132 ハンターのランクについて
プライヒに到着した『デザートイーグル』一行は直ぐにプラム伯爵に報告を行った・・・もちろんベルカンプが。
「プラム伯爵、本日11時『デザートイーグル』により見事バハムートが討伐されましたぞ」
「おおお!それは誠ですか?誠にバハムートを討伐したのですか?撃退では無く?」
「誠じゃ、我ら騎士3人と作戦に協力してくれた騎士、村人の見守る中確かにバハムートは討伐された、安心致せ」
「それは目出度い、今夜は祝杯じゃ。大した領都では御座らんが美味い料理を出す店はいくつかあります、是非今夜は皆さんを招待させて下さい」
プラム伯爵としてはもっと本格的に祝宴を催したいほど感謝している、しかし翌日には全員報告の為王都に戻る事が分かっているのでせめてもの感謝の気持ちとして夕食に誘った。
「それはかたじけない、是非お受け致しましょう」
ベルカンプはプラム伯爵の申し出を快く受けた。
その後は詳しい討伐の経緯などを報告してから料理屋へと移動した、領主が自ら美味い店と言って連れて来ただけあり満足出来る料理の数々だった。
尤もまだこう言う状況に慣れていない約2名、言わずと知れたミランダとシェーラは料理の味どころでは無かったようだが。
翌日、『デザートイーグル』+αと3人の騎士は王都へ出発した、本来ならバハムート対策室長としてプラム伯爵も共に行くところではあるのだが領主として事後処理を優先せねばならない為今回は同行しなかった。
お陰でと言うべきか、全員騎馬での移動となったので3日で王都に帰還する事が出来た。
王都テレイオースに到着すると直ぐに王宮へ向かった、王宮では大変な騒ぎで迎えられた。
バハムートが討伐されたその日、プラム伯爵は直ちに王宮に向け報告の早馬を走らせていた、なので一行が王宮に到着する前日には国王始め国の重鎮達はバハムートの討伐を知ったのだ。
だからこそ多くの貴族が王宮に集まり『デザートイーグル』一行の帰還を待ち構えていた、ただ歓迎1割バハムートの実物を見たい好奇心9割の貴族達ばかりだ。
バハムートの素材は国が買い取る為この機会を逃すとバハムートの本物を見る機会は無いとわかっているから仕方ないとも言える。
王宮では『デザートイーグル』+αは控えの間に通された、そして同行していた騎士達3人だけが先に報告の為大広間へと向かった。
本来なら謁見の間での報告となるところなのだが、今回は多くの貴族が王宮にやって来ているので例外的に大広間での報告となった。
「ご報告いたします。本日、我ら騎士3名無事バハムートの討伐を見届けて帰還いたしました」
「おお、ご苦労であった。それで、『デザートイーグル』の戦いぶりはどうであった?」
「はは、あの者達の戦いぶりは凄まじいものがございました・・・ただ残念ながら我らに同じことは出来ないとも感じました」
「お主らほどの使い手でも同じことは出来ぬじゃと?それほどのものか?あの者らの戦いは?」
「はい、まず個々の戦闘力ですが、全員身体強化魔法が使えるようで我ら以上なのは間違い無いかと。さらに武器は特殊なようで、見たことの無い形と威力の弓や恐ろしいほどの切れ味の剣や槍はかなりの業物と見受けられます。さらに戦闘スタイルや作戦は我らでは思い付きもしないような大胆でいて緻密な物でした。素晴らしい戦いを見ることは出来ましたが我らの戦いの参考にはなりません」
「そうか、やはりあの者らと敵対する物では無いと言うことか。それで、どう言った戦いぶりだったのじゃ?」
その質問に対し騎士を代表してベルカンプが作戦と戦闘の内容を詳しく説明した。
「そうか、それにしても・・・本当に新人2人が入った5人だけで倒すとは、あやつらにとってはドラゴンでさえ余裕で勝てると言うことか・・・」
最後は少し暗くなった、『デザートイーグル』の戦闘力がそれだけ驚異的だと言うことだ。
しかし本当に凄いのは戦闘力の落ちた『デザートイーグル』でさえもドラゴン戦で勝利してみせるヨネ子の知略なのだが。
その後は『デザートイーグル』を大広間に迎え入れて報告を聞いた、とは言え重要なことは全てベルカンプに聞いた後なので形式的なものだ。
それよりもその場の全員がその報告の後に注目していた、そう本物のバハムートを見る事にだ。
「では報告も終わった事であるしバハムートを見せてもらえるか?」
形式的な報告だったこともあり、終わると同時に国王にそう言われた。
「はい、それは構いませんが・・・どこに出せば良いですか?」
