎士4人で王宮に向かった、ベイルーンとは違い外国の護衛なので控え室がちゃんと用意されている。
使節の控え室では大使に補佐が4人となっていたのに補佐が6人いる事を糾弾されたがなんとか認めさせた、尤もアルバート王国としても大して問題視はしていない、あわよくば会見の主導権を握ろうと思って糾弾しただけだ。
とりあえず一悶着は有ったが予定通り会見が行われた。
ここでも宰相が司会を務める、そして使節の紹介が終わるとアルバート国王が口を開いた。
「ようこそおいで下さったレンセン公爵、我ら一同歓迎申し上げる」
「国王陛下直々の歓迎痛み入ります」
当然ではあるが先ずは軽い挨拶から会話が始まる。
「さて、それで本日はどのようなご用件で参られたのかな」
「今回は我がフランドル王国と貴国との友好を深めるために訪問致しました」
「ほう、友好とな?それにしてはいささか性急に過ぎるのではあるまいか?それなら先触れなど寄こさず外交交渉で使節の往来を話し合っても良かったのではないかな?」
もちろんそんな気はさらさら無い、だからと言って面と向かって「友好など結ぶ気は無い」とは言わない。
「確かに外交儀礼をへていない事はお詫び申し上げます。しかしその様な時間も無かった事も事実でありますのでその事はお含みいただきたい」
「時間が無かったとな?それは如何様なしだいですかな」
もちろん理由など聞くまでも無く知っている、アルバート国王は少し小馬鹿にした目をレンセン公爵に向けた、「もう貴様の国は終わりなんだよ」とでも言いたげに。
レンセン公爵も流一達6人もその目には気が付いた、だからこそレンセン公爵は意趣返しをしようと思った。
「このままでは多数の犠牲が発生する可能性がございますれば。もちろんそちらにでございますが」
流石に国王はその言葉に怒りを覚えた、「戦争を仕掛ければフランドル王国が勝つ」と宣言された様なものなのだ、しかしその感情を表に出すほど愚かでは無い。
しかし同席していたアルバート王国の貴族の中には交渉術に長けていない者や挑発に弱い者はいる、そんな貴族の1人が怒りの声を上げた。
「何を抜かすか、貴様らこそ戦争になれば1日で叩き潰してくれるわ」
自分達が絶対的優位に有るという奢りと油断が招いた失言であった、そう、レンセン公爵はアルバート王国に戦争の意思が有ると言わせたかったのだ、そして愚かな貴族が見事に引っかかってくれた。
「それはどう言う意味ですかな?私は犠牲が出ると言っただけで戦争するなど一言も言っておりませんが?もしや我が国との戦争をお考えだったのですかな」
「あ、うう。それは」
口ごもる件の貴族、しかしアルバート国王が諦めた、と言うより開き直った。
「その通りだ、我が国は貴国と戦争の用意がある。今更友好など結ぶつもりは無い」
「そうですか。どうか矛を収めては下さいませんか?このままでは両国にとって不幸となります」
「両国にとって?違うであろう。フランドル王国にとってであろう?」
アルバート国王はやはり小馬鹿にした口調でレンセン公爵に向かって言った。
「いえ、どちらかと言えば貴国の方がより不幸になると思っております」
「強がるな。たかが4万の兵しか持たぬ弱小国家が。我が軍は7万、同盟軍を合わせれば10万を超える。それにどうやって勝つと言うのだ」
別の貴族が怒りの声を上げた、しかし兵士数をサバ読みしていることから冷静さを欠いていると言うわけでも無いようだ。
「ご冗談を。アルバート王国の軍は5万、ガベン王国と合わせても8万ではありませんか。それに対して我が方は4万とはいえ、ここにおりますセラフィム殿とハンターパーティー『デザートイーグル』も我が国の味方をしてくれております。もし戦争となれば貴国に勝利の可能性はございません」
