39 氷河の奥地へ(行くまであとちょっと)
今日は魚釣りを書き直しました。
「「おはようございます」」
「「「おはようございます」」」
朝9時、今日は『トリプルトライデント』の魔法使いに索敵魔法を教えることになっている。
こちらは流一とエレンの2人、『トリプルトライデント』からはクリストフ、サブリナの2人に初対面であるライルの3人だ。
お互い初対面の者もいるので自己紹介から始めた。
「皆さん馬には乗れますか?」
早速流一が切り出した
「ええ全員乗れます、それが何か?」
「では練習場所までは馬で移動しますので付いてきて下さい」
そう言うと全員で『雪花亭』へ戻って来て『デザートイーグル』の馬を使い前日の草原へと向かった。
もし馬に乗れなければ馬車を雇う事も考えていたが余計な出費はせずに済んだようだ、もっとも馬車を雇ったとしても料金は『トリプルトライデント』に払わせれば良いだけなのだが。
前日と同じ場所までやって来るとやはり前日と同じようにアースウォールで馬場を作り馬達を放した、ただし今日はエレンの魔法で。
流一は既に水属性と火属性のダブルだと思われている、この上土属性まで使って見せると問題があると考えてエレンに使わせた。
始めてアメリアに会った時トリプル以上は物語でしか聞いたことが無いと言っていたので、それを誤魔化すためにも助手としてエレンを連れてきたのだ。
『トリプルトライデント』の3人はエレンの魔法にも驚いた、かなりの広さのアースウォールを平然と作る魔力量にである。
そして5人は馬場から離れると訓練を開始する。
まず流一が収納からロープを出した、氷河の奥地で出した物と同じロープだ。
長さは100メートル、1メートル毎に目印が付けてある。
そのロープを真っ直ぐ延ばすと10メートルおきに魔石を置いていった。
そして説明から入る。
「では説明します。僕が氷河に残した目印は魔石です、その魔石を索敵魔法で探すだけです。なので皆さんには索敵魔法を覚えて貰います」
「索敵魔法だって?聞いた事はあるが使えた者は見たことがないぞ、本当に俺達にも使えるようになるのか?」
『トリプルトライデント』のサブリーダーであるクリストフが聞いてきた。
「大丈夫です。ではまず方法ですが、これは魔力を同心円状に広げるようにします。それが魔力を持った物に触れると反応するのです」
「同心円とはなんだ?聞いた事の無い言葉だが」
「同心円とは、池などに小石を投げ込むと波紋が丸く広がっていきますよね、あの状態です」
「なるほど、魔力を波紋のように広げるということか」
「そうです、まず魔力を自分に集めてからそれを波紋のように広げていきます。集める魔力が多ければより遠くまで索敵出来ますしより詳細に分かるようになります」
「なるほど、では俺からやってみよう」
そう言ってクリストフが一歩前へ出た。
なので流一はクリストフをロープの端へと連れて来た。
「魔法はここで使って下さい。このロープの先には10メートル毎に魔石を一個づつ置いています、それを感知すればどれくらい遠くまで使えるようになったかわかりますから」
「10メートル?それは長さの単位なのか?どれ位の長さなんだ?」
この世界では共通した長さの単位が無い、なので『デザートイーグル』は流一の使うメートルという単位を使っていたがメンバー以外には当然通じない。
因みに流一はバックパックに定規とコンパスのセットを入れていたのでメートルの単位をかなり正確に測る事が出来る。
「ロープを見て下さい。等間隔で印を付けてあります、その印一つが1メートルです」
「なるほど、どこの単位かは知らないがこのロープは便利だな」
クリストフはかなり感心している、もちろん他の2人も。
そして流一の言う通りに詠唱を始める。
「魔力よ集え我が元へ」
「魔力よ広がれ波紋のように、魔力を持ちたる物の位置を教えよ」
