96 交渉?いえ脅迫です!(リシュリュー王国編)
「エレン、これを持ってて」
流一は出発前にエレンに通信の魔道具を渡した、流一は今回セラフィムと同道するのでエレン達との通信用に渡したのだ。
もちろんそれだけでは無い、リシュリュー王国での交渉が終わった後の転移用でもある。
「わかりました、何かあればこれで連絡すれば良いんですね」
エレンに通信の魔道具を渡した後、流一はセラフィムと共にフランドル王国に用意させた馬で出発した。
セラフィムはずっと人型で過ごす事にしたようだ、その方が目立たなくて良い。
エレン達4人も直ぐにレンセン公爵と合流し、こちらも午前中にはアルバート王国に向け出発した。
流一とセラフィムは一路イリアの治めるバーニア領を目指した、戦争前なので貴族家当主として王都に居る可能性は高いが、もし自領に居れば「少しは情報が得られるかも」と考えたのだ。
道中、バーニア領都バーンブルクまでは全て野営だった、食事は三食全て流一の手作りである、そもそもドラゴンであるセラフィムに料理など出来るとは思えないので当然ではあるが。
流一も普段なら面倒くさがる所であるが、セラフィムにはかなり世話になっているので嫌がる事なく率先してやった。
調理器具はエレンとは別に持っているので問題ない、たまに現代の料理を試作するために購入していたのだ。
ただ風呂はエレンの持っている1つしか無かった、これまで別行動をする事がなく毎日風呂に入っていたのでかなり凹んだ。
セラフィムも久しぶりの風呂を期待していただけに、あからさまにガッカリしている。
それでも出発から6日後、流一とセラフィムはバーンブルクに到着し早速領主邸を訪れた。
「すいません、バーニア子爵は居ますか?」
「これは流一様、ようこそいらっしゃいました。今御領主様を呼んで参りますのでこちらへどうぞ」
そう言って門番から邸の庭へと通された、バーニア領を出てからまだ数ヶ月しか経っていないので流一の顔を覚えている者も多いようだ。
「流一さんよく来てくれたわね、歓迎するわ。ところで他のみんなは?」
「今日は訳あって1人だけなんだ。それから、こっちはセラフィムさん、俺たち『デザートイーグル』の友人で恩人だから宜しく」
「それからこっちはこのバーニア領の領主イリア=ローランド=フォン=バーニア子爵です」
「セラフィムさん、これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
流一によるお互いの紹介の後、領主邸に入って話しをする事になった。
イリアによるとフランドル王国への出兵は決定事項と言う事だった、そのため伯爵以上の上級貴族は王都に集まっており、軍の編成も終わっているらしい。
出発は1週間後、王都から2万5000の兵士が行軍を開始する、その後はフランドル王国までの道中の領主軍が合流していき、最終的には40000人規模の軍隊になる予定だと言う。
イリアはその道中で合流する領主軍となるので編成のために帰って来ていると言う事だった。
今回の派兵はフランドル王国で聞いた通りアルバート王国に対しての国力維持が名目だが、やはりと言うべきか積極的な好戦派の貴族も少しは居るらしい。
流一はイリアに訪問の目的を伝え協力してもらう事にした、要するに共に王宮に赴くのだ。
公式な使節とはいえ馬車ではなく馬で行くのだ、服装も身綺麗にはしているが貴族の物とは全く違う、いくら先触れが伝達済みとは言えイリアの協力が無ければ確認に余計な時間を取られるだろう。
その日はイリアの邸に宿泊し、翌日6人でベイルーンへと出発した、3人はバーニア領の騎士だ。
バーニア領は子爵家として5人の騎士を雇っている、その内の3名がイリアの護衛として同行するのだ。
因みに常備軍は約300人、今回の戦争には徴兵含め約1000人規模の軍の出動を国から要請されている。
流一達がフランドル王国を出てから8日目、遂にベイルーンへとやって来た。
会見は翌日なので流一とセラフィムは国の使節らしくベイルーンで最も高級な宿『龍鳴館』に宿泊する、尤も自分達で決めた訳ではなく先触れの使者が予約していたからだが。
