25 『漁』も『猟』も一緒です 2
ゴランの家を出た流一は街に出た。
「じゃあちょっと買い物をしてから帰ろう」
「何を買うの?」
とユリアナが聞いてきた。
「取り敢えず子供用の短い槍とノコギリとロープだな、明日はそれで鰻の罠を作る」
「鰻の罠・・・ですか」
この世界では罠はあまり普及していない、陸上でさえそうなのだから魚用はみんなの知る限り皆無だ。
ハーフ魔獣の時に聞いたが、罠では肉や素材が傷んだり魔物に横取りされる可能性が高いのが原因だ。
そして買い物を終えると宿屋へと帰った。
宿屋では夕飯を食べた後にパーティー会議をすることにした、そしてこの日は流一がみんなに聞く。
「みんな魚を生け捕りにする方法を知らなかったみたいだけど何であの依頼を受けたの?」
「もちろん流一の釣りなら生け捕りにできると思ったからよ」
「そうそう、ヘドネ村の森であれだけ沢山の魚を生簀に泳がせてたんだから簡単でしょ」
ユリアナの言葉にアメリアが同意する。
「流一さん釣りをするんですか?ていうか鰻やヤマメのような魚が釣りで捕まえられるんですか?」
エレンは釣りは知っているようだが、流一の釣りの事は知らないので不思議そうな顔をしている。
「あー、なるほど。でもヤマメはともかく鰻は釣りでは捕まえられないよ」
「「えっっ!!そうなの」」
アメリアとユリアナは驚いている、
結局、鰻やヤマメの生態をレクチャーすることになってしまった。
本などを見ずに語ったので3人からはその博識ぶりを少しだけ尊敬された、しかしそれは『知恵の魔法』のおかげだと思ったため『知恵の魔法』に対しての尊敬なのは流一には内緒だ。
そして最後に、自分で出来ない事は先に相談するように言って解散した。
今回は解決策があるから良かったが、もし流一が鰻の生け捕り方法を知らなければ依頼失敗になる所だったからだ。
そして寝る前、
「マーガレット、川魚を生け捕りにする方法を知りたいんだけど」
そう言ってこれまでの経緯を教え鰻以外の魚の生け捕り方法について聞いてみた。
【網が有ればどうとでもなりそうなのに聞くって事はそっちの世界には網が無いのね】
「そうなんだ、だから鰻以外の魚を獲れる罠を教えて欲しいんだ」
【そうね、あなたでも作れそうなのは籠の罠かしらね、基本は鰻籠と同じ、形と仕掛ける場所が違うだけよ。取り敢えず設計図を描いて送るわ、材料は竹とロープで良いの?】
「ああ、良いよありがとう」
そして送られてきたメールには竹で四角い外枠を作り円錐形の入り口部分を取り付けた後、竹とロープで胴体を網のように作っていく罠の作り方と設置場所が描かれていた。
【で、あなたの話だと川から料理屋まで結構時間がかかりそうだけどどうやって運ぶつもり?】
「もちろん桶に水を張って運ぶよ、江戸時代の金魚売りみたいな感じかな」
【それ、鰻は生命力が強いから良いけど他の魚は持たないわよ】
「マジで!?」
【その程度の水だと1時間持たずに酸欠よ】
「ど・ど・ど・どうすれば良い?」
【解決法1、馬でも使って早く運ぶ。解決法2、酸欠にならないくらい少しづつ運ぶ。解決法3、ウォーターの使える魔法使いが水換えをしながら運ぶ。解決法4、帰りの道中に交換用の水を用意しておく。解決法5、酸素ポンプのような魔道具を作る。解決法6、アイスの魔法で瞬間冷凍して運び池で解凍する。解決法7、・・・】
「もう良い、もう良い!そんなに解決法があるならどうにでもなるから良いよ」
相変わらずマーガレットは凄いと改めて思うのだった。
【そっちの世界では『漁』も『猟』も同じ弓や槍を使う『狩り』って認識なのは面白いわね、また何か面白い話があれば教えてね】
『俺の苦労もヨネ子にとったらただの面白い話かよ』と半ば呆れながらも感謝してメールを終えた。
翌日、流一は起きるとノートを1枚切り取り、鰻籠とメールで送られてきた罠の作り方を書き写した。
超言語はかなり優秀なので文字を書く事も出来た、が、素人が見ても下手くそ(例えるなら英語圏の人が初めて見る漢字を形だけ真似て書くような感じの文字)なのは目を瞑ろう。
朝食後、皆んなと相談すると川魚亭のハリスも一緒の方が良いというので、ハンターギルドで指名依頼を受けてから川魚亭に寄り5人でゴランの家へと行った。
ゴランの怪我は日常生活に支障の無いくらいまで良くなっていたので、全員で森の中にある竹の自生地へと向かう事にする。
竹林に着くと流一は朝の紙を出して全員に説明する。
