122 そうなっちゃいます?
この世界に転移してきた時には16歳だった流一もすでに18歳、日本ではまだ高校生だがここでは立派な大人だ。
パーティーを組んだ時には13歳だったエレンも今は15歳、日本ならまだ中学生だがこの世界ではこちらも立派な大人である。
惹かれあっているその2人がタペヤラの宿屋の一室で2人きり、日本なら高校生と中学生の微笑ましいカップルもここでは大人の男と女である、何も起きないわけはない。
というよりアメリア、ユリアナ、セリーヌの3人は何かを起こして欲しくて同室にしたのである、流一としても期待に応えないわけには行かない。
かくしてどちらも未経験同士のためとてもスムーズにとはいかなかったが無事1つに結ばれた。
「師匠、本当に元の世界に帰っちゃうんですか?」
初めて結ばれた夜、ベッドの中から上目遣いでされる質問は破壊力抜群だ。
「正直迷ってる。俺はここには突然飛ばされてきたから、最初は早く帰りたくて仕方なかったんだけど仲間と出会ってハンターになって冒険して、すごく楽しくてこの世界を好きになった。でも元の世界には家族も友達もいるから、どうしても俺はこの世界の住人じゃ無いって思ってしまうんだよね。だから最初は元の世界に帰る事に何の躊躇も無かった。でもエレンを好きになって、結ばれて、今はエレンと離れたく無いって気持ちの方が大きいんだ」
「私も師匠はいつか自分の世界に帰ってしまうんだって思ってました。だから私の気持ちを伝えて思い出をいっぱい作ろうって、それで別れても思い出があれば良いって思ってました。・・・でもやっぱり離れたく無いです」
好きな女の子から目にいっぱいの涙を溜めながら言われたのだ、流一には黙って抱きしめる以外に言葉が出なかった。
ひとしきり泣いた後、エレンは意を決したように話し出した。
「師匠、師匠には心配してる家族がいて友達がいるんだから元の世界に帰った方が良いと思います」
「え?でも俺はエレンとも別れたく無いよ」
「私も師匠と別れたくありません、だから私を師匠の世界に連れて行ってください」
衝撃の発言に、流一はしばし呆然とした。
「え?良いの?」
「はい、師匠も知ってる通り私の両親と兄弟はもう居ません、親戚は家族とは呼べません、もう王女でもありません、今の私にはこの世界で失う者はもう何も無いんです。だから、これからは師匠が私の家族になって下さい」
エレンは力強い目で流一を見なが言った、流一はその決意を受け止める事に何の躊躇も抵抗もない、何より流一自身がエレンと家族に・・・というより夫婦になる事を望んでいるのだから、だからこそ一層強くエレンを抱きしめながら答えた。
「エレン、結婚しよう」
「・・・はい・・」
エレンも流一を抱きしめながら小さな声で答えた。
「そうだ、1つ条件がある」
「条件?何ですか?」
「夫婦になるなら「師匠」はやめよう?」
「もう、それ今言うことですか?でもじゃあ流一・・さん?」
「うん、それで良いよ」
少し恥ずかしそうに答える流一。
「じゃあ、流一さん大好き」
その言葉を聞いて思春期真っ只中の青少年が我慢できるはずはない、そのまま2回戦へと突入した。
2回目の賢者タイムに流一はある告白をする決意を固める、それは「知恵の魔法」についてだ。
これからはなるべくエレンと過ごしたい流一はこのままだとヨネ子への報告メールを制限しなければならなくなると考えたのだ、それを回避するためにエレンに真実を教える。
「エレン、聞いてほしい事がある。「知恵の魔法」の事なんだけど」
「「知恵の魔法」がどうかしたんですか?」
「本当は魔法じゃない」
「えっ?どう言う事ですか?」
「本当は元の世界にいる妹にイロイロ聞いていたんだ」
「えっ?妹さん?そんな事出来るんですか?」
「うん、出来る。これでね」
流一は収納からスマホを取り出してエレンに見せた。
「妹さんはこの世界の事知ってるんですか?」
「うん、俺が毎日のように報告してるから知ってる」
