彼 と 私 の S H O R T S H O W 0 0 1
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早朝。留守食堂(留守家)屋上。
つま先立ちで、屋上に立っているクロウ。
勢いよく屋上のドアが開き、洗濯物かごを抱えた若葉と快晴が出てくる。
仙波から奪ったままの拡声器を取り出し、クロウに叫ぶ若葉。
若葉「おはよう!九朗っ!!」
「早速だが!洗濯物を干したいので右足を上げろっ!」
「違――うっ!お前の右足じゃない!アタシから見ての右だ――っ!!」
留守家の洗面所。
顔を洗いながら呟く哲司。
哲司「朝っぱらから……音量絞れよ……」
「つか、拡声器使わなくても聞こえてるだろ」
屋上から響いてくる若葉の声。
若葉「よろしい!しばらくそのままっ!」
留守食堂 屋上。
呆れ顔の快晴が、若葉の手にした拡声器を指差す。
快晴「ソレ(拡声器)使わなくても聞こえてるよ……」
若葉「え?そうなの?」
拡声器を使い、クロウに文句を言う若葉。
若葉「そんなことは早く言え―――っ!!」
片足を上げたまま、困惑気味のクロウ。
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留守食堂 屋上。
洗濯物を干し終わる、若葉と快晴。
ホッと、一息つく若葉。
若葉 「よし!OK!」
クロウ「!」
OKを勘違いして、左足を下ろすクロウ。
若葉に迫るクロウの左足。悲鳴を上げる若葉。
若葉 「きゃぁー!そっちのOKじゃないーっ!」
クロウの左足に飲み込まれる若葉を見て、驚く快晴。
快晴 「お姉ちゃん!?」
息をのみ、再度問いかける快晴。
快晴 「潰れてないと思うけど……大丈夫?」
ピョコリとクロウの左足から顔だけ出す若葉。何かを考え、再び引っ込む。
顔を出したり引っ込めたりを繰り返す若葉。半ば呆れて見守る快晴。
快晴 「モグラ叩き……」
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クロウ 左足の内部。
暗闇に、星の様な光が瞬く謎空間で佇む若葉。
若葉「何だこれ?変なの……」
「暗くて何も見えないのに、周りの様子がちゃんと解る……」
「これは父さんのパンツ……」
留守食堂 屋上。
哲司のパンツを持ったまま、クロウの左足から出てくる若葉。
快晴「お姉ちゃん?」
若葉「快晴……」
少し考えて、クロウを見上げる若葉。
若葉「……部屋干し用洗剤を使った方が良かったかな?」
快晴「はぁっ??」
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日常に戻った東京の朝風景。
駅に向け足早に通勤する人々。すれ違う外/内回り山手線。
公園をランニングする人。犬を散歩する人。クロウに手を合わせるお婆ちゃん。
常駐している82式の横で店のシャッターを開ける哲司。
クロスバイクで通勤する人。すし詰め池上線で登校する若葉。友人と徒歩で登校する快晴。
工事で渋滞する一般道。普通に渋滞する首都高速道路。少し遠くに直立するクロウの姿。
羽田空港に離着陸する旅客機。管制塔で業務に勤しむ管制官1。
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東雲高校、最寄りの東雲駅。
羽田に着陸する旅客機が上空を飛ぶ。
駅の改札を出る若葉。笑顔で伸びをして駅の周囲を見渡す。
若葉「う~ん」
「1週間ぶりのラッシュに~」
「1週間ぶりの学校か~」
「非日常が、やがて日常に変わる世の不思議!」
若葉の後ろから声を掛ける燈。
燈 「若ちゃん!おはよう!」
若葉「おはよう!燈!」
「休んでた間、色々とありがとね」
燈 「――どう?落ち着いた?」
若葉「意を決して攻め込んで、洗濯物を干す宇宙空間は確保した!」
「ここ数日のコインランドリー代をアイツに請求したいわ」
燈 「??」
高校までの道のりを歩く二人。
若葉「──で。見事に初対面で気絶しちゃったから、周りが異常に
気を遣っちゃってさ」
「君の高校のカウンセリングルームに顔を出しなさい!……だって!」
「信じられる?明日から、ほぼ毎日だよ?そっちの方が、
よっぽど非日常だよ」
心配そうに若葉に話しかける燈。
燈 「カウンセラーって、星乃……歌留多先生だよね?」
「……」
「若ちゃん?……私、付き添いしようか?」
笑う若葉。
若葉「いいよ。子供かよ」
「そのうち慣れるよ」
燈 「……そう」
思い直したように笑顔で若葉に話しかける燈。
燈 「ね!今日、屋上でお弁当食べない?」
若葉「いいね!――よしよし!帰ってきたぞ!良き日常……」
高校の正門前で目つきの悪い黒猫が、
じっとり・ねっとりと二人を見つめながら、ゆっくりと横切る。
燈 「……」
若葉「良き日常が……」
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お昼。留守食堂 上空。
クロウに対して、ダメ元でダメ押しの戦術偵察を試みる2機の空自偵察機RF-4EJ。
轟音を響かせるジェットエンジン。ベイパーに包まれる翼。
単眼で機影を追うクロウ。
留守食堂 店先。
周辺道路は警察その他の車両、人員で大混雑。
82式の上で、飛び去るRF-4EJを眺める久住。
久住「空自さんも、無駄に頑張るなぁ……」
久住の下で、空を見上げる酒屋のおじさん。
酒屋「商店街も、賑やかになったねぇ~」
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夕方。留守食堂 店先。
82式の周りにたむろする面々。若葉に驚く仙波。
仙波「え――っ!?クロウの身体の中に……入っちゃったの??」
「何でまた、そんな体当たりを……」
パピコを味わう若葉。
若葉「だって、生活かかってるもん」
82式の側面ハッチに腰掛けて、ドローンの教本を見ているつう。
つう「あ~先を超された~」
「これの試験運用、楽しみだったんだけどな~」
82式の上から、つうを見下ろし苦笑する久住。
久住「おつうも無駄に頑張るなぁ……」
久住を三白眼で見上げるつう。
つう「部下のやる気に、水を差さないでください」
久住「……申し訳ない。新たな発見を期待します」
つうの隣で、スマホゲームしている快晴。
快晴「クロウには、僕から撮影許可とっておくよ」
快晴を抱きしめるつう。
つう「ありがとっ!快晴っ♥」
快晴「むぐぅ」
つうをチラ見した後、小さく挙手する若葉。
若葉「はい!」
「アタシも発見です!」
一同「どんな!?」
自慢げに胸を張る若葉。
若葉「洗濯物が、普通に乾きました!!」
「お日様の匂いって素敵!」
一同「はぁっ??」
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彼 は 私 の 世 界 を 歩 き
私 は 彼 の 世 界 を 想 う
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翌朝。
留守食堂 店先。朝刊を取りに外に出た哲司。
既に左足を上げているクロウを見上げて呟く。
哲司「何だか……心苦しい……」
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彼 と 私 の S H O R T S H O W 0 0 2 に続く