簡単に破れたりしたら困るので自分の紙を使ったのだが、やはりというべきかゴランとハリスも紙の質に驚いていた。
最初に作るのは鰻籠だ、竹を1メートルより少し長いくらいの所で切って子供用の槍を使い節の内側を壊して筒状にする。
そして胴体の所々に穴を開けて水が入りやすくする。
それが終わると今度は竹を細く削り細長い板状にしたものを円錐形にして細いロープで縛り、竹筒の口に付けて完成だ。
これを取り敢えず全員で10個作った。
そして次は籠罠、大きさは30センチ×30センチ×60センチくらいで先に棒状にした竹で外枠を作り、鰻籠の時と同じく円錐形にした口を取り付けた。
その後に棒状の竹で骨組みを作ると細いロープを巻いて目の細かい網目を作っていく。
これは時間がかかるので5個だけ作った。
この世界では共通の長さの単位がないのでセンチやメートルといった単位は分かってもらえない、なので流一が竹を切って大体の長さを示した。
そして後はその竹と設計図の紙を使い自分達で作るように言った。
全ての作業が終わったのは15時頃だったのでそのまま川に行き罠を仕掛けてこの日は終わった。
翌日、朝から川魚亭に全員揃った、勿論ゴランもだ。
店の裏の生簀はハリスが掃除して綺麗な水が張られている。
「久しぶりに魚が入る」と気合を入れて掃除していたとハリスの奥さんから聞かされた。
「では魚が獲れていると思いますがどうやって運びますか?」
と流一がハリスとゴランに尋ねた。
「それは桶に入れて運ぶんだ」
と言ってゴランが出した桶は流一がヨネ子に言った江戸時代の金魚売りの桶と同じようなものだった。
「それでは鰻は良いですけど他の魚は死んでしまいますよ」
「そんな事はねぇ、俺は今までこれで運んでたんだから」
とゴランが食い下がる、ハリスも同じ思いのようで頷いている。
「でもそれで運んだのは鰻だけですよね?」
「それはそうだが同じ魚だ、これで大丈夫だ」
話は平行線のままだ。
結局今まで通りゴランの持って来た桶で運ぶ事になった。
そして罠を回収しに行くと一晩なのに鰻籠では鰻が6匹
も獲れた、そして籠罠ではヤマメが5匹とウグイが3匹にカニが1匹獲れていた。
もちろん元の世界とは微妙に違うが超言語では同じ物として訳されている。
それらをゴランの桶に入れ、罠を仕掛け直すと全員足早に川魚亭へと向かった。
川魚亭に着き魚を生簀に移すと案の定ヤマメとウグイは死んでいた。
流一は『やっぱり』と死んだ魚を眺めている、アメリア、ユリアナ、エレンの3人は何も言えず流一の方を見ている。
「何故だ、何故死んだんだ」
ゴランは信じられないといった表情で呟いている。
ハリスも黙っているが同じ気持ちで死んだ魚を見ていたが流一の方へと顔を向けた。
「取り敢えず店に入って話しませんか?」
明らかに気落ちしたハリスが言ってきたので皆んなで店に入った。
そして流一は何故ヤマメとウグイが死んだかの説明と解決策を教えた。
そして明日は途中に代えの水を用意するようにした。
翌日は朝から桶を4つ用意し、道中を三等分したあたりに2つづつ置いた。
そのまま罠を回収しに行くと、今日も鰻7匹、ヤマメ7匹、ウグイ2匹、ニジマス1匹が獲れていた。
それを手早く桶に入れ罠を仕掛け直すと再び足早に帰って行く。
そして用意した桶に魚を移し変えながら川魚亭に着くと急いで生簀に魚を入れた。
この日はニジマスが大きくて心配したがどうにか全部生きている。
「やった、これで鰻以外の魚もその場で捌けるぞ」
とハリスと奥さんが抱き合って喜んでいる。
「ありがとう、あんた達のお陰でこれからは安定して魚を捕ることが出来るよ。早速だが依頼完了証明書を渡すから来てくれ」
「ハリス!浮かれてないで『デザートイーグル』のみんなに依頼完了証明書を書いてやらないか」
とゴランが言うと、
「ああ、そうだな皆さんありがとう」
と言って店に入って行ったので全員ハリスに付いて店に入った。
そしてその場でハリスとゴランの2人から依頼完了証明書を書いてもらいギルドへと向かった。
報酬はすでにギルドに納められているのでギルドからもらう事になる。
ギルドでは受付から
「あなた達には驚かされたわ。誰も不可能と思って手を出さなかった依頼を追加の指名依頼まで受けて達成するなんて前代未聞よ」
と言われ、4人は『デザートイーグル』の名前が少しは売れたかなと誇らしく思った。