レンセン公爵は声を荒げた貴族に向かってそう言い返すとニヤリと笑った。
「バカを申すな、たかが6人で兵士4万人分の働きをすると言うのか」
「何を愚かな事を。この6人が兵士4万人分のはず無いでは無いですか」
「当たり前じゃ、そんな事あるわけが無い」
「兵士8万人以上です」
レンセン公爵のその一言で会見場は一瞬静まり返った、そしてしばらくして大爆笑の渦に飲み込まれた。
「ハハハハハハハハ、6人で兵士8万人以上だと?レンセン公爵、貴殿は気でも触れたか?そんな事あるわけが無かろう」
アルバート国王も大爆笑しながらレンセン公爵に言った。
それに対しレンセン公爵は冷静に返答した。
「我が国は実際にこの6名から8万近い軍を壊滅させられましたもので」
「ハハハハハハハハ、なんと本当か?もしそうならフランドル王国軍はとんだ弱兵ばかりじゃな。これなら時間をかけて準備せずとも直ぐに攻め込んでも勝てたかもしれんなハハハハハハハハ」
一段と大きな笑い声が響き渡った、そして笑いが収まったあとアルバート国王が静かに言った。
「これは早めに準備せねばのう」
「どうしても引いては下さいませんか?」
「当然じゃ」
「では私フランドル王国公爵レンセンがフランドル王国国王代理としてアルバート王国に対し宣戦を布告する」
予定通りではあるがレンセン公爵が宣戦布告を高らかに宣言した。
「ハハハハハハハハ、宣戦布告だと?フランドル王国が?ハハハハハハハハ貴殿わかっておるのだろうな?宣戦を布告した以上貴殿らは敵国人だ、ここで殺されても文句は言えんのだぞ。尤も取り消そうにももう遅いがな」
アルバート国王は悪人の笑顔でレンセン公爵を睨みつけた。
「わかっておらぬのはそちらの方だ。言ったであろう、この6人の戦闘力は兵士8万人以上だと。ここに居る全員生きて帰れるとは思わぬ事だ」
レンセン公爵もほとんど開き直っている、流石に打ち合わせ通りとは言え敵地のど真ん中での宣戦布告は正気では出来ないようだ。
「衛兵、衛兵、この者達をひっ捕らえよ」
その声を聞くや否や会見場内には多数の衛兵がなだれ込んできた、そして国王の周りを近衛騎士達が取り囲んだ。
いくら自分達が圧倒的優位にいるとは言え「殺されても文句は言えん」などと言っておきながら衛兵には「ひっ捕らえろ」と命令する、アルバート国王の危機管理の甘さが露呈している。
「エレン、騎士は任せた。俺は衛兵をやる。その後ここは狭いから一旦外に出よう」
「わかりました」
「アメリア、ユリアナ、セリーヌは外に出る時に先導して」
「「「了解」」」
「私はどうするのだ」
「お主は我が護衛する、安心いたせ」
不安そうに聞いてきたレンセン公爵にはセラフィムが答えた。
「戦闘開始」
流一の一言で戦闘が開始される。
「ウィンドカッター」
ゴロン、ゴトッ、ゴトッゴトトッ
まずはエレンが近衛騎士達に向けてウィンドカッターを放った、これにより5人の近衛の頭が床に転がった。
残った近衛達は慌ててアルバート国王を部屋の外へ連れ出す。
次は流一の番だ。
「フレイムランス」
「「「ぎゃーーーー」」」
「「「ぐあがががが」」」
多数の炎の槍が衛兵達を突き刺し燃やした、流一にとっては火事になっても問題ない場所なのだ。
アメリアとユリアナにとっては自国の王宮だが、貴族でも無い2人にはあまり関係はなさそうだ、それよりも知り合いを戦争に送りたく無いと言う感情の方が大きい。
「ロックバレット」
ドガドガドガドガッ
国王救出と入れ替わりでやって来た近衛騎士達に再びエレンが魔法で攻撃した。
