24 『漁』も『猟』も一緒です 1
翌日、サプライズで服をプレゼントされた流一は『今日はそれを着て街へ行きたい』とは思っても流石にまだ一件の依頼もこなさないままではマズイので我慢した。
そして朝食を済ませると全員でハンターギルドへ行き依頼ボードを見始めた、しかし大して面白そうな依頼は無い。
依頼を面白そうかどうかで決めるのはどうかと思うんだが。
しかし王都での初仕事が常時依頼ではなんとなくヤル気が出ない。
4人は取り敢えずそれぞれの条件を出してそれに一番近い依頼を受ける事にした。
流一は『Cランクの依頼』・・・あまり無理したくないかららしい。
アメリアは『狩りの依頼』・・・採集のような地味な作業は嫌いだから。
ユリアナは『1日で終わりそうな依頼』・・・宿の予約がまだ4日残ってるので無駄にしたくないから。
エレンは『貴族以外の依頼』・・・偉そうな人が多いから面倒くさそう。
という4つの条件で探した。
そして条件通りの依頼ということで探し、受ける事にしたのは『川魚亭』という料理屋の依頼による川魚の捕獲依頼だ。
内容は鰻を10匹とヤマメを30匹捕獲する事、報酬は500マニ、依頼分以上捕獲した場合鰻15マニ、ヤマメ8マニで全量買い取り、依頼失敗の場合違約金150マニ。捕獲した魚は店の裏の生簀に放す事、ただし元気に泳いでいる魚でないと捕獲と見做さない。
この世界ではまだ網は開発されていないらしい、そして釣りは一般的では無い、そのため魚も弓や槍や銛で捕るため『漁』と『猟』に区別はなくどちらも『狩り』という概念で話している。
流一の超言語は同じ『狩り』でもそれぞれ分けて翻訳されるので流一だけは『漁』と『猟』の違いに違和感を覚えるが、女性陣にとっては普通に『狩り』の依頼なのだ。
しかしここで疑問が浮かんだ、『川魚亭』は生簀の魚をその場で捌く新鮮さが売りの料理屋だが、この世界では魚を生け捕りにするのは難しいのでは?と思ったのだ。
そもそも弓や槍で生け捕りなんて考えられない、なのでその疑問の解消も含めて依頼の受注を決めたのだ。
受付で受注処理をしてもらい早速『川魚亭』へと向かった。
「あら、店はお休みみたいね」
「そうだな、取り敢えず呼んでみるか。こんにちは、ハンターギルドから来ました『デザートイーグル』です」
店の奥から店主と思われる男とその奥さんらしき人が出てきた。
「おお、ハンターギルドからと言う事はあなた達が依頼を受けてくれるんですか?」
店主と思しき男が期待に目を輝かせて聞いて来た。
「はい、そのつもりでやってきました。それで少し話を聞きたいのですが」
「もちろんです、ささどうぞお座りください」
「あなた、これでやっと店を開けられますね」
奥さんと思われる女性も目を輝かせている。
そして2人から話を聞く。
それによれば、今まで魚を獲ってくれていた男が怪我をしてしばらく漁が出来なくなったため、魚が手に入らず休業せざるを得ないため依頼を出したそうだ。
男が生きたまま獲って来ていたのは鰻だけだが、もし可能ならヤマメも生きたままが良いと思い出した。
しかし、ヤマメのある無しに関わらず魚を生け捕りにするのはその男以外には無理らしく誰も依頼を受けてくれず、休業せざるを得なかった。
なのでヤマメは生け捕りでは無くても数さえ揃えば依頼達成にしても良いと言ってくれた。
今度は魚を獲って来ていた男について聞いてみた。
男は元ハンターで名前はゴラン、店主とは幼馴染みだそうだ。
そして偶然魚を生け捕りにする方法を発見し店主に相談に来たので生け捕りにした魚を買い取る事にした。
それまでの店はそこそこ繁盛していたが、生きた魚をその場で捌く新鮮さを売りに高級店へと営業方針を転換したところ大成功を収めたため、ゴランはハンターを辞め店の専属として魚を捕るようになったとのことだった。
怪我を機に捕り方を教えてもらおうとしたが教えてもらえず、弟子のような者も居ないので、ゴランの怪我が良くなるまで待とうと思ったが、また同じような事が起こらないとも限らないのでハンターギルドに依頼を出したのだ。
大体の話は判ったのでこんどはゴランに話を聞こうと思い家の場所を聞くと店主も同行してくれた、店は休業中なので問題は無い。
