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異世界に飛ばされたらメールだけ現代と繋がった!  作者: ファンタ爺LV999
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81 バーニア子爵領にて

バーニア子爵王都邸での「子爵陞爵及びバーニア領主就任記念パーティー」も無事終わると2日ほどは王都で過ごした、もちろん今後の予定を広める為だ。


「どう言う事だ?『デザートイーグル』が我が国に来るだと?」


その情報を聞き訝しむガニエス侯爵。


「正確には我が国を通過するらしいですが、どちらにしても俄かには信じられませんな」


共に悩む大使補佐、セリーヌだけならまだしも件のエレノアまでフランドル王国に来ると言うのだ、「何故暗殺の危険を冒してまで?」と疑問に思うのも仕方ない。


「あれだけ派手に活躍しておいてバレぬとでも思っておるのか?」


「もしかすると、我らが東方を重点的に探していると言う情報を得て裏をかくつもりなのでしょうか?」


「それにしても迂闊すぎる、それよりはその情報が陽動で本当は東か南に向かうと言う事もあり得る。西方に向かう動機はわかっておるのか?」


「一応『始まりの魔法使い』について調べる為とはなっておりますが」


「『始まりの魔法使い』か。確かにそれなら西方の国には『ライカ教』の総本山や聖地などが有るが、それを調べるだけで命の危険を冒すであろうか」


『ライカ教』とは『始まりの魔法使い』こと加藤雷華を精霊の(より正確には精帝の)御使いとして崇める宗教である。


「それはわかりませんが、かなり多くの者にそう触れて回っております。その中には高位貴族も多数含まれております。であるならば実際に西方に向かわねば彼奴らの立場が無くなる事になると考えまする」


「うむ、確かにそうじゃな。何を考えておるかは知らぬがそれだけ大々的に触れておれば西方に行かぬ訳にもいくまい。良し、では早々に帰国し王にその旨報告しようぞ」


こうして流一の思惑通りフランドル王国の使者は情報を持ち帰るのであった。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


バーニア子爵領は王都の南西にあるローランド伯爵領の北隣にある、領都はバーンブルクと言い人口約1万人、領全体でも1万7千人程の子爵領としては平均的な広さと人口の領だ。

ただ、これといって特徴も無く特産品も無い為収入的にはあまり多くない、今のままなら領経営と王都邸の維持がギリギリ出来るくらいしか無い。


そんなバーニア子爵領バーンブルクにやってきた『デザートイーグル』一同、当初の予定通りの訓練をこなす事にしたが、流一だけは領の特産品作りを手伝う事にした。

日本人的にはお世話になったままお礼もしないのは心苦しい、特に今回は流一の方からお願いしたから尚更だ。

もっとも流一は子爵領を調査してヨネ子に伝えるだけ、考えるのはヨネ子の仕事なのだ、流一的には。


「流一、明日からの訓練はどうするの?」


アメリアが聞いてきた、流一だけ別行動なのは良いが対人戦闘の訓練と言ってもどうすればいいかなど判らないので仕方ない。

ただエレンには既にヨネ子から言われた訓練方法を伝えている。


「セリーヌに騎士や兵士の戦術とか戦法なんかを聞いてもらえる?それに合わせた戦い方を模索して欲しい」


「そっか、セリーヌは元騎士だから兵士や騎士との戦い方は知ってるものね。セリーヌお願い出来る?」


「もちろんよ、私の知っている事は全て教えるわ」


セリーヌは快諾した、もっともこれから『デザートイーグル』だけで一国の軍隊と戦うのだ、仲間の戦闘力強化は自身とエレンの生き残りのためには必須なのだから当然ではある。


一夜明けイリアと流一は早速領内の視察に出かける、イリアも領主として領の実態を把握するために視察を行うのだ。


バーニア領には領都の他に人口500人前後の村が10村、200人から300人の村が5村存在する。

農業の主力は主食の小麦だが、最近ではジャガイモも主食になりつつある。


この世界の農業は輪裁農法が主流である、これは約2000年前に『始まりの魔法使い』こと雷華が伝えたものだ。

余談だが、それまで人間は西方の一部地域に人口のほとんどが集中しており総人口も7000万人前後だった、それが輪裁農法のおかげで食料生産力が上がると人口が爆発的に増えだした為世界に進出していった、そして人口の増えた人間がエルフやドワーフのような他種族を差別し始めたのだ。

『始まりの魔法使い』は全種族の共存を目指していただけに皮肉としか言いようがない。


輪裁農法も2000年も経つと色々改良されていたりする、初期は小麦→カブ→大麦→クローバーだったが、カブをジャガイモに変えたりクローバーをマメ科植物に変えたり四圃を六圃に変えたりと試行錯誤が繰り返されそれぞれの地域ごとに最適な方法で農業が営まれている。

バーニア領でもこれまで王国の管理地だった関係で生産より研究のための農業を行なっており、数年前より小麦→ジャガイモ&大豆→大麦→ピーナッツと言う四圃式の実験を行なっている農家がほとんどだ。