因みにイリアも『龍鳴館』に宿泊した、翌日は共に登城するのでその方が都合が良いからだ。
一夜明け会見当日、3人は王宮に向かった、護衛の騎士は宿で留守番だ。
王宮内に騎士を連れて行く事は、王家の警備を信用していない、若しくは王家を軽んじていると捉えられるため基本的には連れて行かない事になっている。
王宮の入り口に着くと門番が厳しい顔で行く手を阻もうとしたが、直ぐに引いてくれた。
突然怪しそうな騎馬3人が王宮にやって来たので警戒したが、イリアの顔を見て怪しいものでは無いと理解したからだ。
「バーニア領主イリア=ローランド=フォン=バーニアです。フランドル王国よりの使節一行をお連れしました」
「えっ?こちらの方々がフランドル王国の使節の方なのですか?」
「そうです、故あって馬車は使っていませんが間違いなくフランドル王国の使節様です」
「わかりました、本日フランドル王国から使節が来訪する事は聞いておりました。どうぞお通り下さい」
やはり使節に見合った馬車でないと怪しまれるようだ、しかしそれもイリアのお陰ですんなりと王宮に入る事が出来た。
王国では直ぐに会見場に案内された、リシュリュー王国側も何の要件かは分かっているため無駄な時間は取りたく無いのだ。
会見場には国王、王太子の他宰相始め大臣全員と数人の上級貴族、近衛騎士団、騎士団、魔法師団、の各団長と副団長、王国軍の総指揮官と副官が参集していた、ただしイリアは参加していない、身分的には1子爵、1領主に過ぎないからだ。
「お久しぶりです陛下。本日は会見の場をいただきありがとうございます」
宰相による流一とセラフィムの紹介の後、まずは流一の挨拶から会議が始まった。
「うむ、久しぶりじゃな。してお主達はいつからフランドル王国の者になったのじゃ?」
「いえ、私は使節としてやって参りましたがフランドル王国の者ではありません。ただ『デザートイーグル』のメンバーのエレンとセリーヌの2人がフランドル王国出身ですのでその関係でここにこうして居ります」
「そうであったか。ではやはりそちらの望みは戦争の中止と言う事で良いのかな」
「その通りですございます。どうか陛下のご英断を賜りたく参りました」
「その方達はなぜ我が国が戦争をする事になったかご存じかな?」
突然外務大臣が聞いてきた。
「存じております、フランドル王国が負けアルバート王国の勢力が増すことを懸念してのことでございましょう?」
「その通りじゃ、それがわかっておるのであればこの戦争が仕方のないものだと言う事もわかっていただけると思うのじゃが」
「いえ、我がフランドル王国が負ける事はありません。ですのでアルバート王国が勢力を増す事もありませんので戦争をする必要はなくなるかと」
「フランドル王国が負けないとは如何様な次第ですかな?」
今度は軍務大臣が聞いてきた、戦力の差が圧倒的なのに自信を持って「負けない」と言い切る流一に疑問を持ったのだ。
「それは私たち『デザートイーグル』とここにいるセラフィムがフランドル王国についたからです」
この発言には出席者の殆どが大笑いを始めた、しかし笑えない者も居る、国王、宰相、軍務大臣、近衛騎士団団長と副団長の5人だ。
この5人はフランドル王国衰退の原因をしっかりと認識していた、そうライナ平原での戦いの事をである。
そして軍務大臣以外の4人は訓練を通じてそれが大袈裟では無いことを痛感していた。
「ではフランドル王国はどうするのですかな?我が国とアルバート王国に同程度の領土でも割譲してくれるのかね?」
「確かに、それなら戦争が回避出来るので負ける事はありませんな」
会議に参加していた貴族が笑いながら聞いてきた。
「別に何もしませんが?敢えて言うなら説得でしょうか?」
「はっはっは、説得?我が国ならともかくアルバート王国をですかな?それは無理でしょう」
「そうとも言えませんよ、私以外の『デザートイーグル』のメンバーは今そのアルバート王国に向かっています。会見がうまく行けば戦争は回避されるでしょう」