「ゴラン、居るか?」
「おう、ハリスか、入れ」
店主はハリスと言うらしい、いまさらだが。
ゴランの家に入るとこちらを怪訝そうに見てきた。
「なんだ、このむさ苦しい男と美女達は?」
「この人達はお前の代わりに魚を獲って来てくれるハンター『デザートイーグル』の人達だ」
「なんだって、こいつらが鰻を生け捕りに出来るってのか?」
そんなはずは無いという驚きと悔しさの混じった顔でこちらを見ている。
「で、そのハンターが何の用で来たんだ?」
怒りを抑えたようなドスの効いた声で聞いてきた。
「それは、何故店主が困っているのに捕り方を誰にも教えないのかを聞きたかったからです。幼馴染で仲も悪く無いようなのに何故かと思って」
流一は隠すようなことでは無いので素直に答えた。
「なるほど、本当は捕り方がわからないからそうやって聞き出そうって魂胆だな?」
中々疑ぐり深いようだ。
しかし流一以外の3人は捕り方がわからないので同じように思っていた為『ドキッ』としたのが顔に出ていた。
それを見たゴランは
「やっぱりな、図星みたいだな」
と勝ち誇ったように言った。
しかし流一は3人の方を見ていなかったのでキョトンとした顔で言った。
「え?そんな事は無いですよ」
「嘘をつくな、だったらどうやって獲るか言ってみろ」
と強気に言ってきた。
流一は中指を立てて右手を突き出し(現代ではファックユーという意味だがこの世界では通用しない常識なので問題はない)緩めに曲げながら言った。
「鰻の寝床」
『鰻の寝床』とは鰻が好む場所の事であり、右手は鰻の掴み方を真似た動きだ。
もちろんハリスと女性陣3人には何の事かはわからない、しかしそれを聞いたゴランは冷や汗を掻き出した、流一が捕まえ方を知っていると理解したからだ。
しかし流一は捕り方を知っているだけで技術が無いのでその方法では捕まえる事が出来ないのだが内緒だ。
「話してくれますね」
そしてしぶしぶ話を聞かせてもらった。
それによると、昔弟子をとった事があるが技術を覚える前に諦めてしまうどころか、教え方が厳しかったため恨みを持つようになって嫌がらせを受けるようになったので人に教えるのは諦めたそうだ。
ちなみに今回の怪我もその嫌がらせで受けたらしい。
教え方が厳しいのは別にして、流一も知っていて出来ないので納得の出来る理由である。
「では別にその方法を独占したかった訳では無いんですね」
「勿論だ、今のままだとこいつに迷惑が掛かるのはわかっていたからな」
とハリスの肩を叩きながら言った。
ハリスも始めて理由を聞いて少し照れくさそうだ。
「では誰でも獲れる方法があればどうしますか?」
「「「そんな方法があるの?」」」
何故か女性陣3人の方が食いついて来た!
「あの、俺はこっちの2人に言ったんだが」
「「「ごめんなさい」」」
仲が良いのは良い事なんだがと思う流一だった。
「そんな方法が本当にあるなら教えて欲しい、俺以外も獲れるようになればこいつも休業しなくても良くなるからな。勿論タダとは言わん、取り敢えず蓄えが1万マニある、足りなければこれからの収入から少しづつ払うからたのむ」
自分よりハリスの事を考えているあたりゴランはお人好しな人のようだ。
「いや、家の店の事なんだ、足りない分は私が出す、だからゴランにその方法を教えてくれないか」
ハリスも自分にではなくゴランに教えて欲しいという辺り本当に仲が良いのだろう。
「わかりました、お金はさっきの半分の五千マニで良いです。その代わりハンターギルドでの指名依頼にしてくれませんか?」
「えっ!良いのか?それだと半分になった上にギルドの手数料まで取られて損するんじゃないのか?」
「大丈夫ですよ、なあみんな」
そう言ってみんなの顔を見ると
「そうですね、これ自体は損かも知れませんが、早くランクアップ出来ればその分もっと割の良い仕事が増えるので長い目で見れば徳になりますから」
とユリアナが言うと他の2人も頷いていた。
「そうか、ならそれでお願いする」
「では今日はこれで帰って準備をしますので明日また来ます」
「では俺はハンターギルドに依頼を出しに行く事にしよう」
こうして今日は宿へと帰った。




