第 一 話 屋 上 の 始 末 を つ け ろ!
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
東雲高校の教室。
緊急時の対応マニュアルに沿った学校待機で、暇を持て余している生徒達。
窓際にもたれた若葉が、スマホを操作している。
若葉「やっぱり繫がらない……」
家族への通話を諦め、高校近くの首都高速高架橋を眺める若葉。
封鎖された高速道路を、今はパトカーの車列だけが走ってゆく。
若葉の隣席でスマホを操作している燈が、SNSの投稿を読み上げる。
燈 「港区、品川区、大田区、世田谷区で大規模交通規制……」
「助けて。影の人が僕を踏んだ」
「首都高速一部区間を除き、通行止め……」
「インスタ映えしない非常事態」
「俺のスマホが、逆AR状態」
「……」
「――何かしらこれ?」
若葉を見る燈。
燈 「若ちゃん?よく解らないけど、当分帰れそうにないわね」
若葉「まいったなぁ~」
教室の窓から空を見上げ、家族を想う若葉。
若葉(……快晴と父さん……大丈夫だよね……)
(……東京タワー登頂自慢なんてしなければ良かった)
(……そうしたら二人とも家に)
(いやここは……前向きに考えよう……)
(都内で何があったとしても……きっと無事に避難して……)
(……してるかな?……父さん、39歳の次男だからなぁ……)
(妙な好奇心に駆られて……)
(いやいや違うぞ?アタシ……こんな時こそ信頼ダディ……)
(快晴を頼んだ……ガンバレ哲司……)
突然響く、ヘリのローター音に驚く若葉。
高校の真上を飛び去って行く、2機の陸自対戦車ヘリAH-64Dアパッチ。
若葉「燈!何か、今すっごいのが飛んでった!!」
小さくなるAH-64Dの機影を、目で追う燈が呟く。
燈 「本当に、怪獣でも出たのかしら……」
大田区洗足池公園近くの商店街。
留守食堂の屋上に立つ、巨大な人型の「影」。身体の光が輝きを増す。
「影」に撃墜されるリスクを考慮して、多摩川河川敷上空を飛行する、
2機の陸自AH-64D。
丸子橋で右に旋回し、中原街道沿いに「影」の後方へ回り込む。
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
第 一 話 「 屋 上 の 始 末 を つ け ろ!」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
2機の陸自AH-64Dが「影」の周囲を偵察飛行中。本部と交信する操縦士。
操縦士1「アパッチ01からHQ。影法師はロングボウ、アローヘッド共に感無し」
「先に送信した画像はどうだ?」
本部 「HQからアパッチ01。やはり影法師のみ確認できない」
「前哨線にて、待機中の車両が写っているだけだ。目視はどうか?」
操縦士1「アパッチ01からHQ。肉眼とHMDでは、明瞭に確認できる」
「現在、影法師は一般家屋の屋上にて活動停止中」
「1偵からの情報通り、家屋屋上に民間人2名を確認した」
本部 「HQからアパッチ01。民間人の状況を知らせよ」
「負傷の有無は確認できるか?」
操縦士1「……」
「アパッチ01からHQ。爆笑している」
「民間人2名が、影法師の足元で腹を抱えて、笑い転げている」
本部 「HQからアパッチ01。……状況がよく理解できない。詳細を送れ」
操縦士1「アパッチ01からHQ。民間人の1名は少年」
「現在、少年は……影法師に……話しかけている」
「後1名は成人男性。引き続き爆笑中」
本部 「HQからアパッチ01。引き続き意味不明だが、
地上に展開中のエコ-01から支援要請」
「シキツウで、影法師に接触を試みる模様」
操縦士1「アパッチ01からHQ。了解。アパッチ02に当たらせる。当機は……」
操縦士2「ひゃっ!」
本部 「HQからアパッチ02。どうした?」
操縦士2「アパッチ02からHQ。……影法師が、当機……いえ……
自分を見ています……」
「影」の単眼が、操縦士2を追っている。
本部 「……HQからアパッチ02。……了解。とりあえず、笑顔を絶やすな」
