9 異世界でお金を稼ごう
二人と共に森へと狩りにやって来た流一。
武器はサバイバルナイフと紹介したが今日は魔法の訓練をしていないので魔法で狩りをする事にした。
アメリアの武器はロングソード、ユリアナの武器は槍だったが通常の狩りでは二人とも弓を使っている。
魔物なら襲って来るが普通の動物は逃げてしまうためだ。
しかし熊や狼など襲ってくる動物もたまにいるのでアメリアは常に帯剣している。
しかし槍は弓の邪魔になる為、ユリアナは槍を流一の居た小屋に置いて弓だけで狩りをする。
三人は見逃しが少なくなるように少し広めに距離をとって横一列に並び森の中を進んだ、そして最初に獲物を見つけたのは意外にも流一だった。
見つけたのはホロホロ鳥と言うキジに似た鳥だ、警戒心が強く敏捷なため狩るのが難しい鳥らしい、それを風魔法のウィンドカッターで仕留める。
初めてにしてはうまく仕留められたと言うべきであろう、が、まだ魔法制御がうまく出来ないため胴体を真っ二つにしてしまった。
「ちょっと、それじゃ売り物にならないじゃない」
やはりと言うべきか、思いっきりアメリアに怒られた。
「流一くん、次は売れるように狩ってね」
丁寧な口調でダメ出しをするユリアナ。
「ゴメン、まだ上手く魔法が制御できなくて。次はもっと上手くやるよ」
言い訳とも取れる謝罪をして狩りを再開する。
しかしそれからの流一には活躍の場は用意されていなかった。
結局今日の狩りはウサギ3羽とホロホロ鳥2羽をアメリアとユリアナが仕留めただけ、流一は最初の真っ二つにしたホロホロ鳥1羽だけという散々な結果だった。
結果がどうであれ腹は減る、なので流一のホロホロ鳥は売り物にならない事もあり流一の今夜の夕食にする事にした。
小屋への帰り道で
「二人とも疲れてない?こんな時は甘いものが良いんだけどチョコレート食べる?」
流一は自分のレクスブルクまでの旅費を稼ぐつもりだったのに全く戦力にならなかった事を申し訳なく思った。
なので2人に感謝というほどではないが慰労のつもりでチョコレートを勧めてみた。
異世界小説ではチョコレートは未知の食べ物として扱われる事が多いので点数稼ぎになるかな?という下心も少しはある。
そしてやはりというべきか運良くというべきかこの世界にもチョコレートは無いようだ、もっともアメリアとユリアナが知らないだけという可能性も残されてはいるが。
「ちょこれえと?それ何?」
「ちょこれえとって何ですか?」
不思議そうに聞くアメリアとユリアナ。
「これだよ、この世界にはチョコレートって無いの?甘くて美味しいよ」
そう言って少しドヤ顔でバックパックから取り出して二人に渡す、そして心の中で『やっぱり無かった』とガッツポーズを決めている。
2人は初めて見る黒い食べ物を不思議そうに見ていた。
匂いを嗅ぐと甘そうな香りがするが2人には見た目が今一つ美味しそうに見えない。
しかしせっかくの流一の好意と思い意を決して二人同時に眼を強く閉じて口に放り込んだ。
「「甘ーい」」
すぐさまどこかのお笑い芸人のようなセリフが二人から漏れた。
「何これ、こんな美味しいの初めて」
興奮するアメリアとユリアナ、チョコレートを噛まずに口の中で溶かすように味わっている。
それを見て『やっぱり女の子は甘いものに弱いな』とほくそ笑む流一であった。
どうやら流一の目論見は成功したようだ。
「流一くんはいつもこんな美味しい物を食べているんですか?」
何かを期待する目で聞いてくるユリアナ。
「うん、疲れた時用にチョコレートと汗を沢山かいた時用に塩飴をいつも持ってるよ」
得意げに言う流一、もちろんドヤ顔だ。
しかし二人は流一の思いとは別の事に興味を示した、そして感心するより不思議な感じで流一に質問する。
「あのー、疲れた時とか汗を沢山かいた時って・・・チョコレートはクスリみたいなものですか?それにシオアメ?でしたっけ?それも」
流一のドヤ顔が崩れた、予想外の質問が来たからだ。
「えっ?この世界は疲れたら甘いものとか汗をかいたら塩分摂取とか無いの?」
「何ですかそれ?聞いたこと無いです」
二人は顔を見合わせてお互い首を傾げている、再び『知ってる?』『知らない!』と目で会話したのだ。
「俺の居た世界では昔から経験則として言われてたんだけど・・・」
