01話 オークション
エルハンド大陸にある、ソレイム王国。この大陸では、大規模国家に分類される大きな国だ。
そして、奴隷が最も多い奴隷大国でも知られる。
ソレイム王国の王都に次ぐ第二都市『エルム』 この都市で、年に一度の奴隷オークションが開催される。
この都市は、近くに「深淵の森」と呼ばれる大きな森があり、そして「不帰の迷宮」と言われる大規模ダンジョンもある。大型の森とダンジョンが都市のすぐ近くにあるので、冒険者も多く「冒険者の街」と呼ばれている。
森に住むモンスターの素材や、迷宮のモンスターから採れる魔石の産地となっている為、それを狙った冒険者が集まる。
更に、素材を求めて買い付けに来る商人達。冒険者や商人が多いと宿屋も多くなり、必然的に人が集まりやすい都市になっている。人が集まる場所には、労働力として奴隷も重宝される。
近年は冒険者も奴隷を買う事が多い。
奴隷なら、普通のパーティーの様に報酬を分担する必要も無い為、効率良く稼ぐ冒険者は奴隷を所持してパーティーを組む事が多い。
従って奴隷を必要としているエルムの街では年に一度、大規模な奴隷オークションが開催される事が恒例行事となっていた。
そのエルム街に、一台の馬車が向かっている。
馬車の周りには3名の護衛依頼を受けた冒険者達が、馬車を警護している。幌付き馬車の荷台には、10名の十代の少女達が乗っていた。
共通するのは、彼女達の首に『奴隷の首輪』と言われる呪具が付いている事。
馬車の荷台の最後尾で、外の景色を眺めながら、パタパタと尻尾を振っいる少女が居る。銀色の髪を腰まで伸ばし、特徴的な犬耳が頭の上で垂れて居る。獣耳と尻尾を持つ獣人の犬耳族の少女だ。
外見は獣耳と尻尾がある事以外、人間と変わりない存在。
そんな犬耳を持つ少女に、同じ馬車に乗る一人の少女が声を掛けてきた。
「ねえクレア? 飽きないの?」
話しかけて来たのは金髪を肩まで伸ばした、綺麗な碧目をした少女。年齢は十代半ば、体は大人と子供の狭間にいる年代の少女。この世界では15歳で成人とされるので、年齢的には成人女性である。
「だって私、旅なんて初めてだもん、何を見ても新鮮なの」
クレアと呼ばれた犬耳少女は、外の景色を眺めながら笑顔で答える。
「呑気ねぇ~ エルムの街に着いたら私達売られるのよ?」
「私は生まれた時から奴隷だから、新しいご主人様に会えるのが今から楽しみだよ」
「……そうだったわね、まともなご主人様が買ってくれると良いわね」
「うん! ルルも良いご主人様に会えると良いね」
彼女達は奴隷。エルムの街で開催される奴隷オークションに出品される。
一般的に店で販売するより、オークションに賭けた方が高く売れる。客が勝手に白熱して値段を吊り上げてくれるからだ。この奴隷商は、美少女ばかりを扱う「性奴隷」専門の奴隷商人。
今年も選りすぐりの美少女達、10名を出品する為にエルムの街へと向かっていた。
◇ ◇ ◇
私はクレア。今エルムの街へ旅の真っ最中。生まれて初めての旅。
きっと、私が旅をする最初で最後の機会になると思うの。だから今を思いっきり楽しむ事にしてるの。他の皆は暗い顔。これからオークションに出品されて、買われる事になるから無理も無いわよね。でも私は平気。だって私は生まれた時から奴隷だもん。
私の父は、獣人で犬耳族だったの。母は普通の人間。父と母は、地方領主のお館で働いていたの。
父は屋敷を警備する兵士として。母は侍女として働いていたわ。
二人共身分は奴隷。領主様の所有する奴隷だったの。ある日、領主様が領地の見回りをしている時、馬車が魔物に襲われたんだって。その時に護衛についていた父が大活躍したらしいの。そのご褒美に、母との結婚を許されたんだって。それで私が生まれたの。
私は父の血の影響で、獣人として生まれたわ。
私が13歳の時に、領主様の収めている村で魔物が大量発生して、父も魔物との戦いに駆り出されたわ。
そして父が死んだの。
本当は私も領主様の奴隷としてお使いするはずだったんだけどね。魔物の大量発生の影響で、領主様の領地経営っていうのが上手く行かなくなったんだって。だから私は奴隷商に売られる事になった。
父が死んでしまって、私を守れなくてごめんなさいって母は泣いてくれた。でも、全然問題ない。だってあのお屋敷に居たら、勉強なんて出来なかったもの。
14歳になって奴隷商へ売られて、そこで一年間色々な事を学んだの。
