22 続けて初指名依頼です
ハンターギルドの受付で依頼完了証明書を提出すると、
「お疲れ様でした。『デザートイーグル』の皆さんにはギルドマスターからお話があるそうですので二階の奥の部屋へお越しください」
と言われた。
「なに?俺たち何かマズイ事でもしたかな?」
「さあ?特には何もしてないわよね。でもとりあえず行けばわかるでしょ」
「そうだね、じゃ行こうか」
そして4人でギルドマスターの部屋へと入った。
「やあ、『デザートイーグル』の皆さんお疲れ様。おれがハンターギルドバルテス支部マスターのグレイ=オールソンだ」
「はじめまして、『デザートイーグル』リーダーの米村流一です。こちらからアメリア、ユリアナ、エレンです」
流一が紹介すると、皆それぞれギルドマスターに挨拶した。
「さっそくですが、僕たちに話が有るそうですがどのような御用件でしょうか?」
流一の普段使わない丁寧な言葉使いがぎこちない。
「そんなに緊張せず普段通りでいい。で、まず確認だが先日スターフルーツを売ったのは君達で間違いないかな?」
「はい間違いありません」
「そうか、ではお前たち『デザートイーグル』に指名依頼が入っている」
「「「「???」」」」
当然のごとく4人とも驚いている。
なにせ自分達全員新人で、しかもバルテスに来てからまだ1週間しか経っていない。
名前さえ殆ど知られていない『デザートイーグル』には指名依頼が来る要素は微塵も無いのだから。
「あの、何かの間違いでは?僕たちはこの街に来てまだ1週間ほどの新米パーティーですよ」
「いや、間違いでは無い。先日のスターフルーツは全てもぎたてのような鮮度を保っていた、この街ではかつてあれ程鮮度を保ったスターフルーツを見たことが無い。お前たちは劣化の激しい食品の鮮度を保つ特殊な方法を知っているのだろう?つまりその保存能力が必要な依頼なのだ」
「なるほど、わかりました。では、どのような依頼か詳細を教えてください」
流一は平静を装ってはいたが、内心は収納魔法の事を知られずに済ます方法があるだろうか?とドキドキしている。
詳細はこうだ、隣国フランドル王国の政変に伴い多数の難民とそれを狙った盗賊が国内に横行しているため、国が治安維持部隊を送る事になり指揮官に第三王子のレオニス=エネル=フォン=アルバートが就任した。
その第三王子の部隊が任地に向かう途中、通り道であるバルテスに寄ることになったので、領主であるバルドアン伯爵は王子や士官を館に招き壮行会をする事になった。
部隊の到着は5日後の予定だ。
その際、北の魔物領域のハーフ魔獣の肉と、そのさらに北東の森に自生するメロンという果物でもてなしたいらしい。
ただ、メロンは収穫から6時間ほどで味が劣化し始め12時間で腐りはしないが食べられないほど不味くなるらしい。
そのメロンの自生する森は魔物領域では無いが馬でも片道1日かかるため『デザートイーグル』の保存能力が必要との事だった。
ちなみに本によると、この世界のメロンは現代のマスクメロンと見た目は同じだ、ただし現代の物とは違ってツルでは無く枝が横に広がった低木の木に成っている。
「わかりました、では条件があります。そちらの経費で馬車を用意してください。それから御者も1人」
「そうだな、確かに必要だな、その条件は飲もう。他には何かあるか?」
「あっ!道案内も誰か用意してください、僕たちは初めての場所なので迷って遅れたら大変ですから」
「わかった、ではその森近くの村出身のギルド職員がいるからそいつに案内させよう。他に無ければ最後に条件だが、5日後の18時に領主の館に10個持ってくる事、ただしその時に劣化が始まるまで3時間以上ある事、成功報酬は10000マニだ」
流一は『メロン10個で100万円とはね!さすが上級貴族の伯爵様』と変な所に感心していた。
そして翌日、さっそく御者の操る馬車で『デザートイーグル』プラス案内人ハイジの5人はメロンの成る森へと出発した。
メロンは栽培では無く自然のものなので、早めに行って探しておかなければならないため早めに出発したのだ。
馬で1日の場所なので当然馬車では少し遅くなる、なので道中1回野営して2日目の朝森に着いた。
御者とハイジは初めて『デザートイーグル』と野営してその快適さに驚くと同時に流一の収納魔法を羨んだ。
なにせ野営で水は使い放題だし、調味料たっぷりの暖かい料理が食べられたし、テントに毛布も2枚づつ使えたからだ。
こんな経験はしたことはもちろん、聞いたこともなかったので仕方ない。
4人は到着と同時に森へと入って行った。
すると昼頃1本のメロンの木を見つけた、すでに食べごろのメロンが6個ほど実っている。
そこに目印を付け次を見つけに行くと4・500メートルほど離れた所に3本見つけた、3個、5個、6個と3本で14個の食べごろのメロンが実っている。
「とりあえず契約の個数は確保出来たけどどうしよう」
流一が3人に聞く。
流一の収納は秘密なので御者もハイジもいない森の中で作戦会議である。
「全部で20個よね、普通に流一の収納に入れておけば依頼達成だけど・・・」