「この場で構わん。何、汚れるのはわかっておる、後で掃除をきっちりやらせるから心配せんで良い」
「わかりました、ではミランダ、ここに出して」
セリーヌはメイド達に少し同情しながらミランダに命令した、それを受けてミランダはバハムートを『デザートイーグル』と国王の間の床に取り出した。
「「「「「「「おおおおおお!!!」」」」」」」
バハムートが貴族達の眼前に現れると多くの感嘆の声が漏れた。
「あのー、この後はどうしますか?一旦仕舞って別の場所に持って行きますか?」
しばらくして声が途切れた頃セリーヌが聞いた。
「いや、せっかく出してもらったのじゃ、この後は兵士にでも運ばせる」
「そうですか、それではこれでバハムートの素材納品も完了でよろしいですね」
「うむそれで良い、ご苦労であった。討伐代金とバハムートの代金は明日依頼完了証明書と共に用意させておくゆえ取りに来い。財務大臣、それで良いな、任せたぞ」
「御意」
これにて報告は終了し『デザートイーグル』+αは宿屋「琥珀の森」に向かった、もちろん宿代はハンターギルドか王国持ちだ。
その日、バハムート討伐以降初めて『デザートイーグル』+αだけになったので祝杯をあげる事にした、やはり部外者がいては楽しめない、それが『デザートイーグル』なのだ。
「では新生『デザートイーグル』の初陣成功を祝して乾杯」
「「「「「「乾杯」」」」」」
「でもバハムート討伐出来て良かったですー」
やっと緊張から解放されたのかミランダが感慨深げに呟いた。
「それにしても、今回はシェーラの活躍が目立ったわね」
「そうね、以前は気にならなかったけど、やっぱりパーティーに魔法使いの護衛って重要ね」
セリーヌの言葉にユリアナが同意する、それ程ミランダの危機は衝撃的だったのだ。
「そんな、皆さん褒めすぎです。皆さんこそバハムートを倒し切って凄いと思います」
シェーラは褒められ慣れてはいないのだろう、凄く恥ずかしそうにしている。
「でも本当よ。シェーラありがとう」
ミランダも心から礼を言った。
「でもミランダの魔法も凄かったわよ、初めてなのに矢にフレイムランスを纏わせたりシェーラの治療も完璧にこなしたり」
エレンはミランダを褒めた、ミランダの師匠として優秀な弟子が誇らしいのだ。
「ありがとうございます。それもみんなエレンさんが教えてくれたからです」
「セリーヌとアメリアとユリアナの連携もバッチリ決まったね。まあもうベテランだしね」
「ちょっと流一、一言多いわよ。私たちまだまだ初々しいでしょ」
流一の意見にはアメリアが反論した、とは言えじゃれあっていると言う方が正しいが。
「もう初々しいとか言えないと思うよ。もうすぐBランクに上がれるはずなんだし」
「そっか、もうハンターになってそんなに経つのね。じゃあパーティーランクもBに上がるってことよね」
「そうね、Bランク3人とCランク2人だからBランクで大丈夫だと思うわ」
感慨深げなアメリアにセリーヌが答えた。
「でも俺たち本当のCランクの依頼って護衛以外あんまり受けて無いような気がしない?変に貴族の指名依頼が多くて」
流一もこれまでを振り返ってみた、そして思った「俺たちCランクだったんだよな?」と。
「そう言えばやたら貴族と縁があったわね。もっとも相手を貴族として扱ってたかは怪しいけどね・・・流一は」
「えー?そう言うアメリアだって怪しかったと思うけどな」
「元王族の私から見ればどっちもどっちでしたよ。でも一番はみんながそれを許してもらえるだけの実力を持ってるって事ですけどね」
エレンがふたりのじゃれあいに決着をつけた。
「皆さん本当に凄いんですね」
その話しを聞いていたシェーラが関心するように言う。
「何言ってるのシェーラ、あなたもミランダもその1人よ」
その他人事のような発言にはユリアナが反応する。
「え?私たちもですか?」
「もちろんよ。そもそもハンターの初陣がドラゴン討伐なんて私達よりすごいんだから」
ユリアナの意見はもっともだ、普通にはありえない、そもそもドラゴンを討伐した時点でこれまでの世界ではあり得ない事なのだ。
それがわかっているので流一、エレン、セリーヌ、アメリアの4人もウンウンと黙って頷いていた。
「そう言われれば・・・・・そうなのかな?」
「そうね、そうかもしれませんね」
未だ半信半疑のシェーラと『デザートイーグル』の一員になれた事を誇らしく思うミランダがいた。