「そうですか、じゃあ私達の事も伝えるんですか?」
「いや、エレンの事は元の世界に帰ってから伝えようと思ってる」
「どうしてですか?違う世界の人間は受け入れてもらえないんですか?」
少し悲しそうな表情になるエレン。
「いや、多分それは問題ない、問題なのは歳の方だよ」
「どう言う事ですか?」
「俺の住む日本は20歳までは未成年で大人と認められてないんだ。それに結婚年齢も女は16歳から、男は18歳からってなってるんだ、しかも未成年の間は結婚に親の同意がいる。それで反対される可能性が高いと思ってる」
「歳ですか、それはどうしようもありませんね」
「だから戻ってから報告する、それなら異世界に帰れなんて言われることはないから。まあ帰る方法も無いと思うけど」
「そうですね、行ってしまえば受け入れてもらえるならそれで良いです」
エレンの機嫌も治り一安心の流一であった、ただ、せっかく告白したのにその日はヨネ子へのメールはしなかった。
とは言え3回戦に突入する事もなくこの日は眠った。
翌朝、アメリア、ユリアナ、セリーヌの3人が食堂で朝食をとっていると、少し遅めに流一とエレンがやってきた。
「おはよう、昨夜は良く眠れた?」
「あっ、おはようございます。よく眠れましたよ」
セリーヌが最初に挨拶してきた、そして普段なら絶対にしないであろう質問に対しエレンが恥ずかしそうに答えた。
セリーヌ達3人には流一とエレンが寝たのはバレバレだからこその質問だ、それがわかっているからエレンも恥ずかしそうなのだ。
しかしそれがわからない人間が約1名、言わずと知れた流一である。
「どうしたの?何でそんな事聞いてんの?」
流石にこの感の悪さには女性陣全員ため息をついた、そしてアメリアに呆れて言われた。
「貴方達がついにヤっちゃったから聞いたに決まってるでしょ」
「えっ?ヤっちゃったって、そんな身もふたもない無い言い方しなくても。って言うか何でわかったの?声が漏れてた?」
「はー、これだから流一は・・・。何で一緒に居て気付かないのよ!エレンの歩き方が少し変でしょ!」
「あっ!・・・・・ごめん」
ここまで言われれば流石に流一にもわかった、なので恥ずかしくなって必要も無いのに謝ってしまった。
せっかく男になったのにあまりにもウブな流一に興醒めしたのか、女性陣のからかいはこれで終わってくれた。
「それで、皆さんに報告があります」
「俺たち結婚します。そしてエレンも俺の世界に連れて行きます」
エレンの言葉に流一が繋げた、新婚(?)早々中々のコンビネーションだ。
それに対して3人は全く動じていなかった。
「やっぱりねー」
「そう言うと思ってました」
「まー、そうなれば良いなと思ってたんだけどね」
3人の『何を今更』的な発言に流一とエレンの方が驚いた。
「で、これからの予定なんだけど」
アメリアが空気を変えるべく話しを振った。
「ああ、そうだね。何か意見がある?」
「ドラゴンの代金は明後日取りに行くから、今日明日の2日は私たち3人で魔物を狩りに行って来ようと思ってるんだけど良い?」
「えっ?どうしたの?急に」
「急でも無いわよ、言ったでしょ、貴方達ならそう言うって」
「だから、もしそうなったらこの2日は新婚気分で過ごしてもらおうって相談してたのよ」
「それに2人が居なくなった後の事も考えて、3人だけの狩りの訓練をするのに丁度良いでしょ」
アメリア、セリーヌ、ユリアナがリレー形式で答えた、こちらも中々のコンビネーションだ。
「そうか、なんかありがとう。じゃあ俺の持ってるテントとか料理の道具を預けるよ」
「そう、それを言おうと思ってたの。こうなると亜空間の絨毯って便利よね」
「ええ、他のハンターには無い私達だけのアドバンテージよね」
3人はそう言いながら流一の持つ道具を受け取った、他にもお客さんはいるのだが誰も気が付いていない。
食事が終わるとアメリア、ユリアナ、セリーヌの3人は早々に出発した、そして流一とエレンもデートへと出かけた。