アメリアも考え込む。
「収納魔法以外で鮮度を保存する方法があればいいんですけどねー」
とエレンが言うと、
「方法が有るには有るんだけどそれが有効かどうかがわからないんだよねー」
と流一が言った。
「「「えっ!有るの?」」」
仲のいい3人である。
「どんな方法なんですか?」
ユリアナが特に食いついてきた、さすが商人の娘である商売になりそうな事には貪欲だ。
「単純だよ、収穫せずに木を根っこから掘り起こして土も付けたまま持って帰れば良いんだよ」
「流一くん、もしかして最初からそのつもりで馬車を用意させたの?」
さすがユリアナは勘が良い。
流一の収納魔法があれば馬車が無くても期間内に依頼達成出来るのにと思っていたからだ。
「そう、でもそれが有効かどうかまでは分からないんだよね」
「じゃあダメだった時用に10個は収納魔法で収納しておいたらどうですか?もし使わなくても食べるなり売るなり出来ますし」
エレンが案を出す。
「それはいいね、じゃあどうする?単純に10個収穫して木を2本持って帰る?」
「それも良いけど少しは余裕があった方が良くありませんか?」
さすがユリアナであるリスクヘッジを忘れていない。
「じゃあもう1本見つけよう」
流一の言葉で探し始めるとすぐに5個実っている木を見つけた。
その5個と先に見つけていた5個と3個の木から全てのメロンを収穫して流一の収納に入れた。
そして1度馬車へ戻るとハイジと御者も一緒に大量の草を刈り馬車に積んだ。
木だけでは移動中にメロンが木から落ちてしまうため、それを防止するためのクッションにするのだ。
その後木の所に戻り収納からスコップを2個取り出してアメリアと2人で木の周りを掘り始めた。
掘り終わると今度は一辺2メートルくらいの布と縄を取り出し布で根の部分を土ごと包み縄で縛った。
ユリアナが指摘した通り最初から考えていたので用意が良い。
掘り出した木は流一が身体強化で持ち上げると、残りの3人が実が落ちないよう2個づつ支えて馬車まで持って行った。
そしてもう1本はユリアナとエレンが掘り出し同じように馬車へと運んだ。
その夜、食後に流一の収納からメロンを1個出し6当分してみんなで食べた、結論まんま夕張メロンであった。
翌日から3日かけてバルテスに帰る、御者以外の5人は歩いて帰るためだ。
クッションを土では無く草にしてはいるが、それでも2本の木はそれなりの重さがあるので馬車の負担を減らしたのだ。
道中、流一とエレンが交代で根と土を包んだ布が乾かないようウォーターをかけ続けた。
そして期限の5日目の昼過ぎに領主の館に着いた。
どうやらメロンの鮮度は落ちていない、流一の考えは正しかったようだ。
館では知らせを聞いた伯爵が直々に迎えに来た。
「メロンはどうなった?」
「はじめまして伯爵様『デザートイーグル』リーダーの米村流一といいます。メロンは馬車に用意してあります。そこで失礼とは思いますが、木ごと持って来たので
どこか植える場所を用意して頂けないでしょうか?」
「何、木ごとだと?」
「はい、それが劣化せず持ってこれる秘密です」
「なるほど、そんな簡単な事だったのか、しかしそれをわしらに教えても良かったのか?」
「大丈夫です、秘密にしていてもその内誰かが気付いたでしょうから」
「そうか、では厨房の入り口付近に植えてくれ。終わったら執務室に来い、依頼完了証明書を渡そう」
「はい、ではさっそく」
そう言って流一達は厨房の入り口に連れて行ってもらいメロンの木を植えた。
そして念のためメロンの木にウォーターヒールをかけると伯爵が待つ執務室へと向かった。
「ご苦労であった、それはそうとあの木はこの後どうなるのだ?」
「はい、私は専門家では無いのでよくわかりませんが、上手くすれば来年からもまた実を付けるようになると思います」
「なんと誠か?ならば来年からは庭で採れたメロンが食べられるかもしれぬのだな?」
「はい、野生の木ですから確実とは言えませんが」
「良い良い、ダメならダメでまた同じようにして採って来れば良いのだから。ではこれが証明書だ」
「ありがとうございます。では失礼します」
流一達は依頼完了証明書を受け取りハンターギルドへと向かった。
ハンターギルドではハイジが先に帰って報告していたため報酬の用意も出来ていた。
そしてギルドマスターの部屋へ呼ばれるとギルドマスターからも礼を言われた。
なにせ上級貴族であり領主である伯爵からの依頼を完璧にこなした上に保存の秘密まで惜しげも無く公開したことでギルドの評価も上がったのだから。
流一達は評価された事には素直に喜んだが、それ以上に流一の収納魔法の秘密が守られた事を喜んだ。
そして宿では食後のデザートにまたメロンを頬張る4人であった、メロンはまだ売っていないから。
なぜならせっかく王子をもてなすために用意したのに一般人が先に食べていては失礼になるからだ。
流一は鈍感だが礼儀くらいは(少しは)知っているのだ!
もっとも現代日本の常識なのでどの程度通用するのかは分からないのだが。