私の売られた奴隷商は、高級な奴隷を扱うお店なんだって。だから私も文字の書き方や、計算のしかた、礼儀作法。そして、殿方を喜ばせる夜のお勤めについても習ったの。
私達は貴族様や、お金持ちの商人に重宝されているんだって。
お勉強はとても楽しかったけど……夜のお努めは嫌い。だってとても恥ずかしいんだもん。出来れはやりたくない。私は経験がないから、実際にやっている所を見て学ぶようにって言われたけれど……見ているこっちが顔が真っ赤になって、とても恥ずかしかった。
新しいご主人様にお仕えしたら、今度はあんな事もやらないと行けないかもしれない……
それがちょっと憂鬱。普通に掃除や洗濯だけのお仕事が良いな~。
そして、私の最初で最後の旅も終わり。エルムの街が見えてきた。
「凄い凄いっ!! ねえルル! 見てみて! あんなに人が居る! 獣人もたくさん居るよ!」
私はエルムの街で驚きっぱなしだ。私が住んでいた地方の街は、こんなに人が居ない。
生まれてからずっと領主のお屋敷の中で生活して、ほとんど外出する事は無かったし、たまに外出してもとても小さな町だった。奴隷商に売られてからは、奴隷屋敷から出してもらえなかった。だから観る物全てが新鮮なの。
でも、喜んでいるのは私だけで、エルムの街に入ってからは、他の子達は更に落ち込んだみたい。
私と仲の良いルルも、流石に落ち込んでるみたいだ。新しいご主人様にお仕えするの、そんなに嫌なのかな?
この中で、生まれながらにしての奴隷は私だけ、だからご主人様にお仕えするって事が、皆はわからないみたい。
エルムの街に入って、暫く馬車が進むと、私達は大きな宿屋に連れて行かれた。
ここが今日泊まる場所みたいね。
「よーし、お前らはここに入れ、明日は昼からオークションだ。明日は朝から全員、裏庭で体を洗うからな」
奴隷商の男がそう言って、私達は大部屋に全員押し込まれた。ガランとした何も無い部屋。私達は、それぞれ床に座って思い思いに過ごした。
明日でここに居る皆ともお別れ。
一年間、一緒にお勉強したお友達。私達は泣きながら、皆とのお別れを済ませた。
朝になり、固いパンで朝食をとると、私達は裏庭に並ばせられた。全員裸にされて、水でジャブジャブ体を丸洗いされたの。
寒かったけど、初めて石鹸を使って体を洗ったわ。髪も体も綺麗になって、とても良い香がする。
「これを着ろ」
渡されたのは、大きな布に穴が一つ空いている物。穴に首を通して、布一枚の恰好をさせられる。
「あれ? 下着は??」
「これからオークションだから、すぐに脱げる恰好じゃないとな」
何言ってるんだろう? 意味がわからない。すぐに脱げるってどういう事?奴隷商の男の言っている意味を理解できずに居る私。
不思議そうな顔をしている私に、ルルが声を掛けてきた。
「あのねクレア、私達は性奴隷のオークションにかけられるの、だから裸でステージに立たされるのよ」
「は、裸っ??」
「そうよ、客は私達の体を買うんだもの、ハッキリ言うと、胸の大きさとか腰のくびれとか、そういうのを見て買うのよ」
「そ、そうだったの??」
「前から不思議だったんだけどさ、あんた性奴隷の意味わかってる?」
「ごめん、よくわかんない」
私の答えに、思いっきり溜息をつかれた。
「あのね、性奴隷ってのはね……」
ルルが詳しく教えてくれた……
「えぇぇぇ?! 嘘っ? 私そんなの聞いてないよ!」
「何言ってるの? 夜のご奉仕とか習ったでしょ?」
「うん、だけど、あれってご主人様に特別に気に入られたらそうなるとか、そういう事じゃ無いの?」
「違うわよ! 私達はアレ専門に買われるの! だから今日来るお客さんは、全員目的はソレなのよ」
「信じられない! なんで誰も教えてくれなかったの?」
「ってか、一般常識でしょ? 知らないあなたの方が私は信じられないわよっ!」
嘘? あんな恥ずかしい事をする為に、私は売られるの?落ち込む私を見て、また溜息を吐かれてしまった。
「なんで今更落ち込むのよ……もうすぐオークションよ」
「うぅ……どうしよう? 変なご主人様に買われたら……」
「だから皆落ち込んでたのよ、わかった?」
「うぅぅ、わかったぁ」
直前になって現実を突き付けられた私。
そこに無慈悲な声が響いた。
「よーし、全員馬車に乗れ! オークション会場に移動するぞ」
奴隷商の声で、私達は馬車に乗った。そして、オークション会場に到着する。
ここで、私のこれからの人生が決まる。