05話 新しい生活
お食事をするお店を出た私とご主人様。
「とにかく家に帰ろうか」
「はい!」
ご主人様の後について暫く歩く。商人の商店街を過ぎると、貴族の住む様な大きな家が並ぶ地区に入った。
「ここが、君が新しく住む場所だ」
「すごい!! 大きなお屋敷ですね!」
高い塀に囲まれた、大きな門があるお屋敷。やっぱり、ご主人様って貴族なのかな?
門をくぐり、家の前まで行くと、扉が開いて執事服を着た老人が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ただいま、エバンス。紹介するよ、新しくこの屋敷で働くクレアだ」
「く、クレアです。よろしくお願いします」
「私はエバンス。この屋敷の執事です。よろしく」
白髪のおじいさん。でも背はピンとして、いかにも仕事が出来そうな執事さんだ。
「ところで旦那様? 一人ですか?」
「ああ、実はオークションに遅刻して、結局彼女しか手に入れられなかった」
「……そうでしたか、それは少々困りましたね」
「まあ、今の所問題はないよ、それよりもそっちの方はどうだった?」
「こちらは大丈夫です、料理人とその家族、そろって居ましたので、全員引き取る方向で交渉してきました」
「そうか、じゃあ明日にでも引き取ろうか」
「お願いします」
ご主人様とエバンスさんが、なにやら話し込んでいる。ご主人様との話が終わると、エバンスさんが私を見た。
「ところでクレアは、前は何処のお屋敷で侍女をしていたんだね?」
「え? いえ…… 侍女はやっていません」
「む? 君は侍女奴隷だろ? 前に何処かで働いていなかったのか?」
「いえ、私はご主人様の性奴隷です」
「性……な、なんですとっ?!!」
あれ? 何かマズかった?
ご主人様は、あちゃぁーって顔をしている。
「旦那様っ!! 今日は侍女を買いに行ったのでは??」
「あー、まあ、そうなんだけどさ……」
「まだお若いから、お気持ちはわかりますが……物には順序と言うのが…」
「いやね、これには色々な事情があってね」
「しかも、こんな若い……それも獣人の娘とは……」
「とにかく、中に入らないか?」
エバンスさんの言葉を途中で遮り、家の中で話そうと言って、ご主人様はお屋敷の中へ入る。
エバンスさんと私も、ご主人様の後に続いた。
屋敷に足を踏み入れると、私を物凄い違和感が襲った。
なんだろう? あれ? このお屋敷、変じゃない? 案内された部屋は、質素な木のテーブルと四つの椅子だけ。そう、このお屋敷には調度品がまるで無い。中はガラガラなのだ。
空き家っていうのが相応しい呼び方だ。
椅子に座ると、ご主人様が説明してくれた。
「実はね、僕はこの街に引っ越して来たばかりなのさ」
「え? そうなんですか?」
「うん、それでこのエバンスも、先日奴隷商から買ったばかり」
「はい、私は旦那様に、先日購入して頂きました」
ご主人様とエバンスさんの説明によると、ご主人様は冒険者。それも高ランクの冒険者だそうだ。この街に引っ越してきたばかりで、このお屋敷を購入した。
奴隷商に行って、屋敷の管理を任せられるエバンスさんをみつけて購入。
エバンスさんは、貴族のお屋敷で働いていたけど、その貴族の不正がバレで、王家によってお家取り潰しになったそうだ。
エバンスさん達は貴族の借金返済の為に、そのまま奴隷商へ売られた。で、エバンスさんは料理人と庭師、馬丁の家族も奴隷として売られていたので、それをまとめて引き取る交渉をしていたらしい。
エバンスさんが元一緒に働いていた人達で、信頼が置ける人達との事だった。以前働いていた侍女も購入しようとしたが、侍女はオークションの方が高く売れるので、断られたそうだ。
きっと今日の私と同じ様に、オークションで出品されたのだろう。
そこで、ご主人様が今日、オークションで侍女を購入する予定だったと……
ってあれ? 侍女を購入? 性奴隷じゃないの?
「ちょっとトラブルがあってね、遅刻したらさ、なんとオークションの最後の一人の競りが始まってるって聞かされてさ、慌てて購入したのさ」
「それでこの娘、クレアを購入したと?」
「いや~ 焦ったよ、だって最後の一人なんだもん」
「しかし、クレアはその、性……」
「まあ、大丈夫でしょ」
なんですって? ちょっと聞き捨てならない発言があった様な……
「ちょっと待ってください! じゃあご主人様は、誰でも良かったと? 私を気に入って購入して頂けた訳じゃないと?」
「……あ~ うん、焦って競りを行ったから……ばばんっ!と金額言ってから、君の顔を見たかな……」
何ですってっ?! 私の事を気に入って、金貨100枚出した訳じゃないの??
自惚れていた訳じゃないけど、今の発言はかなりショックだ……誰でも良かったのか。
「そうだったんですか……あんな金額だすから、よほど私の事を気にってくれたのかと……」
「ちょっと待ってくだされ! あんな金額とは、どんな金額ですかな?」
エバンスさんが鋭い目で私を見てる……うぅ、怖い。
「金貨……」
「まさか、50枚以上とか言いませんよな?」
「あはははは、まあまあ、クレアは可愛いから、少々高かったかな……」
「旦那様?」
「んー 100枚とか?」
「ひゃ……100枚ですとぉぉぉぉ???」
大きなエバンスさんの声が響き渡った。
「わたしなんか、老いぼれのじじいですから、金貨10枚ですよ……それをこの娘は100枚……」
あれ? 落ち込むところはそこなんだ? 無駄使いに呆れるのかと思った……
「いや~ なんか白熱しててさ、長引きそうで面倒だったから、100枚って言って黙らせちゃった」
なんだろう、軽いこのノリ……さっきまで良いご主人様に出会えて感動して泣いていた私の気持ちを返して欲しい。
「クレアっ!! 金貨100枚分! しっかりと働いてもらいますぞ!」
「へ? は、はいっ!!」
「旦那様っ! 旦那様は娼館は禁止ですからね! 金貨100枚も出して買った性奴隷なんですから、いいですね?」
「え? いや、それはちょっと……」
「良いですね?!」
「わ、わかった……」
あ、落ち込んだ……私が居るのに娼館? 絶対に行かせないんだから! ってそれなら、私が頑張るのか……あれ? なんか複雑だ。
こうして、私の新しい生活が始まった。