「そんなにうまく行くわけが無かろう。それに、もし説得に応じず戦争になった場合はどうするつもりなのだ?」
「その時は仕方有りません、戦うまでです」
「たかが4万の兵でか?我らの情報によるとアルバート王国は5万の軍勢だと聞くぞ。それにアルバート王国が開戦すれば同盟を結んだ南のガベン王国も3万以上の軍で参戦してくるのだぞ」
「わかってます。その上で言うならば、もし開戦となればフランドル王国軍は全員ガベン王国軍の迎撃にあて、アルバート王国軍は私達『デザートイーグル』が蹴散らします」
会見場はさっきよりもさらに大きな笑い声に包まれた、そしてその笑い声とは逆に眉を顰める5人の姿が流一とセラフィムには印象的だった。
「陛下、私は戦争を支持します。このような荒唐無稽な夢物語りを信用してアルバート王国に足元を掬われるわけには参りません」
外務大臣の言葉に多くの者が賛成した、しかしそれに異を唱える者が現れた、軍務大臣である。
「私は戦争に反対します。そして皆に聞いて欲しい事がある」
「聞いて欲しい事とはなんだ?」
戦争に賛成した外務大臣が質問した。
「そもそもフランドル王国がなぜ隣国の侵略を招くほど衰退したか、理由をご存じかな?」
「そんな事はわかっておる、前王グスタフと現王サイラスの内戦によってであろう」
やはり外務大臣が答えた、ほとんどの会見参加者も「なぜわかりきった事を?」と言う顔でその意見を肯定していた。
「それは違います。本当の原因は数ヶ月前、フランドル王国のライナ平原で大規模な戦争がありフランドル王国軍七万八千が壊滅したからです。その戦争の勝者こそここにおられる流一殿率いる『デザートイーグル』なのです。さらに、この者達はその後フランドル王国王宮において国王サイラスを討っております。それ故に現在のフランドル王にはサイラスではなく息子のウィルヘルムが就いております」
フランドル王国は情報統制により国王が交代している事と、騎士が近衛を含め殆ど居ない事は他国には秘密にしていた。
ただ、兵士が激減した事だけは犠牲が大き過ぎたため隠しきれなかったのだ、そのため現在の状況が生まれたとも言える。
その事をリシュリュー王国の5人だけが知っているのは偶然である、近衛騎士団との訓練で隔絶した実力を示したハンター、しかもマンモスの魔物を倒して叙勲までした相手なのだ、当然動向を探らせていた。
だからこそライナ平原での戦いも密偵が実際に見ていた。
ただし遠くからだったのでセラフィムがドラゴンだとは気付いていなかった、流一かエレンが作ったゴーレムだと勘違いしたのだ。
人と共闘するドラゴンが居るとは考えられないと言う思い込みと、2人のゴーレムバトルを知っていたからこその勘違いである。
「そんなバカな、そんな情報は聞いておらぬぞ。それより七万八千もの軍を壊滅させたのが『デザートイーグル』だと?この者達は一体どれだけの軍を持っておると言うのだ?」
「私達は軍など持っていませんよ。ただ私達『デザートイーグル』だけで勝った訳ではありません、ここに居るセラフィムも参戦しておりました」
この質問には当事者として流一が答えた。
「なっ、たった6人で七万八千の軍を壊滅させただと?ありえん、そんな事はありえん」
狼狽する外務大臣、他の参加者も驚きの顔を隠さない。
「皆の者静まれ、予は王として戦争の中止を宣言する。異論は認めぬ、良いな」
「陛下のご英断、厚く御礼申し上げます」
流一は恭しく国王に礼を述べた。
会見が終わると控え室に通された、夜は歓迎の晩餐会が開かれるがそれまでに少し旧交を温めようと言う事らしい。
尤も国王の本音はライナ平原での詳細を知りたいという事だが。
会見場を後にする時、外務大臣だけは「ありえん、絶対何か裏があるはずだ・・・」と何やら呟いていた。
控え室でしばらく寛いでいると宰相が直々に呼びに来た、そして通されたのは謁見の間だった。
旧交を温めると言うだけあって、集まっているのは国王、宰相、軍務大臣、近衛騎士団長、ラインハルト辺境伯、バーニア子爵の6人だけだ。