操縦士2「アパッチ02……了解……笑顔、笑顔」
突然「影」が違う場所へ視線を向ける。
操縦士2「……あ……目を逸らされた……」
「影」の視線の先には、羽田空港。
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
羽田空港 新管制塔。運用室。
フィールドスコープで「影」を観察していた日歌が、
驚いてスコープから目を外す。
蓼丸 「どうした?茅真?」
日歌 「――目が合いました」
「サイクロプスが、私を凝視している……」
蓼丸 「……確かか?」
日歌 「はい。間違いない」
茶々を入れる管制官1。
管制官1「またまた~ご冗談を~」
日歌 「冗談のような状況だが、冗談を言ってる場合でもなかろう」
何かを思案する蓼丸。
蓼丸 「……」
スコープで、もう一度「影」を観察する日歌。
主幹管制官達と、運用室の一角で打ち合わせを始める蓼丸。
上司達の打ち合わせを横目に、日歌に話しかける管制官2。
管制官2「管制塔を見ているのでは?」
日歌 「……困った。私は自意識過剰なのだろうか?確かに視線を感じるぞ?」
管制官2「あんなデカイ眼を向けられれば、みんな思いますよ?」
「それとも、婆ちゃんの遺影が俺を見てる的な?」
スコープを覗いたまま答える日歌。
日歌 「違うな……どう伝えれば良いのか……」
主幹管制官達との話し合いを終え、日歌の肩を叩く蓼丸。
スコープから目を外す日歌。
日歌 「はい?」
蓼丸 「全便欠航。当面離発着禁止。おまけに横田とも争議中」
「八方塞がりだが、ここで無策に過ごしても仕方ない」
「物は試しだ」
訝しみながら「影」が立つ方向を指さす日歌。
日歌 「???」
笑う蓼丸。
蓼丸 「そうだよ。ファーストコンタクトだ」
窓の外を眺める蓼丸。
蓼丸 「素直に、我々の言語が通じるとは思えないが……」
「アイツが茅真を認識したのであれば、
こちらからの呼びかけに反応するやもしれん」
「可能性の話だがな」
「だがもし、我々……国交省が、サイクロプスの周りに
群がっている連中を出し抜いて意思疎通の片鱗でも掴めれば……」
「アドバンテージでかいぞ」
サムアップで、蓼丸に合図する管制官2。
管制官2「管制塔の外部スピーカーに接続しました」
日歌にマイクを渡す蓼丸。
蓼丸 「女は度胸。内容は任せる」
蓼丸からマイクを受け取る日歌。
日歌 「……承知」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
羽田空港 新管制塔 周辺。
新管制塔スピーカーから、ボリュームMAXで日歌の声が響く。
日歌「こちらは日本国、国土交通省。大田区内で活動中の、
規格外入国者に勧告します」
「我が国では、航空法第51条の2の規定により、身長が60mを
超える方に対して、航空障害灯の設置が義務づけられています」
新管制塔を見上げる空港職員達。響く日歌の声。
日歌「羽田管制区域の安全の為、どうか設置に、ご理解ご協力をお願いします」
留守食堂 屋上。
風に乗り届く日歌の声。
日歌「To repeat. This is Ministry of Land, Infrastructure and……」
日歌の声を聞き、呆れる哲司。
哲司「清々しいほどの無茶ぶりだな……」
商店街道路から、ゆっくり前進してくる82式指揮通信車に気付く快晴。
快晴「父さん!自衛隊だ!!」
「しかも……可愛い!!」
哲司「何それ?」
快晴「運転手が可愛い!!」
哲司「今、大事なことか?それ?」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
留守食堂 周辺。
留守食堂の手前で停車する82式指揮通信車。
車内から、屋上の哲司達を窺う乗員達。操縦手の渡会つうが呟く。
つう「本当だ……少年1名に成年男子……中年1名確認。……元気そう」
道案内で同乗している仙波も、哲司達を確認する。
仙波「やっぱり哲司さんだ……」
車両窓越しに、哲司達を指さす久住一尉。
