表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素敵なご主人様  作者: 黒影たかし
8/27

08話 主人と奴隷

 深夜に目が覚めると、私はご主人様の腕枕で、ご主人様に抱きついて寝ていた。


(え? 何? 何がどうなってるの??)

 今の状況が理解できない私。


「ん? 気が付いた?」


 私が動いた事で、ご主人様も目を覚ましたみたいだ。


(うぅ 顔が近い!!)


 慌てて離れようとする私をガッチリと捕まえるご主人様。そのまま、彼に抱きしめられた。


「ごめんね、ちょっと調子に乗って触り過ぎちゃったかな?」

「……っ!!!」


(そうだ! 膝枕で尻尾触られて……触られて…… きゃぁぁぁぁぁ!!!!)


 思い出したくない事実……あまりにも恥ずかしくて、まともにご主人様の顔を見れない。抱きしめられているので、そのままご主人様の胸に顔を埋めた。



「クレア?」

「うぅ、ひどいです、獣人の尻尾をあんな風に扱うなんて……」


「うん、ごめん、まさかあんなになるなんて……」

(え? 今なんと仰いました? あんなになる?? どうなったの私?)


 なんとなく覚えているけど、思い出したくない記憶。聞きたいけど、恥ずかしくて聞けないよぉ。途中から、記憶が曖昧になっている。



 ご主人様は、私を抱きしめながら、頭を優しく撫でてくれる。


(あ、これ心地良いかも……クンクン、ご主人様の匂いだ……)




 ご主人様に抱きしめられて、優しく撫でられ、匂いを嗅ぎながら、なんか幸せ。でも、ご主人様の匂いと同時に、布団の中から嫌な臭いが……


(これ、私のだ……)


 発情した匂い……せっかく買ってもらった下着が酷い事になっている。その事実に、顔がどんどん赤くなっていくのが自覚できる。


(うぅぅぅ、見られたぁ~ きっとすっごく恥ずかしい声だして、すごい事になっていたの、見られちゃったぁ……うぅぅ)


「うぅぅぅ」

「クレア??」


「もう、ダメです……尻尾は絶対にダメです」

「えぇぇぇ? 今度は優しくするからさ、また尻尾……」


「ダメっ!!」


 いけない、思わず声を荒げてしまった。


「ねえクレア? ちょっとだけ。ちょっとだけだからさ、また触らせてよ~」

「ひゃっ? ご、ご主人……んっ!! ダメっ……あんっ」


 失敗した。ダメと言ったら、ご主人様は尻尾を優しく触り出した。体がまだ敏感のままだ……


「イヤ……お願い……」

「ね? こんな感じで優しくするからさ?」


「あぁぁ、そんな、んっ……」


 微妙に優しく尻尾を撫でるご主人様。


「わっ、わかりましたから……また触っても良いですから……お願い、今日はもうダメ」

「良かった、クレアの尻尾の触り心地、最高だから」


 そう言って、尻尾から手を離してくれた。負けた……完全にご主人様の言いなりになってしまった。


 顔を上げると、にっこり笑顔のご主人様。その笑顔にドキっとしてしまう。


 ダメだ、私落とされてる……うぅ、やっぱり私ってチョロイのね……恥ずかしい姿を見られて、抱きしめられて、それが心地良いって思ってしまう。


「うぅぅ、ご主人様は意地悪です」

「うん、知ってる。自覚はあるよ」


「嫌いです」

「そっか、僕はクレアの事、好きなのに残念だな」


「えっ?!」(ドキッ!!)


 ご主人様に好きと言われて、ドキっと心臓が飛び跳ねた。思わずご主人様の顔を見上げる。


 ドキドキドキドキ!!


 ご主人様の笑顔に、ドキドキが止まらない。この笑顔は反則よ……たった一日で、私の心を掴んでしまったご主人様。



「僕の事、嫌い?」

「い、いえ……好きです……」


「良かった」


 ご主人様の顔が近づいて来る……


『ちゅっ』


 軽く唇を重ねて、ギュっと抱きしめられる。あぁぁ、完全に私はご主人様の奴隷に落ちた、身も心も全てをこの人に捧げたい。


 そう思ってしまった……






 結局、昨夜はご主人様に抱きしめられながら、眠ってしまった。


 朝目が覚めると、ご主人様に抱きついて寝ている私。


(どうしよう、なんか、すっごく幸せなんですけど)


 男性の腕での中で眠る事が、こんなに幸せを感じるなんて、ちょっと不思議な感覚だ。奴隷だって、ちょっとぐらい幸せ感じても良いよね?


 それに夜のご奉仕だって、嫌々するよりもご主人様の事を好きな方が、きっと上手に出来るはず。


 うん、きっとそうに違いない!


 あれ? 夜のご奉仕?? あれ? 


(ハッ! 私は性奴隷なのに、結局ご主人様にご奉仕できなかった!!)


 思わず自分の仕事を思い出してしまった。


 ご主人様を喜ばせるどころか、自分が幸せ感じて寝ちゃうなんて……私奴隷失格だわ。ご主人様の寝顔を見ながら、自己嫌悪の私。


(どうしよう? ご主人様に呆れられて、捨てられちゃうかな? 昨日あんなに良くしてくれたのに、怒ってるかな?)


 一人頭を抱えて悩んでいると、ご主人様が目を覚ました。


「おはようクレア、どうしたの?」

「あ! おはようございますご主人様……その、昨日はご奉仕出来ずに寝てしまって、申し訳ありません」


「……いや、昨日は僕が……」


 そこまで言うと、ご主人様は、ちょっと意地悪な顔をした。


「うん、そうだね、じゃあ罰を与えよう」


(え?罰???)


