33 いざライヒブルクへ
「ここってもしかして異世界?」と「異世界といえば魔法でしょ」を書き換えました。よろしく!
久しぶりの風呂を堪能した『デザートイーグル』の面々は颯爽と愛馬に跨りライヒブルクへと向けて出発した。
ライヒブルクはベイルーンから馬車で5日ほど北にある、馬なら3日ほどの距離だ。
だからといって真っ直ぐライヒブルクに向かったわけではない、途中に手頃な魔物領域があるのでそこで一仕事する事にしたのだ。
とはいえ常事依頼の素材なので大した収入になるわけではないが、宿代に散財した埋め合わせとして行く事にした。
しかし運良く二頭の鹿のハーフ魔獣を捕まえる事が出来た。
以前散々苦労して狩ったのでもう慣れたものだ。
バルテスの北以外の魔物領域ではあまり聞かないが、それは生まれる頻度が低いだけで全くいないわけではない。
それにハーフ魔獣は警戒心が強いため居ても気付く前に逃げられるのでわからない事が多いだけだ。
そのためこの魔物領域のハーフ魔獣も他のハンターに狩られる事がなかったのだろう。
しかしそれ以前にアルバート王国以外ではハーフ魔獣の味はもちろん存在自体あまり知られていない、なのでこの国リシュリュー王国では常事依頼の対象にさえなっていないのだ。
つまり狩れはしたが収入にはならないという事だ。
では何が運良くかと言えば、もちろん野営等での食事に自分たちで食べるからである。
セリーヌ以外は以前食べたウサギのハーフ魔獣の味を忘れてはいない、それに量が多くても流一の収納魔法に入れておけば1年や2年経っても鮮度が落ちる事は無いからだ。
とはいえそれだけでは流石に収入が少な過ぎる、なので普通に熊や猪の魔物も狩ってからライヒブルクへと向かった。
ライヒブルクに着くと早速宿屋を探す、通常なら先にハンターギルドに行く所だが、この街を知っているらしいセリーヌが宿屋を先に探すように言ったからだ。
どうやらこの街は沢山のハンターが来るため宿屋は多いにもかかわらず早くに満室になる所が多いそうだ、その上『デザートイーグル』は馬五頭分の厩舎も確保する必要があるため宿屋を先に探す事にしたのだ。
さらに言えば、しばらくはこの街を拠点にするつもりなので慌ててハンターギルドに行く必要も無いとの判断もあった。
そして街の大通りに面した宿屋『雪花亭』に落ち着く事にした、ここはよくある飲食店兼業の普通の宿屋だが、厩舎が他の宿屋より立派だったので決めたのだ。
しばらくは氷河での狩りになるため馬は使わない、なのでその間大切な馬たちが少しでも窮屈な思いをしないようにと厩舎メインで探したからである。
宿屋に入ると受付は10歳くらいの赤髪の女の子だった、あまり大きい宿屋でもないので多分この宿屋の子供だと思われる。
とりあえず5人と5頭で1ヶ月の連泊とした。
料金を前払いして受付の女の子から説明を受ける、もっとも宿屋の説明なんて何処も同じようなものなので聞き流しているだけだ。
説明も終わり一旦それぞれの部屋に入った後直ぐに皆んなでハンターギルドに行く事にした。
ギルドの建物に入ると中にいた全員から注目された。
『若い男1人に美女4人だからなー』と少し恥ずかしげにする流一、少しは自分の置かれたハーレム状況を理解してきたようだ。
しかしそれはただの勘違いである、注目された本当の理由は服装であった。
『デザートイーグル』はライヒブルクに着いたばかりなので全員薄着だったからだ、普通のハンターは歩きがメインなので来る途中でだんだんと厚着になるが、馬で移動する『デザートイーグル』はまだあまり寒く無い地から一気に北上したので薄着のままだった。
つまりみんなは『そんな薄着だと直ぐに凍死だぞ』という気持ちで見ていたのだ。
5人は依頼ボードを見る、『雪原ツノウサギ5羽』『ホワイトウルフの牙3頭分』『グリズリーの毛皮』等々の依頼が並ぶが誰も依頼を取ろうとはしない。
