44 素材ギルドにて
収納魔法使えますを書き換えました。
《今日の昼過ぎにはボレアースの前線基地に着きますよ》
《わかりました》
商隊リーダーの言葉に返事を返す流一。
そして昼過ぎ、予定通りボレアースの前線基地に着いた。
前線基地に着くと荷物を馬車に積み換える予定だが、何やら少しボレアースの官吏と商隊リーダーが揉めている。
ソリは二台なのに商品は一台分しか無い状態で馬車三台を要求している事が原因らしかった。
流一としてはこのまま街まで収納に入れて行っても良かったが商人達はそうは行かない、3人の商人はそれぞれ別々の商品を扱っているため街に入ってからは別行動になる。
なので流一の収納に入れたまま街まで行ったとしても、今度はそこで馬車を調達して積み替えなければならないのでその方が面倒なのだ。
結局二度手間ではあるが、一度収納から床に商品を出して官吏が本当に馬車三台分の商品がある事を確認してから馬車の提供を受けた。
ここからは馬車毎に行き先が違うので、流一達は商隊リーダーと武器屋の店主の馬車に乗り後の商人達とはここで別れた。
馬車に揺られること約1時間半、一行はやっとボレアースの街に着いた。
街に着くと馬車は流一達を素材ギルドの前に降ろした、道中マンモスの魔物の解体を素材ギルドにお願いしようと相談していたからだ。
そして宿は2人のボレアースでの常宿である『熊熊亭』に予約してくれると言う事なので、そこでの再会を約束して別れた。
《こんにちは》
《いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?》
素材ギルドの受付のお姉さんが丁寧に聞いてきた。
《魔物の解体をお願いしたいんですが?》
《はっ?解体・・・ですか?》
受付のお姉さんの疑問も当然である、素材ならわざわざ解体しなくてもギルドに売れば良いだけの事である、たとえギルドに登録していなくても登録している者を代理にして売る方法もあるのだから。(もっともこの方法は表向き禁止になっているが、現状あまり問題にならないので暗黙の了解で黙認されているだけだ)
《そうです、お願い出来ませんか?》
《あの、失礼ですがどう言った理由で?素材ならこちらで買い取り致しますが。あまり大きな声では言えませんがギルドに登録していないからと言う事でしたら代理人を立てる事も出来ますよ》
表向き禁止なのでこっそりと教えてくれた。
《多分初めての魔物ですから。それに大きさもちょっと大きくて解体する場所が無いものですから》
ギルドの中には氷河人のハンターが沢山いるので流一も気を使って小声で答えた。
《初めての魔物で大きい?って何の魔物ですか?》
《マンモスです》
《はっ?もう一度お願いします》
《マンモスです》
不思議そうな顔のお姉さん、自分の耳がまだ信じられないようだ。
《あの、もう一度良いですか?》
《だから、マ・ン・モ・スです》
《はあぁぁー?マンモスですってー!!!》
いきなり大声を上げる受付のお姉さん、今までの小声での会話は何だったのか。
そして予想通りそれを聞いた周りのハンター達は騒然とし出した。
『マンモスが出た』これは魔物であろうとなかろうと遭遇すれば死の危険があると言う事だからだ、何時何処に出たのか知る事はハンター達にとっては文字どおり死活問題なのだ。
もっとも2人の話を最初から聞いていれば逆に冗談と思い笑い飛ばされていただろう、氷河で狩りをするハンターも氷河人のハンターも『マンモスの魔物は倒せない』が常識となっているのだから。
《す・す・少しお待ちください。ギルド長に確認して来ます》
周りの大きくなった喧騒を余所に受付のお姉さんは慌ててギルドの二階へと走って行った、そして直ぐに降りて来た。
《お待たせしました。ギルド長が直接お話しになるそうですので二階の突き当たりの部屋までお越しください》
受付のお姉さんにそう言われたので『デザートイーグル』は全員でギルド長の元へと向かった。
《わざわざ来て貰ってすまないな。私がボレアースのギルド長ガスパールだ》
《僕はハンターパーティー『デザートイーグル』リーダーの流一です。そしてこちらがそのメンバーです》
メンバー全員黙って一礼する。
《テレサに聞いた所、君達はマンモスの魔物の解体を依頼して来たそうだがそれは本当かね》
テレサとは先程の受付のお姉さんの名前だろう。
《はい、本当です。初めての魔物と言う事もありますが、かなり大きいため自分達で解体したくても場所も技術もありません、なのでこちらでお願いしようかと思いまして》
《ならばそれは今何処にある?本当に魔物か確認したい、もし確認出来れば特別に登録が無くても買い取っても良いぞ》
ギルドに登録が無くても買い取ると言う事はかなりの特別扱いである、マンモスのしかも魔物であればそれだけの価値があると言う事だ。