久住「あの方達、ご存じで?」
仙波「ええ。よくランチ買いに行く食堂って言うか……アソコの店主です」
「隣は、長男の快晴君……若葉ちゃんは……学校か……」
同じく、同乗している警部の鶴巻が仙波を促す。
鶴巻「顔見知りなら好都合。お前、本人確認してみろよ?」
「このパターンはアレだ……SF映画みたいに、影法師に操られてるとか」
仙波「え~~!?」
ぼやきながらも、上部ハッチから外に出ようとする仙波。
仙波「やっぱ、身体を乗っ取られてるのかなぁ……」
「困るなぁ……オムライスの味が変わっちゃうのは勘弁……」
上部ハッチを開けるのを手伝う久住。
久住「そんなに美味しいの?」
仙波「やみつきです」
留守食堂 屋上。
82式の上部ハッチから上半身を出す仙波を、確認する哲司達。
快晴「あれ?仙波さん??」
哲司「働くね~流石は、愛すべき派出所勤務」
拡声器で、哲司を呼ぶ仙波。
仙波「哲司さん!留守哲司さんですよね!?」
「快晴君!!二人とも怪我はありませんか!?」
仙波に手をふる快晴。
快晴「平気だよー!!」
仙波「さて!ここで問題です!!」
「僕が、誰だか解りますかー!?果たして誰でしょうー??」
快晴に小声で聞く哲司。
哲司「あいつ、何を言ってるの?」
羽田方面を向いたままの「影」を指さす快晴。
快晴「たぶん……彼に僕達が、マインドコントロールされてるとか
思ってるんじゃない?」
哲司「SF映画の見過ぎだろ……」
仙波に大声で返答する哲司。
哲司「アイドルグループ「夏色フレーバーQ」生涯「緑」推しの、
仙波巡査長だろー!!」
「こんな状況で夏ライブやるのかねー!?
仙波ちゃん、盛り上がってたもんなー!!」
82式車内。
ドヤ顔で、鶴巻に報告する仙波。
仙波「確認とれました!本人です!」
鶴巻「色々と確認されたのは、お前の方だ」
82式乗員に指示を出す久住。
久住「なんだか、諸々と大丈夫な様なので……」
「おつう。ちょい前進。店先に停車」
「下車後に、あの親子から詳しく事情を聞こう」
つう「了解~」
久住「瀬戸。HQに一報、入れといて」
瀬戸「了解」
本部に連絡を取る通信手の瀬戸。
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
東雲高校 屋上。
東京湾越しに、港区方面を見ている多くの生徒達。
階段を上ってきた若葉と燈も、他の生徒に混じって都心の様子を眺める。
若葉「う~ん……これと言って、変わった様子も無さそう??」
燈 「煙も見えないしね。安心していいかも……」
「!」
屋上の人混みに、星乃を見つける燈。
コーヒーカップ片手に、物憂げな表情で港区方面を見ている星乃。
燈 「若ちゃん?教室に降りよう?」
返事も待たずに、若葉を階段まで引っ張っていく燈。
若葉「え!ちょっと!」
「来たばっか……」
階段を上ってきた担任教師と、鉢合わせする燈と若葉。
息切れ気味の担任教師。
担任「やっぱり……ここか……」
「留守。お前を、警察が迎えに来てるぞ!?」
「とにかく……急いでパトカーに乗ってくれって……」
事態が飲み込めず固まる若葉。
若葉「――え??」
「何で??」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
留守食堂 店先。
周辺道路は、警察、消防などの緊急車両が停車を始め、混雑が始まっている。
店先に停車している82式の車体を軽く叩きながら、
操縦席のつうに話しかける哲司。
哲司「悪ぃ。この戦車、少し前へ出せる?」
つう「あっ!はい。直ぐに!」
店のシャッターを開ける哲司に驚く仙波。
仙波「え!?まさか、営業するつもりっすか??」
哲司「そのつもり」
呆れる仙波。
仙波「ここは、形だけでも避難しましょうよ~」
「ご近所、みんなとっくに自主避難ですよ~」
哲司「だって避難指示、出てないだろ?」
何故か、大きく胸を張る仙波。
仙波「上が大混乱なんですっ!!」
「……いやまず、お客さん来ないですよ?この状況下」
哲司「お客さんは」
仙波を指さす哲司。