「疲れているところわざわざ来てもらってすまんな」
「いえ、とんでもありません」
国王の労いの言葉に恐縮する流一。
「早速で悪いがライナ平原では何があったのか聞きたくて呼んだのだよ」
軍務大臣がいきなり本題に入った。
それに対し流一はどう説明するか悩んでいたが、セラフィムが自ら語り出した。
「それは我から話そう。まずライナ平原では『デザートイーグル』が前方を五万八千の軍勢で待ち構えられ、後方を二万の軍勢に塞がれたのじゃ。そこで我が救援に駆けつけた」
「はて?既に前後を塞がれた状態でどこから救援に?」
「転移魔法じゃ」
「「「「「「転移!?」」」」」」
流石に流一以外全員驚いた、「転移魔法」は名前だけ存在する『始まりの魔法使い』さえ使えなかった幻の魔法だったからだ。
そんな6人の驚きを完全スルーして話しを続けた。
「そこで我が後方の二万を「炎のブレス」で一掃し、前方の五万八千の内の五万五千を流一達がこの者達しか知らぬ魔法で蹴散らした。残りの三千は『デザートイーグル』全員で剣と魔法を使って倒したのじゃ」
「すまぬが「炎のブレス」とはどんな魔法か教えてもらえるかな?私の知る「炎のブレス」とはドラゴンの技だけですので」
近衛騎士団長が聞いてきた、武人として未知の技や魔法はなるべく知っておきたいのだ。
「ん?その認識で合っとるぞ。我はドラゴン、上位龍じゃ」
「「「「「「ドラゴン?」」」」」」
流一以外の全員、声だけで無く驚きの顔まで揃っていた、そして暫し流れる静寂の時間。
セラフィムは何も考えていなかったが、流一は「嗚〜呼、誤魔化そうと思ってたのに」などと考えていた。
「本当にドラゴンなんですか?それがなぜ流一さん達を助けるのですか?」
意外にも最初に声を上げたのはイリアだった。
「うむ、それは以前『デザートイーグル』には世話になっての、それ以来友として付き合っておる」
不思議そうな顔をするイリア、そもそもドラゴンが人間の世話になる状況が思いつかない、それは残りの5人も同じようだ。
「そうじゃのう、信じられぬようなら元の姿に戻って見せようかの」
そう言ってみんなから少し離れて変身を解いた、ただ部屋があまり大きくないため少しだけ縮小してだ。
「これが本来の姿じゃ、尤もこの部屋に合わせて少し小さくなってはおるがな」
流一以外目を見開いてセラフィムを凝視した、幸い威圧感は圧倒的だが殺気が無いので部屋から逃げ出す者は居なかった。
また暫く静寂の時間が流れたが、その間にセラフィムはまた人型に戻った。
「まー我の正体はここにいるものだけの秘密という事にしておけ」
6人は無言でコクコクと首を縦に振った、というよりそれしか出来なかったと言う方が正しい。
暫くして次に静寂を破ったのは軍務大臣だった。
「あのー、もし我が国が戦争を選択していたらどうなっていたんでしょう?」
質問が質問だけに少しビクついている。
「流一達にはアルバート王国を任せて我がこの国を滅ぼしていたであろうな。はっはっは」
セラフィムは笑って答えたが6人には笑い事では無かった。
国王は「やっぱり自分の選択は間違ってなかった」と安堵し、宰相、軍務大臣、近衛騎士団長、ラインハルト辺境伯の4人は「国王様死ぬまで付いていきます」と決意し、イリアは「これ戦争はしない事が決まったって事で良いのよね」と安心した。
最後に流一達の魔法についても聞かれたが、ハンターである事を理由に教えなかった。
ただ本当の理由は「スプライト」や「水蒸気爆発」などこの世界には無い概念の魔法なので説明が出来なかったからなのだが。
謁見が終わると次は歓迎の晩餐会である。
晩餐会には会見に参加した貴族の他戦争のため王都に参集していた多くの貴族も招待された、戦争を中止した事を大々的に伝える意味もあるからだ。
晩餐会は国王の挨拶で始まると多くの貴族が流一とセラフィムの元を訪れた、叙勲されたハンターが隣国の使節になっている事に興味を持った者も居るが、主には会見場に居た貴族がライナ平原の戦いについて聞きたがったのだ。