もっともギルドでなくても世界初の素材となれば欲しい、又は取り扱いをしたいと考えるのは当然の反応である。
《それは僕の収納に入ってます。どこか場所を提供していただければすぐにでも出せますよ》
流石に『ここで出しましょうか』とは言えなかった、広めの個室とはいえ執務机や応接セットなどがあるので広さが確保できないからだ。
《では下で、皆んなの前で出してみてくれ》
ガスパールは敢えて沢山の人の目に触れるようにしようと考えた、そうする事で『ギルドに行けば超貴重なマンモスの魔物の素材が手に入る』と言う噂を広めるために。
ギルド長を辞めても商人としてやって行けるかもしれない。
それにガスパールは流一の目を見て話す事で、信じられない気持ちはあったが本当だと確信していた。
そしてそれだけの事が出来る者なので収納魔法が使えても不思議ではないとも思ったので、他の人達のように収納魔法と聞いても驚いたりしなかった。
そして『デザートイーグル』とギルド長は一階へ降りて行く。
そこでは沢山の氷河人のハンターがざわついていたがギルド長と『デザートイーグル』の姿が見えるとしんと静まり返った。
皆受付のお姉さんテレサに話を聞いていたのだ、マンモスの魔物が倒されたと。
最初はマンモスの情報を知ろうとして聞いていたが、それが魔物でしかも倒されたと聞いて、信じる者信じない者それぞれが意見を戦わせていた。
その答えを握る人物が二階から降りて来たのであるから静まり返っても当然であろう。
《みな、机を端に避けて真ん中を開けてくれ》
降りて来るなりギルド長が周りの氷河人のハンターに指示を出した。
普段であれば『何で俺たちが』と反発する者も少なく無いが、今回ばかりは皆素直に言う事を聞いた。
《さあ、場所は作ったぞ。見せてくれ》
ギルド長が流一に向かって言った。
《はい、これが僕たちが倒したマンモスの魔物です》
ドサリ
《《《《《おおおー!これが》》》》》
《《《《《あれは本当だったのか》》》》》
《《《《《あいつ収納魔法まで使えるのか?》》》》》
《《《《《どうやって倒したんだよ》》》》》
《マンモス可愛い♡》
様々な声があちこちで聞こえる、一部不穏当な発言も。
《僕の鑑定では牙、骨、皮、心臓、肝臓、腎臓、肺が素材として使えます。それと肉も食べられるようです》
《お前さん鑑定魔法まで使えるのか?大したもんだ》
ギルド長が感心していると、そこへ武器や防具は装備していないが大柄なハンターらしき風貌の男が進み出て来た。
《こいつの解体は俺にやらせてくれ》
どうやらギルドの解体職人のようだ。
《それは構わないけど解体料はどれくらい?》
《いらねぇ、解体料はいらねぇから俺に解体させてくれ》
流一の質問に無料と答える解体職人、その理由はすぐにわかった。
《成る程、そう言えばお前の口癖は『俺が解体したことの無ぇ魔物は無ぇ』だったな。ここで解体しなかったら二度とその言葉を使えなくなるからなー。わかったガレス、お前に任せる。流一君もそれでいいだろ》
《ええ、構いません。ではよろしくお願いします》
《おう、任せろ》
ギルド長と流一の言葉に胸を叩いて応じるガレス、要するに金よりプライドだったようだ。
《では流一君、マンモスは一度収納に戻してくれ。それから話の続きだ》
そう言ってギルド長は執務室へと帰って行ったので『デザートイーグル』とガレスも後に続いた。
《ではまず解体の場所だが、明後日広場で衆人監視の中でと言うのはどうだろう》
《本当ですかい。こりゃあますますやる気が出て来たぜ》
ギルド長はマンモスの魔物の解体をイベント化したいようだ、ガレスも無論やる気満々である。
その狙いはもちろん高額取引である。
世界初でしかも今後手に入る可能性がほとんど無い素材である、なるべく沢山の人に知らせ欲しいと思う人を増やせば素材の値段はうなぎ登りである。
《はい、僕たちは解体さえ出来ればそれでいいので》
娯楽の少ないこの世界では世界初の魔物の解体ショーなど孫子の世代まで伝えて聞かせるくらいの一大イベントだが、流一にとってはちょっと観衆の多い鮪の解体ショー程度の認識しかないので返事も軽い。
《では次に素材についての条件とかはあるかな?》
《それはちょっと仲間と相談しますので待ってもらえますか》
そう言って相談を始める。
「魔物の素材で何か条件はあるかって聞かれたんだけどどうする?」
「そうねー、取り敢えず魔石は売らずに持っておきたいわね。他の素材は持って帰ると問題ありそうだけど魔石なら大丈夫だろうし」
流一の言葉にアメリアが答えた。
「肉も食用になるんだったわよね、だったら食べる分をいくらか確保しておきましょう。」
ユリアナも答える。
「俺は鼻が欲しいんだけど、後牙も一本は連れて来てくれた商人さん達にお礼として渡したらどうかな?連れて来てくれたおかげでマンモスの魔物を狩れたんだし」
流石に流一は日本人である。