本当は魔法に詠唱など必要無い、なので流一は詠唱などした事が無い、しかしそれをメンバー以外に教えるわけにはいかないので索敵魔法を教えるにあたり即興で考えた詠唱がこれである。
異世界小説大好きオタク少年とは思えないセンスの無い詠唱だが良く言えばストレートでわかり易い。
結果としては魔力は集まったが上手く広がらない、まだイメージが固まっていないのであろう。
もう一度やってみるが上手くいかない、なので今度はサブリナが交代してやってみる。
サブリナも同じだ、魔力を集める事までは問題なく出来るが上手く広げられない。
結局3人目のライルも同じ結果だった。
そこで流一は方法を変えて、3人で手を繋ぎ輪を作るように指示してその中心に立った。
そして3人に詠唱をしてもらうと流一も魔力を広げた。
すると3人は同時に流一の魔力を探知する事が出来た、流一の方からも魔力を広げているので当然ではあるが。
次に手を離し少し距離をとって同じように魔法を使う、大体1メートルくらいだが探知出来た。
さらに1メートルほど離れて同じ事を繰り返す、やはり問題なく探知出来た。
さらに1メートル離れると今度は流一は魔法を使わなかったするとクリストフがビクッとして後ろを振り返った。
ワンテンポ遅れてサブリナとライルも『えっ?』と言う顔でクリストフの後ろに目をやる、そこにはエレンが立っていた。
そう、3人はしっかりと索敵魔法が使えていたのだ。
クリストフがビクッとしたのは流一が目の前にいるのに魔力の反応が後ろにあったからだ。
それに対してサブリナとライルは流一の反応一つと思っていたのにクリストフの後ろにも反応があったので驚いたのだ。
「ちゃんと出来たようだね、次はそれの範囲を広げよう」
流一が笑顔で言った。
クリストフ、サブリナ、ライルの3人は何かを掴んだようだ、なんとなく目が輝いて見える。
「師匠、そろそろお昼」
エレンが休憩を催促する、普段ならエレンがバーベキューセットを持っているので昼の準備をするところであるが、今日はエレンの収納魔法を隠すため流一がバーベキューセットを持っていた。
「そうか、もうそんな時間か」
そう言ってその場でバーベキューセットと食材を出した、今日の食材は町の市場で買ったものだ。
そしてコンロに薪を入れファイアーで着火すると後の準備を任せて馬に水と飼葉を与えに行った。
着火もエレンに任せたいところであるが2人ともダブルとか思われても面倒なので仕方ない。
今日はエレン1人なので『トリプルトライデント』のメンバーも準備を手伝っている。
いい具合に肉が焼けた頃流一が帰ってきたので食べ始めた。
食後はしばらくのんびりと過ごしていた、クリストフ、サブリナ、ライルの3人は早く再開しようとしたが止められたのだ、魔力をしっかり回復させるために。
3人が索敵のコツを掴んだのは流一も分かった、なので次は範囲を広げる訓練だ、それには多くの魔力が必要になるための判断だ。
しっかり休憩を取った後訓練を再開した、まずはクリストフから。
再びロープの端に立ち詠唱を始める。
「魔力よ集え我が元へ・・・・・」
今度は成功した、魔石は六個確認出来たらしい。
もっとも魔力をあまり集めていないからこそそれだけなのだ、実力的にはまだかなり余裕がある。
今度はロープを背中側にして索敵をしてもらう、前方だけの索敵になっていないかの確認だ。
しかしちゃんと背中側に10個の魔石を確認出来た。
サブリナ、ライルも同じように問題無く索敵魔法を使うことが出来た。
なので範囲を広げる、魔石を全て回収しロープを使って150メートル、200メートル、250メートル、300メートルの位置に置き直した、ただし今度は約60度ズラした位置にも同じ距離で置いた。
「今度は各距離二個づつ魔石があるので感知して下さい。それから魔力はさっきくらいで薄く広げるようにイメージして下さい」
魔力をたくさん集めれば遠くまで感知は出来る、だがそれだけでは魔力消費が激しく何度も使えない、なので今度は少ない魔力で遠くまで感知する訓練だ。
