とある家のハロウィン。
ピンポーン。
家のインターホンがなって、玄関のドアを開けてみると、そこには小さなゾンビがいた。
俺は一瞬止まった。けれど、すぐに思い出した。今日は『ハロウィン』なのだ。
きっと、仮装して驚かせようとでも思っているのだろう。その小さなゾンビは、つぶらな瞳で俺のことを見上げていた。
「お菓子くれないと、イタズラしちゃうぞぉ」
その子どもは言った。
けれど俺は、それを拒否した。「お菓子なんて、この家にはない」とだけ伝えた。
それでも子どもは帰ろうとしなかった。しつこいぐらいに「お菓子」という言葉を連呼してくる。
俺はだんだん嫌気が差し、自分の口を広げて、自慢の『キバ』で、子どもの血を吸うことにした。
そう俺はドラキュラなのだ。
ハロウィンのために仮装しているわけじゃない。正真正銘のドラキュラなのだ。
俺は子どもの首に噛みつき、血を吸った。これで子どもは大人しくなるだろう。
だけど、俺の予想ははずれた。
子どもは死ななかった。むしろ、首を刺激されて血行が良くなったみたいに、顔色が明るくなった。
――なんだ、コイツ本物のお化けじゃん。
俺がそう言うと、子どもは大きく頷いた。
「だから、お菓子ちょうだい」
子どもはまだそう言って、両手を差し出してきた。
俺は仕方なく、隠し持っていたお菓子を子どもにあげることにした。
それは後で食べようと、楽しみにとっておいたプリンだったのに……。俺は悔しかった。
これだから、ハロウィンは嫌いなのだ。