晩餐会開始から2時間ほど、そろそろ皆酔いが回ってきた頃合いに事件が起こった、20人の武装した騎士が晩餐会に乱入して来たのだ。
犯人は戦争推進派の外務大臣と王国軍指揮官、それに数人の上級貴族だ、王国軍の指揮官が居たからこそ晩餐会場の警備員も騎士達を素通りさせた。
「国王陛下、目を覚まして下さい。たかが数人の人間に大軍を退ける力などあろうはずも御座いません。その証拠を私がこの者達を倒す事で証明して見せましょう」
20人の騎士が流一とセラフィムを取り囲むのを確認すると外務大臣が気勢を上げた。
「外務大臣、これはどういう仕儀じゃ?すぐに騎士達を下がらせよ」
「いいえそうは行きません。恐れながら陛下はこの者達を買い被っております。この者達にアルバート王国を制する事など出来るはずがありません。ここでフランドル王国に攻め入り領土を拡大しておかねば必ず後々アルバート王国に攻められまする」
「だからと言って外国の使節を宴席で殺めるなど言語道断であろう。それにこの者達で勝てなかった時はどう致すつもりじゃ」
「そんな心配は無用に御座います、我が騎士には魔法耐性、物理耐性を強化したミスリルの鎧兜を着けさせておりまれば」
それを聞いて流一は眉を顰めた、フランドル王国の近衛騎士が身に付けていた物と同じ物だったからだ。
ただ魔法が効かない事で不利になったり、ましてや危機に陥ったりと思ったわけでは無い、手加減しようと思っていたのが出来なくなったので眉を顰めたのだ。
なので国王に直接聞いた。
「陛下、どうやら手加減出来そうにありません。向かって来られれば殺すことになりますが宜しいですか?」
「致しかたあるまい」
多くの貴族の目の前で自国の騎士を殺しても良いと言うのだ、国王としては苦渋の決断だった。
「ではセラフィムさん、何人相手にしますか?」
「ふむ、我にも活躍の場を与えるとな?では半分の10人を我が相手しよう」
そのやり取りを聞いていた外務大臣は激昂して騎士をけしかけた。
「強がるのも大概にいたせ、お前達に勝ち目など無いのだ。騎士達よこの者達に身の程を教えてやれ」
「「「「「「「「「「おおおおお・・・・・・」」」」」」」」」
ガボガボガボ・ゴボゴボゴボ
10人の騎士が雄叫びを上げたが直ぐに声が収まった、そして残り10人の騎士はその場で溺れていた。
流一が10個のウォーターボールを作り10人の騎士の頭に固定したのだ、日頃の魔力操作の賜物である。
ミスリルの防具がいかに魔法耐性が強かろうとそれはあくまで直接攻撃に対してである、実体の炎や水を使った搦め手には全く通用しない、それは既にフランドル王国の近衛騎士との戦闘で証明済である。
雄叫びを上げていた10人の騎士達は、目の前で巨大なウォーターボールにより窒息死して行く仲間を恐怖と共に見つめていた、もちろん流一とセラフィム以外は全員同じ恐怖を味わっていたが。
「さて、それでは我も行くかの」
セラフィムはそう言うと残りの10人の騎士に向かって行った。
それを見た騎士達は慌てて剣を構え迎撃の準備を整える、しかしセラフィムはあまり早いとも思えない動きながら1人、また1人と素手で首を捻り殺していった。
最後の1人を殺した後、セラフィムは外務大臣の元に向かった。
「こやつも殺した方が良いか?」
「いえ、それは陛下に任せましょう」
「ならば戻るとしようか」
そう言うとセラフィムは流一の隣に戻って行った。
外務大臣は驚きと恐怖で腰が抜けたのかその場でへたり込んでしまった。
「陛下、後のことはお任せして宜しいでしょうか?」
「・・・・・・・」
「陛下?」
「ああすまぬ、わかっておったつもりじゃが、これほどの力を目の当たりにするといささかな・・・」
「では後のことはお任せしても?」
「あいわかった。とんだ粗相をして申し訳ない。後はこちらに任せてくれ」
そして直ぐに外務大臣とその仲間達が捕縛された。
数日後、外務大臣と王国指揮官は処刑され家は廃爵となった、仲間だった数人の貴族は全員上級貴族であったため揃って男爵へと降爵され小さい領地へと転地させられた。




