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青の意思  作者: 白 仁十
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調査団




ショーンは歩きながら、まくし上げていた袖をおろし、上着を着た。いまいちしっくりこず、襟や裾をつまんでひっぱって整える。

前を歩くボーデンについていき、警護部の建物を出た。

出入り口の柱に、八芒星に∞を斜めにした標章が刻まれている。


エブラーグ調査団。


レクセンたちが所属する、遺跡遺物の調査を目的とした組織で、エブラーグとは先代の団長であり、創設者でもある。

そして、この都市の数ある調査団の中で、最大規模の調査団だ。

最大といっても総勢百人程度で、組織としてはまだまだ若かった。


エブラーグ調査団の特徴は、研究部、発掘部、警護部に分かれていることだ。分業したわけではなく、協力関係だった調査団同士をまとめた結果であった。

敷地内の建物も分かれていた。 

ショーンが出てきた警護部の東棟は、外の訓練場が広い分、比較的小さい。

警備部の人間は、基本的に敷地内、建物内、発掘現場などを警備し、遺跡への派遣隊を護衛するのが役目である。

こうした私設の護衛隊を持っていることは、組織として強い証拠だ。


すぐ隣に南棟があった。

砂色の石壁と採光のための大窓。形は四角推に近い、大雑把に表現すると、ひとつの平らな山のようだった。

四階の高さで、階層が上がるごとに建物の角の位置が違う。

都市の石造建築とは一線を画していた。


(標章の八芒星はこれを元にしたのか、もしくは逆か。俺は好かんが)


南棟は研究室が主で、遺物の復元、時代考証、文字の解読など様々な研究を行っている。

調査団が一番重きを置いている部門だ。過去の技術と知識は、計り知れない価値になる。実際、都市に大いなる発展をもたらし続けていた。

もちろん、ショーンがおいそれと入れるところではない。


北に回ると、南棟とつながってる中央棟がある。

南棟を大きくしたような建物で、まるで平らな山がふたつ連なっているようだった。

これで標章の∞の部分も説明がつく。

あとは大きな倉庫があるが、南西側にあるためここからでは見えなかった。


ボーデンとショーンは中央棟に入った。

ここは、食堂や応接室などがあり、人の出入りが多い。ショーンも来たことは何度もある。仕事のときだけではない。

特に目新しいものはなかったが、初めて見る美女が二人。澄ました顔で目ざとく査定していると、声をかけられた。


「あらうそ、ショーンじゃない?まさか私を誘いにでもきてくれた?」

「やあ、マギー。そいつはいい考えだ、仕事なんてしてる場合じゃないな」

「冗談よ、もう。でも次会うときは本気にしちゃうからね」


また別の若い女性から、


「ショーン!あのさ、今度の休日に誕生日会をするの。どーしても出てほしいんだ」

「そりゃ楽しみだ。けど、約束はできないんだ。ここを離れるかもしれなくてね」

「えぇ~、いつまでかかるの?」

「はっきりとは言えないんだ。帰ってきたら、ふたりきりで祝うってのはどうだい?」

「あはっ、それはいいわ!楽しみにしてる」


そんなことがありつつ、中央棟を三階まであがり、ロクシアの私室に到着した。

ボーデンが扉をたたくと、「どうぞ」と女性の声。

ロクシアの私室は、さっきまでと雰囲気が違う。

大きな窓に観葉植物と遺物の複製らしき美術品が置かれている。樺色の幾何学模様の絨毯に、来客用の低い木製の机とひじかけ椅子。その奥には素朴だがしっかりしたロクシアの仕事机。

壁の色も装飾もうるさくなく、安らぎを感じられる温度のある部屋だった。


窓際に、髪を後ろで簡素にまとめ、飾り気のない薄手の格好をしているロクシアが立っていた。

ショーンは感じる。

ああ、彼女はどんな服装でも素敵だ。後ろ姿なんて、芸術といっていい。しかし、その芸術を乱す余計な野獣がいた。


「なんで、こいつがいるんだ」


ウォルフを指してショーンが不満を口にした。ショーンはウォルフのことを毛嫌いしていた。とにかく調子が合わない。寡黙であることも、わざとらしいとすら思っていた。


「副長代理だ。いちいちつっかかるな」


ボーデンがそっけなく返事をして、窓側のウォルフの隣に座る。ショーンは小さく舌打ちして、ボーデンの正面に座った。

最後にボーデンとショーン側の腰掛けにロクシアが座った。


ロクシアの清らかな香りが、ふわりとショーンの鼻をくすぐった。

腰からお尻、そしてスラッした長い脚までの流れるような彼女の曲線美。

座ったことで、脚のつけ根とお腹に、ほんのわずかにやんわりと出る肉体の張り。


ただ足腰を細く、お腹を薄くする女には絶滅した、雅なる婉線。

これ。

どんな姿勢を作っても破綻のない、絶妙な調和、色気。

これ。

ショーンは年齢など飾りに過ぎない真理を目の当たりにしていた。


「ロクシー、君はなぜそんなに俺を魅惑するんだ」

「いつも不思議ね。それより報告お願い」


ロクシアはいつも通りサラッと流した。

ショーンは少しめげた表情を見せたが、すぐに仕事の顔に切り替えた。

もたもた引きずるのは、ロクシアが嫌うことを知っているからだ。

パシン、と自分のひざを手で打った。


「さて、依頼の報告といきますか。とりあえず、ロクシーの推測は半分当たりってとこだな」





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