74 イリアと再会
フェルキルトを発ってから5日後、『デザートイーグル』は早くもライヒブルクに現れた。
緊急という事だったので、ほぼ直線コースで騎馬強化を使い続けて走ったからに他ならない。
ライヒブルクに着くと真っ直ぐにイリア邸へと向かった。
「こんにちは。『デザートイーグル』です」
家人に名前を告げると直ぐにイリアの元へ案内してくれた、もっとも名前を告げなくてもイリアの家人は全員『デザートイーグル』の顔を覚えているようではあったが。
「よく来てくれたセリーヌ。それに他のみんなも」
自分で呼んだのだから当然ではあるが満面の笑みで迎えてくれた、そしていつものリビングに通された。
「氷河にマンモスの魔物が出たんですって?緊急依頼なんて驚いたわよローランド準男爵様」
「嫌ね、やめてよセリーヌ。今まで通りイリアで良いわよ」
セリーヌの意地悪なセリフに少し恥ずかしがりながら答えるイリア、仲の良い友人同士らしい掛け合いである。
「冗談は置いといて、リシュリュー王国からの依頼って言ってたけど本当に王都には行かなくて良かったの?」
「ええ、私が全権を任されたから大丈夫よ。そのための体面もあって準男爵になったって事もあるし。それよりごめんなさい、実は一部の人にあなた達がマンモスの魔物を倒した事がある事と氷河人の事を喋ってしまったの」
「それなら気にする事はないよ、氷河人の事は別にしてマンモスの魔物討伐に呼ぶのがCランクハンターじゃ納得出来ない人が多いだろうからね」
流一が答えた。
流一達はフェルキルトのギルドマスターからAランクハンターパーティー全員と200人以上のマンモスの魔物討伐軍が討伐に失敗した事を聞いていた、なのでその上で呼び寄せるのがCランクハンターパーティーでは周りを納得させるだけの何かが必要だったという事は理解していた。
「そう言ってもらえて良かったわ。ところで依頼の事は何処で聞いたの?」
イリアは『デザートイーグル』が何処まで行っていたか気になって聞いてみた、別れてから約100日が経っているので呼び戻したのは迷惑だったのではないかと気になったのだ。
「5日前にカーレムのフェルキルトで聞いたわ」
セリーヌがサラッと答えた。
「えっ?5日前にフェルキルトで?・・・あなた達フェルキルトからここまでたった5日で来たの?」
驚くイリア、通常なら最短でも10日はかかる、もちろん馬でである。
それが半分の日数しかかかっていないのだ、驚くのも無理はない。
「そうよ、実はわたし達騎馬強化って言って、馬にも身体強化を使って走って来たから早かったのよ」
「でもその魔法ってずっと使い続けられないでしょ?特にあなた達3人は魔法使いじゃ無いんだし」
セリーヌの説明では疑問は解決しなかった、しかしエレンの言葉で納得する。
「それは私の魔法です。この杖を使えばマナが減っても直ぐに回復出来るんです」
「相変わらずあなた達は規格外ね。でもだからこそ信頼できるわ。改めて来てくれてありがとう」
ようやく疑問が解消されたイリアは改めて歓迎してくれた。
それからは情報の共有・・・という名の雑談が始まった、まぁ流一があまり混ざれていないのでガールズトークと言った方が良いのかも知れないが。
話し始めてから約2時間、イリアが話を切り上げた。
というよりそろそろ夕飯の時間なので続きは食事の後でとなっただけだ。
しかし来訪が突然だったためイリア邸では準備が間に合わないので外食になった、もっとも依頼して招聘した『デザートイーグル』の食事なので料金は王国が経費として出してくれるのだからイリアも外食の方が都合が良い。
食事はライヒブルクでも高級で通っているレストランに行く事になった、そしてイリアと『デザートイーグル』はチャーターした馬車に乗りそのレストラン『天使の祝福』へと向かった。
馬車で向かったのはレストランが遠いからでもイリアが贅沢になったからでも無い、ましてや経費が王国持ちだからなどと言うせこい理由でもない、イリアが準男爵に陞爵され貴族になったからだ。
他国の人間に「リシュリュー王国は貴族でも馬車が使えないほど貧乏」などと思われてはイリアではなく国の体面が保てないから仕方ない、貴族になるとは意外と面倒なのである。