 罰と言う言葉に、身を竦める私。昔の嫌な記憶が甦る。奴隷商で、罰を与えられた子は、打たれて悲惨な事になっていた。


 私も経験がある……


 更に、奴隷の首輪から全身に激しい痛み、耐えられない苦痛が与えられる。領主の館でも、罰を与えられた奴隷は鞭で打たれていた。私は幼かったので鞭では無かったけれど、たくさん叩かれた記憶がある。


 思い出して恐怖で体がガタガタと震えだす。


 嫌っ!! 罰は嫌っ!!



「え? クレア??」

「ご、ごめんさい!! ごめんなさい!! お許し下さい、ちゃんとご奉仕しますから! 今からでもご奉仕しますので、どうか罰だけはお許し下さい、お願いします!!」


 私は必死に謝った。泣きながらご主人様に必死に許しを請うが、ご主人様が私に近づいて来る。


 恐怖でご主人様の顔が見れない。きっと叩かれる、私は恐怖で動けなくなった。


「いやぁぁぁ!! 何でもいう事聞きますから、お願いだから打たないでーーー!!」


 ご主人様が私に触れたとき、私の意識が途切れた……





◇ ◇ ◇


(失敗した……)


 俺はベッドに寝る少女の顔を見ながら、自己嫌悪に陥っていた。軽い冗談のつもりだった。


「罰を与える」と言った言葉に、こんな反応を示すとは……


 奴隷の子として生まれ、奴隷として生きてきた少女。そんな彼女に軽々しく罰を与えると言ってしまった。



(くそっ!大失敗だ)


 俺は奴隷の扱いに慣れていない。この国の人間では無いので、この国の行き過ぎた奴隷制度に戸惑いを感じていた。しかし、自分が奴隷の所有者になったのだから、もっと気を使うべきだった。


 生まれながらの奴隷だ、きっと今まで辛い体罰とかも受けた事があるのだろう。罰と言う言葉が、彼女のトラウマを引き出してしまった。




 罰を与えると言った俺の言葉を聞き、彼女は頭を守る様に抱えて、体を丸めて震えていた。俺を見る彼女の目が恐怖に染まっていた。


 様子がおかしい事に気が付き、慌てて彼女を安心させようとして、俺が触れた途端に彼女は気を失った。


 彼女の俺を見る目が、忘れられない。




 少し自惚れていた。


 昨日の彼女はずっと緊張していて、俺の機嫌を損ねない様に気を使っていた。性奴隷と言って、好きでも無い俺に奉仕すると言う彼女。


 元々侍女のつもりで彼女を購入したが、性奴隷と聞かされ、彼女もそれを受け入れてる。


 当然俺も男なので、下心が出た。


 若い肉体に、魅力的なスタイル。そして愛らしい顔。でも、彼女を見ていると、義務感でそういう行為をさせるのに、ちょっと戸惑いを感じた。


 生まれながらにしての奴隷の影響か、彼女は素直で真っ直ぐな子だ。


 ただの食堂のご飯を、泣きながら美味しいと言って食べる彼女。

 一生懸命、俺に気を遣う彼女。

 俺の気を引こうと、頑張ってあんな下着姿で現れた彼女。


 そんな彼女を見て、とても愛しいって思った。



 俺だって、それなりに恋愛経験もあるし、女性経験だって豊富だ。


 しかし、俺は彼女に魅せられてしまった。


 自分でも少し驚いている。俺は彼女の笑顔に落とされた。


 だから、義務感でそういう行為はしたくなかった。どうせなら、彼女には俺を好きになってもらいたい。主人と奴隷として、嫌々する行為では無く、恋人の様に彼女と接したかった。





 以前、臨時でパーティーを組んだ冒険者仲間に、犬耳族の獣人が居た。酒に酔った勢いで、彼は面白い事を教えてくれた。


「犬耳族のメスを落とすのにはな、尻尾を使うとイチコロだせ」


 そう言って、尻尾が一つの性感帯である事を教えてもらった。 普通、尻尾は結婚相手にしか触らせないそうだ。


 尻尾を愛撫された彼女は、予想以上の乱れ方をした。


 簡単に昇り詰める彼女を見て、調子に乗って何度も触ってしまった……


 昼間からの緊張で疲れていたせいか、彼女は数度で気絶してしまった。やり過ぎたと思った時は後の祭り、彼女は寝息を立て始めた。


 あんなに乱れる彼女を見て、お預けを食らった昨夜は自分を抑えるのに苦労した。


 自業自得とはまさにこの事……




 でも、深夜に目を覚ました彼女は、尻尾を愛撫した事は特に怒ってないくて、それどころか俺の事を好きだと言ってくれた。あれは嬉しかった。


 俺に心を開いてくれた、そう思った。


 そんな自惚れから「罰」と言う言葉を軽々しく使ってしまった。なんの事は無い「罰としておはようのキスをして欲しい」そんなアホな事を言うつもりで、二度と手に入らない掛け替えの無い物を失ってしまった。


(完全に嫌われただろうな……)



 せっかく心を開いてくれた彼女に、俺は自分から主人と奴隷の関係を示してしまった。


「罰を与える」とはそういう事だ、対等な関係では無い。一方的にこちらの要求を突き付ける事ができる。

彼女に拒否は許されない。


 きっと、彼女はもう二度と、俺に心を開いてはくれないだろう。


 彼女にとって、俺は好きな相手では無く、ただの義務で仕えるご主人様、それ以外の何者でもないと自分で思わせてしまった。


「ハァ~……バカだな、俺」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