この世界の常識としては商人達は助けてもらえて恩に感じていてお礼を考えているほどなのに、助けた上にプレゼントまでしようと言うのであるから。
ただ『デザートイーグル』女性陣もそんな流一のお人好し加減をわかって来ているようで、その事については敢えて反対はしなかった。
牙一本売らなくても持ち帰れないほどの収入になる事が分かっていたからと言う事もあるが。
しかしもう一方には疑問を呈した。
「「「「鼻?」」」」
「師匠、何で鼻が欲しいんですか?」
「今は秘密、後で良いものを作るからその時教えるよ」
女性陣全員、流一の鼻への拘りが何なのか知りたいのは山々なのだが、今はギルド長との会議中なので自粛した。
「じゃあ他に無ければこれで伝えるよ」
そう言ってギルド長の方を向くとギルド長とガレスが驚いたような顔で流一を見つめていた。
《君たちは何者なんだ?》
ギルド長とガレスはあまりに自然に話をするので流一達を氷河人と思っていたのだ。
《あっ、そう言えば言ってませんでしたね。僕たちは氷河人ではありません、氷河の外から来ました》
《なんだと?氷河の外の人間はみんなマンモスの魔物を狩れるのか?》
氷河の外では氷河人が居る事は知られていないが、氷河人は氷河の外に人が居る事は知っていた。
しかし氷河人が氷河を出る事は無いし、流一達が来るまで氷河人以外の者が氷河人の街に来る事も無かったのでお互いの事は何も知らない。
つまりギルド長とガレスは氷河人以外の人を見た事が無かったので驚いたのだ。
さらにギルド長はそれ以上に強い懸念を持った、氷河の外の人間が氷河人の街に来るようになれば氷河人は蹂躙されるのではないかと。
事実氷河の外の人間がここまで来ているし、その者達はマンモスの魔物を倒したのだから。
それ故の簡単な戦力評価の為の質問である。
《いえ、氷河の外でも『マンモスの魔物は倒せない』が常識ですよ、今回倒せたのは運が良かったからです》
その言葉にギルド長は少し安心した、少なくとも戦いになっても抵抗すら出来ずに蹂躙される事は無さそうだと。
そして次の疑問をぶつける。
《では君はなぜ氷河人の言葉を喋れるのかな?》
《これは『超言語』という魔法です。現状僕しか使えませんがね》
《そんな便利な魔法があるのか?すごいな君は》
ギルド長は既に驚きを通り越して呆れているようだ。
ここで流一が話を本題に戻す。
《氷河人では無いと理解頂いたところで素材の話に戻りますが、魔石と牙一本と鼻は売りません。肉も自分たちの食用にいくらか貰います。それ以外はそちらに委託でどうでしょうか》
《良いだろう、正直魔石は欲しいところだが他の素材があれば十分だ》
《ありがとうございます。で金額はどうなりますか?》
《それだが、何分初めての素材なので相場がわからない。なので明後日解体した後そのままオークションをしようと思うのだがどうだろうか?売り上げの3割がこちら、7割がそちらと言う事で》
《そうですね、人集めからオークションの仕切りまでしてもらいますしね》
流一には商売の事は分からない、なのでそれらしい事を言って仲間の意見を求めた。
「料金は明後日解体後にオークションをして売り上げは3対7で分るのはどうかって」
「3対7ですか、妥当なところですね」
流一の言葉にユリアナが反応した。
ギルド長としても妥当な条件を出さざるを得ない、既にマンモスの魔物の素材を仕入れた噂が出回るように仕向けているからだ。
ここで無茶な要求をして他の街へ持っていかれては信用に関わる、なので多少足元を見られても仕方ないとは考えていた。
なんと言っても相手は収納持ちである、どんなに大きくても重くても簡単に何処へでも持っていけるのだから。
《ではそれでお願いします》
しかしギルド長には運良く(?)足元を見られる事も無くアッサリと決まった。
もっとも流一達にしてみればマンモスの魔物の素材がかなり高価になる事は想像に難く無い、しかしどんなにお金をもらっても氷河の外に帰ってしまえば使えないので欲を掻いても仕方ないと言う思いもあるのだ。
《マンモスの魔物は肉も食用になるそうだが血抜きはしなくていいのか?さっき見た限りではしているように見えなかったが》
《はい、それは大丈夫です》
これが氷河人以外なら大問題であるが、収納魔法の事をほとんど知らない氷河人なら『収納魔法はそんなもの』と思わせれば問題ないのでそう答えた。
何よりマンモスのような大物の血抜きなんて、面倒臭いから必要無ければやりたくないと言うのが本音だが。
《では明後日の9時過ぎにまたここへ来てくれ。最終的な打ち合わせをしてから解体とオークションの会場となる中央広場に行こう》
《わかりました、ではこれで失礼します》
会議も終わり流一達はギルドを出て商人達が予約してくれている予定の宿屋『熊熊亭』に向かった。
ギルド長は直ぐに職員に命じて、街の至る所にマンモスの魔物の解体ショーとオークション開催を知らせる高札を立てさせた。