「流一さんの周りはみんなお金持ちなんですか?」
ユリアナの質問でやっと流一は理解した、この世界甘味は贅沢品なのだと。
事実この世界では甘味はごくたまに食べる嗜好品であり、決して疲れたからと軽々しく食べる事の出来る物では無いのだ。
なので、
「いや周りがお金持ちなんじゃ無くて、甘いものが安く手に入るだけなんだ」
と答えるのが精一杯だった。
流一の思惑が外れ若干空気が重くなっていたが、小屋に到着すると気を取り直してこれからの相談をする事にした。
「これからなんだけど、今日と同じくらいの成果だと流一の旅費を稼ぐのに一週間くらいかかると思うんだけどどうする?」
ユリアナに問いかけるアメリア。
「そうね、私たちは今まで通りで流一くんは旅費が貯まるまでこの小屋で寝泊まりしてもらうって事でどう?」
「そうね、村は近いけど宿泊費が余分にかかるとその分出発が遅れるものね」
どうやら流一の意見を聞く気はないらしい、と言うより異世界から来たという迷子?迷い人?なので聞いてもどうにもならないと分かっているからだ。
もっとも流一も旅費が貯まるまでこの小屋に寝泊まりする気満々だったのでそこは問題無い。
結局流一は旅費が貯まるまでこの小屋で寝泊まりし、二人が毎日来てから一緒に狩りに行き獲物はユリアナが毎日村で換金する事になった。
「じゃあそういう事でまた明日ね」
「また明日よろしくね」
そう言って二人は帰って行った。
二人が帰ると流一はさっそく切り出しナイフで自分の狩ったホロホロ鳥を捌いた、慣れていない事もあるが胴体が変な風に半分になっているのでロスが多く下手くそだ。
それでもなんとか捌き終わるとファイアーで火を起こして焼いて食べた。
魔法で直接焼く事も考えたが、まだ魔力操作が上手くないので生焼けや焼き過ぎになると思いやめたのだ。
その後残りの魔力が無くなるまで訓練をしてからヨネ子にメールした。
「マーガレット、なんだかんだでうまく行ったよ。二人はこれからハンターになるんだって、俺も一緒にハンターになってパーティーを組む事になったよ」
【あなたハンターがどういうものか分かってるの?】
「もちろんだよ、そっちの世界の異世界小説で良くある冒険者とほとんど同じだよ」
【そうなの?じゃあ魔獣と戦うって事?あなた逃げ出さずに戦えるの?】
小説では皆んな勇敢に戦っている、なので自分も出来る!
流一は根拠も無くそう思っていた、しかし根拠の無い思いは崩れ去るのも早い、ヨネ子に聞かれると急に不安になって答えに窮した。
【どうしたの?戦えるの?そもそもあなたまだ強力な魔法は使えなかったでしょ】
「大丈夫、戦えるよ!」
堂々と答えた、だが自信を持ってではない、言葉にする事で自分を奮い立たせようとしたのだ。
【そう、ところで今どれ位の魔法が使えるようになったの?】
「魔法陣でいうと、初級と思われる魔法全部と火、水、土の中級魔法かな」
【なるほどね、で、ハンターにはいつなるの?】
「それが、ハンターにはレクスブルクって街に行かないと成れないらしいんだ。でも俺この世界のお金持ってないからレクスブルクまでの旅費を狩りで稼いでる所なんだけど後一週間くらいかかるって言ってた」
【あらそうなの?だったら私からのアドバイスよ!その一週間死に物狂いで訓練して収納魔法を使えるようになりなさい】
「確かに小説では収納魔法はマストだよね。でも魔法陣の中に収納魔法って有ったっけ?」
言った後に『ヤバイ』と思ったがもう遅い。
【流一、あなた魔法陣を全部見てないの?あれだけ見なさいって言ったでしょ!】
やはり怒られた、しかしメールによる文字だけなのでヨネ子の想いは正確には流一に伝わらない。
だからこそ何度言われても見ていなかったともいえる。
「攻撃魔法は全部チェックしたんだけど」
とはいえ少しは伝わっているし反省もしているのでヨネ子には分からないがバツが悪そうにしている。
【収納魔法は上級だけど制御が必要ないから十分な魔力量さえ有れば魔法陣のおかげで使えるはずよ】
ヨネ子は既に収納魔法を使えるので特性が分かっているようだ。
「そうか分かった、俺頑張るよありがとう」
【私はこれから魔法陣の事をもっと詳しく調べてみることにするわ】
「了解、何か分かったら俺にも教えてくれ。それじゃおやすみ」
そして流一は寝袋に包まれた。