15 新メンバー加入?
ハンターギルドレクスブルク支部に着いた三人は真っ直ぐ受付に向かった。
そしてハンターになりたい旨を伝えると、ハンター試験は毎週月曜日から土曜日に申込みを受け付けて日曜日に行われるとの事だった。
闘いや賭事など勝負事をする者はどんな世界でも験をかつぐものだがこの世界でもそれは変わらない。
試験が太陽の日に行われるのは、太陽の日が一番精霊の加護を受けられると信じられているからだそうだ。
今日は風曜日なので、三人は次の日曜日に受験するよう手続きして受付嬢から注意事項を聴くと宿屋を紹介してもらいその宿屋へと向かった。
宿屋は『ドラゴンの咆哮亭』というなんとも勇ましい名前だが、良くある飲食店との兼業では無く純粋な宿屋で部屋は普通であった。
しかし食堂はちゃんとあり、断らない限り朝夕の二食付きだ。
因みに名前の由来は、主人の祖父が『ドラゴンの咆哮』というAランクのハンターパーティーのリーダーをやっており、引退して宿屋を始めた時に仲間達からパーティー名を残して欲しいと言われ決まったそうだ。
三人はとりあえず1週間連泊する事にした、もちろん部屋は二部屋だ。
ハンターになった後もしばらくはこの宿屋を拠点に近場の魔物領域で狩りをしようと思ったからだが、期間が中途半端なのは狼の魔物の魔石と素材を売った収入ではそれが限界だったからだ。
その日の夜、食堂で食事をしていると同じようにハンター試験を受けに来たと思われる者が何人かいた。
そしてその中のひとりが声を掛けてきた。
12・13歳くらいに見える緑の長い髪と緑の瞳が魅力的な可愛らしい女の子だ。
「あの、私はエレンって言います。ハンターになりたくて試験を受けにきたんですけどあなた達も試験を受けるんですか?」
「ええそうよ。私はアメリア、こちらはユリアナ、そしてこっちが流一。で、私たちに何か御用かしら?」
「はい、もし皆さんがパーティーを組まれるなら私も入れてもらえないかと思いまして」
少しかしこまって話すエレン。
「確かに試験の後は三人でパーティー申請するつもりだけどなぜ今初めて会ったばかりの私たちのパーティーに入りたいと思ったの?」
流石に初対面でいきなりパーティーに入れて欲しいと言われては怪しいの一言しか浮かばない。
「実は私訳あって家出をして来まして・・・それで私水系の魔法が得意だからそれを活かしてハンターになろうと思ったんですけどソロでは厳しいかなと」
なんだか言いにくそうにうつむき気味で喋っている。
「でもそれならベテランのパーティーの方が良いのでは?」
当然の疑問をストレートにぶつける、相変わらずのアメリアだ。
「最初はそう思ってイロイロ聞いてみたんですけど、どうもベテランパーティーだと途中から入った新人は小間使い程度にしか見てもらえないらしくて、それなら同じ新人で女性のいるパーティーに入れてもらえないかと思ったんです」
「そう、パーティーに入りたい理由はわかったわ。でもなぜ私たちなの?」
「それは、アメリアさんとユリアナさんは剣と槍を持ってらっしゃるから前衛だと思いまして。流一さんは何の武器を使うかわかりませんが格好から魔法使いではなさそうでしたからパーティーのバランス的に魔法使いが居た方が良いかなと思いまして」
魔法使いをアピールするように言った。
さすがに横で聞いていた流一は苦笑いをしている。
アメリアとユリアナは『やっぱりこの格好じゃねぇ』とでも言いたげにジッと見つめてきた。
それに気づいた流一はサッと視線を横にずらして口笛を吹く格好をする。
流一はこの世界に来た時はジーンズにTシャツだったが、最初の買い物の時にこの世界の普段着を買って着替えていた。
魔法使いといえばローブと杖というお約束はこの世界でも同じだったが、流一は杖を使わないしそもそも持っていないのでローブだけ着るのも変な気がしたのだ。
「実は流一はこんなナリでも魔法使いなの、だから私たちのバランスはそう悪くは無いわよ」
こんなナリとは酷い言い草だがまあこれもアメリアクォリティだし流一もまったく気にしていないので無問題だ。
しかしそれを聞いたエレンは愕然とした、魔法使いアピールが完全に空振りしてしまったからだ。
なまじ魔法使いが居ないと思い期待が大きかった分衝撃も大きかった。
そして完全に沈黙してしまった。
下を向いて黙ったままのエレンの姿がいたたまれないのと自分にも少しは責任があると思った流一が助け舟を出す。
「でもほら、魔法使いは二人居た方が何かと良くない?」
何かとって何が?と尋ねられると困るほど適当に言ってしまい内心『ヤバイ!』と思ったがそこは皆スルーしてくれた。
しかし、
「確かに流一はすぐ魔力切れで使い物にならなくなるからもう一人居ても良いかもね」
とアメリアにジト目で見られながら嫌味を言われてしまった。
狼の魔物に襲われた時の事を思い出し、今度は流一が下を向いてしまった。
それを聞いたエレンは、今度は流一が魔力量が少ないと勘違いしてしまう。
そして魔力量をアピールしようと思っていると。
「アメリアそんなに流一くんをいじめないでよ、流一くんが魔力量を上げる為に頑張っていたのは知ってるでしょ、私達の為に収納魔法も覚えてくれたしね」
「わかってるわよ冗談よ、チョットからかって見たかっただけ」
この会話を聞いてエレンは『良かったー、収納魔法が使えるって私より魔力量多いよね、余計なこと言わなくて良かったー』と冷や汗をかいていた。
「で、私たちの事は少しはわかりましたかエレンさん。それでもまだ私たちのパーティーに入りたいですか?」
ユリアナがエレンの気持ちを確認する。
ユリアナはすでにエレンのパーティー入りを容認していた、なにせ流一の収納魔法はハンターになるまで内緒にすると言っていたのにここでバラしてしまったからだ。
それはアメリアもすぐに分かったが流一は鈍感なので気がついていない。
「はい、入りたいです」
エレンはもう他にアピールポイントが無いため力なくそう答えるのが精一杯だった。
「わかりました、私はパーティーに入れても良いと思いますが二人はどうかしら?」
「私も良いわよ、魔法使い二人のパーティーって新人としては贅沢なくらいだしね」
アメリアの言う通り、メンバー6・7人のベテランパーティーでも魔法使いは一人が普通であり、中には居ないパーティーもある中で、新人4人のパーティーで魔法使い2人は異常とも言えた。
「えっ?2人ともいいの?俺は大歓迎なんだけど」
「本当ですか?本当に入れてもらえるんですか?ありがとうございます」
エレンはそう言ってユリアナに抱きついて喜んだ。
それを見てユリでも無いのになぜか『羨ましい』と思うアメリアと、『次は俺か?いや俺は最後か?』と期待する流一が居た。
ちなみにその後アメリアにも抱きついたが流一には手を握っただけだった為、あからさまにガッカリする流一に乾いた笑いしかでない3人がいた。
そしてエレンのパーティー加入が決まるとそのまま歓迎会になった、もっとも宿屋の食堂なので酒は無いのだが。