『天使の祝福』に到着し店内に入ると店員に直ぐテーブルへと案内された、まだ人数も告げていないどころか一言も発していないのに。
「ねえイリア、いつの間に予約したの?」
こっそりと聞くセリーヌ、他のメンバーも同じ疑問を持っていたらしく聞き耳を立てている。
「あなた達が来たって聞いて直ぐに使いを出したのよ。ここにじゃ無いけどね」
「ここじゃ無いって?どういう事?」
「ふふ、直ぐにわかるわ。紹介したい人が居るから」
「なるほどね、その紹介したい人が予約したのね」
小さな店では無いがこれ以上の会話が出来る程広い訳でも無い、つまりテーブルに到着した。
そこには二人の人物が待っていた。
「先ずは座って。話はそれから」
イリアに促され全員テーブルに着いた、そして店員に料理を運ぶよう指示した。
「先ずは紹介するわね。こちらがライヒブルクの騎士団長のマードック。その隣が副団長のオットーよ」
金髪で精悍な顔立ちの騎士団長と青髪でシャープな顔立ちの副団長、いうなればイリアの上司に当たる人物だ。
「初めまして、騎士団長を務めるマードック=フォン=ブルームハルトです」
「同じく副団長を務めるオットー=フォン=ラインハルトです」
団長と副団長の自己紹介の後『デザートイーグル』の紹介である。
「こちらが今回マンモスの魔物討伐の依頼を受けてもらった『デザートイーグル』の皆さんです」
一人一人の紹介はしなかった、と言うより必要無かった、団長・副団長共に既に『デザートイーグル』の事は調査済みだったので。
「初めまして、『デザートイーグル』リーダーの流一米村です」
「剣士のアメリア=マルスです」
「槍士のユリアナ=マーキュリーです」
「魔法使いのエレンです」
「剣士のセリーヌ=ジークムントです」
それぞれ自己紹介した、もっともエレンは本名では無いが。
丁度良いタイミングで食事が運ばれて来た、それからは会食しながらの歓談となる。
正確に言うならば歓談では無く会議ではあるが。
「ではマンモスの魔物討伐の成功を祈念して乾杯」
「「「「「「「乾杯」」」」」」」
イリアの音頭で乾杯をしてから食事が始まった、騎士としては団長の方が立場は上だがマンモスの魔物討伐についてはイリアが全権を握っているからだ。
話の中で団長はブルームハルト伯爵家の三男、副団長はここライヒブルクの領主ラインハルト辺境伯家の長男つまり跡取りと言う事がわかった。
イリアを含めた3人には結構微妙な距離感がある、一番立場が上の団長が家督を継げない三男でその下の副団長が団長の実家の伯爵家より上の辺境伯家の跡継ぎ、さらにこの中で一番立場が下の騎士であるイリアはこの中で一番地位の高い貴族家当主である、将来的には副団長の方が上になるとはしても今現在はイリアの方が地位が高いのだ。
取り敢えず微妙ではあるがそんな事は『デザートイーグル』には関係ない、流一は早速マンモスの魔物討伐について話し合いをするよう促した。
そして、マンモスの魔物討伐隊はここに集まっている8人という事が確認された。
『デザートイーグル』としてはイリアを含む6人でと考えていた、何故なら身体強化で移動すれば1日の捜索範囲が格段に広くなるので早くマンモスの魔物を見つける事が出来るからだ。
しかし団長と副団長も引く訳には行かない、討伐に成功するにしても失敗するにしても王国への報告は必要だからだ、それも当事者であるイリアとは違った第三者の視点としての。
さらにイリアや『デザートイーグル』に不測の事態が起きた時の対策・連絡要員としても同行すべきだと主張した。
もっとも団長・副団長共に『デザートイーグル』の強さは認めているがマンモスの魔物討伐に成功するとは思っていない、自分達は討伐に失敗したイリアと『デザートイーグル』の救助要員だと思っている。
前回のマンモスの魔物討伐軍の敗北が余程身に染みているようだ。
取り敢えず此処では主に捜索の場所や方法等戦い方以外についての話し合いが行われた。
もっとも捜索場所以外は確認だけである、荷物は収納魔法、捜索方法は索敵魔法があるので相談の必要など全く無い。
単に団長と副団長がそれらの魔法が使える事を知らなかったので教えただけで終わりである。
最後に報酬、と思ったがこれもイリア邸に戻ってからという事になった。