哲司「キミ達!」
仙波「へ?」
笑って、敬礼の真似事をする哲司。
哲司「ランチタイム延長です!よろしく!」
82式の操縦席から、周囲に声かけするつう。
つう「車両、前方に移動しまーす」
誘導する自衛隊員1。
自衛隊員1「安全よーし。ゆっくりと前へ」
店の中から黒板メニューを引っ張り出す哲司。
哲司「それに、避難しても……またアイツが、くっついて来たら同じじゃねーか」
「仙波ちゃん。俺は、もう覚悟を決めたよ」
仙波「哲司さん……」
82式が移動完了。空いたスペースにメニューを置きながら、つうに礼を言う哲司。
哲司「ありがとなー!」
操縦席窓から答えるつう。
つう「ご迷惑をおかけしましたー!」
店先に出てくる快晴。
快晴「父さん?……クロウってどうかな?」
哲司「クロウ?」
「影」を指さす快晴。
快晴「名前だよ」
「やっぱり、コミュニケーションの第一歩として必要でしょ?」
「見た目、カラスっぽいし」
重ねて呆れる仙波。
仙波「も~快晴君も、非常事態に馴染みすぎ……」
突然、羽田方面を向いていた「影」が腰を落とし、快晴達に顔を近づけてくる。
軽く腰を抜かす仙波。
仙波「――って!えええええぇぇーっ!?」
一気にざわつき、警戒態勢をとる周囲。
周囲に構わず、ゆっくりと「影」に話しかける快晴。
快晴「そうだよ」
「クロウ……」
「君の名前だ」
「そして僕の名前は、留守快晴」
「快晴でいい」
「クロウ……僕と友達になろう」
大きく頷く「影」。
驚嘆の表情で呟くつう。
つう「影法師が!?日本語で!?」
事の成り行きを見守っていた久住。
久住「こちらの意思も、感情も……完全に理解できると考えた方がいいな……」
車内の瀬戸に指示する久住。
久住「瀬戸。HQへ連絡」
「現場は影法師との意思疎通手段を確立。以後、対象を「クロウ」と呼称する」
「尚、この名は影法師の同意を得ている。事故防止のため早急に徹底されたし」
瀬戸「了解」
クロウを見上げる久住。
久住「命名は、グローバルにアドバンテージでかいよ?」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
羽田空港 新管制塔。運用室。
フィールドスコープで、クロウを観察している管制官2。
管制官2 「まだ……こちらに反応はありませんね……」
肩を震わせ、笑いを堪えている管制官達。
顔を赤くして、デスクに頰杖をつき憮然としている日歌。
目に、笑い涙をにじませている蓼丸。
蓼丸 「適切と言えば適切だが、馬鹿と聞かれれば阿呆だな」
「切り口が斬新過ぎるだろ」
声を殺して笑う管制官1。
管制官1 「日歌さん……60mを超える方って……」
キッと三白眼で、管制官Aを睨む日歌。
笑いながら両手を合わせて謝る管制官1。
ペットボトル天然水のキャップを開ける蓼丸。
蓼丸 「だが、案外に茅真の訛り英語が通じるかもな」
「果報は寝て待て。上手く行けば、諸々善処するよ」
三白眼で、蓼丸を見る日歌。
日歌 「……武士に二言は無しで」
蓼丸 「俺の実家は農家だが、承知」
会話に割って入る主幹管制官。
主幹管制官「どうやらサイクロプスは以後、クロウと呼称する様ですね」
窓からクロウを見る管制官2。
管制官2 「まぁ……カラスにも見えますけど……」
「横田に倣ってサイクロプスで問題無いのでは?」
蓼丸 「通達か?」
主幹管制官「はい。本人の了承が取れたとの事です」
他全員 「本人っ????」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
封鎖され、一般車両が走っていない首都高速都心環状線。
1台のパトカーが走っている。後部座席に座る若葉。
若葉 「あの……自宅まで連れて帰ってもらえるのは……嬉しいんですけど……」
「アタシの家に何かあったんでしょうか……?」
「家族は……」
助手席の警察官が、若葉を気遣う。
警察官「それが、全く要領を得なくて……ごめんね」
下を向き、手を強く握りしめる若葉。
若葉 (――お願い!お母さん!!二人を守って!!)