この訓練は魔力を薄く広げるだけでは無く魔力を感知する感覚を鋭くする訓練でもある、そうすることで僅かな反応でも捉える事が出来るようになるからだ。
夕方、交代で訓練する事で魔力切れを防いでいたがそれも限界になった頃には全員300メートルの索敵が出来るようになっていた。
「これで訓練は終わりです、皆さんはもう十分索敵魔法が使えます。後はそれぞれ訓練して範囲を広げていって下さい。では帰りましょう」
流一の訓練終了の挨拶で締めて全員でライヒブルクへと帰っていった。
『雪花亭』に着くと馬を厩舎に入れて最後の挨拶をする・・・筈であった。
「今日はありがとうございました。御礼と言っては何ですが今夜は『デザートイーグル』の皆さんを食事に招待するようゲイルより申しつかっていますので全員でハンターギルドの前にある料理店『銀月亭』までお越しください、報酬はその時お渡しします」
とクリストフに言われたので了解してその場は別れた。
流一は魔法の事について色々と隠し事があるので正直あまり乗り気では無かったが、話しを聞いた女性陣は全員喜んでいる。
そしてバーベキューセットなど本来エレンが持っている物をエレンに渡し、汗を拭いて着替えてから全員で『銀月亭』へと向かった。
もちろん流一は水属性と火属性のダブル、エレンは土属性の魔法使いで収納魔法は流一しか使えないという口裏合わせを忘れてはいない。
『銀月亭』に入るとさっそくゲイルが声をかけてきた。
「流一君、クリストフ達から聞いたよ、今日は本当にありがとう。ここの二階の部屋を借り切っているから上がってくれ」
「では女将さん、酒と料理を運んでくれ」
そう言って全員で二階へ上がると『トリプルトライデント』のメンバー全員が揃って迎えてくれた。
今日は魔法使い3人が全員いないので狩りは休んでいたのだ、普段から3日に一度は休み兼情報収集なので全員が同じ日に休むのは珍しいらしい。
とは言え魔法使いの3人は休んでいた訳ではないのだが。
全員席に着くと思いの外豪華な食事が運ばれて来る。
その間、初めて『デザートイーグル』と『トリプルトライデント』のメンバーが勢ぞろいした事から初対面同士の人も多いのでまた自己紹介から始めた。
総勢14人の自己紹介である、結構な時間がかかったが食事を運び終わるのとちょうど同じくらいに終わった。
「改めて、今日は本当にありがとう。これで俺たちの活動範囲はかなり広がった。感謝する。それではこれが報酬だ」
そう言ってゲイルは流一に白金貨を1枚渡した。
「ありがとうございます。それから今日は僕ばかりかメンバー全員招待いただきありがとうございます」
流一は白金貨を受け取るとそう返した。
「こちらこそ、聞けば教えてくれたのは索敵魔法だと言うじゃないか。そんな貴重な魔法を教えてもらったのだからこれくらいするのは当たり前だよ。ではみんな今日は遠慮なく呑んで食べてくれ」
ゲイルがそう言うと流一以外全員食事を始めた。
この世界にも乾杯の習慣はあるが主に貴族のものであり庶民には馴染みがない、しかし流一は元の世界で事あるごとに集まっては乾杯する習慣を見てきているので誰かが乾杯と言うのを待っていたのだ。
流一はみんなが食事を始めたのを見て乾杯の習慣が無い事に気付いたので遅れて食事を始めた。
食事会は主に『デザートイーグル』にとっての情報収集の場となっていた。
もっとも『トリプルトライデント』にとってはただ武勇伝を披露しているだけなのだが。
食事会は進み20時頃お開きとなった、普通ならまだ早い時間だが『トリプルトライデント』の休み3人以外は翌日も早くから氷河に狩りに出かけるからだ。
流一達は最後にしっかり御礼を言うと『雪花亭』へと帰って行った。
見送る『トリプルトライデント』のリーダーとサブリーダーであるゲイルとクリストフが思いっきり後ろ髪を引いていたのに気付かず。
今更だが流一は鈍感なのである。