「撤退、撤退ーー。全軍王宮の外で迎え撃て」
衛兵隊長の指示により全軍撤退した、国王だけでなく貴族も皆逃げ出していた。
「あらら、せっかくアメリア達3人で斬り伏せながら外に出ようと思ってたのに」
「ちょっと流一、あなたは参加しないつもりだったの?」
「いやー、リシュリュー王国でも少し暴れたからちょっと休もうかなと」
「リシュリュー王国でも何か有ったの?後で聞かせなさいよ。それよりもう疲れも取れてるでしょ、真面目にやりなさい」
戦闘中とは思えない流一とアメリアの掛け合いに呆れ顔の4人と「なんだこいつらは」という不思議顔のレンセン公爵がいた。
緊張感の無いやり取りの後7人はアルバート王国軍が待ち構える王宮の外に出て行った。
「「「「「我が内に秘める・・・・・」」」」」
流一達の姿が見えると途端に魔法使い達が詠唱を始めた、がすぐに中断させられた、エレンによって。
「爆発」
ドグワーーーーーーーン
「「「「「「「「うわーーー」」」」」」」」
エレンは魔法使い達の直上で水蒸気爆発を起こした、魔法使いの直上にウォーターボールを作りその上方にマグマを発生させたのだ、魔法の平行起動ができるエレンだけの魔法である。
爆発の影響で魔法使い全員とその周りにいた兵士の多くが死んだ、その更に外側にいた兵士も数十人が戦闘不能に陥っていた。
そして7人は何事も無かったように王宮の庭へと出てきた。
兵士達は扇型に流一達を取り囲んでいたが誰も斬りかかろうとはしなかった、それどころか足が震えている兵士もいる。
そこへ王国の騎士がやって来た、そして爆発で兵士が居なくなった場所から流一達に斬りかかって来た。
それを流一、アメリア、ユリアナ、セリーヌの4人が次々に斬り伏せていく、身体強化と武器に魔力を流すことで剣や盾毎一刀で切り捨てているのを見て兵士達の士気はドンドンと下がっていった。
騎士が15人ほど切り倒されたところで兵士達の後ろから指揮官の檄がとんだ。
「お前たち何をやっている、相手はたかが7人だ、囲んで押し込め」
「「「「「「おおおおおおおお」」」」」」
その檄に答えるように兵士達が雄叫びを上げた直後。
「スプライト」
ズガガガーーーーーーン
流一達4人の戦っている場所から少し離れた場所にいた兵士の全員が真っ赤な地面から湧き上がる雷に撃たれて倒れた。
流一達の前にいた騎士と兵士はその光景を横目で見て恐怖に陥ったのか、それまでよりも簡単に全員斬り伏せられた。
王宮の庭に立っているものは流一達7人だけになった。
「さて、じゃあまた王宮に戻りますか」
「いや待て、向こうから出て来てもらおう」
流一の言葉にセラフィムが待ったをかけた。
「出てきてもらうってどうやって?」
「そこらに居る使用人を捕まえて王と貴族に伝言を伝えさせるのじゃ」
「どんな伝言ですか?」
流一ではなくエレンが聞いた。
「出て来なければ王宮を破壊すると言うのじゃ」
「なるほど、そこまでやるつもりは無かったので気が付きませんでした」
それを聞いたレンセン公爵は「出来ないじゃ無くてやらないかよ」と心の中で突っ込んでいた。
「実際に破壊する必要は無いじゃろう、流石に王宮を破壊すると言われて出ても来ない腰抜けでは国王など務まらんよ。それにもしそんな腰抜けが王なら王宮になど住む価値は無い」
「なるほど、じゃあちょっと行ってきます」
流一はそう言うと1人王宮に入っていった、そして探索魔法で使用人を探すと5人ほどのメイドを見つけ伝言を伝えた。
流一が皆んなの元に戻って小一時間、ポツリポツリと貴族が王宮から出てきた。
