30 馬ゲットだぜ
「「「「「いただきます」」」」」
盗賊に襲われた翌日の夜、野営地での夕食時に全員で唱和した。
朝、一晩で立ち直った流一が朝食の時に言った言葉である。
皆んな不思議だったのだ、初めて人を殺した時自分はもっと苦しんだとエレンを除く3人は思っていた。
「それも知恵の魔法の力なのかい?」
「「「えっ?知恵の魔法?」」」
セリーヌの言葉に驚くアメリア、ユリアナ、エレンの3人。
昨晩知恵の魔法を使ったのを知っているのはセリーヌだけなので仕方ない。
「えっ?『いただきます』って言ってる事?」
流一1人反応が違う、まー当然だが。
「違うわ、昨日の今日でもう立ち直ってる事よ。私も初めて人を殺した時は同じだった。私の場合3日は立ち直れなかった。なのに流一はもう立ち直っている」
「私も同じ、私も3日間部屋から一歩も出れなかったわ」
アメリアが続ける。
「私は5日くらいかな、何もする気力が起きなかったの」
ユリアナも『そう言えば』という感じで話す。
「そうか、皆んなも同じだったんだ」
少し安心したような顔になる流一。
しかし騎士のセリーヌはともかく、何故アメリアとユリアナも人を殺したことがあるんだろう?という疑問も湧いてきた。
ただしそれを聞く勇気は無い。
「確かに知恵の魔法のおかげかな。前と同じとはいかないけどもう吹っ切れたよ」
「知恵の魔法って何なの?どうしてそんなに早く立ち直れるの?さっきの『イタダキマス』ってどういう意味なの?昨日の夜何があったの?」
セリーヌからの怒涛の質問攻めである。
アメリア、ユリアナ、エレンの3人も同じ気持ちなのだろう、真剣な顔で流一を見ている。
流一は命についてヨネ子から言われた事を自分なりに解釈して話した。
4人はしばらく黙っていた。
「じゃあ私達もこれから食事の時には『いただきます』って言うようにしたらどうかな?」
とアメリアが提案すると全員が賛成した。
こうして食事の時には全員で『いただきます』を唱和するようになったのだ。
そして4人の知恵の魔法に対する信頼がさらに上がるのであった、自分達には使えないのに。
それから旅は続き4日後に野生の馬の生息地であるデナリ高原へと到着した。
時間はすでに夕方になっていたのでその日はそのまま野営した。
翌朝、早朝から見晴らしの良い高台に移動して馬の群れを探した。
するとお昼前に小さな谷間の少し開けた場所で30頭前後の群れを見つけた。
セリーヌは高台から捕まえる馬を選び流一に伝える。
そして全員で馬の群れに近付いた。
「流砂」
流一の魔法により選んでいた馬5頭が身動き出来なくなる。
そこへ女性陣全員が馬具を持って駆けつけると他の馬は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
セリーヌ、アメリア、ユリアナは調教が出来ると言うだけあって手慣れた感じで手綱をかけハミを噛ませる。
エレンは3人よりは少しもたついたがセリーヌが2頭目に馬具を付け終わる頃には終わっていた。
「アースウォール」
次に流砂を解除して土の壁で臨時の厩舎兼馬場を作った。
これで調教の準備は出来た。
捕まえた馬はレインボーン種と言う種類だ。
この種は顔の鼻筋の部分、サラブレッドで言う『流星』のある部分の骨が少し持ち上がってカラフルな色が付いているのが特徴だがそれにより能力に差があるわけでは無い。
スピードとスタミナ両方のバランスが取れている品種なので重装騎兵以外の兵馬として良く使われる。
因みに重装騎兵や馬車馬などはスタミナ重視のダンカーゴ種と言う品種の馬が使われる事が多い。
こちらは脚が太く、足元の毛がフサフサに生えているのが特徴だ。
そしてもう一種類、スピード重視で伝令に良く使われるフィールダー種という品種もある。
これは『流星』の無いサラブレッドそのままだ。
アースウォールで囲んだ馬場の中に飼い葉桶などの飼育用具を出して水桶にウォーターで水を満たすと流一とエレンは馬場を出る、ここからはセリーヌ達3人に任せるのである。
しかしその前に自分の乗る馬を決め、飼料やり等の世話をそれぞれがする事にした。
馬とのコミュニケーションは大切なのである。
「じゃあお前は今から絶影だ、これからよろしくな絶影」
流一は早速自分の馬に名前を付ける。
馬を捕まえると決まった時から名前は三国志に出てくる名馬でと決めていた。
その中から曹操の愛馬を選んだのだ。
「流一くん、絶影ってどういう意味ですか?」
ユリアナが聞いてきた。
「絶影っていうのは他の誰にも影さえ踏ませ無いほど速いって意味だよ」
「そうなんだ、すごく良い名前ですね。では私もこの子に格好良い名前を付けようっと」
そう言って『ラファーガ』と名付けた。
この世界の風の精霊の1人らしい。
同じようにアメリアは精霊の物語に出てくる名馬から『スレイプニル』、セリーヌは物語の英雄が乗っていた馬の名前から『ブーケファロス』、エレンは精霊の物語に出てくる魔法使いの使い魔から『アモールリヒト』と名付けた。
そして流一とエレンの2人は調教が終わるまで食事係と魔法の訓練をする事にした。
エレンの魔力量はすでに流一を超えていた。
ただ流一はスマホの魔法陣を使っているので攻撃魔法の威力なら同じくらいある。
そこで、この期間を利用して流一の持つ魔法陣の内攻撃魔法の全てと収納魔法、索敵魔法を教え、人体についての講義をする事で治癒魔法の向上をしようと考えた。
それから11日後、調教はひと段落した。
その間、エレンは予定通りの魔法を習得し、人体の知識も流一並みになっていた。
流一並みとは言っても『マッド才媛ティスト』ヨネ子の指導である、現代の高卒者よりはよほど詳しい。
知恵の魔法と称したヨネ子の力はそれほど大きいのだ。
別に乗馬の訓練の際、落馬して大怪我しても良いようにと必死に教えた訳では無い・・・・・と思いたい。
そして流一の収納魔法は自分の持ち物と野営道具一式、予備の武器や防具及び解体前の魔物を入れる事とし、それ以外は全てエレンの収納魔法に入れるようにした。
最後の仕上げに流一が女性陣全員から乗馬を習う。
しかし中々上達しない、これは流一が悪いわけでは無い、『船頭多くして船山に登る』である。
つまり全員がバラバラに勝手な事を言うので惑わされるのだ。
半日ほど経ってそれに気が付いた流一はセリーヌ1人に教わるようにした。
それからは普通に上達し二日目でなんとか1人で乗れるようになった。
しかしまだ早駆けは出来ないので、後は旅をしながら練習する。
結局調教を始めてから14日後に出発した。
行き先は全員で相談した結果隣国リシュリュー王国の王都ベイルーンとなった。




