7 第一種接近遭遇2
即座の綺麗な否定に流一はある意味感心していた、しかし関心している場合では無い。
2人に付いて行きたい気持ちは山々だが自分の事を信じてもらえていない以上それは無理と判断しての『教えて欲しい』だったのだから。
もっとも、あわよくばそこで信頼を得てから連れて行ってもらおうとの下心も有りはしたのだが。
しかし即答で拒否られたからといってここで簡単に諦めるわけには行かない、どのみち今回がダメでも次も同じ事を繰り返すのは目に見えている、ならばここが踏ん張りどころと流一 は心を強くした。
「あのー、理由を聞いてもいいかな?」
まずは理由から聞く、論理的に外堀を埋めて行けば大丈夫なはずと思ったからだ。
しかし流一にそんなスキルがあるはずもなかった。
「私たち忙しいから(よ)」
素っ気なく答えるアメリアとユリアナ、ここでも息はピッタリだ。
流一は更なる綺麗な即答に早くも心を砕かれた、取り付く島もないとはこの事だ。
なにせ忙しい理由を聞けば流一には関係ないといわれるのが目に見えている、これでは埋める外堀が無いのだから。
『ここは踏ん張りどころ』と意気込んだ自分が恥ずかしくなる。
「ここから東に少し歩けば村があるからそこで話を聞きなさい」
アメリアにそう言われた
「わかった」
気落ちした流一にはその一言を出すのがやっとだった。
流一のあまりに気落ちして項垂れた様子にアメリアとユリアナは少し罪悪感を持った、だからといって前言撤回とはならない。
それでも流一は気持ちを切り替える事にした、村の場所も聞けたのでとりあえずそこへ行けば何とかなるかもと考えて。
だからといって急ぐ必要は無い、まだ起きたばかりなのでせめて魔法の訓練くらいはしてから行きたかった。
「もう少し休んでからでも良いかな?」
まだ完全には気持ちが切り替わっていないので言葉に力が無い。
「仕方ないわね、なるべく早く出て行くのよ」
罪悪感からか同情してくれたのかは分からないが、一応もう少し小屋に居る許可は貰えた。
「ありがとう」
そうお礼を言ってからバックパックの横に掛けているコップを取り出した、そしてそれにウォーターの魔法で水を注ぎ一気に飲み干した。
朝の起き抜けからずっと武器を構えて牽制されていたのだから緊張で喉が乾いていても仕方ない、なのでもう一度ウォーターで水を注ぎ再び一気に飲み干した。
「はー、やっとなんだか一息つけた気がするなー」
と小さく独り言を呟いてリラックスした。
しかしそれを見たアメリアとユリアナの二人は小屋を出る事もなく無言で立ち尽くして流一を見ている。
「あれ?どうしたの?もしかして小屋の中は飲食禁止とか言わないよね?」
流一は何が起こっているのかわからず不思議そうに聞いた。
「あなた、今水、魔法なの?でも詠唱、あれ?」
なんだか言葉にならないアメリア、さっきまでの棘のある饒舌はどこへ行ったのか。
「あなた今魔法で水を出したわね、しかも無詠唱で、あなたもしかして魔法使いなの?」
とっさの判断力はユリアナの方があるようだ、なので今度はユリアナ主導で聞いてきた。
「水って、まあ魔法だけど。別に魔法使いって訳では・・・。それより二人は使えないの?魔法。」
二人が驚いてる事に驚く流一。
しかしそれは当然の反応とも言える、なにせ魔法なんて存在しない世界から来た流一が使えるのだ、この世界の住人なら全員使えると勝手に思っていたのだから。
「私たちは使えないわ、っていうかコップ一杯の水や小さな火種の魔法さえ使える人は二、三十人に一人なのよ」
それを聞いて更に驚く流一、そして勝手な思い込みで失敗したかなと少し反省している。
しかしこの流れなら情報収集出来るかも、とも考えている。
「でも二、三十人に一人は居るならそんなに驚くほどの事でも無いんじゃあ・・・」
流石の鈍感流一である、これがヨネ子であればアメリアの呟いた『詠唱、あれ?』に反応しているのだが。
「無詠唱だったから驚いてるのよ!無詠唱で魔法が使える魔法使いなんて十万人に一人居るか居ないかってほど珍しいのよ!この国にだって最高宮廷魔導官一人しか居ないのに!」
驚きから興奮したのか、はたまた流一の非常識に怒ったのか声が大きくなるユリアナ。
「あ、あぁ、あはは」
やっと事の次第が飲み込めたが引き攣った笑いしか出てこない流一。
『そういえば異世界小説でも無詠唱は特別扱いだったなー』などと余計な事を考えていた。
そして異世界小説の妄想は続く、『どうしよう、ってか俺もしかしてチート?イヤイヤ逆に魔王コース真っしぐらとか?待て待て待て俺まだそんなに強い魔法は使えないよな?』オタクの脳内妄想は無限である。
流一がそんなアホ過ぎる妄想に浸っているとアメリアとユリアナに動きがあった。