一ノ橋JCTから首都高速2号目黒線に入るパトカー。
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
留守食堂 上空。
AH-64Dが帰投。2機の陸自観測ヘリOH-1がクロウの監視飛行を引き継ぐ。
留守食堂 周辺。
交代で食事を取る関係者。
仙波を含む数名が、クロウを見上げながら快晴の説明を受けている。
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
留守食堂 店内。
遅めのランチを食べながら、軽い会合をする警察、消防、自衛隊の現場指揮官。
ぼやく消防関係指揮官の井伏。
井伏「勇んで駆けつけたものの、こうも相手が出鱈目だと
手詰まり感が強いよな……」
「……ごめん……ソレ取ってくれる?」
井伏にタバスコを渡す鶴巻。
鶴巻「俺達だって、報告らしい報告なんか出来てないんだぜ。」
「事ここに至っても、悪ふざけだと思ってる連中が相当数いるのが現状だよ」
「まさに、文句があるなら現場に来いってやつだ」
「そういえば彼……名前はクロウ……だっけ?」
厨房の哲司に注文する久住。
久住「僕は……オムライス頼めます?」
哲司「はい」
久住「――で。僕としては、留守さんの意見を聞きたいんですけど?」
「クロウについて、どう考えます?」
哲司「どうって……え?俺ですか??」
カウンター越しに、笑顔で哲司を見る久住。
久住「是非」
調理しながら考える哲司。
哲司「う~ん」
「……」
「東京タワーから、俺達を追いかけて来たのは……」
「アイツなりに、誰かと信頼関係を築きたかったんじゃないですかね?
何で、俺達なのかは……正直、解らないですけど」
「そこは、袖振り合うも多生の縁と考えようかと」
「それと……アイツの立ち振る舞いには、
なんだか周囲への気遣いを感じるんですよ……」
苦笑する哲司。
哲司「サイズ的に、如何ともしがたい時もありますけどね」
「だから何て言うのかな……」
「俺は、皆さんみたいに非常時に備えてたプロじゃないですけど、
接客業の経験で言わせてもらえば……」
「……クロウからは「人の誠意」を感じます」
鶴巻「……」
哲司「まっ俺の感想は、そんなトコです」
久住「ありがとう。留守さん」
鶴巻「ここは……警戒監視続行粛々と現状維持ってトコか……」
食べ終わり、手を合わせる井伏。
井伏「――ごちそうさま」
「しかし留守さん?」
哲司「はい?」
井伏「我々にとっては、現状維持も心苦しい選択です」
「可能なら貴方達の日常を守りたい」
笑う哲司。
哲司「平気ですよ。これも含めて日常です」
口元に少し笑みを浮かべ、手を合わせる鶴巻。
鶴巻「ごちそうさま!美味しかった!!」
多少、興奮気味の快晴が、仙波と店内に顔を出す。
快晴「やっぱり、クロウは宇宙人だよ!」
井伏「――どうしてそう思う?」
笑いながら答える仙波。
仙波「快晴君が、クロウにド直球な質問を」
快晴「君は、何処から来たの?って聞いてみたんだ」
「そしたらさ!――ちょっとみんな外に出て見てよ!!」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
留守食堂 周辺。
警察、消防、自衛隊、多くの関係者が空を見上げている。
82式の乗員も、上部ハッチから空を見上げる。
視線の先には、堂々と空の彼方を指さすクロウ。
クロウ周辺を飛行するOH-1。
思わずヘルメットのバイザーを上げて、クロウを見る操縦士。