30人ほどの下級貴族の後に10人ほどの上級貴族、その後に大臣と思われる貴族が出てきて最後にアルバート国王が出て来た。
こんな時でも貴族の序列に拘っている、セラフィムと『デザートイーグル』は度し難い愚か者ばかりだと思った。
「さて、戦争の続きだ」
セラフィムがそいうとセリーヌが前に進み出た、会見で最初に挑発に乗った貴族の前だ。
「ま、待て。戦争は止める、助けてくれ」
「貴方にそんな権限は無いでしょ」
そう言うとセリーヌはその貴族の首を刎ねた、そして次に兵士数を誤魔化した貴族の前に行った。
「ま、待ってくれ。取引をしよう。身代金を払う、いくら欲しい?」
「貴方は戦争を望んだ、なら負けた時は命を失う覚悟はあったはずだ。命をかける覚悟が無ければ軽々しく戦争など口走るな」
そう言ってまたその首を刎ねた、そして次は大臣と思われる貴族達の集団の前に進んだ。
「この中で軍務大臣かそれに準じる役職のものは?」
その言葉で1人を除き全員の目がその1人に注がれた、目を向けられた1人は恐怖に引き攣った顔と目でセリーヌを見ている。
「戦争は頭を潰すまで勝利では無いからね」
そう言ってまた首を刎ねた、最後にアルバート国王の元に向かった。
「陛下ーーーー」
その時近衛騎士と思われる騎士がセリーヌに斬りかかって来た、しかしセリーヌはその剣ごと騎士を真っ二つにした。
「ヒッ」
アルバート国王は小さく悲鳴を上げた、目の前で騎士を真っ二つにされたのだ、しかも少しだがその血が顔にかかった、恐怖しても仕方ない。
セリーヌは改めてアルバート国王の前に立ちその首に剣を向けた、そこへ今度は流一が語りかけた。
「さて国王陛下、この度の戦争は見た通りそちらの責任者を倒したのですから我がフランドル王国の勝ちで宜しいですか?」
「あ、あ、ああ、良い、それで良い、我が国の負けだ」
首元に剣を突きつけられているのだ、よほど気概のある者で無ければそれ以外の答えがあるはず無い。
それを聞いたセリーヌは剣を下げ流一達の元に帰って行った。
「さて、では我が国の勝利が確定したところで戦後補償の交渉です」
流一がアルバート国王を睨みながら冷静に言った。
「わかった、何が望みだ?」
アルバート国王は全てを諦めた、そしてやっと自らの愚かさを後悔していた。
「別に望みは有りませんよ、我が国と不戦条約を締結して下さい」
「えっ?それだけか?他には何か無いのか?」
アルバート国王を始め全ての貴族が狐につままれたような表情で流一達を見ていた。
「最初に言いましたよね。私たちは友好を深めに来たと」
「た、確かにそう言ったが、本当にそれだけか?」
「そうだ、それが我らの使命だからな」
やっとレンセン公爵が大使の使命に目覚めた、ここからはまたレンセン公爵主導で話しが進んだ。
会議室どころか机一つない王宮の庭と言う異例の場所だがアルバート国王とレンセン公爵の間で淡々と話しが進んでいった。
結局フランドル王国には何の被害も無いので金銭的な保障は無い、領土的にも遺恨を残して次の戦争を誘発しないように国境線の引き直しは無し、アルバート王国側の被害は自業自得と言う事で全額アルバート王国の負担、ガベン王国には直ちに撤兵要請と同盟解消を提案する、今後は最低でも10年の不戦条約を締結すると言う事で話しが纏まった。
ただ不戦条約の締結についてはこれから交渉団を編成する事になるので直ぐに締結と言うわけには行かない。
交渉をただジッと聞いていた貴族達は戦争をしようとさえしなければ良かったと心の底から悔やんだ、それと同時に『デザートイーグル』とセラフィムに対する恐怖と他者を侮る事の愚かさを魂に刻んだのだった。