この地が穀物栽培には不向きな土地が多く広大な農地たり得ないため実験場に選ばれたと言う事情もある。


そのためそれ以外の土地では果物、特にワイン用の葡萄の栽培が盛んで規模は小さいがワイナリーも2つある。

さらに領の約2割を深い森が占めており、3つの村が林業を生業にしている。

バーンブルクの南西方向にはクラウディア辺境伯領、ローランド伯爵領、バーニア子爵領の三領に跨る広大な魔物領域も存在する、そのためこれまでは他の二領に負けているがハンターギルドも守り立てれば良い収益が見込めると思われた。


流一とイリアは3日ほどかけてこれらの状況を確認した、もっとも馬で廻る流一とイリアだったから3日で済んだのだ、普通ならば10日前後はかかる。


そして例によって流一はヨネ子に報告し返信を待った。


【状況はわかったわ、それならブランデーとウィスキーを提案すると良いわね】


「ブランデーとウィスキーか、確かにこっちでそんな酒は見た事無いな。基本はワインばっかりだったし」


この世界で酒と言えばほぼ醸造酒だ、一番飲まれているのがワインで貴族のパーティーで提供されるのはほぼワインだ、次がエールでその次が蜂蜜酒(ミード)、後は地域によって日本の「どぶろく」に似たものや羊乳酒などいくつかの種類がある程度だ。

これは蒸留酒の作成には醸造から入るため発展しなかったとも考えられる、乱暴な言い方をすればワインを蒸留した物がブランデーでエールを蒸留した物がウィスキーとなるのだ、なので醸造した時点で全て飲まれては蒸留など出来るはずはない。

この世界ではこれまで人口の増加が著しかったため酒の消費量も多く蒸留の必要性が無かったので新たな酒を創造する原料も必然性も無かったと言う事だ。


「理由を聞いても良い?」


もちろん好奇心から聞いたがそれだけでは無い、イリアに説得力のある説明をするためだ。


【まず原料となる葡萄や麦の生産がある事。ワイナリーが有って酒造りの技術が既に有ること。保存用の樽を作る木も森から取れる事の3つが主な理由ね】


「成る程ねー、確かにそれなら領内で完結出来るし沢山の村の発展に繋がるね」


【そうよ、後は出来た後の広告と販路の構築だけよ】


翌朝、流一の元に単式蒸留装置(ポットスティル)複式蒸留装置(パテントスティル)の設計図、ブランデーとウィスキーの作り方が送られて来た。

因みに蒸留装置はポットスティルがコニャック、パテントスティルがアルマニャック用とどちらもブランデー用の装置だが、ウィスキーにも流用出来るので無問題だ。


流一は早速イリアにブランデーとウィスキーの生産を提案する。


「あの、ブランデーとかウィスキーって何ですか?」


この世界では初めての酒なので名前だけ言われてもイリアには判らない、なので素直に聞いた。


「ブランデーもウィスキーもアルコール・・・いや酒精の強い酒の事だよ」


「成る程、お酒ねー。ですが始めて聞きましたし造り方がわかりませんが、教えてもらえるんですか?」


「もちろん。造り方も必要な道具も全てここにあるから」


流一はそう言いながら数枚の羊皮紙をイリアに見せた。


「これが・・・ありがとう。では早速この蒸留装置と言う物を鍛冶屋に注文しましょう」


こうしてブランデーとウィスキー造りは始まった。

場所は2つあるワイナリーの1つを増築してブランデー用に、農村の1つに新たにウィスキー製造所を新築する事になった。


保存用の樽も同時に大量に作成依頼する、これまで使用していたワインの樽はこれから使えなくなるからだ、これはイリアが領主になった事に関係する。

イリアが領主になった事でバーニア産の酒をブランド化する必要が出てきた、なので樽にはバーニア子爵の紋章を入れる必要が生じたのだ。

紋章とは家柄や格式、権威といった物を象徴するマークの事で貴族家なら皆独自の紋章を持っている、イリアもこれまで必要な時は実家であるローランド伯爵家の紋章を使っていたが、創設貴族となった事で新たな独自の紋章を作っていた。

これから作る酒には全てこの新たな紋章を付ける必要があるためこれまで使っていた樽が使えなくなるのだ、そのため早期に大量注文した。


一気の改革にはそれなりの資金が必要だがイリアにはマンモスの魔物の素材代が入ってくる、流石にいくらになったかは聞いていないがまだまだ余裕があるようだ。


結局バーニア子爵領には2週間ほど滞在した、この間でアメリアとユリアナは対人戦闘についてひと通り学び終えた、後は実践あるのみだ。

エレンも魔法の並列起動が出来るようになっていた、これでエレン一人で合成魔法が使えるようになったのだ。


「今まで世話になったね、ありがとう」


いよいよ西方の国に向けて旅立つ日、流一がイリアに挨拶をした。


「何を言っている、世話になったのはこちらだ。来てくれて本当にありがとう。また機会があれば是非来てくれ、領民をあげて歓迎するよ」


「ああ、その時は宜しく」


流一はそう答えたが社交辞令以外の何物でもない、現代に帰る方法が見つかれば直ぐに帰るつもりだからだ。

しかし女性陣はそうではない。


「イリア、必ずまた来るわ、それまで元気でね」


「私もまた来るわ、その時は新しいお酒をご馳走してね」


「私も、でも私はお酒よりご馳走の方が良いかな」


「私も子爵領をどれだけ発展させられるか見てみたいですし」


セリーヌ、アメリア、ユリアナ、エレンもそれぞれイリアと言葉を返しあってから旅立った。


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