普通なら最初に報酬の交渉だと思うが『デザートイーグル』にとっては友人の危機を救うという使命感の方が上なのでどうでも良いのだ、とはいえ正式な依頼主はリシュリュー王国なのでしっかりと貰うものは貰うつもりである。
そして戦い方について話さなかったのは戦うのがイリアと『デザートイーグル』の6人だけなのでイリア邸に戻ってから話す予定だからだ。
団長と副団長にはそう言って納得してもらった。
ただ本当の理由は他にある、後でわかる事だとしてもこの場で『デザートイーグル』の戦闘力を推測されるような事はしたく無かったのだ。
特に今回は万全を期すべくヨネ子に戦い方を聞いている、今回は氷原と違い氷河での闘いのため前回と同じ戦法が取れない事と、リシュリュー王国からの依頼であり友人イリアの名誉がかかっているので失敗は許されないからだ。
人は自分に理解出来ない事に対しては不安になるものである、そしてヨネ子の考えた魔法や戦法は団長・副団長の二人には到底理解できない、なので此処で話したとしてもただ二人を不安にさせるだけだったのでイリア邸に帰ってからというのはいい判断だったと言える。
もっともこの判断が戦略であれば流一も大したものではあるが、残念ながら偶然であった。
食事も終わり、それぞれ帰路に着いた。
明日はいよいよマンモスの魔物討伐に出発・・・・・ではなく1日休養となった。
『デザートイーグル』の到着が急だったため団長と副団長の武器と防具の手入れが出来ていなかったのだ、武器には自己修復が着いており攻撃をほとんど受けた事が無いため防具のメンテナンスも殆ど必要の無い『デザートイーグル』には残念なお知らせだった。
まぁ予定外の休日が1日出来たのでラッキーだったとも言えるのだが。
イリア邸に帰り着くとさっそくリビングで話し合い、先ずは報酬から。
「先ず報酬だけど、討伐の成否に関わらず10万マニ出るわ」
成功はともかく失敗でも日本円で約1000万である、余程切迫詰まっているのかイリアの力かはわからないが『デザートイーグル』に不満は無い。
「それから討伐に成功した場合のマンモスの魔物の素材だけど、依頼は討伐なので所有権はこちらにあるわ。なので人数で等分に分配しましょう」
討伐に成功した場合とは言ったが当然イリアは失敗するとは思っていない、『デザートイーグル』に対する信頼はそれほど厚いのだ。
「ちょっと提案が有るんだけど」
マンモスの魔物の素材について流一から意見が有るようだ、最も本当はヨネ子の意見だ。
ヨネ子はマンモスの魔物の話を聞いた時、直ぐに準男爵への陞爵がマンモスの魔物関連だと看破した、そして討伐に成功した場合もう一度子爵へ、悪くても男爵への陞爵が有ると予測した。
実際は秘密会議で子爵への陞爵が約束されているのでヨネ子の予測は見事的中している。
なのでその予測を流一に伝え、マンモスの魔物と戦う戦法と同時に素材の扱いについてもアドバイスしていた。
「マンモスの魔物の素材は全部イリアにあげても良いかなって思うんだけど」
そう言ってヨネ子のアドバイスをさも自分の意見のように語り出した。
曰く、討伐成功のあかつきには更なる陞爵が有る事(これはイリアが驚いて肯定してくれたので後の話がしやすくなった)、その場合邸や日用品、調度品など爵位に見合った物へと交換する必要があるのでお金が必要な事、『デザートイーグル』の収入は討伐報酬だけでも十分過ぎるほどある事、ただし魔石だけは王国に献上する事、理由は公式には世界で3個目の透明魔石となる(エレンの持つ杖にも付いている事は内緒だから)為、売りにくい上に個人で保有するのも難しいので王国に献上して恩を売っておく方が都合が良いからという事だ。
それに対して『デザートイーグル』の女性陣は全員「また知恵の魔法ね」と思っていたがその事は口にしない、そして反対もしない。
納得出来る説明だったのは当然だが、そもそも女性陣にとって『知恵の魔法』は絶対だからだ。
まさしく過去の実績の賜物である。
それに対し、最初こそイリアは遠慮していたが最後には受け入れてくれた。
そして次に戦法の確認、これは簡単に終えた。
翌日が予定外の休日となったため、明日実際に訓練して確かめる事にしたからだ。
その後は流一を除け者にしてのガールズトークで夜が更けていった、しかし嫌われているわけではない、単に流一がついていけないだけなのだ。