タペヤラはレベンド王国の首都らしく街並みに活気がある、気候が亜熱帯性のため新鮮な果物が市場にたくさん並んでいる。
「見たことないフルーツがいっぱいですね」
「そうだね、せっかくだから明日はみんなにフルーツケーキを作ってご馳走しようか」
「そうですね、たくさん気を使ってもらっちゃいましたしね」
流一達は気になるフルーツを片っ端から買っていった、収納魔法のお陰でいつ食べるにしても鮮度が保たれるからだ。
ただ、前は人前で収納魔法はあまり使わないようにしていたのに最近は自重していない、油断では無く自信からくるのだがそれがわからない愚かな人間は割と多い。
要するにその手の輩に目をつけられた、見た目は年若い男と女である、そんな勘違いする者が現れても仕方ない。
だからと言ってあからさまに人通りの多い場所で絡んでくることは無い、自分達が悪事を働いている自覚があるからだ。
流一もエレンもデートで索敵魔法を使うような無粋な人間ではない、しかしそれなりに修羅場を潜って来ているのだ、2人とも不穏な気配をしっかりと感じていた。
「なんだか監視されてるような雰囲気がするね」
「そうですね、何が目的でしょうか?」
「多分収納魔法じゃないかな」
「だったら殺すんじゃ無くて捕まえる方ですね」
「そうだろうね、収納魔法を使ってたのは俺だけだからエレンを人質にして言う事を聞かせようってところかな」
「どうします?」
「折角のデートが監視付きって言うのも嫌だしね。適当な路地で片をつけようか」
「わかりました」
涼しい顔で歩きながら中々過激な内容の会話だった。
ともあれ人目を避けるためわざわざ人通りの少ない方へ少ない方へと歩いて行く、そして路地裏へと迷い込んだ、もちろんわざと。
「よう、そこの色男、こんな人気の無いところでお楽しみのつもりかい?」
いかにもなチンピラ風の男が5人ほど現れた、そして路地の反対側からも同じような風体の男が5人近付いてくる、その手には様々な武器を持っている。
『『予定通り』』
流一とエレンは心の声でハモっていた。
「そうだよ、何か用?」
「イヤイヤ素直だねー。だがここはあんたらみたいな人間が来るにはチョット危ないところでねー。忠告してやろうと思ったのさ」
「ふーん。で?目的は?」
流一はいつものように面倒になったので早速結論を聞いた、もっとも聞くまでも無いのでただの確認だ。
「あれあれ?案外感が良いんだな。まーバレてるんなら話しは早え。何、話しは簡単だ、俺たちの仲間になりな、お前さんの収納魔法がありゃあガッポリ稼げるんでな」
「はー、やっぱりかー」
わかっていた事とは言え全くひねりのないお決まりの展開に少々、いや思いっきり落胆してため息を漏らした。
「お断りします」
流一が元気が無くなったのでエレンが答えた。
「おいおい、俺たちが紳士的に言ってる内に仲間になった方が身のためだぞ。こっちは嬢ちゃんを捕まえて無理矢理言う事を聞かせる事も出来るんだ、もっとも俺たちはそっちの方がお楽しみが増えて嬉しいんだがよ」
「はー、ではこっちも言いましょう。僕たちが紳士的に話してる内に消えた方が良いですよ。さもなければ痛い目を見ますよ」
「なんだと手前えら。少し痛い目を見ねえとわからねえようだな。おう、やっちまえ、だが殺すなよ」
「「「「「「「「「おう」」」」」」」」」
リーダーの言葉に全員が応えて近付いてきた、それを見て流一は刀を取り出す。
バキッ、ボキッ、バキッ、バキボキッ、バキッ
「「「「「うぎゃーーーーー」」」」」
「ストーンバレット」
ガスガスガス、ゴスゴスゴス、ガコガコガコ
「「「「「ぐわーーーーーー」」」」」
前方の敵は流一が刀の峰打ちで全員骨折させた、後方の敵はエレンが魔法で全滅させた、全く相手にならない。
流一とエレンは全員をその場に放ったらかしにして、さっさと市場に戻りデートの続きを楽しんだ。