「流一さんはちょっとそこで待ってて、ユリアナはこっち来て」
と言ってアメリアがユリアナを外へと連れ出したのだ。
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「ちょっと、どうしたのよアメリア」
小屋の外へ連れ出されたユリアナは怪訝そうに聞いた。
「あいつの事よ、ウォーターしか見てないけど無詠唱って事は他にも強い魔法を使えるとは思わない?」
「それは私も思ったわ、それに魔法は使えて当たり前って感じで話してたし」
「でしょ、だからあなたと相談しようと思って」
この世界にはお約束通りに魔物がいるが基本的には魔物領域という場所がありそこから出る事はあまり無い。
そしてその魔物領域での狩りや採集を行ったり様々な依頼を受けるハンターという職業がある、ただしハンターの仕事は魔物領域での活動だけに収まらない。
ハンターになれば命の危険も伴うがそれに見合った収入も約束されている。
さらにハンターになれば、ハンターギルドに強制加入させられるが世界中の国に出入り自由になり全てのギルドで同じサービスを受けられるようになる。
ただし、ハンターになるには魔物領域での適性試験があるため王都のような大きな都市のギルドでしか登録が出来ない。
二人が居るこの国、アルバート王国では王都テレイオースかレクサス公爵領領都レクスブルクでしか登録が出来ないのだ。
実はアメリアとユリアナの二人はレクスブルクへ行きこれからハンターになるつもりであった、そのための準備資金を稼ぐためにこの森に狩りをしに来ていたのだ。
そして通常ハンターはパーティーを組む事が多い、狩りも楽になるしソロよりも危険は減るなど利点が多いからである。
なのでアメリアは今後の事を考えユリアナと相談する事にしたのだ。
「もしかしてあの訳のわからない男とパーティーを組もうとか思ってるの?」
少し戸惑い気味に聞くユリアナ、異世界から来たなんていう人間なのだ、信じられないのは仕方ない。
「もし他にも、特に攻撃魔法とかが使えるなら考えても良くない?」
アメリアはユリアナに比べて楽天的な所があるのか異世界云々はあまり気にしていないようだ、なので純粋に戦力として考えている。
「確かに攻撃魔法が使えるなら私たちは二人とも前衛だからバランスは良くなるけれど」
まだあまり納得していない様子のユリアナ、納得とかでは無くまだ警戒したままなのだろう。
「でしょ、今は森だから良いけどハンターになって魔物領域で狩りをするようになるとパーティーの編成は重要よ。水や火種を持たずに狩りに行けて魔法のサポートを受けて狩りが出来るなんて理想的じゃ無い?」
ウォーターの魔法しか見ていないのにアメリアの中ではいつのまにか流一は一流魔術士のような扱いだ。
「分かったわ、でも他にどんな魔法が使えるか聞いてからの判断にしましょう」
やはりユリアナは現実的な判断が出来るようである、だからこそアメリアとは相性が良いのかもしれない。
アメリアが喜んで応じると2人は小屋へと戻った。
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そのころ流一はヨネ子と相談していた。
「マーガレット、マズイ事になった、イヤまだなってないけどなった」
【どうしたのよ、日本語になってないわよ、何があったの?】
流一は二人とのやりとりを出来るだけ細かく伝えた。
【なるほどね、でもそれなら大丈夫でしょ】
なんともあっさりとした回答である、しかし流一には何がどう大丈夫なのか皆目見当がつかない。
「なっ、なにを根拠に?」
ヨネ子には分からないが素っ頓狂な変な声が出てしまった。
【まだウォーターの魔法しか見せて無いからよ】
「あのー、驚かれてるのは無詠唱の方なんですが?」
なぜだか変に丁寧な言葉使いになっている。
【馬鹿ね、無詠唱なんて出来るか出来ないかだけで本質とは違うでしょ。それよりあなたがどんな魔法が使えるかが問題よ。もっと言えばあなたにどんな能力があるかこそ重要なのよ】
「そんなもの?」
またまた素っ頓狂な声で聞き返す。
ヨネ子は『流一には裏を読むとか先を読むってまだまだ無理ね』などと考えていた。
【そんなものよ、二人で相談しに行ったんでしょ、だったら帰ってきたら魔法の事を中心に流一の事根掘り葉掘り聞かれるはずだからしっかりなさい】
「はあ、それで普通に全部話して良いの?」
【異世界から来た以上の秘密なんて無いでしょ!それを教えたんだからもう隠すものなんて何も無いわよ。後はそれを聞いた二人がどんな反応をするかだけよ。それよりこれを切っ掛けに流一の方こそ情報収集しなさい、分かった?】
「そうだね、了解。またメールする」
諦めにも似た表情でメールを終えた。