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『デザートイーグル』一行がテレイオースからバハムート討伐に出発した頃、テレイオースのハンターギルドギルドマスターランディは隣国リシュリュー王国の王都ベイルーンのギルドマスターギムレットに共同でギルドマスター評議会の開催を打診した。
ギルドマスター評議会とはハンターギルドの最高意思決定機関だ。
ハンターギルドには本部と言われる存在は無い、交通機関が発達していないこの世界では本部を作るとその周辺の国々と遠方の国々にサービスの差が出来てしまう為だ。
そのため本部は作っていないが、ギルド全体に影響を及ぼす事案の処理を行うためには本部と同じ機能を有する機関が必要な事も否めない、そこでその機能を補完するために開催されるのがギルドマスター評議会だ。
ギルドマスター評議会は各国の首都(王国以外の政体の国もあるため王都ではない)のギルドマスター2人以上の要請により要請国以外の国5カ国以上の首都のギルドマスターが参集する事で成立する不定期開催の機関だ。
基本的にギルドマスター評議会で決定した事に従う義務があるのは参加国だけだが、参加していない国のギルドもよほどの事がない限り従う事になっている、そして過去ギルドマスター評議会の決定に従わない案件を持つギルドは皆無だった。
そして今回のギルドマスター評議会だが、ランディからの手紙を受け取ったギムレットは快諾し参集予定の5カ国に対する開催通知書と参加依頼書を作成しサインすると直ぐにランディに送り返した。
それを受け取ったランディはその受け取った開催通知書と参加依頼書にサインし、連名となったその2つをそれぞれの国の首都のギルドマスターに送った。
送った国はエムロード大王国、フランドル王国、ドメル王国、ガベン王国、レベンド王国の5カ国だ。
開催地は通常要請国のどこかとなるが、今回は要請国でもあり発案国でもあるアルバート王国の王都テレイオースとなった。
そしてギルドマスター評議会開催日、議題はハンターランクの条件見直しと『デザートイーグル』の評価について。
これはもちろん『デザートイーグル』の活躍に問題意識を持ったからこそだ、が、これは実は表向きの理由に他ならない。
本当の理由はマンモスの魔物やドラゴンを倒す程のハンターがCランクと言う事で各国のハンターギルドでは依頼者、取り分け貴族からハンターのランクについての信頼性が揺らいでいたからだ。
それらの事情もあり会議は順調に進み、今後は各ランク2年以上とした経年措置を撤廃する事で決定した。
それに伴い必要ポイントも変更された、内容は功績ポイント(依頼の受注実績)と達成ポイント(依頼の達成実績)の見直しと売買ポイント(素材の販売実績)の評価設定である。
功績ポイントと達成ポイントは単純に必要ポイントを増やした、これによりあまり短期間でランクが上がらないようにするためだ。
売買ポイントはハンターランクに見合った素材の場合を100パーセントとして、1ランク上の素材ならプラス10パーセント、2ランク上ならプラス30パーセント、3ランク以上上ならプラス100パーセントとした。
逆に1ランク下ならマイナス10パーセント、2ランク以上下ならマイナス50パーセントとした。
仮にCランクのハンターもしくはパーティーだったとして、Bランクの魔物の素材はプラス10パーセント、Aランクならプラス30パーセントのポイントをもらえるようになるが、ウサギや狐の魔物の素材では貰えるポイントが減ると言う事だ。
これも実力の上がらない弱い魔物しか相手しないようではランクアップし辛くさせるためだ。
次に『デザートイーグル』自体のランクについて、流石に「2年経ちましたので明日からBランクです」などと言える状況ではない。
評議会の開催日はバハムート討伐から20日ほど経ってからの開催となった、なので全員『デザートイーグル』の実力がこれまでの最高位Sランク以上だとわかっている。
だからと言っていきなりSランクと言うのも問題がある、昨日までCランクだったのが一夜明ければSランクでは「これまでギルドは何をしていた」と批判を浴びかねない。
そこで、協議の結果旧『デザートイーグル』の5人をAランクへ新人のミランダとシェーラをBランクへ、パーティーランクもAランクへとそれぞれあげる事で決定した。
ミランダとシェーラの2人も初陣がドラゴン討伐に続き、依頼一件達成でランクアップと旧『デザートイーグル』に負けず劣らずの伝説を作りつつある。
これも2人にしてみれば過大評価で恥ずかしいと思っているわけだが。