クロウを見上げながら、感慨深げに呟く井伏。
井伏「宇宙は……広いな……」
少し涙ぐむ鶴巻。
鶴巻「ああ……あぁ……とても広い……」
快晴の肩に手を置く哲司。
哲司「しばらく、この生活だ」
「平気か?」
快晴「僕は楽しみだよ」
「きっと凄く面白い事が始まるんだ……」
「……」
哲司を見る快晴。
快晴「──お姉ちゃんにとって、どうかは知らないけど」
苦笑する哲司。
哲司「まず、数分の事情聴取と長時間の説教タイムだろうな」
快晴「ははっ……」
「でも普通、この状況だと学校待機じゃない?」
哲司「ですよね~」
「ここは体育館で深呼吸でもしてもらって」
快晴「事情を飲み込んでもらってからの、帰宅が望ましい……」
哲司達の後ろで、尋常ではない叫び声が上がる。
若葉「ビョゲゲゲッゲゲエエエェエェェ――――ッ!!??」
諦めの表情で、後ろを振り向く哲司と快晴。
哲司・快晴「……やぁ~おかえり~」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
留守食堂 店先。
若葉「あわ……わわ……わ……うわわ……あ」
パトカー横で、留守食堂 屋上に立つクロウを見上げる若葉。混乱極致。
視線を下ろし、素早く周囲を見渡し……もう一度上を見る。
若葉とクロウと視線が、ベストマッチング。
首をかしげるクロウ。ゆっくりと、クロウと同じ角度に首を曲げる若葉。
流れ落ちる汗。
そっと視線を外し、哲司達の方向に歩き出すもフラフラと通り過ぎる若葉。
若葉「……ぱっパトカーで……送ってもらっちゃった……」
「良かった……ははっ……み~んな無事なのね……」
仙波に詰め寄る哲司。
哲司「人に避難誘導しておいて、娘を帰宅幇助かよ!?」
「責任取って、お前が取り調べを受けろ!!」
汗かきで弁明する仙波。
仙波「いやほら上が混乱してて~」
目が泳ぎながら、隣の薬局の人形をなででいる若葉。
若葉「どうだった~東京タワ~?」
「なかなか登らないもんね~東京タワ~」
快晴「お……お姉ちゃん……?」
若葉「アタシは去年……学校で……600段」
脳の処理能力超過。気を失って倒れる若葉。
慌てて倒れた若葉に駆け寄る哲司達。
哲司「うわっ!しっかりしろ!若葉っ!!」
快晴「誰かーっ!救急車ーっ!!」
救急隊員「5台ほど来てるけど……」
「……どれにする?」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
[ 3 時 間 後 ]
留守食堂 厨房。
おでこに冷却ジェルシートを貼ったまま、
怒りにまかせてテイクアウト用タコライスを量産中の若葉。
若葉の隣で調理しながら、恐る恐る経緯を説明している哲司。
哲司「――と言うわけで、クロウ宇宙からこんにちわ的な状況に……」
「そうだ!あれだ!でっかい地縛霊と思えば、たいして気にならないかも!」
ギロリと哲司を睨んだまま、半熟卵を握りつぶす若葉。
心に汗をかく哲司。
哲司「なりますよねっ!」
哲司に、ゆっくりと迫る若葉。
若葉「屋上さぁ……」
「アタシのお気に入りの場所……」
「それに洗濯物が乾く場所……」
「それとゴーヤが育つ場所……」
哲司「……もしかして、乾燥機を買ったら納得してくれる?」
「ゴーヤは、明日食べちゃおう!少し早いけど!」
「いやぁ良かっ……」
身長差を物ともせず、若葉が哲司に詰め寄る。
若葉「全っ然っ良くない――――っ!!」