流一が依頼を取らない理由は簡単だ、氷河は広くて目印が少ない、なので依頼を受けたとしてもその動物や魔物が何処に居るのか、また採集物が何処にあるのか分からないからだ。
なので他のメンバーが依頼を受けるのを待っていた。
ところが他のメンバーも依頼を取ろうとはしない。
「何か良い依頼は見つかった?」
流一が皆んなに聞いた。
すると全員流一と同じ事を考えていた、つまり全員依頼を受けても何処に行けば良いのかわからないから他のメンバーが依頼を受けるのを待っていたのだ。
結局流一達は依頼を受けるのを止めて常事依頼に切り替えた、そして受付でどんな物が常事依頼に出されているのかを聞いた。
それによると、この街の常事依頼は氷河で採れる素材全てが対象となるそうだ、ギルドでは持ち込まれた素材を専門の鑑定士が鑑定して買い取る。
買い取り価格は当然素材ごとに違うが、持ち込まれた状態でも変わるそうだ。
つまり、この街には沢山のハンターが来るが全員ベテランの筈はないしベテランでも氷河は初めてというハンターも多い。
なので、それらのハンターが解体が下手だったり解体の仕方が分からない獲物を捕らえた時でもそのまま買い取ってギルドで解体するようにしているのだ。
もちろんその分買い取り額は減るのだが、元々レアな素材が多い上に寒い氷河で時間をかけて解体するよりはマシという事で解体せずに持ち込むハンターは多いらしい。
一通り話を聞き終わると受付嬢から
「これは氷河での目印になる物を記した地図です、初めてライヒブルクを訪れたハンターさんには全員渡しておりますのでどうぞお待ち下さい」
と言って1枚の地図を渡された。
地図と言っても中央下部にライヒブルクが書かれており、その他の部分の所々に点と目印の形状と大まかな距離(ライヒブルクや他の目印までの移動時間)が書かれた簡単な物で町や村はもちろん道路さえ書かれていない。
と言うよりそれしかないのだ、それを見て5人は氷河とは何も無いところだと改めて実感した。
「それから、差し出がましいとは思いますが、もし防寒具の用意が出来ていないならば用意してから氷河に入る事をお勧めします。その格好では半日も経たずに凍えてしまいますよ」
と言われた、そこでようやく流一は皆んなの目線の本当の意味を理解した。
ハンターギルドを出ると一度宿屋へ戻った、そして相談する。
「俺これから防寒具を買いに行こうと思うんだけど皆んなは持ってるの?」
と流一が聞くと、
「私は一応持ってはいるけど買った方が良い物もあるかもしれないから一緒に行くわ」
「じゃあ私も」
アメリアとユリアナは一緒に行く事になった。
「私とエレンは持ってるから大丈夫、ここでゆっくり休んでおくよ」
と言いセリーヌとエレンは残る事になった。
実はセリーヌはエレンから流一の収納魔法の事は聞いていた、なのでパーティーに入ると決まった時、必要になると思った物は全てエレンと2人分用意して持って来ていた。
防寒具もその中の一つだ。
まだ店が閉まる時間には早かったが、もう暗くなりかけていたので流一、アメリア、ユリアナの3人は急いで買い物へと出かけた。
防寒具と一言で言っても色々な物がある、AランクやBランクでも上位のハンターになると動きやすさを重視して薄めの着物や防具に保温の魔法が付与された魔道具を使う者が多いが当然高価で流一達には手が出ない。
結局ありきたりの毛皮の上着や手袋など無難な装備になった。
アメリアとユリアナも特段買いたいと思う物は無かった。
正確に言うなら沢山有ったが高くて手が出なかった。
それで無くてもセリーヌとアメリアの武器を新調する予定なので無駄遣いは出来ないのだ。
そして翌日からの狩りに向け宿屋に帰り休むのであった。