「どこの世界に、巨大宇宙人を屋上で飼育してる一般家庭があるのよっ!!」
「インコやオウムやハトじゃあるまいし――っ!!」
「……って言うか、侵略目的だったらどうすんの……」
「宇宙戦争にでもなったら、父さんご町内に責任取れるワケっ!?」
厨房を覗く快晴。
快晴「どっちかと言えばカラスね。ハトじゃなくて」
キャベツ玉を握りつぶしながら、快晴に凄む若葉。
若葉「かぁぁぁ~いぃぃ~せぇ~いぃぃぃ~!!」
「無理っ!絶っ対に無理っ!自衛隊に引き渡すっ!!」
慌てて、若葉を宥める快晴。
快晴「待ってよ!ここは、友好的な宇宙人って事でいいからさ!」
若葉「いいからって何よ!!女子高生に決められる問題かー!?」
哲司「今更、クロウだって困るだろ!?」
「いや、自衛隊だって困るだろ!?」
若葉「黙れ!この39歳次男!!」
少し声を荒げる快晴。
快晴「友達になるって、クロウと約束したんだよ!!」
「それだけじゃない!」
「クロウと接してると……まるで兄弟みたいな感じなんだ!」
「実は、弟でしたと告白された方が納得しちゃうくらいだよっ!!」
疑いの目で、哲司を睨む若葉。
若葉「まさか……」
哲司「俺は、どんな守備範囲だよっ!!いや違う!環さん一筋でしたっ!!」
ワナワナと身体震える若葉。
若葉「もう!わかった!わかりましたっ!!」
乱暴にエプロンを外して、店を出る若葉。
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
夕闇迫る留守食堂 店先。
店のドアを乱暴に閉め、深く深呼吸する若葉。
若葉「すぅぅぅ~はぁぁぁ~」
意を決して歩き出す若葉。人をかき分け進み、交通整理中の仙波の拡声器を奪う。
若葉「仙波さん!コレ借ります!」
仙波「エ?」
そのまま、82式によじ登る若葉。
若葉「戦車、登ります!」
つう「え?」
若葉に気がつくクロウ。
クロウ「――!」
82式の上。仁王立ちで、おでこの冷却ジェルシートを剥ぎ取る若葉。
そのまま拡声器を構えて、クロウに叫ぶ。
若葉「よーく聞け!!九朗!!
そこのお前だ!屋上に陣取ってるデッカイ宇宙人!!」
「アタシは留守若葉!!お前が軽く踏んでるこの家の長女だ!!」
「甚だっ不本意だがっ四千光年引き下がって、
可愛い弟との約束は尊重してやる!!」
「ただし!!アタシの目が黒いうちに、
家族友人近所諸々に危害をくわえてみろ!!」
「宇宙の果てまで追い詰めて、
ボッコボコにしてやるからな―――っ!!!」
「……アタシから~逃げられると思うなよ~~~」
明らかに動揺しているクロウ。
若葉を見ながら呟くつう。
つう「クロウ……頑張れ……」
クロウを見上げている久住。
久住「……クロウの頭の先」
つう「はい?」
久住「点滅してる……」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
彼 は 私 の 世 界 を 歩 き
私 は 彼 の 世 界 を 想 う
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
羽田空港 新管制塔。運用室。
フィールドスコープで、クロウを観察している日歌。
クロウの頭頂部が、明滅しているのを確認して呟く。
日歌「あれ?私の英語が通じたのか??」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
彼 と 私 の S H O R T S H O W 0 0 1 に続く